2024年7月15日号
政府は6月21 日,「経済財政運営と改革の基本方針2024」(いわゆる骨太の方針)と「規制改革実施計画」をあわせて閣議決定した。
社会保障関係費を高齢化による増加分に相当する伸びに収める「歳出の目安」は,2025年~27年度の予算編成にあたっても継続されるものの,自民党国会議員等からの要望を踏まえて,原案では注釈扱いだった「経済・物価動向等に配慮しながら,各年度の予算編成過程において検討する」という文言が本文中に盛り込まれたことから,次回診療報酬改定時に一定の効力があるものと受け止めている。
個別分野に関しては,医療DXやかかりつけ医機能が発揮される制度の推進,医師の地域間,診療科間,病院・診療所間の偏在是正,2027年度以降の医学部定員の適正化のほか,医療機関の経営状況の見える化の推進,費用対効果評価の更なる活用,セルフケア・セルフメディケーションの推進,薬剤自己負担の見直しなどが網羅的に記載されている。国民皆保険の持続可能性と安定供給の確保,イノベーションの推進の観点から注目されていた薬価の中間年改定については,製薬業界などから廃止を明記するよう求める声も出されていたが,「あり方について検討する」という文言にとどまった。
また,医師等の偏在対策に関する記述では,医師養成課程での地域枠の活用,大学病院からの医師の派遣,総合的な診療能力を有する医師の育成とともに「経済的インセンティブによる偏在是正」と「医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法」が明記されたものの,財務省の財政制度等審議会が提案していた地域別診療報酬や新規開業規制の導入は盛り込まれなかった。しかしながら,偏在対策の「総合的な対策パッケージを2024年末までに策定する」と記載され,厚労大臣も是正に向けて前例にとらわれない対策の検討を行う姿勢を見せており,予断を許さない状況は続くと思われる。
府医では,これまでも物価高騰の中での診療報酬本体のマイナス改定やかかりつけ医の制度化など財務省の医療費の削減のみを目的とした暴論には,代議員会の決議や近医連の会議などで問題視し,日医を筆頭に医療界が一致団結して阻止してきた。
財務省は,医師の地域偏在対策を理由に地域別診療報酬の導入を提案しているが,診療所過剰地域の1点単価の引下げは都市部の医療費を削減することのみが目的であることは明らかであり,強く反対を主張していく。
さらに,国による強制的な手法は絶対容認できず,今後の議論の状況を注視するとともに,日医に意見を具申し,国の審議会等での発言を後押していく。
経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針)と規制改革実施計画の概要は次頁のとおり。
なお,5月下旬に財務省の財政制度等審議会がまとめた「春の建議」では,診療所の報酬単価の引下げなど医療費の削減を主眼に置いた提言を行っており,松本日医会長が強く反論している。
建議では,日本の医療保険制度の特徴である「国民皆保険」,「フリーアクセス」,「自由開業医制」,「出来高払い」は過剰な医療提供を招きやすい構造だと指摘し,公定価格の適正化,医師偏在対策,保険給付範囲の見直しなどの医療制度改革を確実に実施することを求めている。さらに,医師の偏在は,自由開業医制の下で生じている根深い課題だと決めつけ,経済的インセンティブ(診療所の報酬適正化,地域別診療報酬による診療所過剰地域の単価の引下げ)と規制的手法(開業規制の導入)の双方を活用した強力な対策を講じる必要性を主張した。
これを受けて,松本日医会長は,人件費や物価が高い都市部の単価を下げることは机上の空論であり,決して容認できないと即座に反論した。さらに,偏在是正には複合的に対応することが必要で,不足地域の実情の把握とともに,国による必要な財政支援等を求めた。「歳出の目安」を継続する方針に対しても「デフレ下の遺物」と糾弾し,インフレ下ではシーリングに制約される考え方を改めるべきと語気を強めた。
◇ 経済財政運営と改革の基本方針2024
~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~(抜粋)
第2章 社会課題への対応を通じた持続的な経済成長の実現
~賃上げの定着と戦略的な投資による所得と生産性の向上~
3.投資の拡大及び革新技術の社会実装による社会課題への対応
(医療・介護・こどもDX)
医療・介護の担い手を確保し,より質の高い効率的な医療・介護を提供する体制を構築するとともに,医療データを活用し,医療のイノベーションを促進するため,必要な支援を行いつつ,政府を挙げて医療・介護DXを確実かつ着実に推進する。このため,マイナ保険証の利用の促進を図るとともに現行の健康保険証について2024年12月2日からの発行を終了し,マイナ保険証を基本とする仕組みに移行する。「医療DXの推進に関する工程表」31に基づき,「全国医療情報プラットフォーム」を構築するほか,電子カルテの導入や電子カルテ情報の標準化,診療報酬改定 DX,PHR の整備・普及を強力に進める。調剤録等の薬局情報の DX・標準化の検討を進める。また,次の感染症危機に備え,予防接種事務のデジタル化による効率化を図るとともに,ワクチン副反応疑い報告の電子報告を促し,予防接種データベースを整備する等,更なるデジタル化を進める。当該プラットフォームで共有される情報を新しい医療技術の開発や創薬等のために二次利用する環境整備,医療介護の公的データベースのデータ利活用を促進するとともに,研究者,企業等が質の高いデータを安全かつ効率的に利活用できる基盤を構築する。医療DXに関連するシステム開発,運用主体として,社会保険診療報酬支払基金について,国が責任を持ってガバナンスを発揮できる仕組みを確保するとともに,情報通信技術の進歩に応じて,迅速かつ柔軟な意思決定が可能となる組織へと抜本的に改組し,必要な体制整備や医療費適正化の取組強化を図るほか,医療・介護DXを推進し,医療の効果的・効率的な提供を進めるための必要な法整備を行う。また,AIホスピタルの社会実装を推進するとともに,医療機関等におけるサイバーセキュリティ対策を着実に実施する。電子処方箋について,更なる全国的な普及拡大を図る。あわせて,子育て支援分野においても,保育業務や保活,母子保健等におけるこども政策DXを推進する。また,これらの DX の推進については,施策の実態に関するデータを把握し,その効果測定を推進する。
31 令和5年6月2日医療DX 推進本部決定。
第3章 中長期的に持続可能な経済社会の実現~「経済・財政新生計画」~
2.中期的な経済財政の枠組み
(新たな枠組みと基本的考え方)
本計画の対象期間は,人口減少が本格化する2030 年度までの6年間とし,引き続き経済・財政一体改革を推進する。
経済あっての財政との考え方の下,生産性向上,労働参加拡大,出生率の向上を通じて潜在成長率を高める。需給両面での成長を支えるため,官民挙げて積極果敢な国内投資を行い,企業部門の投資超過へのシフトを促す。また,意欲のある誰もが自由で柔軟に活躍できる社会を構築する中で,2%の物価安定目標の持続的・安定的な実現の下,家計の可処分所得が継続的に増加し,潜在的な支出ニーズが顕在化する「成長と分配の好循環」と,希望あふれるWell-being の高い社会の実現を図る。経済・財政・社会保障を一体として相互に連携させながら改革を進め,経済社会の持続可能性を確保していく。
経済再生と財政健全化の両立を図るため,以下の基本的考え方に沿って,潜在成長率の引上げと社会課題の解決に重点を置き,中長期的な視点を重視した経済財政運営に取り組む。
(財政健全化目標と予算編成の基本的考え方)
財政健全化の「旗」を下ろさず,これまでの目標に取り組むとともに,今後の金利のある世界において,国際金融市場の動向にも留意しつつ,将来の経済・財政・社会保障の持続可能性確保へとつながるようその基調を確かなものとしていく。そのため,2025 年度の国・地方を合わせたPB黒字化を目指すとともに,計画期間を通じ,その取組の進捗・成果を後戻りさせることなく,債務残高対GDP 比の安定的な引下げを目指し,経済再生と財政健全化を両立させる歩みを更に前進させる。
経済あっての財政であり,現行の目標年度を含むこれらの目標により,状況に応じたマクロ経済政策の選択肢が歪められてはならない。必要な政策対応と財政健全化目標に取り組むことは決して矛盾するものではない。経済を成長させ,そして財政健全化に向けて取り組んでいく。ただし,内外の経済情勢等を常に注視していく必要がある。このため,状況に応じて必要な検証を行っていく。
予算編成においては,2025 年度から2027 年度までの3年間について,上記の基本的考え方の下,これまでの歳出改革努力を継続181 する。その具体的な内容については,日本経済が新たなステージに入りつつある中で,経済・物価動向等に配慮しながら,各年度の予算編成過程において検討する。ただし,重要な政策の選択肢をせばめることがあってはならない。機動的なマクロ経済運営を行いつつ潜在成長率の引上げに取り組む。
181 2013 年度以降歳出改革を継続しており,「経済財政運営と改革の基本方針2021」(令和3年6月18 日閣議決定)に基づく2022 年度から2024 年度までの3年間の歳出改革努力を継続。多年度にわたり計画的に拡充する防衛力強化とこども・子育て政策については,それぞれ2027 年度まで又は2028 年度まで歳出改革を財源に充てることとされている。なお,社会保障制度に係る歳出改革については,「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」(令和5年12月22 日閣議決定。以下「改革工程」という。)に基づく取組を進めることとされている。
(税制改革)
デフレからの完全脱却と経済の新たなステージへの移行を実現するとの基本的考え方の下,経済成長と財政健全化の両立を図るとともに,少子高齢化,グローバル化等の経済社会の構造変化に対応したあるべき税制の具体化に向け,包括的な検討を進める。
骨太方針2023182 等も踏まえ,応能負担を通じた再分配機能の向上・格差の固定化防止を図りつつ,公平かつ多様な働き方等に中立的で,デジタル社会にふさわしい税制を構築し,経済成長を阻害しない安定的な税収基盤を確保するため,EBPM の取組を着実に強化しながら,税体系全般の見直しを推進する。納税環境の整備と適正・公平な課税の実現の観点から制度及び執行体制の両面からの取組を強化するとともに,新たな国際課税ルールへの対応を進める。
182 「経済財政運営と改革の基本方針2023」(令和5年6月16 日閣議決定)。
(経済・財政一体改革の点検・評価)
改革の着実な推進に向け,本基本方針,改革工程,その他各分野における取組を踏まえ,本年末までにEBPM の強化策及び経済・財政一体改革の工程を具体化するとともに,毎年改革の進捗管理・点検・評価を行う。また,経済財政諮問会議において,成長と分配の好循環実現に関するKPI等の進捗確認を含め,半年ごとの中長期試算公表時における随時の検証及びおおむね3年を目途とする包括的な検証183 を行い,必要となる政策対応等に結び付ける。
183 長期推計についても,政策立案に資するよう,必要となる対応を行う。
3.主要分野ごとの基本方針と重要課題
(1)全世代型社会保障の構築
少子高齢化・人口減少を克服し,「国民が豊かさと幸せを実感できる持続可能な経済社会」を目指すためには,国民の将来不安を払拭し「成長と分配の好循環」の基盤となる改革を進めるとともに,長期推計を踏まえ,中長期的な社会の構造変化に耐え得る強靱で持続可能な社会保障システムを確立する必要がある。このため,中長期的な時間軸も視野に入れ,医療・介護DX やICT,ロボットなど先進技術・データの徹底活用やタスクシフト/シェアや全世代型リ・スキリングの推進等による「生産性の向上」,女性・高齢者など誰もが意欲に応じて活躍できる「生涯活躍社会の実現」,「こども未来戦略」184 の効果的な実践による「少子化への対応」など関連する政策総動員で対応する。
また,現役世代の消費活性化による成長と分配の好循環を実現していくためには,医療・介護等の不断の改革により,ワイズスペンディングを徹底し,保険料負担の上昇を抑制することが極めて重要である。このため,持続可能な社会保障制度の構築に向け,能力に応じ全世代が支え合う「全世代型社会保障」構築を目指し,経済・財政一体改革におけるこれまでの議論も踏まえて策定された改革工程に基づき,その定める「時間軸」に沿った改革を次に掲げるとおり着実に推進する。その際,全世代型社会保障の将来的な姿について,国民に分かりやすく情報提供する。
184 令和5年12 月22 日閣議決定。
(医療・介護サービスの提供体制等)
高齢者人口の更なる増加と人口減少に対応するため,限りある資源を有効に活用しながら,質の高い効率的な医療・介護サービスの提供体制を確保するとともに,医療・介護DX の政府を挙げての強力な推進,ロボット・デジタル技術やICT・オンライン診療の活用,タスクシフト/シェア,医療の機能分化と連携など地域の実情に応じ,多様な政策を連携させる必要がある。
国民目線に立ったかかりつけ医機能が発揮される制度整備,地域医療連携推進法人・社会福祉連携推進法人の活用,救急医療体制の確保,持続可能なドクターヘリ運航の推進や,居住地によらず安全に分べんできる周産期医療の確保,都道府県のガバナンスの強化185 を図る。地域医療構想について,2025 年に向けて国がアウトリーチの伴走支援に取り組む。また,2040 年頃を見据えて,医療・介護の複合ニーズを抱える85 歳以上人口の増大や現役世代の減少等に対応できるよう,地域医療構想の対象範囲について,かかりつけ医機能や在宅医療,医療・介護連携,人材確保等を含めた地域の医療提供体制全体に拡大するとともに,病床機能の分化・連携に加えて,医療機関機能の明確化,都道府県の責務・権限や市町村の役割,財政支援の在り方等について,法制上の措置を含めて検討を行い,2024 年末までに結論を得る。
医師の地域間,診療科間,病院・診療所間の偏在の是正を図るため,医師確保計画を深化させるとともに,医師養成過程での地域枠の活用,大学病院からの医師の派遣,総合的な診療能力を有する医師の育成,リカレント教育の実施等の必要な人材を確保するための取組,経済的インセンティブによる偏在是正,医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大等の規制的手法を組み合わせた取組の実施など,総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する。あわせて,2026年度の医学部定員の上限については2024年度の医学部定員を超えない範囲で設定するとともに,今後の医師の需給状況を踏まえつつ,2027年度以降の医学部定員の適正化の検討を速やかに行う。
人口減少による介護従事者不足が見込まれる中で,医療機関との連携強化,介護サービス事業者のテクノロジーの活用や協働化・大規模化,医療機関を含め保有資産を含む財務情報や職種別の給与に係る情報などの経営状況の見える化を推進した上で,処遇の改善や業務負担軽減・職場環境改善が適切に図られるよう取り組む。また,必要な介護サービスを確保するため,外国人介護人材を含めた人材確保対策を進めるとともに,地域軸,時間軸も踏まえつつ,中長期的な介護サービス提供体制を確保するビジョンの在り方について検討する。
このほか,がん対策,循環器病対策,難聴対策186,難病対策,移植医療対策187,慢性腎臓病対策,アレルギー対策188,依存症対策189,栄養対策,睡眠対策,COPD対策等の推進や,予防接種法190に基づくワクチン接種を始めとした肺炎等の感染症対策の推進を図るとともに,更年期障害や骨粗しょう症等に対する女性の健康支援の総合対策の推進を図る。また,全身の健康と口腔の健康に関する科学的根拠の活用と国民への適切な情報提供,生涯を通じた歯科健診(いわゆる国民皆歯科健診)に向けた具体的な取組の推進,オーラルフレイル対策・疾病の重症化予防につながる歯科専門職による口腔健康管理の充実,歯科医療機関・医歯薬連携を始めとする多職種間の連携,歯科衛生士・歯科技工士等の人材確保の必要性を踏まえた対応,歯科領域におけるICTの活用の推進,各分野等における歯科医師の適切な配置の推進により,歯科保健医療提供体制の構築と強化に取り組むとともに,有効性・安全性が認められた新技術・新材料の保険導入を推進する。また,ICTや特定行為研修の活用等による訪問看護や看護師確保対策の促進,在宅サービスの多機能化等による在宅医療介護の推進に取り組む。また,自立支援・社会復帰に資するリハビリテーションを推進する。
185 改革工程において,現在広域連合による事務処理が行われている後期高齢者医療制度の在り方,生活保護受給者の国保及び後期高齢者医療制度への加入を含めた医療扶助の在り方の検討を深めることなどが記載されている。
186 高齢者自身が聞こえづらい状況であることに早期に気付くきっかけ作りや聴覚補助機器の体験促進を含む。
187 臓器提供数の増加を踏まえた移植のための医療提供体制の構築を含む。
188 アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎等を含む。)医療の均てん化の促進等を含む。
189 調査研究の推進等を含む。
190 昭和23 年法律第68 号。
(医療・介護保険等の改革)
給付と負担のバランスや現役世代の負担上昇の抑制を図りつつ,関連法案の提出も含め,各種医療保険制度における総合的な検討191を進める。こうした改革を進めるに当たっては,審査支払機関による医療費適正化の取組強化,多剤重複投薬や重複検査等の適正化に向けた実効性ある仕組みの整備を図り,国民健康保険制度については,都道府県内の保険料水準の統一を徹底するとともに,保険者機能の強化等を進めるための取組を進め,人口動態や適用拡大による加入者の変化等を踏まえ,医療費適正化や都道府県のガバナンス強化等にも資するよう,調整交付金や保険者努力支援制度その他の財政支援の在り方について検討を行う。また,国際比較可能な保健医療支出統計の整備を推進する192。
介護保険制度について,利用者負担が2割となる「一定以上所得」の判断基準の見直し,ケアマネジメントに関する給付の在り方,軽度者への生活援助サービス等に関する給付の在り方については,第10期介護保険事業計画期間の開始の前までに検討を行い,結論を得る。あわせて,高齢者向け住宅の入居者に対する過剰な介護サービス提供(いわゆる「囲い込み」)の問題や,医療・介護の人材確保に関し,就職・離職を繰り返す等の不適切な人材紹介に対する紹介手数料の負担の問題などについて,報酬体系の見直しや規制強化,公的な職業紹介の機能の強化の更なる検討を含め,実効性ある対策を講ずる。また,深刻化するビジネスケアラーへの対応も念頭に,介護保険外サービスの利用促進のため,自治体における柔軟な運用,適切なサービス選択や信頼性向上に向けた環境整備を図る。
191 改革工程に基づくほか,骨太方針2018 において「保険給付率(保険料・公費負担)と患者負担率のバランス等を定期的に見える化しつつ,」「保険料・公費負担,患者負担について総合的な対応を検討する」こととされている。
192 OECD のSHA 手法に基づくデータの政府統計化に向けた検討を含む。
(予防・重症化予防・健康づくりの推進)
健康寿命を延伸し,生涯活躍社会を実現するため,減塩等の推進における民間企業との連携,望まない受動喫煙対策を推進するとともに,がん検診の受診率の向上にも資するよう,第3期データヘルス計画に基づき保険者と事業主の連携(コラボヘルス)の深化を図り,また,予防・重症化予防・健康づくりに関する大規模実証研究事業の活用などにより保健事業やヘルスケアサービスの創出を推進し,得られたエビデンスの社会実装に向けたAMED の機能強化を行う。元気な高齢者の増加と要介護認定率の低下に向け,総合事業の充実により,地域の多様な主体による柔軟なサービス提供を通じた効果的な介護予防に向けた取組を推進するとともに,エビデンスに基づく科学的介護を推進し,医療と介護の間で適切なケアサイクルの確立を図る。また,ウェアラブルデバイスに記録されるライフログデータ(睡眠・歩数等)を含むPHR について,医療や介護との連携も視野に活用を図るとともに,民間団体による健康づくりサービスの「質の見える化」を推進する。
(創薬力の強化等ヘルスケアの推進)
創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるため,構想会議中間取りまとめ193を踏まえ,革新的医薬品候補のFIH試験194を実施できる国際競争力ある臨床試験体制の整備,臨床研究中核病院の承認要件の見直し,治験薬・バイオ医薬品の製造体制の整備や人材の育成や確保など有望なシーズを速やかに実用化する国際水準の研究開発環境の実現に取り組む。医療機関や企業の研究者による医療データの利活用を推進するため,個人識別性のないゲノムデータに関する個人情報保護法上の解釈の明確化等を図る。また,官民協議会による外資系企業・VC の呼び込み等を通じアカデミアから産業界にわたる多様なプレイヤーをつなぎ,アーリーステージを含む各ステージに新たな研究開発資金が投じられるよう,その推進体制の整備も含め創薬エコシステムの再編成を図るとともに,大学病院等の研究開発力の向上に向けた環境整備やAMEDの研究開発支援を通じて研究基盤を強化することで創薬力の抜本的強化を図る。イノベーションの進展を踏まえた医療や医薬品を早期に活用できるよう民間保険の活用も含めた保険外併用療養費制度の在り方の検討を進める。ドラッグロス等への対応やプログラム医療機器の実用化促進に向けた薬事上の措置を検討し,2024年末までに結論を得るとともに,承認審査・相談体制の強化等を推進する。あわせて,PMDA の海外拠点を活用した薬事規制調和の推進等に取り組む。引き続き迅速な保険収載の運用を維持した上で,イノベーションの推進や現役世代等の保険料負担に配慮する観点から,費用対効果評価の更なる活用の在り方について,医薬品の革新性の適切な評価も含め,検討する。また,休薬・減薬を含む効果的・効率的な治療に関する調査・研究を推進し,診療のガイドラインにも反映していく。足下の医薬品の供給不安解消に取り組むとともに,医薬品の安定的な供給を基本としつつ,後発医薬品業界の理想的な姿を見据え,業界再編も視野に入れた構造改革を促進し,安定供給に係る法的枠組みを整備する。バイオシミラーの使用等を促進するほか,更なるスイッチ OTC 化の推進等195によりセルフケア・セルフメディケーションを推進196しつつ,薬剤自己負担の見直し197について引き続き検討を進める。特定重要物資である抗菌薬について,国内製造の原薬が継続的に用いられる環境整備のための枠組みや一定の国内流通量を確保する方策について検討し,2024年度中に結論を得る。また,新規抗菌薬開発に対する市場インセンティブや,新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業などにより産学官が連携して薬剤耐性菌の治療薬を確実に確保するとともに,抗菌薬研究開発支援に関する国際連携を推進する。2025年度薬価改定に関しては,イノベーションの推進,安定供給確保の必要性,物価上昇など取り巻く環境の変化を踏まえ,国民皆保険の持続可能性を考慮しながら,その在り方について検討する。このほか,MEDISO198の機能強化,CARISO(仮称)199の整備など医療介護分野のヘルスケアスタートアップの振興・支援の強力な推進,2025年度の事業実施組織の設立に向けた全ゲノム解析等に係る計画200の推進を通じた情報基盤201の整備や患者への還元等の解析結果の利活用に係る体制整備,創薬AIプラットフォーム202の整備,医療機器を含むヘルスケア産業,iPS細胞を活用した創薬や再生医療等の研究開発の推進及び同分野に係る産業振興拠点の整備や医療安全の更なる向上・病院等の事務効率化に資する医薬品・医療機器等の製品データベースの構築等を推進する。また,ヘルスケア分野について,HX(ヘルスケア・トランスフォーメーション)推進や投資拡大に向け,規制改革を含む政策対応を行う。仮名加工医療情報を用いた研究開発を推進するため,次世代医療基盤法203の利活用を進める。リフィル処方について,活用推進に向けて,阻害要因を精査し,保険者からの個別周知等による認知度向上を始め機運醸成に取り組む。小中学校段階での献血推進活動など献血への理解を深めるとともに,輸血用血液製剤及びグロブリン製剤,フィブリノゲン製剤等血しょう分画製剤の国内自給,安定的な確保及び適正な使用の推進を図る。医療用ラジオアイソトープについて,国産化に必要な体制204を整備するなど,アクションプラン205に基づく取組を推進するとともに,アクションプランの改定に向けた議論206を行う。
193 「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議中間とりまとめ」(令和6年5月22 日)。
194 医薬品開発における最初に人間に投与する試験。
195 検査薬についての在り方の議論を含む。
196 この取組は,国民自らの予防・健康意識の向上,タスクシフト/シェアの取組とともに医師の負担軽減にも資する。
197 改革工程において,「薬剤定額一部負担」,「薬剤の種類に応じた自己負担の設定」及び「市販品類似の医薬品の保険給付の在り方の見直し」が記載されている。
198 医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDical Innovation Support Office)。
199 介護分野におけるMEDISO と同様の相談窓口(CARe Innovation Support Office)。
200 「全ゲノム解析等実行計画2022」(令和4年9月30 日厚生労働省)。
201 マルチオミックス(網羅的な生体分子についての情報)解析の結果と臨床情報を含む。
202 複数の創薬AI(リガンド(がん細胞を認識する抗体等)の情報を含む。)を開発し,それらを統合するプラットフォーム。
203 医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報及び仮名加工医療情報に関する法律(平成29 年法律第28 号)。
204 国立研究開発法人国立がん研究センターにおける試験体制を含む。
205 「医療用等ラジオアイソトープ製造・利用推進アクションプラン」(令和4年5月31 日原子力委員会決定)。
206 必要な資源確保のための取組を含む。
(働き方に中立的な年金制度の構築等)
公的年金については,働き方に中立的な年金制度の構築等を目指して,今夏の財政検証の結果を踏まえ,2024 年末までに制度改正についての道筋を付ける。勤労者皆保険の実現のため,企業規模要件の撤廃を始め短時間労働者への被用者保険の適用拡大の徹底,常時5人以上を使用する個人事業所の非適用業種の解消等について結論を得るとともに,いわゆる「年収の壁」を意識せずに働くことができるよう,「年収の壁・支援強化パッケージ」の活用促進と併せて,制度の見直しに取り組む。
(社会保障・少子化をめぐる中長期課題への対応)
都市・地方など地域ごとの社会環境の相違を意識しつつ,具体的なコミュニティをフィールドに,健康医療,こども子育て支援分野において,「未来志向型モデルプロジェクト」(仮称)を実践し,縦割りを越えた政策連携の下,アジャイル型により先進技術・データを実装しながら政策の実証を行う。その際,全世代型健康診断によるプロアクティブケアの推進,ウェアラブル端末などの活用による健康データの利活用などの視点も踏まえた未来型健康医療モデル,地域の実情に応じた官民連携の実効性ある少子化対策・こども子育て支援実装モデルの実証とともに,既存の事業の効果的な活用等といった観点からの対応の検討など分野横断的かつ包括的で地域の実情に応じた効果ある支援を行う。
また,健康寿命の延伸や女性・高齢者等の高い就労意欲を踏まえ,更なる健康へのインセンティブ,働き方に中立な社会保障制度の確立や働き方改革などを一体的に推進する政策パッケージを取りまとめるなどにより,年齢・性別にかかわらず生涯活躍できる環境整備を推進する。
長期推計や経済・財政一体改革の点検・検証結果を踏まえ,人口減少や少子高齢化による長期的な影響を見据え,中長期的な社会保障システムの安定化と安心の確保を図る構造改革の在り方についての研究を行う。なお,その際,公正・公平の観点や持続可能性の観点,社会保障制度による所得再分配等を通じた安定的な需要創出や格差是正効果,ヘルスケア等の産業政策や地域経済への影響等を考慮することとする。
第4章 当面の経済財政運営と令和7年度予算編成に向けた考え方
1.当面の経済財政運営について
現状では,物価上昇が賃金上昇を上回る中で,消費は力強さを欠いているものの,今後は,景気の緩やかな回復が続く中で,賃金上昇が物価上昇を上回っていくことが期待される。海外経済の下振れによるリスクや円安等に伴う輸入物価の上昇の影響には留意する必要がある。
経済財政運営に当たっては,まずは,春季労使交渉による賃上げの流れを中小企業・小規模事業者,地方等でも実現し,医療・介護など,公的価格に基づく賃金の引上げ,最低賃金の引上げを実行する。その上で,定額減税により,家計所得の伸びが物価上昇を上回る状況を確実に作り出す。あわせて,来年以降に物価上昇を上回る賃金上昇が定着することを目指し,持続的・構造的な賃上げの実現に向けた三位一体の労働市場改革,生産性向上に向けた国内投資の拡大等を通じて,潜在成長率の引上げに取り組む。
このため,「デフレ完全脱却のための総合経済対策」237 及びそれを具体化する令和5年度補正予算並びに令和6年度予算及び関連する施策を迅速かつ着実に執行する。
日本銀行には,経済・物価・金融情勢に応じて適切な金融政策運営を行うことにより,賃金と物価の好循環を確認しつつ,2%の物価安定目標を持続的・安定的に実現することを期待する。
237 令和5年11 月2日閣議決定。
2.令和7年度予算編成に向けた考え方
◇規制改革実施計画(抜粋)
(6)健康・医療・介護
(ⅰ)デジタルヘルスの推進
(ⅲ)医療・介護等分野における基盤整備・強化