2024年2月1日号
乙訓医師会と府医執行部との懇談会が12 月4日(月),乙訓医師会会議室にて開催され,乙訓医師会から14 名,府医から7名が出席。「医療DX 推進における諸問題」,「2024 年診療報酬改定(トリプル改定)」,「救急・災害医療」,「薬剤・検査キット等の不足」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は令和5年12 月4日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉
マイナンバーカードと保険証の一体化にともなう従来の健康保険証の廃止に関しては,日医が従来から2024 年秋の廃止は時期尚早であると訴えていたにもかかわらず,健康保険証の廃止が決定され,その結果として保険診療を受けられない人が出ないように,マイナンバーカードを保有していない人や持つことを希望しない人に対して健康保険証と同等の「資格確認証」を発行するという方針が示された。本件は,大臣が唐突に健康保険証の廃止期限を発表したことを発端として,十分な議論を経ずして政府の方針が決定されたというプロセス自体に問題があると考えている。
国の医療DX 推進本部が示した「今後の医療DX の推進に関する工程表」においては,現在のところ電子処方箋,電子カルテについて「義務化」という言葉は使われていないものの,現場の意見が反映されないまま,多くの問題を抱えながらもオンライン資格確認の導入が強行されてしまった経過をみると,今後どうなるかは不透明な状況である。
オンライン診療については,国はガイドラインを改訂しながら門戸を広げている状況であるが,府医としては,メリット・デメリット以前に,患者の生命や健康をリスクにさらす危険性のある不適切なオンライン診療等が行われないよう注視していく必要があると考えている。
日医は医療DX に対して,病床機能分化による地域完結型医療への移行に加えて,高齢化により一人の患者が複数の疾患を持ち,複数の医療機関を受診する患者の増加を背景として,ICT 化によって業務の効率化や他医療機関との適切な情報連携を進めることで,より安全で質の高い医療を提供するとともに,医療現場の負担軽減によって,働き方改革にも対応することを期待しており,府医としても,より良い医療につながるという点においては医療機関にとってメリットがあると考えている。しかし,医療提供に混乱が生じては本末転倒であるため,医療現場の状況を踏まえ,有効性と安全性を確認した上で,利便性と効率性の実現を目指すべきである。
また,そのコスト面に関しては,令和5年2月に日医をはじめとする関係団体が連名で,電子処方箋導入にともなう補助金の拡充を厚生労働大臣に要望しており,その中で電子処方箋の最終受益者は,より最適な医療を受けることができる患者と,重複投薬の回避等により国民医療費の適正化を実現できる国であって,医療機関は収益増につながるわけではないと指摘した上で,電子処方箋に限らず,国策として医療DX を推進するのであれば,システムの導入・維持およびセキュリティ対策に係る費用については国が全額負担すべきだと強調している。
今回のオンライン資格確認の導入にともない,医療現場の混乱や負担増加,国民の不安・不満等が生じたのは,国の政策の進め方に問題があったためと言っても過言ではない。医療DX の推進が国民と医療機関にとって真に実りあるものにするためには,政府がその方法を誤らないよう,日医からしっかりと働きかけていく必要があり,医療従事者が総力を挙げて日医を支えていくことが重要であると考えている。
令和6年度診療報酬改定については,中医協において10 月から第2ラウンドとして本格的な議論が始まっているが,最も影響があるのは改定時期の変更であると考えている。これまで3月上旬に告示・通知が示されてから4月までの短期間に医療機関やベンダーの改定作業が過度に集中していたことから,施行時期を従来の4月から後ろ倒しし,6月改定とすることが決定された。3月上旬の告示・通知の時期に変更はなく,改定内容の周知や改定作業に余裕が生まれることでベンダーが恩恵を受けることから,日医は保守費用やリース料などを引下げるべきだと主張している。
薬価改定は従来どおり4月改定であるが,介護報酬改定の時期については6月改定となる可能性がある。
財務省は,医療機関の「1受診あたり医療費」が一貫して増加しており,特に2019 年から2022年度にかけて+ 4.3%と近年の物価上昇率を超えた水準で急増しているとのデータを持ち出し,診療所の経営状況は極めて良好であるとして,初・再診料の引下げを強く主張し,診療報酬本体をマイナス改定とすることが妥当であると主張している。これに対して松本日医会長は,受診延べ日数は年々下がっており,「1人あたり医療費」は近年の物価上昇率の水準を下回っていると指摘した上で,新型コロナで受診抑制があった分,当然ながら1回あたりの医療費は上昇することに加え,新型コロナを踏まえた診療報酬の特例的取り扱いも含んでおり,さらには新型コロナの影響で最も落ち込んでいた2019 年,2020 年と比較して医療費が上昇しているとの訴えは極めて恣意的であると反論している。
また,11 月1日の財政審において財務省は,診療報酬本体のマイナス改定とともに,診療所の地域偏在是正のために,不足地域で1点単価を引上げ,過剰地域では単価を引下げるという地域別診療報酬の導入を主張しているが,当然ながら患者は医療費が安価な方へ流れ込むため,不足地域から患者が流出し,医療資源の不足にさらなる拍車をかけてしまうことが懸念される。
その他,外来医療に関する議論の中で支払側は,外来管理加算については対象疾患や診療科の区別がなく,算定要件も曖昧であるとして評価の妥当性に疑問を呈し,特定疾患療養管理料や地域包括診療加算などと併算定できる点についても問題視し,外来管理加算の廃止を主張している。
2024 年度予算編成に向けて財政審がまとめた「秋の建議」において,診療所の報酬単価は初・再診料を中心に「5.5%程」引下げるべきだとして,改定率に換算するとマイナス1%程度の引下げが妥当であると提言されたことに対し,松本日医会長は,コロナ特例の影響を除いた診療所の医業利益率は3.3%程度であり,引下げの余地はないと強調している。
公定価格である診療報酬で運営する医療機関は,物価高騰に対応するための手当てを価格に転嫁できず非常に厳しい状況にある上に,新型コロナに限らず新興感染症への対応も含め,平時からの感染症対策が重要である。府医としても,物価高騰や光熱費の上昇,スタッフの賃金上昇への対応も含めて,医業経営を安定させるため,また,多くの医療機関が適切な感染対策を講じるためには,基本診療料の引上げが不可欠であると考えており,近医連等の場で強く訴えかけると同時に,日医にも提言しているところである。財源の問題から基本診療料を引上げることは困難との意見もあるが,平成22 年度改定で財源の制約を受けて,診療所の再診料が理由なく引下げられたまま現在に至っていることを一貫して問題視し,元の点数に戻すことを強く主張してきたところである。
11 月19 日には府医会館において,医療・介護・福祉,患者団体の32 団体で構成する京都府医療推進協議会の主催で「府民の生命と健康を守るための総決起大会を」を開催し,京都選出の国会議員や府議会・京都市会議員の他,京都府医療推進協議会の構成団体や地区医の先生方など約150 名の出席のもと,日医と同様,医療機関等の厳しい状況を訴え,改定財源の確保を強く求める決議を採択した。日医では引続き政府や与党に対して積極的に働きかけているため,府医としてもそれを後押しすべく,組織力の強化を図って支えていく必要があると考えている。
今後,高い確率で起こると言われる南海トラフ地震では,京都府においても多くの死傷者や被害が出ることが予測されている。「支援」に関してはJMAT として組織化したが,支援を受ける側になったときのことについてもしっかりと考えておく必要がある。被災後に他の地域から支援が入った場合でも,本来は地域の医療機関で対応していくことが住民にとっても大事なことであるため,我々が被災地に支援に入った際には,被災地の医師会に「いつから診療の再開が可能か」を確認し,再開までの間は応援するという形をとっている。そのため,受援側としては,いつから診療の態勢が整うのかをしっかりと明示していく必要があると考えている。
第8次医療計画では,「災害時における医療」の項目で,災害時に拠点となる病院以外の病院において災害対策機能の強化を図ることの記載が予定されており,発災時にも病院機能が発揮できるよう,浸水想定区域等に所在する病院に対して浸水対策を講じることを求める記載が追加される見込みである。また,災害対策本部においては,医療情報システムを活用し,被災地域の医療機関が機能しているかどうかをしっかりと把握できるようにしておくこととされており,機能していない所に必要な支援を行うことで地域を守っていくことが想定されている。
乙訓医師会においては,大規模災害に備えた情報共有の仕組みとしてKMIS の利用を検討しているとのことであるが,万一の発災時にはどういった情報を共有するのかを事前に確認しておく必要がある。各病院の情報については基本的にG-MIS で集約する流れとなっており,各医療機関の物資,資材の活用状況等についてもすべて報告が必要となるため,大変な作業になることが予想されるが,各診療所の情報も集約されていく方向性だと認識している。
府医では,災害医療対策として平時から「JMAT京都研修会」や「災害医療コーディネート研修会」等の研修会の開催や,十四大都市医師会との共同の訓練を通じて対応力の向上を図っているが,今後は府医と地区医との間で行う研修会の実施が課題だと考えている。現在は府医において「大規模災害時行動マニュアル」の策定に取組んでいるが,その中には「地区医師会の対応」という項目も設け,各地域の意見を伺いながら修正を加えていく考えである。
第8次医療計画の「救急医療の体制」の項目では,医師の働き方改革によるマンパワーへの影響を踏まえ,地域における救急医療機関の役割を明確化することで,できるだけ早く高齢者やハイリスク者を適切な医療機関へ搬送・受入れできるよう,効率性を上げていく考えが示されている。医師の働き方改革が救急医療機関の受入れのキャパシティにある程度の影響を与えることが想定されるが,受入れ後に次の医療機関との連携を推進していくことが重要であると考えている。
また,居宅・介護施設の高齢者の救急搬送に際しては,ACP 等を考慮した適切な救急医療体制の整備を挙げ,本人の意思にそぐわない不要な救急搬送を減らしていくことが想定されている。ACP については救急だけの問題ではなく,地域包括ケアシステムの中で患者に関わる医療・介護関係者間で認識の共有と連携が必要であり,各地域においてそういった環境整備を進めていくことが期待されているところである。
最後に,新興感染症の発生・まん延時の救急医療については,人材確保も含めて平時からの取組みが重要であり,新興感染症の発生・まん延時においても感染症対策と通常の救急医療を両立できるような体制の構築に向けて,各地域の実情に応じた対応を検討していく必要がある。府医としても,各地域の先生方と意見交換しながら,体制整備に向けて取組みを進めていきたいと考えている。
医薬品の供給不足に関しては,今夏に京都府薬務課と意見交換の場を設け,当面の対応について協議するとともに,医薬品の欠品の詳細な理由等を卸売販売業者から医療機関に丁寧に説明するよう対応を求めたところである。実際には都道府県レベルでは如何ともし難く,国レベルの対応が求められている。
日医では8月に「医薬品供給不足 緊急アンケート」を実施し,その結果をもとに国の検討会や対象業界団体に対する改善要望等の働きかけを行っており,最近の中医協でもこのアンケート結果が引用されるなど,議論の材料となっている。
国は,医薬品の安定的な供給のために産業構造の変化を促す方向性で動いており,厚労省は10月11 日に公表した後発品に関する検討会の中間とりまとめの中で,「安定供給等の企業情報の可視化(企業指標)」と「少量多品目構造の解消」を構造的課題の解決に向けて取り得る一連の施策と位置付けている。前者の「安定供給等の企業情報の可視化(企業指標)」については,評価結果を薬価制度やその他医薬品に係る制度的枠組みに活用することを検討すべきとしており,来年の薬価改定に合わせるため早期に対応される予定である。
「少量多品目構造の解消」に向けては,より根深い問題として,幅広い政策でパッケージとして取組む姿勢が示されている。少量多品目構造とは,「小規模で生産能力も限定的な企業が多い」ことを指し,「常に製造キャパシティの限界に近い稼働状況であるため,緊急増産等の柔軟な対応は困難である」とされている。その他,少量多品目構造のデメリットとして,製造の非効率性,管理業務の増大によるリソース不足,品質不良のリスク増大―等が挙げられている。厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では,その解消に向けた具体的な施策として,①新規収載品目の絞り込み,②既収載品目の統合,③供給停止・薬価削除プロセスの簡略化等,④安定供給の確保に資するような薬価制度等の枠組みの検討―を挙げている。構造の変化を促すものであるため,即効性は期待できないが,必要なことであると考える。
また,検査キットについても一時逼迫したことを受けて,府医では京都府薬務課に対し,府内の外来対応医療機関へのアンケート調査を依頼し,その結果を基に京都府から卸業者等に対して適正流通を要請する文書が発出されたところである。今後も検査キット等の不足状況を把握し,府医としてできる限り働きかけを行っていきたいと考えている。
その後の意見交換では,医療DX について,一般企業のようにICT の導入が顧客の増加や収益増につながるものではなく,医療機関においては費用や手間だけが増大している印象であるとして,効率化や負担軽減のメリットを実感できる制度整備を求める声が挙がった。
また,今後はどの産業においても大きな成長が期待できない中で,国は「医療・介護」を国民の重要な生活基盤の一つと捉え,インフラの整備という観点から医療・介護提供体制の構築を考えていくべきであると,医師会から提言していくことが要望された。
基金・国保審査委員会連絡会合意事項について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。