「かかりつけ医機能」,「医師会の存在意義」,「地域共生社会に向かう国・行政の取組みと在宅医療・介護連携推進事業,重層的支援体制整備事業との関連」について議論

 中京東部医師会と府医執行部との懇談会が12月20日(水),ハートンホテル京都にて開催され,中京東部医師会から9名,府医から9名が出席。「かかりつけ医機能」,「医師会の存在意義」,「地域共生社会に向かう国・行政の取組みと在宅医療・介護連携推進事業,重層的支援体制整備事業との関連」をテーマに議論が行われた。

〈注:この記事の内容は令和5年12月20日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉

かかりつけ医機能について

 令和4年6月15日の新型コロナウイルス感染症対応に関する有識者会議では,発熱や呼吸器症状のある疑い患者が普段からかかっている医療機関で診療を受けられず,直接地域の総合病院を受診するケースや保健所・地方公共団体に相談するケースが発生したことを受けて,外来,訪問診療等を行うかかりつけ医療機関についても,各地域で平時より感染症危機時の役割分担を明確化し,それに沿ってそれぞれが役割・責任を果たすとともに,感染症危機時には国民が必要とする場面で確実に外来医療や訪問診療等を受診できるよう法的対応を含めた仕組みづくりと,さらに進んでかかりつけ医機能が発揮される制度整備を行うことが重要であると指摘されている。
 日医は,新型コロナウイルス感染症への医療機関の対応について,発生当初は未知の感染症であったことから,国は感染が疑われる患者を受け入れる窓口を限定したものの,そこに至る電話等相談窓口でキャパシティを超える事態が生じたと指摘。医療現場はぎりぎりの状態で逼迫しつつも,診療・検査医療機関をはじめ,各医療機関はその役割に応じて可能な範囲で対応し,患者を守ってきたとの認識を示している。また,桁外れの感染爆発においては,かかりつけ医機能を充実させ,制度整備して対策を行ってもなお対応しきれなかったとする一方で,国民が必要とする場面で確実に医療が提供できるよう医師会としても国民にわかりやすい情報発信を行うなど改善が必要であるとしている。
 さらに,かかりつけ医機能が発揮される制度整備に向けて,感染症発生・まん延時には,日頃から患者のことをよく知るかかりつけ医機能を担う医療機関が対応することが望ましいところであるが,未知の感染症への対応に際しては,動線分離を含めた感染拡大防止対策が重要であり,地域医療全体として通常医療を継続しつつ,感染症医療のニーズに対応していくことが必要であるとして,地域医療体制全体の中で感染症危機時に外来診療や在宅療養等を担う医療機関を平時から明確化しておくことで,国民が必要とするときに確実に必要な医療を受けられるようにしていくべきだと提言している。
 令和4年秋の臨時国会では,日医が提言した方向性で審議が進められ,同年12月に改正感染症法等が成立するとともに,令和6年度からの第8次医療計画では,「新興感染症発生・まん延時における医療」が6事業目として追加され,有事においてかかりつけ医を持たない者も適切に受診できる体制整備が進められることとなった。
 ワクチン接種については,令和5年12月15日現在,京都市内の接種登録医療機関数が844医療機関(会員・非会員含む)となっており,初回接種(1回目・2回目)の接種回数は218万6,341回で医療機関での接種が84.5%,集団接種会場での接種15.5%,3回目以降も医療機関での接種率がいずれも85%以上と高いことが示されている。府医と京都市では,医療機関での電話対応業務の軽減を図るために協議を重ね,京都市新型コロナワクチン接種コールセンターの設置や「京あんしん予約システム」の導入など医療機関への直接の電話を回避する方策を講じてきたものの,医療機関に直接電話する市民が多かったことも事実である。
 今後の新興感染症に対応すべく,現在,京都府感染症対策連携協議会において感染症の予防およびまん延防止のために「京都府感染症予防計画」の見直しが行われている。病院・診療所・薬局・訪問看護ステーションを対象に実施された感染症法に基づく医療措置協定に係る事前調査の結果に基づき,今後の情報共有のあり方や保健所体制,入院調整のあり方について協議を重ねていく予定である。府医としても,平時からの連携強化と綿密な準備を通じて感染症発生時・まん延時の対応を検討していきたいと考えている。

~意見交換~
 その後の意見交換では,新型コロナウイルス感染症まん延時にはイギリスの家庭医制度においてもアクセスが難しかったことを挙げ,かかりつけ医の登録制を主張する財務省に議論をミスリードされては大変な問題が生じるとの懸念が示された。新興感染症発生当初はどのようなウイルスかが分からないため,基本的には感染症対策指定病院や帰国者・接触者外来で対応することとなるが,感染状況に応じて迅速に早期発見・早期隔離の対策を講じる必要があると指摘された。

医師会の存在意義について

 令和5年6月16日に閣議決定された「骨太の方針2023」では,「次期診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定においては,物価高騰・賃金上昇,経営の状況,支え手が減少する中での人材確保の必要性,患者・利用者負担・保険料負担への影響を踏まえ,患者・利用者が必要なサービスが受けられるよう,必要な対応を行う」と明記されるに至ったが,日医では従来から物価高騰・賃金上昇等への対応を国に求め,働きかけを行ってきた経過がある。
 水道・光熱費,食材料費の物価高騰が医療機関等の経営に甚大な影響を及ぼしていることを受け,日医は令和4年7月に,医療機関・介護事業所等に対する新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金による支援の早期かつ確実な実施とその支援に係る財源の確保を要望した結果,医療機関も支援の対象に含んだ形で,同交付金を活用した「電気・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」の交付が決定された。これは京都府の「京都府原油価格・物価高騰対策緊急支援事業交付金」として,医療機関を対象とした光熱費支援事業(無床診療所:1施設10万円など)の交付に繋がっている。
 また,令和5年3月には医療・介護団体とともに,公定価格により経営する医療機関等においては,光熱費等の物価高騰を価格に転嫁できないため,もはや経営努力のみでは対応が困難であると訴え,医療・介護従事者の適切な処遇改善のために必要な財政措置を早急に講じるよう厚労相に要望し,「医療機関,介護施設等に対するエネルギー・食料品価格の高騰分などの支援」が決定されている。これを受けて,京都府では,「京都府医療機関・社会福祉施設等経営改善支援事業費補助金」(無床診療所:1施設13万円など)が交付されるに至っている。
 これらの要望の根拠として,日医が都道府県医を通じて実施した電気・ガス料金およびその使用量等に関する詳細なアンケートの結果が提出されている。
 医療従事者等への賃上げの対応については,エネルギー価格の高騰や急激な物価・賃金高騰は,公定価格により運営する医療機関等は価格に転嫁することができず,十分な原資がなければ対応できないとして,令和6年度のトリプル改定において物価高騰と賃上げへの対応を明記するよう政府に働きかけたことによって,マイナス改定の主張を覆すに至ってる。
 日本の医療は,政治との関わりなしに医療制度の改善を成し遂げることができないと考えており,日医の発言力を高めるためには,組織率の向上が不可欠であると認識している。昨今,日医では組織率低下を問題視し,研修医の会費無料など様々な組織強化のための事業が展開されている。
 しばしば医師会の入会メリットが話題になるが,組織として様々な交渉を行った結果が現在の医療制度であることを鑑みると,言い換えれば,保険診療を実施している医師は,そのこと自体がメリットを享受していると考えられる。今後もより良い医療制度を構築するためには,組織率の向上が不可欠である。

~意見交換
 地区からは,組織力強化の重要さは理解しつつも,医師会に入らない医師へのアプローチを考えていく必要があるとの意見が挙がった。
 府医からは,組織強化の方策として,若手医師に医師会の重要性を理解していただくために「KMA.com」という取組みを開催したことを報告。研修修了後や研修期間中に他都道府県へ異動しても,「KMA.com」を通じて若手医師にメリットのある情報の配信を継続することで,10年後,20年後の入会に繋げていくという中長期的な視野で組織力の強化に努めていると説明した。
 京都府の子どもの人口減少にともない,その子どもたちが活躍できる社会を担うのは現在の研修医たちであることから,医師会は情報共有や学術研鑽などの場でもあるとして,若手医師が幅広く活躍できる環境を整備してけるようサポートしていく意向を示した。

地域共生社会に向かう国・行政の取組みと在宅医療・介護連携推進事業,重層的支援体制整備事業との関連について

 重層的支援体制整備事業については,現時点で京都府・京都市から相談・協議の申し入れもなく,また,日医からも見解や考え方が示されていない段階であるが,京都市では令和6年度からの事業開始に向けて,現在,準備を進めているところと聞き及んでいる。
 重層的支援体制整備事業は,これまでの福祉制度・政策と支援ニーズとの間にギャップが生じてきたことを背景として,社会福祉法の改正により創設されたものである。日本の社会保障における福祉政策は,子ども・障がい者・高齢者といった対象者の属性や,要介護・虐待・生活困窮といったリスクごとに制度を設け,現金・現物給付の提供や専門的支援体制の構築が進められてきたところであるが,対象やリスクごとに縦割りされた現在の支援体制では様々なニーズへの対応が困難になってきたため,厚労省において,このような社会の変化にともなって生じている課題と,これからの可能性の両方に目を向け,「重層的支援体制整備事業」では,①すべての人びとのための仕組みとすること,②これまでに培ってきた専門性や政策資源を活かす設計とすること,③実践において創意工夫が生まれやすい環境を整えること―の三つの視点が重視されている
 この「重層的支援」とは,人々の生活そのものや生活を送る中で直面する困難さ,生きづらさの多様性・複雑性に応えるものとして,各制度の間の壁を低くし,風通しの良い政策の実現を目指すという趣旨であり,「すべての人びとのための仕組み」と謳われている。
 具体的に,相談支援事業等に係る事業費については,対象者ごとの制度に基づいて国からの補助金が交付されており,自治体による事業実施に際しては,各制度に基づく補助金等の目的の範囲内で行わなければならないという縛りがあるため,縦割りを超えた相談支援体制を作ろうとすると,会計検査において,「補助金等の目的外使用である」,「各制度の範囲を超える業務と範囲内の業務とを区分し,それぞれで経費を計上すべき」等の指摘を受けることとなり,京都市の在宅医療・介護連携推進事業において難病を取り扱うことは,こういった点から難しいという課題がある。これは制度ごとに補助金が設定されていることの弊害であり,複合的な課題やニーズに対して包括的な対応がしづらく,対応する際も制度間での費用按分といった事務負担が増えるなど,先行的な取組みの実施が難しく,創意工夫が働かせにくいという現状がある。
 そういった状況を変えるために,「重層的支援体制整備事業」の支援の対象をすべての住民と位置付けた上で,この事業を実施する市町村に対して,介護,障害,子ども,生活困窮の分野の相談支援等に係る既存事業の補助金を「重層的支援体制整備事業交付金」として一体的に交付することとされた。
 この事業の展開にあたっては,「これまでに培ってきた専門性や政策資源を活かす設計とすること」とされており,既存のものとは別の新しい相談支援機関や,新しい地域の拠点を設けることは目的とせず,既存の支援機関等の機能や専門性を活かし,相互にチームとして連携を強めながら,京都市であれば京都市全体の支援体制を作ることが目的になるのではないかと考えている。事業実施に必要な会議についても,他の制度における既存の会議体と合同会議にするなど,柔軟かつ効率的に行うことが求められており,国からの財政支援が,既存の各制度に基づく補助金等を含めて一括して交付される仕組みになっている点もこのような趣旨を踏まえてのものだと推察される。
 現状では,行政に諸課題を相談すると,関連する複数の課においてそれぞれが担当する法律の範疇で施策が講じられるものの,やはり縦割りの対応にならざるを得ず,狭間の問題が生じる。一方で,その制度の壁がなくなっても混乱をきたすため,制度の枠組みは整理しつつも,スムーズな連携を阻害している原因が何かを検討し,その障壁を低くすることで風通しが良くなるよう働きかけていく必要がある。
 府医としても,重層的支援体制整備事業と在宅医療介護連携推進事業をどのように関連づけ,狭間のニーズへの対応も可能となる支援体制の構築を目指していくのか,検討していきたいと考えている。
 府医が主催する京都在宅医療戦略会議には,従前から京都府・京都市の複数の関連部署にも参加していただいていることから,今後は多職種にも参加を求め,この枠組みを施策の協議の場とすることも一考の価値があるのではないかと考えている。他府県における先進的な取組みも参考としながら,京都市という地域性も踏まえて,各地区医とともに今後の地域包括ケア・地域共生社会のあり方を考えていきたい。

2024年2月15日号TOP