2024年5月1日号
3月30日(土),令和5年度第39回勤務医部会総会をハイブリッド形式で開催した。
尾池府医理事の司会のもと,冒頭挨拶に立った松井府医会長(勤務医部会長)は,働き方改革の目的は「医師の健康を守ること」,「医療提供体制の維持」であるが,労働時間の短縮のみが強調され,それは患者を診る時間の短縮につながるとした上で,患者を置き去りにすることがないよう改革が進められることを望んでいると述べた。また,持続可能な医療を提供していくために,タスクシフト・タスクシェアなど人から人,人からICTなど,最善の方法を模索していきたいと挨拶があった。
続いて若園幹事長は,目前に迫る働き方改革が実際に臨床現場にどのような影響を与えるかは不透明な部分も多いが,問題点を協議,共有していくことが重要と述べた。
その後,出島副幹事長から,令和5年度勤務医部会の活動について,幹事会での協議内容や,府医への入会促進,京都医学会への演題発表,京都医報「勤務医通信」への投稿などの状況が報告され,「幹事会を中心に種々の問題解決に向け継続的に協議し,府医と連携しながら,必要に応じて行政へ提言していく」とした。
また,若園幹事長から医師の働き方改革について,下記の提言を松井府医会長に手交した。
2024年4月より医師の時間外労働の上限規制が施行されるにあたり,医師の健康と医療提供体制維持の両立に向けて,勤務医部会では協議を重ねてまいりました。全ての勤務医が取り残されることなく持続可能な医療を提供していくために,下記の通り提言いたします。
一, 勤務医がやりがいを持って健康に生き生き働くことができ,医師個人の健全な成長を妨げないようにすること
一, 働き方改革を進めるにあたり,地域の医療に支障を来さないように各種団体や行政などと十分協議すること
一, 働き方改革に伴うタスクシフト・タスクシェアについては,医師以外の職種のやりがいやモチベーションも向上するように進めること
一, 働き方改革が施行された結果,日常の医療が圧迫され,医療崩壊が危惧される場合には各種団体や行政に要望を速やかに伝え協議する場を設けること
一, 必要な医療を安定的に提供できる十分な診療報酬を確保すること
令和6年3月30日
令和5年度(第39回)京都府医師会勤務医部会総会
日本医師会常任理事 城守 国斗 氏
基調講演では,城守国斗日医常任理事が登壇し,医師の働き方改革の制度概要や医療機関に求められる取組み,地域医療への影響等について講演があった。
2024年4月にすべての医療機関に求められる取組みとして,①労働時間の把握,②36協定の締結,③面接指導実施体制の整備が必須であると説明。
労働時間の把握については,副業・兼業を行う場合の労働時間の把握や自己研鑽の取り扱いについて解説した。自己研鑽については,医局内で十分に話し合いを行い,お互いが納得した上でルール作りをし,明文化するプロセスを作ることが重要と強調。また,本年1月15日付の通達で大学附属病院等の勤務医の教育・研究が本来業務として労働時間になる場合があることが示されたことについて,メディアがすべて労働になると報じたため混乱が生じたが,従来の解釈を変更するものではないと解説した。
面接指導の実施体制については,都道府県が実施する立入調査の際に必ず確認される事項と前置きし,従来の安衛法における面接指導とは別枠で,改正医療法では時間外・休日労働時間が月100時間以上となる見込みの医師には,厚労省の研修を受けた面接指導実施医師による面接指導が義務となると説明し,体制整備を促した。
制度概要の締めくくりにあたって,医師の健康を確保していくためにあらゆる制度が動き出すが,最も有用なことは同僚の目であり,医局内の声や情報などが適切に管理側に伝わることが,過労による健康被害等を避ける上で重要であると述べた。
後半には,評価センターへの受審状況や医師の働き方改革と地域医療への影響に関する日医調査の結果を提示。
評価センターへの受審状況については,病院規模別の水準の分布などを示した上で,制度施行後にA水準からB・C水準に移行する必要があると判断された場合には,速やかに評価受審をしていただきたいと助言した。
また日医調査では,医師の派遣・受け入れについて,4分の1が派遣や受け入れ先への連絡ができていないという結果が出ていることから,4月以降に出てくる影響を注視する必要があるとした。
最後に,日医が考える働き方改革の基本理念として「医師の健康確保」,「地域医療の継続性」,「医療・医学の質の維持・向上」の3つの重要課題にしっかりと取組むことを掲げるとともに,働き方改革,地域医療構想,医師偏在対策の三位一体改革において,最初に地域医療に大きな影響が出てくるのは働き方改革であると述べ,現場からの情報提供が今後の改革を円滑に進めることになるとして,講演を締めくくった。
日本医師会常任理事 城守 国斗 氏
京都第一赤十字病院副院長 沢田 尚久 氏
京都第二赤十字病院救急・集中治療科部長/京都府医師会理事 成宮 博理 氏
江戸町社労士ファーム 社労士 畑中 美和 氏 が登壇
引続き行われたシンポジウムでは,「施行前夜の危機予測〜働き方改革によって何が起こるのか〜」をテーマに,若園幹事長を座長として,城守国斗氏,京都第一赤十字病院副院長の沢田尚久氏,京都第二赤十字病院救急・集中治療科部長で京都府医師会理事の成宮博理氏,江戸町社労士ファーム社労士の畑中美和氏が登壇し,それぞれの立場から活発な意見交換が行われた。
沢田氏からは,自院の働き方改革に関するこれまでの経緯と対応を振り返るとともに,施行によって,医師不足(地域格差,診療科間格差など)がより顕著になること,自己研鑽に割く時間が減ることによって医療の質が低下すること,タスクシェア・シフトを進めるにあたっての多職種の理解,チーム制や交代勤務によるデメリット(医事紛争や訴訟の増加)などの懸念が示された。
続いて,畑中氏からは,兵庫県の労基署の対応の変遷などが示され,世論の影響も若干受けながら運用されている実情が示された。労基署の対応については,城守日医常任理事からも,都道府県によってもバラツキがあり,自己研鑽や宿日直許可など判断基準が明示されにくい案件については,判断が異なってくると補足された。
成宮氏からは,日医が実施した働き方改革と地域医療への影響に関する調査の京都府の結果が示されるとともに,救急医療体制について,平均280件 / 日の救急要請のうち,2019年には1%以下だった搬送困難事案が3〜4%に増加していることや,自院の救命救急センターの実情を示し,救える命が救えなくなる事態も起こり得ると危機感が示された。これに対して畑中氏は,労働時間の管理を優先することで救急受入を消極的に捉える病院と,使命感から救急を積極的に対応する病院の双方の話を伺うなかで,一般市民としての不安を感じると吐露。
フロアからは,宿日直許可を取得した病院に派遣された医師の勤務状況が施行後の救急医療に影響を与えるとの声があった。成宮氏は救急告示病院の視察において,多くの病院が宿日直許可を取得し,現状の救急医療体制を維持すると回答されるものの,派遣される医師や派遣元へ労働に対する対価(手当等)について説明がなされていない実態があるとした。加えて城守日医常任理事は,働き方改革に関しての手当てが十分に賄われていないことを示しながら,日医として診療報酬とともに地域医療・総合確保基金を活用した医療機関への支援も並行して要望していく意向を示した。
また,東北の医師少数地域の救急救命センターでは下り搬送が進められていることや,広島で経営母体の異なる病院の集約化により大規模病院が設立されていることなどが例に挙げられ,京都府北部・南部の医師少数地域における医療提供体制の再編も懸念されるとの意見があった。
最後に,若園幹事長から懸念事項は尽きないが,施行後も協議を重ねながら,医師等の働き方改革がよい方向に向かっていくことを願っているとして,ディスカッションを締め括った。