「薬剤の購入」,「開業医の働き方改革」,「薬剤の供給不足」 について議論

 右京医師会と府医執行部との懇談会が12 月12 日(火),右京医師会館にて開催され,右京医師会から6名,府医から6名が出席。「薬剤の購入」,「開業医の働き方改革」,「薬剤の供給不足」をテーマに議論が行われた。

〈注:この記事の内容は令和5年12 月12 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉

薬剤の購入について

 特定の製薬会社の薬剤が特定の卸業者からしか購入できないという問題については,厚労省の「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」においても取り上げられており,医療現場からの問題提起によって,厚労省が一社流通の状態について販売側と購入側にそれぞれ調査を行っている。
 販売側の調査結果では,一社流通とする主な理由として,希少疾病用の医薬品や,生物由来製品,再生医療等製品,劇薬など,ある程度の合理性が想定されるものもあるが,後発医薬品や「その他」の区分の医薬品など,合理的な理由付けが薄い印象のものも見られる。また,購入側の調査結果では,「一社流通」の問題点として,やはり価格面が最も多く,次いで取引の煩雑化が問題視されている。一方で,供給量が少ない等,合理的な理由がある場合には,購入側も一社流通に一定の理解を示す意見も見られた。
 厚労省は,「一社流通」の状態について,医薬品メーカーには「取引先選択の自由」があるため,ある医薬品卸とは取引しない,または,ある医薬品卸とのみ取引することとしても,基本的には独占禁止法上の問題となるものではないとする一方で,競争者を市場から排除するなどの不当な目的を達成するための手段として,あるいは,独占禁止法上違法な行為の実効を確保するための手段として取引の拒絶や一社流通を行う場合には違法等の問題になりうる,との見解を示している。
 その上で,一社流通する製品については,あらかじめその理由を医薬品卸や医療機関・薬局に対して丁寧に説明することを医薬品メーカー側に求めており,流通改善ガイドラインに製薬会社の説明責任について記載すべきとの意見も挙がっている。
 府医としても,会員の先生方と問題意識を共有しつつ,厚労省の動向を注視し,必要に応じて日医と連携の上,対応していきたいと考えている。

開業医の働き方改革について

 これまで我が国の医療提供体制は,医療者が自らの健康を顧みる余裕もなく懸命な自己犠牲によって支えられてきたが,医師の長時間労働が問題となる中,その勤務環境を改善すべく,2024年4月から「医師の働き方改革」が施行されることとなった。時間外労働時間の把握と適切な管理,勤務間インターバル・代償休息の確保は,医師の健康だけでなく,医療の質と安全への担保にも寄与すると考えられる。
 今回の「医師の働き方改革」は,直接的には勤務医に主眼が置かれているが,中小病院の夜間の救急受け入れ可能数が減少し,救急搬送困難事案が急増する可能性や,地域の病院が紹介状を持つ患者への外来を基本とする紹介受診重点医療機関となり外来体制を一部縮小することなどによって,開業医のもとに外来患者が増える可能性がある。診療所と病院の役割分担,機能分化の観点から診療所で診ることができる患者と病院で診るべき患者のすみわけが必要であると考えている。
 開業医自身も外来診療に加えて,在宅医療や学校保健,産業保健など地域に根差した活動で多忙を極めており,開業医の働き方改革も重要であることは日医・府医ともに認識しているところである。
 このような中で,財務省は令和6年度診療報酬改定の議論の中で,診療所は経営状況が極めて良好であるとして,診療所の報酬単価を初・再診料を中心に引下げ,マイナス改定にすべきとの主張を展開した。これに対して,日医は財務省が示すデータが極めて恣意的であるとして即座に反論し,病院団体などとともに適切な財源の確保を国に要望している。
 府医としても,医療・介護・福祉,患者団体の32 団体で構成する京都府医療推進協議会主催で「府民の生命と健康を守るための総決起大会」を開催し,医療機関等の厳しい状況を訴え,改定財源の確保を強く求める決議を採択したところであるが,診療所の診療報酬引下げは地域医療提供体制に多大な影響があることを引続き主張していきたいと考えている。

薬剤の供給不足について

 医薬品の供給不足については,製薬メーカーの不祥事を発端として業界全体に問題が波及したものであるが,2005 年の薬事法(現在の薬機法)改正にともない,医薬品の製造と販売を分離することが認められたことにより製造工程に係るアウトソーシングが自由化され,結果的に医薬品製造を受託する企業に対するガバナンスが効かなくなったことで,様々な不祥事が発生し,現在に至っている。
 中医協でもこの問題が取り上げており,2020年から医薬品の供給停止・限定出荷が繰り返される状況が継続し,2023 年9月現在においても出荷制限や供給量が減少している品目が2割を超えていることが示されている。また,日医が実施したアンケート結果も資料として提示され,院内処方の医療機関の90.2%,院外処方の医療機関の74.0%に医薬品不足の影響が及んでおり,極めて深刻な状況が報告されている。さらに,医療機関における後発医薬品の供給体制の変化に関する令和5年度調査の結果では,後発品の供給状況は1年前からほとんど改善していない,むしろ悪化したという医療機関が半数を超える状況が示されている。
 厚労省の「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」では,対策案として,「安定供給等の企業情報の可視化(企業指標)」と「少量多品目構造の解消」を構造的課題の解決に向けて取り得る一連の施策と位置付け,前者については令和6年の薬価改定に合わせるため早期に対応予定であり,後者については産業構造の変革が必要であるため,より根深い問題として腰を据えて対応する姿勢が示されている。
 少量多品目構造とは,「小規模で生産能力も限定的な企業が多い」ことを指し,常に製造キャパシティの限界に近い稼働状況であるため,緊急増産等の柔軟な対応は困難であるとされ,「製造の非効率性」,「管理業務の増大によるリソース不足」,「品質不良のリスク増大」等のデメリットが挙げられる。その解消に向けた具体的な施策として,①新規収載品目の絞り込み,②既収載品目の統合,③供給停止・薬価削除プロセスの簡略化等,④安定供給の確保に資するような薬価制度等の枠組みの検討―を挙げている。構造の変化を促すものであるため,即効性は期待できないが,必要なことであると考えている。
 インフルエンザや新型コロナ等の感染症の拡大にともない,鎮咳薬や去痰薬の需要が逼迫していることに関しては,安定供給に向けた緊急対応として,国が製薬メーカーに増産を要請しており,令和5年9月末時点より同年内に1割以上の供給の増加が見込まれている。
 府医としては,今後も医薬品の供給不足に関して日医から情報提供があれば,医報等での周知に努める。

意見交換

 その後の意見交換では,医薬品の供給について,一社流通にすることで価格競争が起こらず,納入の遅れやサービスの低下が懸念されるとの意見や,現状では,医療現場での安定的な使用よりも流通コスト等のコスト面が重視されている印象があるとして,工場や倉庫の火災等が起こることも想定し,安定供給の観点から施策が検討されるべきとの意見が挙がった。製薬に係るコストも上昇している中で,毎年の薬価改定によって薬価が引下げられる現状を変えなければ,医薬品の供給不足の問題は解決が難しいとの指摘がなされた。
 医師の働き方改革に関しては,本来は医師全員に適用されるべきものであるが,労働者と使用者という対立構造の中で,現在は労働者の立場のことだけが考えられていると指摘。病院においては,タスクシフティング等が議論されているが,地域においてはかかりつけ医が協力し合い,各科の医師が連携することで患者を面で支えていくことが重要であり,各地域においてシステマティックに連携できるよう,各地区医の取組みが重要になるとの考えが示された。

保険医療懇談会

 ※乙訓医師会との懇談会参照

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