2024年2月15日号
西京医師会と府医執行部との懇談会が12月22日(金),ホテル京都エミナースで開催され,西京医師会から12名,府医から10名が出席。「2024年度の診療報酬,介護報酬,障害者福祉サービス報酬のトリプル改定」,「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に向けたマイナンバー法等改正案」,「医師の働き方改革が,地域の救急医療体制に及ぼす影響」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は令和5年12月22日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉
~本体は+0.88%と過去10年で最も高い数字~
令和6年度診療報酬改定は,診療報酬本体+0.88%と過去10年で最も高い数字となった。このうち,看護職員等の賃上げの対応に+0.61%,入院時の食費の引上げに+0.06%を充てる一方,生活習慣病を中心とした管理料,処方箋料等の再編などの効率化・適正化により▲0.25%とされ,これらを除く改定率は+0.46%となった。医科:歯科:調剤は1:1.1:0.3で分配されており,医科は0.52%となっている。薬価・材料価格は▲1.00%(薬価▲0.97%,材料価格▲0.02%)である。さらに,長期収載品の保険給付のあり方の見直しとして,選定療養の仕組みを導入し,後発医薬品の上市後5年以上経過したものまたは後発医薬品の置換率が50%以上となったものを対象に,後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象とすることとし,制度の詳細については今後中医協で協議される。
~日医の評価~
松本日医会長は「診療報酬のネットでは0.12%のマイナス改定となるので,国民の医療費負担は減少する」として,医療従事者の待遇向上と国民負担とのバランスに言及。今回の改定率は,物価・賃金の動向,保険財政などの議論を考慮した結果だとして,「必ずしも満足するものではないが,率直に評価したい」と述べるとともに,財務省は極めて恣意的なデータを用いて診療所の報酬単価の引下げを求めていたが,日医が実調の結果などをもとに強く反論したことで今回の改定率の決定に至ったとして,「コロナ禍で診療所が果たした役割について一定の評価がされたと理解している」との認識を示している。
改定を巡る大臣折衝の合意事項では,生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料などの効率化・適正化で0.25%を削減する方針が明記され,当初は診療所の方が経営が良いとして診療所の点数から0.25%を下げると言われていたが,松本日医会長は「▲0.25%の中身は,決して診療所のみではないと思う。中医協を中心にしたこれからの議論になる」との考えを示している。
(具体的な中医協における診療報酬改定の論点は,京都医報12月1日号保険医療部通信参照)
国は,現行の健康保険証を令和6年12月2日に廃止することを正式に決定した。廃止後も最長1年間は猶予期間として現行の保険証が利用できる。
医療保険の資格確認は,マイナ保険証を基本として,資格確認書で補完的に運用する。資格確認書は,マイナ保険証を保有しない方すべてに申請によらず交付される。有効期限は,現行保険証の実情を踏まえ,5年以内で保険者が設定を行い,様式も現行の実務・システムを活用することとなっている。
現行の保険証の廃止がしっかりとした議論もなく拙速に決定したことで,マイナ保険証を現実的に利用できない人が保険診療を受けられないことが危惧されるとして,日医をはじめ関係各所から国民皆保険の実体が失われてしまうとの指摘を受け,それに対応するために資格確認書の発行を決めたという経緯であり,本末転倒である。
資格確認証の意義を問うことは,なぜそこまでしてマイナ保険証を普及させたいかという疑問につながる。デジタル庁のマイナンバー情報総点検本部は,マイナ保険証は医療DXの基盤であるとし,その最大のメリットは「患者本人のデータに基づくより良い医療の実現」として,利便性の向上を謳っている。
より良い医療がどのように実現されるかについて,厚労省は全国医療情報プラットフォームの将来像として,「オンライン資格確認システムのネットワークを拡充し,レセプト・特定健診情報に加え,予防接種,電子処方箋情報,電子カルテ等の医療機関等が発生源となる医療情報(介護含む)について,クラウド間連携を実現し,自治体や介護事業者等間を含め,必要なときに必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームとする」「これにより,マイナンバーカードで受診した患者は本人同意の下,これらの情報を医師や薬剤師と共有することができ,より良い医療につながるとともに,国民自らの予防・健康づくりを促進できる。さらに,次の感染症危機において必要な情報を迅速かつ確実に取得できる仕組みとしての活用も見込まれる」と展望している。
医療DXに関する政府の動きに対して,日医は,「国民・医療者を誰一人取り残してはならない」,「新システムを国策として導入する以上,維持コストも含めて,本来国が全額負担すべきである」という点を主張しており,府医としても非常に重要であると考えている。
今回の「医師の働き方改革」は病院の勤務医が対象であり,事業主である開業医は対象には含まれておらず,無床診療所における働き方については議論されていない。
~国の見解~
厚労省の働き方改革に関するFAQでは,働き方改革制度の対象者を,「病院,診療所に勤務する医師」とし,産業医,検診センターの医師,裁量労働制(大学における教授研究等)が適用される医師は対象外で,一般の業種の労働者と同様の基準が適用されるとしている。
大学院生の扱いは,診療業務の一環として従事する場合には雇用契約の締結が必要とされている(文部科学省:平成20年6月30日,20文科高第226)。
複数勤務先での労働時間の把握については,副業・兼業先の労働時間(通勤時間は含まない)を通算して管理することとされている。
宿日直許可の許可基準は,「通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること」,「宿日直中に従事する業務は,前述の一般の宿直業務以外には,特殊の措置を必要としない軽度のまたは短時間の業務に限ること」,「宿直の場合は,夜間に十分睡眠がとり得ること」,「上記以外に,一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること」のすべてを満たす場合に許可を与えるよう取り扱うこととされており,また,宿日直中に,通常と同態様の業務をまれに行った場合は,その時間について,本来の賃金(割増賃金が必要な場合は割増賃金も)を支払う必要があるとされている。
~日医のアンケート調査~
日医は,11月に「医師の働き方改革と地域医療への影響に関するアンケート調査」を実施した。京都府内の地域医療支援病院,救急告示病院,有床診療所69施設が回答しており,そのうち,A水準は62施設,A水準以外7施設(B水準5,連携B水準1,C-1水準1,C-2水準1)であった。今後の医師派遣の見込みとしては,「専ら医師派遣する病院」が1施設,「医師派遣・医師受け入れ」が20施設,「専ら医師を受け入れている病院」が48施設であった。48施設のうち,派遣元から伝えられた内容では,「医師派遣を継続」が28施設,「一部縮小」5施設,「連絡なし」15施設であり,3割の施設では調整ができていないという実情が明らかになった。
自院の医療提供について今後の懸念事項はあるかという質問には,「派遣医師の引き上げ」,「宿日直体制の維持が困難」,「救急医療の縮小・撤退」,「周産期医療の縮小・撤退」,「小児救急の縮小・撤退」など,多くの施設が回答している。
また,地域医療体制について今後の懸念事項はあるかという質問には,「専門的な医療提供体制の縮小・撤退」,「僻地医療の縮小・撤退」のほか,多くの施設が「救急医療の縮小・撤退」の懸念を回答している。
宿日直許可の取得状況は,「許可」47施設,「取得に向け対応中」2施設,「取得が困難」2施設,「取得は検討していない」10施設であった。救急告示病院で宿日直許可を取得した施設は多いが,夜11時から朝8時までの9時間で宿日直許可が取得されている。
~府医の取組み~
府医では,「医療政策会議」を設置し,京都大学・京都府立医科大学の副院長(労務担当),京都私立病院協会の副会長に参画いただき,多様な価値観や働き方の変化の中で,どのように地域医療を守っていくかという方策を議論している。
現在,京都市では250件/1日の救急搬送があり,コロナ前は1%程度であった困難事案は1日あたり7〜10件で3〜5%という状態が常態化している。
4月から働き方改革が始まり,行き場のない救急車が出ないように大学,各医療機関との調整・準備を進めていかなければならないと考えている。