2024年11月1日号
府医では,府民・市民向け広報誌「BeWell」,VOL.103「乳がん」を発刊しました(本号に同封)。
各医療機関におかれましては,本紙を診療の一助に,また待合室の読み物としてご活用ください。
本誌に関するお問い合わせは,府医総務課(電話:075-354-6102,FAX:075-354-6074)までご連絡ください。
京都府立医科大学名誉教授内分泌・乳腺外科学特任教授 田口 哲也
乳がんは比較的予後良好ながんですが,ひとつの理由は発見が早く,ステージⅡまでの症例が8割を越えるからだと言われています。さらにほとんどの症例で治癒を目指す根治術が可能なこと,有効性の高い薬物療法が可能なことなどが大きな理由です。今日の乳がん手術の特徴としてはがんを確実に切除することだけでなく,乳房の整容性を維持することも要求されています。乳房,胸筋,腋窩リンパ節をすべて切除する根治術が完成した100年以上前から徐々に切除範囲が縮小され,今は乳房を温存するか,乳房を再建するかを選択する時代になりました。しかし,乳がんは比較的早くから転移が始まることもわかっていて,切除手術だけでなく全身治療である補助薬物療法をほとんどの症例で確実に実施することが必要です。
乳がんではこの補助薬物療法の選択にはいち早く多遺伝子発現解析を応用したサブタイプ分類が利用され,治療の感受性に対応した個別の薬物療法が効果を上げています。補助薬物療法ではホルモン療法が術後10年間の長期になり,化学療法は術前化学療法により腫瘍縮小効果を確認することでさらに有効な次の薬剤を選択する治療がはじまっています。これは治療を強化するだけでなく,逆に過剰な治療をせずに患者さんへの様々な負担を減らすことにもつながっています。
進行再発乳がんでは通常手術適応はなく,治癒することも稀で症状を緩和し,良好なQOLを維持して延命を図ることが目的です。そのためサブタイプ分類に基づく薬剤の感受性だけでなく,副作用も考慮して治療が選択される必要があります。救いは有効性が高く,副作用の少ない有用性の高い薬剤が次々と開発,臨床導入され今や再発しても元気に長期生存をめざす時代になったことです。
乳がんを疑った時はいち早く乳腺専門医への紹介受診が必要です。そして,専門医は個々の患者にとって最適,最良な標準治療を厳密に実施することが大切になります。