2024年7月15日号
府医では,6月15日(土),府医会館において,95名の代議員の出席のもと,第212回定時代議員会を開催した。
冒頭の松井府医会長の挨拶に続き,地区からの代表質問ならびにその答弁が行われた。
議事では,第1号議案として「令和5年度事業報告及び決算の承認に関する件」が上程され,松井府医会長からの総括報告,担当副会長から総務,保険医療,地域医療,学術・会員業務,看護専門学校に係る各事業の報告が行われた。続いて,内田府医理事による会計決算報告を受けて,大坪府医監事より監査報告が行われ,賛成多数で可決承認された。
その後の協議では,財務省が求めている地域別診療報酬の設定や医師少数地域への強制配置など,強引な手法による医師偏在対策に強く反対し,医療費抑制に主眼を置いた政策は医療提供体制の崩壊に繋がることを指摘する決議案が上程され,採択された(決議文は別掲)。
松井府医会長は冒頭の挨拶で,5月21日に財政制度等審議会から財務大臣に提出された「春の建議」について触れ,医療に関しては病院・診療所の偏在是正を目的とした「診療所の報酬適正化」や地域別診療報酬導入による医師過剰地域の1点単価の引下げ,医師が増えると医療需要を喚起するとして医療費抑制を目的とした医学部定員の適正化,即ち医学部定員の減少等が提言されていることを紹介し,医療について「公的保険でカバーする範囲が広い」,「患者にとっては負担が低く,コストを抑制するインセンティブが生じにくい構造」,「医療機関側にとっては患者数や診療行為数が増加するほど収入が増えるいわゆる出来高払いの仕組みである」として,医学的な必要性以上に「過剰な医療提供を招きやすい構造になっている」との一方的な指摘がなされていることに疑問を呈した。
日本の医師数は,人口千人あたり約2.5人と,OECD 諸国の平均約3.6人を下回り,世界的にみて少ない状況であるにもかかわらず,「いつでも,だれでも,どこでも」という国民皆保険制度が機能しているおかげで,世界的に見ても医療へのアクセスに優れていると評価され,世界トップの長寿社会を実現していると説明。財政制度等審議会は,少子高齢化の進展による支え手世代の減少や医療の高度化・高額化が進展する中で,質の高い医療を提供しつつ国民皆保険の持続性を確保するために,確実に医療制度改革を実施していく必要があると主張しているものの,その具体的対策として示された医師数の削減や診療報酬・診療単価の引下げ,患者の負担増が実施されると,いつでも医療にかかれる機会が損なわれ,経済的理由により医療にかかれない事例が生じるため,国民皆保険制度が崩壊の危機に晒されることは明白であるとした。
同時に,医療・介護の分野では賃金のベースアップを行うための原資が得られず人材確保が困難になるため,医療・介護が提供できなくなると述べ,経済産業省が2018年4月に公開した報告書において,2035年には人材供給が約228万人であるのに対し,需要は約297万人と試算され,約69万人の介護人材が不足するとの予測に全く矛盾すると指摘した。
現在,医療が直面している「高齢社会をどう乗り切るか」という課題に対して,多職種協働による地域包括ケアシステムの中で活躍する「かかりつけ医」が求められているとした上で,これまでの我が国の医学教育が卒後も含めて専門医の養成に視点が置かれ,専門分化が進んだ結果として,各診療科の医師数が不足することになっていると述べ,それを補うべく日医では医師の専門領域にかかわらず,医師が協力し合って「面としてのかかりつけ医機能」を充実させる取組みが進められていると説明した。
必要な医療制度改革は,財務省のように財政面からではなく,乗り越えなければならない課題に対して何が必要かという視点で議論されるべきであり,医療を担当する我々の意見をその改革に盛り込まなければ,医療者だけでなく国民の手からも医療が離れていってしまうことが懸念されるとし,そのための医政活動の重要性を改めて訴えた。医療を守るためには医師一人ひとりの力が必要であり,医師会として先生方の思いを結集し,まとまって主張することによってはじめて政策に影響を与えることができると強調した。財務省の圧力が看過できないほど強さを増していることに大きな危機感を示し,医療を守るために医療の現場を担う先生方の思いを大きな力とするため,会員各位に理解と協力を求めて挨拶を締めくくった。
代表質問では,伏見,乙訓,宇治久世の3地区から代議員が質問に立ち,医療が直面している課題について質疑が行われた。質問内容および執行部の答弁(概要)は次のとおり。
◆奥田 晃司代議員(伏見)
〔医師の地域偏在,診療科の偏在について〕
◇濱島府医副会長
まず,医師の地域偏在,診療科偏在に関しては,府医でも重要課題と認識し,以前からその対応を検討している。
令和2年のデータでは,京都府は人口10万人あたりの医師数が333名と全国2位の医師多数区域で,二次医療圏ごとに見ると,京都・乙訓医療圏は410人となっている。
一方で,丹後医療圏は 202 人,中丹医療圏は228 人,南丹医療圏は 187 人,山城北医療圏は211 人,山城南医療圏は 150 人と,京都・乙訓以外はいずれも全国平均を下回る状況であり,この地域偏在の解消に向けて,京都府の医療審議会や医療対策協議会において,松井府医会長はじめ府医役員も参画し,以前から検討が行われている。
京都府が実施している具体的対策としては大きく2つあり,一つは,地域医療確保奨学金制度,いわゆる地域枠制度であるが,これは京都府立医科大学で3年間の研修を受けた後に,京都府が指定する北部あるいは南部医療圏の地域医療病院に合計6年間勤務する制度で,合計で約60名の若手・中堅の医師が従事しておられ,一定の効果が見られる。
また,もう一つの取組みとして,京都府立医科大学から同大学附属北部医療センターへの医師を増員し,周辺医療機関への派出拠点としている。この支援実績も年々増加し,昨年は丹後医療圏の5病院・4診療所および中丹医療圏の7病院へ年間延べ3,800回の派遣支援がなされ,さらに周辺病院への当直支援も別途行われており,地域偏在解消に大きな役割を果たしていただいている。
問題は脳卒中や急性心疾患,重症外傷などの生命に関わる緊急疾患への対応である。考えうる対応策として,可能な範囲で北部に拠点を置き,救急車とドクターヘリなど緊急搬送インフラを整えることなどが挙げられる。しかし,これらの急性疾患に対応する脳神経外科や心臓血管外科,外傷救急などに携わる医師は都市部においても不足しており,まずはこれらの診療科の医師数自体を増やしていくことが急務であるが,現状の様々な制度下ではその解決は難しいものがある。
今後 20 年でおよそ2割の人口が減少すると予想されている地域において 今から民間医療機関を開設し,経営するのは長期的,恒久的な財源補償がなければ困難であると考える。国が人口減少・偏在問題に対する抜本的な対策を講じないかぎりは,人口過疎地域において他の業種が縮小・撤退しているのと同様に,医療も経営の存続が難しく,この流れが続くのであれば最終的には行政による公的配置という政策医療が進められる可能性もある。
まもなく公表される骨太の方針2024においても「偏在の是正を図るため,医師確保計画を深化させるとともに,医師養成過程での地域枠の活用,総合診療医の育成,経済的インセンティブによる偏在是正など,総合的な対策を2024年末までに策定する」と明記されるようであり,医療界としてその内容が規制的なものになり過ぎないよう注視していく必要がある。
二つ目の新規開業の問題については,ご指摘のとおり,新規開業を考える勤務医師が,その地域の医療事情に疎いまま業者に誘導されて開業されることがしばしば問題になっており,結果として,医療機関過剰な地域が発生しているのも事実である。
ただし,これには難しい問題があり,我が国は「医師が自分の希望する場所で希望する医療機関を開設できる」という自由開業制・自由標榜制度のもと医療機関が開設されており,医師会も基本的にこの制度を維持する立場で,いわゆる強制配置制の導入には反対している。
新規開業される多くの医師は病院勤務であり,我々医師会の努力不足もあって,開業を検討される段階で地区あるいは府医未入会の医師も多く,医師会に相談される機会もないまま開業された結果,近隣医療機関とバッティングしていることも考えられる。また開業後も医師会に加入されないことも多く,その後の地域連携がうまくいかないことも起こり得る。
一人でも多くの勤務医が医師会に入会され,その中から開業を希望される先生がスムーズに地域に溶け込んでいけるよう橋渡しをすることが医師会の役割だと考えている。
ただ,より大きな問題として,先に申し上げた地域や診療科の医師偏在に対し,国は規制的な方向へ向かおうとしている。今こそ大学や専門医機構,学会,医師会など医療界自らが自己調整,即ちオートノミー機能を発揮すべきだと考えている。
◆下尾 和敏代議員(乙訓)
〔令和6年度診療報酬改定における在宅医療に関する改訂と今後の在宅医療の見通しについて〕
今回の診療報酬改定では,在宅医療に関する項目で往診料の見直しが行われ,普段診療を受けていない患者に対する緊急往診や夜間往診の点数が減額された。ビジネスを優先した不必要な往診で荒稼ぎしている法人を排除するには有効な手段であり,これらの法人は早速,往診業務から撤退したと報道されている。しかし,安易な往診に流れた需要は,これまで細々と連携してきた地域の緊急往診体制を破壊しており,緊急往診に対する診療報酬の減額は,医療機関にとって往診の意欲を損なう諸刃の剣になっている。今回の在宅医療に関する改定内容について府医の意見を伺いたい。
また,今後の在宅医療連携の新たな手段として,国は地域医療連携推進法人を推進している。地域医療連携推進法人は医療機関相互間の機能分担および業務の連携を推進し,地域医療構想を達成するための一つの選択肢として地域医療提供体制の確保を目的とした制度で,令和6年4月からは法人格のない個人医療機関にも参加資格が拡大されている。地域医療連携推進法人が地域の枠の中で共存し,在宅医療を補完する新しい連携システムとなる可能性と,早期の撤退等によって逆に地域の緊急往診体制を破壊する危険性についてご意見を伺いたい。
◇谷口府医副会長
今回の診療報酬改定全般に対する府医の受け止めは,すべての医療機関が満足できる内容ではなかったものの,日医を中心とする医療界の精力的な働きかけによって財務省や経済界の支離滅裂な主張を跳ね返した結果,診療所の診療報酬をマイナス1%程度の引下げから本体プラス改定まで持ってこられたものと一定の評価はしている。しかし,改定率決定の際の大臣折衝において,生活習慣病の管理料や処方箋料等の適正化によりマイナス0.25%とされたことは遺憾である。
在宅医療に関しては,今回は6年に一度のトリプル改定であり,医療と介護の連携を推進する見直しとして,例えば,連携する介護老人保健施設などの患者を往診した場合の加算の新設や,地域包括診療加算の要件に介護支援専門員の相談に応じる体制が追加されたところである。
また,ご指摘のとおり,往診のみが多く訪問診療の少ない医療機関が一定程度存在するというデータをもとに,いわゆるビジネス的な在宅専門医療機関の是正を目的とした改定が行われ,普段診察していない患者への緊急・夜間・休日・深夜の往診料の他,訪問診療の回数が多い医療機関の訪問診療料や在宅時医学総合管理料,施設入居時等医学総合管理料が減算されることとなった。これは,ビジネス的な在宅専門医療機関を排除し,一般の在宅医療を守るために見直しが行われた結果であると考えている。
中医協では,改定の結果を検証し,次回改定で見直しにつなげるルールが確立しており,以前から府医においても診療報酬について見直しが必要な項目は,地区医や専門医会のご意見等を集約し,近医連を通じて日医に改定要望事項として提出してきたところである。今期の京都在宅医療戦略会議では,在宅医療に関する診療報酬上の課題についても意見交換する予定であり,今回のご意見も参考にさせていただきたいと考えている。
次に,地域医療連携推進法人については,複数の医療機関・法人が地域での連携を進めるために合同で設立する一般社団法人で,都道府県知事が認定する制度であり,同制度のメリットとしては,①参加法人内では,病床融通が可能,②医薬品,医療機器等の共同購入が可能,③医師等の人事交流が可能―といった点が挙げられる。
2024年1月1日現在,全国に36法人が認定されているが,京都府においては,6月14日の京都府医療審議会において,京都府で初となる「一般社団法人ジャスティスリーグ」が承認され,近日中に京都府知事の認定を受ける予定となっている。
この法人は,その運営方針として,「在宅医療を推進する参加医療機関を持続的に支援するための単発往診支援システムの構築」を目標と定めており,具体的には,参加法人が夜間休日等において自院患者への急な往診対応が困難である場合に,参加法人内で情報を共有することにより,別の対応可能な参加法人による往診をバックアップするシステムの構築に取組むとしている。参加法人の専門性を活かしつつ,相互に機能分担・連携する中で,地域全体で在宅医療を積極的に行うための「人材資源の共有」や「ICT 連携」などに取組む他,在宅領域における感染症対応,災害時対応などのノウハウを活かし,在宅医療従事者の養成・確保や大学等研究機関との共同研究等の実施も視野に入れられている。
一方で,既に地域において,緊急往診体制をはじめとした地域連携,多職種連携が構築されている場合には,その地域の医療機関・法人は,この地域医療連携推進法人に参加する必要はないとも説明している。既に地域において地域包括ケアの形が成立している場合には,これまでの在宅医療に取り組んでいただき,決してその地域連携を壊さないよう府医からの意見として,医療審議会において何度も訴えてきたところである。さらに,病院間での病床融通は行わないことも確認している。
個々の医療機関単体では夜間休日等の緊急対応が困難な場合に,この地域医療連携推進法人の活用を検討するという提案だと認識しており,府医としては,営利企業が主体となった医療機関,法人が地域の緊急往診体制を破壊することについては強く危惧しているが,このような地域の会員医療機関による地域医療連携推進法人の設立とその活用については前向きに捉え,既存と取組と競合せず,混乱なく良い形で地域に溶け込み,会員医療機関の負担軽減に繋がるよう協力していきたいと考えている。
京都府では初めての取組みであるが,監督官庁である京都府も含め,この制度が適切に運営されるよう必要に応じて働きかけていきたいと考えている。
◆堀内 房成代議員(宇治久世)
〔医師会の組織力強化について〕
令和6年の診療報酬改定では,支払側から強硬な主張が行われた中,日医を含む医療側が,日本の医療と国民の健康を守る立場から正当な主張を粘り強く行い,決定されたと考えている。今回の改定プロセスにおいて,改めて医師会の組織力強化の重要性が明らかになった。
宇治久世医師会としても会員数の増加に取り組んでいきたいと考えているが,さらなる対策として,積極的に医師会活動に参加し,医師会に対する意識が高い会員の増加が重要だと考えている。このような会員の育成に関する府医の見解をお聞きしたい。
◇禹 府医副会長
日医会員の組織率は2000年の60.4%をピークに,その後この20年間で下降傾向となり,2020年には51.2%,2023年には51.0%まで減少した。医師会の組織強化は,日医ならびに府医の喫緊の課題として,松本日医会長は,就任以来,組織強化に向けた取組みの推進を全面的に打ち出している。
組織率向上に向けて,新規会員を獲得するための取組みとして,①会員になることのメリットの向上とその提示,②コミュニケーションの強化,③地域連携の推進,④働き方改革の推進,⑤ロビー活動即ち医療政策と医政活動の強化―がポイントであり,これらに同時進行で取組む必要があると考える。
例えば,会員のメリットについては,まず学術団体として,研修会やセミナーを開催することで専門知識の提供と最新の医療情報の共有を充実させることである。また,学会のそれに比べて圧倒的に有利な日医の医師賠償責任保険や,医師年金制度,サイバーセキュリティ支援制度について紹介するとともに,身分証明証としてだけでなく,電子処方箋などの電子化された医療文書に対する電子署名としてHPKI電子署名ができる医師資格証の発行と普及を図っており,これらのメリットを提示しつつ,若手医師に対して会費面での有利さを説明しているところである。
若い世代の入会促進を目的として,日医では医学部卒後5年間は会費免除とし,会員特典として年間15,000円で医賠責保険に加入できるようにしている。府医においても,初期研修医(臨床研修医)は府医C会員として会費は無料,専攻医(専門研修医)についても無料とし,さらに医籍登録10年以内は会費減免を実施している。
医師会は,日医・都道府県医・郡市区医の三層構造で,まず地区医に入会し,次いで都道府県医,そして日医入会という手続き上の煩雑さや入会金など,新規の入会希望者にとっては少しハードルが高くなっている。多くの地区医においても,できる限り研修医・専攻医の会費減免についてご検討いただきたいと考えている。
府医では,毎年4月第1土曜日に,京都府内で新たに研修を始める初期研修医を府医会館に集めて開催している「新研修医総合オリエンテーション」において,医師会活動や地域医療の重要性等について説明し,医賠責保険のことなどを紹介している。入会手続きを簡素化したところ,研修医であるC会員の入会が増えたものの,2年間の研修修了にともなって退会する人が少なくないこともあり,研修医をいかに繋ぎ止めるかが課題となっている。
府医が開催している若手医師のための「臨床研修屋根瓦塾」は,参加した若手医師の中から次の指導医が出てくるという継続性のある事業であり,他の都道府県医でも同様の研修会が行われるなど,日医からも注目される取組みである。他にも,府医には勤務医の先生方を中心とした「医師のワークライフバランス委員会」,「研修サポート委員会」や,「若手医師ワーキンググループ」など,若手医師が能動的に活動できる場がある。
研修医への情報発信として,情報誌「Arzt」の定期発刊に加え,SNS の手法を通じて府医独自の「KMA.com」を稼働させ,様々な研修会や先の臨床研修屋根瓦塾のことを発信するとともに,研修医同士の情報交換の場となり,また「KMA.com」を通じて医師会への入会手続きが簡単にできる仕組みとしている。まだ十分にその機能を発揮できているとは言えないが,今後,「KMA.com」の内容の充実化を図っていきたい。
会員数の増加,組織率の向上は,医療政策,医政活動の強化にも繋がると考えている。会員の先生方の声を日医に届けるのは日医代議員であり,京都の日医代議員数は現在7名である。その数は都道府県医ごとの会員数から算出されるため,会員数が多いほど代議員数が多くなる。日医が公開した令和5年度都道府県別入会率によると,京都府内の医師数は令和元年の8,847人から令和5年の9,067人に増えているものの,令和5年の日医会員数は3,222人,組織率は35.5%で全国平均の51%を大きく下回っている。府医会員の先生方の意見を確実に日医届け,京都の発言力を増強するためにも,この代議員数を増やすことが肝要である。京都府内の日医会員数を増やすために,新規入会希望者には府医会員および日医会員になるよう地区からも説明をお願いしたい。
最後に,「医師会に対する意識が高い会員の増加」について,「意識が高い」とは医師会に大いに関心を持つということ,また,別の視点からは地域医療に対する意識の高い医師であると考えられる。新専門医制度が導入されてから,卒後教育は専門医を養成することが目標とされ,その結果として,総合医の育成が疎かになっていることが否めず,このことが地域医療に目を向ける若い世代の医師の減少に繋がる要因になっていると考えている。地域医療の推進のためには,地域医療を支える医師が増えなければならず,そのためにも,医師になる前の医学教育の段階で,地域医療の重要性について教育の中に十分に取り入れ,さらに卒後教育での総合医養成にも重きを置く体制づくりが必要である。このような取組みについて,日医あるいは厚労省に向けて発信し,これによって地域医療に対する意識の高い医師を増やすことに繋がるものと考える。
将来の医師会が堅固であるためにも,多くの若い世代の医師が医師会に入会し,彼らにバトンを手渡していかなければならない。
決議
財務省は医師の地域偏在対策の手段として「地域別診療報酬」の設定を求めている。仮に医師多数区域の報酬単価を下げ,患者の自己負担に格差が生じれば,隣接する医療圏間では安価な方へ患者の受療行動を促すのみで,少数区域の医療機関に経営上打撃を与え,地域偏在対策に寄与しないことは,火を見るより明らかである。
また,医師の分布は,各地域の人口に応じて現在の形に落ち着いたものであるにもかかわらず,偏在の責任を医師のみに負わせ,強制的な手法を用いることは極めて問題である。少数区域への強制配置や新規開業規制により,次世代の医療を担う医師の自由を奪うことは決して認められない。
今改定前に「診療所の報酬単価を5.5%程度引き下げるべき」と主張した根拠を,サンプル抽出による「医療経済実態調査」ではなく,「機動的調査」の結果としている。しかし,医療法人のみが各都道府県に届け出る「事業報告書」をもって機動的な調査とし,診療所の経常利益率が他産業より上回っていると決めつけていることに対しては,精緻な検証が必要であり,次期改定に用いることは不合理極まりない。
これまでも「かかりつけ医の制度化・登録制」や「診療所の診療報酬の大幅な引き下げ」など,財務省の思考の根底には,「医療費抑制政策」が脈々と流れている。「歳出の目安」を継続することは政府の経済対策に逆行する考え方に他ならず,「医療費抑制」を主眼においた政策が,今後の医療提供体制の崩壊に繋がることは明白で,決して看過できない。
今後も我が国の医療提供体制を維持・推進していくために,以下を強く主張する。
記
一 医療現場に多大な混乱を引き起こす,地域別診療報酬を設定することは断じて容認できない。
一 次世代を担う医師の自由を奪うことになる強制的な偏在対策は断じて容認できない。
一 医療提供体制の崩壊に繋がる財務省の医療費抑制政策は断じて容認できない。
2024年6月15日
京都府医師会 第 212 回定時代議員会