令和6年能登半島地震「JMAT 京都」活動報告

 令和6年1月1日16時10分頃,石川県能登地方で発生した最大震度7の地震により大きな被害が生じたことを受け,日医では直ちに災害対策本部(本部長:松本吉郎日医会長)が設置されるとともに,石川県医師会からの要請を受けて,1月5日に各都道府県医に対して日医災害医療チーム(JMAT)の派遣が要請されました。
 この要請を受け,府医では同日に災害対策会議を開催し,今後の対応等について検討を行いました。松井府医会長を先頭に,その後も災害対策会議を適宜開催し,日医や被災地医師会,京都府等行政とも連携して情報収集に努め,長期的な支援対応に向けた体制を構築するとともに,「JMAT京都」の派遣については,出務いただく医師等の移動手段や宿泊環境等の安全確保を第一に,現地の道路状況や受入れ体制等を踏まえ,適切な時期に派遣できるよう準備を進めてまいりました。

 1月17日から21日までの間,「JMAT 京都」の派遣に向けた現地での情報収集のため,府医事務局1名が交替でロジ(事務・調整員)として現地入りし,石川県庁内に置かれた石川県 JMAT調整本部において,全国から集まった JMAT 等医療チームの活動をコーディネートする調整業務の支援にあたりました。
 能登北部は被害が大きく,厳しい状況が続いているのに対し,能登中部はインフラ被害も軽度で,地域の医療機関の復旧も進んでいる状況にあり,南部においては,地震による被害はほとんどなくインフラが完備していることから,北部からの避難者を受け入れる避難所が金沢市以南の各市町に点在しており,地域によっては地元医師会等,地域の医療機関だけでカバーすることが難しい状況にありました。

JMAT 金沢以南避難所調整支部会議の様子

 こういった状況を踏まえ,日医は,被災地域の道路状況等を考慮し,JMAT を「重装」,「標準」,「軽装」の3つに区分けし,「重装 JMAT」は能登北部の輪島市,能登町,珠洲市,穴水町,「標準 JMAT」は主に能登中部(七尾市,志賀町ほか),「軽装 JMAT」は金沢市以南を担当する方針を示しました。

 府医では,「軽装 JMAT」として「JMAT 京都」の派遣が可能と判断し,医師,看護師,薬剤師,ロジの4名を1チームとして派遣を決定。第1陣が1月28日(月)から2泊3日の路程で,主に金沢市以南の1.5次・2次避難所において活動を開始しました。順次チームを派遣しておりましたが,金沢市以南地域には全国から多くの JMAT 隊が派遣されており,京都 JMAT としては第5陣の2月7日をもって,活動を一旦休止といたしました。この間,ご協力いただきました先生方,関係各所に感謝申し上げます。
 今後,石川県北部の医療ニーズと宿泊先や道路などインフラ状況を見極めながら,再派遣を検討いたしますので,引続き,ご理解・ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

引継ぎの様子

【「JMAT 京都」の活動スケジュール】

<1日目>
 7:00 府医会館を出発
 11:30 石川県に到着後,前チームと合流し,引継ぎ
 13:00 担当する派遣地域へ移動し,避難所等で活動
 17:00 活動終了→石川県 JMAT 調整本部へ移動
 17:30 金沢以南避難所調整会議→終了後,宿泊先ホテルへ帰還
<2日目>
 8:00 ホテル出発
 8:30 金沢以南避難所調整支部会議
 9:00 担当地域の避難所等で活動
 17:00 活動終了→石川県 JMAT 調整本部へ移動
 17:30 金沢以南避難所調整会議→終了後,宿泊ホテルへ帰還
<3日目>
 8:00 ホテル出発
 8:30 金沢以南避難所調整支部会議
 9:00 担当地域の避難所等で活動
 11:30 到着した次のチームと合流し,引継ぎ
 14:00 石川県を出発,京都へ帰還
 18:30 府医会館到着→活動報告後,解散

<第1陣(1/28~30)>

医 師 武田 貞子(康生会クリニック・下京西部/京都府医師会理事)
看護師 大木 麻衣(京都九条病院)
薬剤師 河上 雅彦(かわかみ薬局金閣寺店)
ロ ジ 萩永 貴之(京都府医師会事務局 次長)

第1陣

〇1月28日(日)
 朝7時に府医会館を出発。11時すぎに石川県JMAT 調整本部に到着し,「JMAT 京都」としてチェックイン。ブリーフィングのあと,割り当てられた活動場所へ向かった。
 担当したのは金沢市の南に位置する白山市の避難所2カ所であった。いずれの避難所でも地元医師会,病院,介護施設,行政の保健師などの多職種がしっかりと連携しており,コロナの感染もあったが,隔離も行われており,適切な避難所の運営がなされていた。

〇1月29日(月)
 午前8時30分から開始される金沢以南避難所調整支部会議で昨日と同じく白山市担当となり,大阪府医と分担して巡回先を決定した。避難所には1日あるいは2・3日おきに巡回し,必要に応じて診察という形で,避難者が数名程度という小規模な避難所が多く,「今日は何もありません」とニーズがなく終わることもあったが,3か所巡回した。白山市には中学生が集団避難している避難所もあり,感染症の波が来る可能性を考慮し,DICT(災害時感染防御対策チーム)につなげるよう JMAT 調整本部に要請などを行った。

〇1月30日(火)
 午前中は白山市の避難所2ヶ所を巡回。昨日巡回した避難所では,新たにコロナ感染者が発生していたが,DICT(災害時感染防御対策チーム)から,感染拡大防止のための指導がなされていた。また,その他,溶連菌感染が疑われる患者などについて近隣医療機関の受診を指示した。その後,活動を終了し,石川県庁に戻り,第2陣へ引き継ぎを行った。

<第2陣(1/30~2/1)>

医 師 山本 浩二(山本整形外科・相楽)
看護師 谷口  淨(京丹後市久美浜病院)
薬剤師 照屋  圭(境谷ゆう薬局)
ロ ジ 溝口 哲男(京都府医師会事務局 地域医療1課)

第2陣

〇1月30日(火)
 第1陣からの引継ぎ後,白山市にある避難所を2カ所巡回。数名の診察を行うとともに,感染対策が必要とされる避難所には DICT と地元の医師とともに巡回を行った。

〇1月31日(水)
 野々市市,能美市の避難所を担当。
 能美市では,能美市の保健師と一緒に巡回し,気になる方をピックアップしてもらい健康相談を実施。エコノミークラス症候群予防の体操指導や必要に応じて,医療機関受診を指示した。保健師や地元医師が介入しており,適切に運営されているようであった。
 野々市市では2施設,能美市では4施設巡回した。

〇2月1日(木)
 前日と同様に,能美市の避難所を担当し,2カ所を巡回。両避難所とも,保健師,地元医師会が介入しており,適切に運営されていた。
 その後,石川県庁の調整本部に戻り,第3陣と引き継ぎを行った。

<第3陣(2/1~3)>

医 師 市田 哲郎(市田医院・左京/京都府医師会理事)
看護師 浅草 大將(京都大学医学部附属病院)
薬剤師 諸 美弥子(きはら薬局)
ロ ジ 大上 智彦(京都府医師会事務局 総務課課長)

第3陣

〇2月1日(木)
 石川県庁11階の JMAT 調整本部で第2陣から引継ぎを受けた後,本部からの指示で,1月24日より訪問の履歴がなく,現状不明となっている金沢市内近郊の1.5次避難所のアセスメントを行った。金沢市が運営する体育館やそれに付随する住民向け施設を訪問。避難所は非常にうまく運営されており,想定される健康被害は一定存在するものの,医療的介入が不足している状態ではなかった。
 この後訪問した3施設も同様に,医療が離れるわけにはいかないが,医療が不足しているわけではないという状況であった。

〇2月2日(金)
 午前中は昨日に引続き,金沢市の施設を巡回し,施設の運営や健康上の問題のある方の洗い出しを行った。その後,本日から2次避難所に指定された宿泊施設等への初回訪問を指示され,民泊等の状況把握を実施し,計10か所を巡回した。

〇2月3日(土)
 昨日と同様に金沢市内の2次避難所を5件巡回。
 「新規2次避難施設が170施設,1900名増」とのことで,JMAT 調整本部は対応に追われていたが,この「2次避難所」はいわゆる「避難所」ではなく,ホテル,民泊,ゲストハウス等々を含んでおり,1施設に数十名のところもあれば,1家族,1~2人という施設もあり,受付があるところもあるが,無人でナンバーキーにより施錠されているため,アクセスが困難な場合もあるなど様々であった。
 その後,石川県庁の調整本部に戻り,第4陣と引き継ぎを行った。

<第4陣(2/3~5)>

医 師 藤田 祝子(ふじた医院・下京西部)
看護師 黒瀧安紀子(京都橘大学)
薬剤師 佐藤佳代子(ファルコファーマシーズ)
ロ ジ 溝口 哲男(京都府医師会事務局 地域医療1課)

第4陣

〇2月3日(土)
 午前中に第3陣からの引き継ぎを受け,午後から金沢市内の避難所5施設を巡回し,スクリーニングを行った。
 各避難所では,避難者が精神的不安などで疲れている様子であったが,金沢市内は病院や診療所も機能しており,避難者にも何かあれば近隣の病院等へ連絡するよう指示されているようであった。

〇2月4日(日)
 金沢市の南西に位置する加賀市内の避難所を巡回。
 加賀市の避難所調整の拠点として市職員や保健師が入っており,保健師がピックアップした避難者に対して健康相談を実施。DPAT や JRAT に引き継ぐか等の判断を行った。

〇2月5日(月)
 午前中,野々市市の避難所2カ所を巡回。数名を診察したが,コロナで体調が改善しない患者については入院を要する可能性があり,その手配を行った。
 その後,石川県庁の調整本部に戻り,第5陣と引き継ぎを行った。

<第5陣(2/5~7)>

医 師 波柴 尉充(波柴内科医院・下京東部)
看護師 段林 圭吾(京都九条病院)
薬剤師 本多あずさ(京都市立病院)
ロ ジ 萩永 貴之(京都府医師会事務局 次長)

第5陣

〇2月5日(月)
 第4陣と合流・引き継ぎ後,能美市を巡回。
 金沢以南支部の把握では,能美市には,広域避難所が1施設,2次避難所が5施設,福祉避難所が2施設あり,この日は広域避難所と,2次避難所の3施設を巡回した。
 広域避難所には能美市職員が常駐し,要支援者についても移送サービス等を活用して近隣の医療機関に繋いでいた。今後は能美市に対する定期的な電話確認を行い,必要に応じて訪問することで事足りる状況であった。
 2次避難所の3施設についても医療ニーズはなかった。能美市はインフラが維持されており,地元の医療機関も機能しているため,1.5次・2次避難者は増え続けているが,ニーズは保健師の確保と考える。

〇2月6日(火)
 野々市市,能美市それぞれの避難所を4カ所巡回。
 野々市市の避難所は市職員が常駐し,医師の定期訪問もあるため,問題ない状況であった。
 能美市についても,能美市健康推進課と能美市医師会コーディネーターとで面会した上で,行政側がピックアップした避難者を診察。今後も, JMAT の能美市担当チームは事前に能美市健康推進課と連絡を取り,必要に応じて訪問し医療支援を行うこととなった。

〇2月7日(水)
 野々市市,能美市それぞれの避難所を4カ所巡回。
 数名の診療を行うとともに,近隣医療機関の受診を指示した。
 午後2時に石川県庁 JMAT 調整本部に到着し,活動報告を行い,活動を終える。

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