夏の参与会

 8月31日(土),夏の参与会が台風の影響を考慮しWebにて開催され,参与25名,府医役員25名が出席。松井府医会長の挨拶の後,新参与7名から自己紹介が行われた。続いての協議では,長島日医常任理事より「医療DXに対する日医の取組み」と題して講演が行われ,その後の質疑応答では長島日医常任理事も交えて活発な意見交換が行われた。

◇報告ならびに協議事項

(1)‌ 「医療 DX に対する日医の取組みについて」

 最初に令和6年度診療報酬改定のポイントとして,「ベースアップ評価料」,「医療DX推進体制整備加算の見直し」,「長期収載品の処方等に係る選定療養」について解説があり,その後,医療DXに対する日医の取組み等について詳しく説明がなされた。

~日医の医療 DX に対する基本姿勢~

 日医が目指す医療DXは,適切な情報連携や業務の効率化を進めることで,国民,患者の安心・安全でより質の高い医療を提供するとともに,医療現場の負担軽減を目指しており,その基盤となるオンライン資格確認システムも,これらの実現に資することから,今後も適切に推進されるよう全面的に協力していくと説明した。一方で,スピード感は重要であるが,拙速に進めて,医療提供体制に混乱・支障が生じてはいけないと指摘し,また生命・健康に直結することから,医療DXにおいて,国民・医療者を誰一人取り残してはならないとの考えを示すとともに,国に対して,導入,維持,セキュリティなどすべて国が負担すべきと主張していることを強調した。

日本医師会 常任理事
長島 公之 氏

 その他,日医としては,全国プラットフォームだけでは,地域連携ネットワークで実現している地域医療連携に必要な多種多様な機能(電子カルテの全データ,各種画像の共有など)の実現が困難なことから,地域連携ネットワークとの併用が必須であるとの考えを示したほか,電子処方箋は極めて導入が難しく使いづらいとの声や,機能拡充以前に現在の基本的機能の見直しなど,システムや運営方法の課題を洗い出し,一つ一つ点検・改善していくことが重要であると提言しているとした。
 また,診療報酬改定DXに関して,日医は,「共通算定モジュール」を提供することにより,各レセコンメーカーがばらばらに行っていた診療報酬改定対応のコスト削減につながるとして,この削減分は,医療機関への提供価格に反映されるべきであり,各種審議会にて「診療報酬改定DXは最終的に,医療機関でかかるコストの削減につながらなければ意味がなく,そうでなければ誰も使わない」と主張している。
 最後にデジタル化に対応できない医療現場がまだまだ多いことを念頭において,現場の不安を払拭し,混乱と支障をきたすことがないよう慎重に進めるべきとし,「誰一人,日本の医療制度から取り残さない」よう取組んでいく考えを示した。

〈質疑応答〉
・導入費用について

 地区医から,医療DX導入費用について,診療報酬で対応するのではなく,補助金などで対応されるべきではないか。また,導入に係る費用をベンダーが行政に直接,費用を請求するような仕組みであれば,診療報酬の財源は別のものに使用できるのではないかとの意見が出された。
 さらに,電子カルテなどのITを使うことでむしろ患者と向き合う時間が減ってしまう可能性があり,カルテの音声入力などのインターフェイスがあればよいのではないかとの意見が出された。
 長島日医常任理事は,導入費用について,あらゆる手段で医療機関の負担軽減に努め,国が全額拠出すべきであるとの考えを改めて示した。また,そもそも医療機関に様々な補助金が必要ない仕組みにするべきであるとして,例えば,ベンダーが医療現場の負担を少なくするような仕組みの導入費用を医療費として使うのではなく,経産省などが産業育成という視点から開発に充てることも一つの手段ではないかと言及した。
 さらに,日医AIホスピタル推進センターでは,音声入力で自動的にテキスト化できるよう開発が進められていることを紹介し,こうしたインターフェイスの導入により,患者とのコミュニケーションに時間を費やすことができ,同時に医師や看護師などの医療従事者の業務が簡素化できることとして,積極的に取組む意向が示された。

(2)‌KMA.com の取組と地区医師会へのお願い

 令和5年度4月から開始した「KMA.com」の実績報告とともに地区医に組織強化に向けて協力を呼びかけた。
 「KMA.com」は,医学生や研修医,若手医師との「つながり」を継続できるよう新たな仕組みとして設立し,医師会入会のメリットや医学に関する情報発信を定期的に発信していくことで中長期的な視点に立ち,将来の組織強化を目指していることを改めて説明。
 現在,登録会員は総数440名(初期研修医415名,勤務医25名)になり,府医入会率は42.7%と報告。今年度の新企画として,府医に新規入会した初期研修医を対象に「府医オリジナルスクラブ」を進呈したことなど若手医師に向けた新たな取組みを紹介した。
 また,医療を取り巻く環境は今後も変化し,その変化に対応しながら,次世代につなげることが使命であるとの考えを示し,地区医師会に以下の3点について協力を依頼した。

会費減免期間の延長

 日医は医学部卒後,府医は医籍登録5年間までの会費減免期間を延長したが,各医師会が足並みを揃えて実施することが重要であり,各地区医での会費減免期間の延長に協力を依頼した。

臨床研修医の継続入会

 初期研修が修了し,専攻医などの3年目以降も医師会員として継続してもらえるよう協力を依頼した。

入会・異動・退会の手続きの簡素化への対応

 臨床研修医の入会は「KMA.com」を経由して,府医で名簿を管理し,必要な情報は各地区医へフィードバックしているため,地区医での手続き簡素化に協力を依頼した。

(3)‌地域医師会会員で日本医師会未入会者に対する日本医師会への入会促進について

 医師会組織強化の眼目は,現場に根差した提言を医療政策の決定プロセスに反映していく中で,医師の診療・生活を支援し,国民の健康と生命を守ることであるとし,そのためには医師会のさらなる会員数の増加,組織率の向上が不可欠であるため,地域医師会会員で日医未加入者に対する日医への入会促進について理解を求めた。
 また,毎年12月1日に実施する日医会員数調査は,日医の対外的なプレゼンスに大きな影響を与えるため,三層医師会が一丸となってさらなる成果につなげるために,より一層の協力を呼びかけた。

◇‌各地区医師会(参与)からのご意見・ご要望について

京あんしんネットの運用について

 京あんしんネットは多職種間のコミュニケーションツールとして京都府内で広く普及活用されているが,今春の診療報酬改定(在宅医療情報連携加算)への対応は可能か,また,ひとつのアカウントを複数のユーザーが使い回している事例があるとして,質問が挙げられた。

〈回答〉
 京あんしんネット運用ポリシーでは,第4条にその位置づけについて記載しており,「『京あんしんネット』は,コミュニケーションのための連絡手段であり,診療・看護・介護等の記録ではない。」とした上で,電話やFAXなどのコミュニケーション手段に加えて新しい形の「コミュニケーションツール」と位置づけ,従来の連絡手段を補完するものであると説明。
 この第4条の「診療・看護・介護等の記録ではない」という記載に関しては,京あんしんネットが電子カルテ等データの共有や集積・閲覧を目的とした,いわゆる「地域医療情報連携ネットワーク」ではなく,在宅医療・介護関係者間のコミュニケーションの効率化・活性化による連携の推進に主眼を置いたものであるとした。
 なお,第19条「機能管理:患者グループ」に関する規定では,「(1)患者タイムラインでは,一人一人の患者に関して,医療・介護を行う上で必要な患者個人情報を含む多職種間のコミュニケーションを行う」としており,「患者グループ」内においては当該患者への診療・看護・介護の提供にあたって必要な情報については,その中で情報共有して差し支えないと考えているが,「京あんしんネット」の全体的な位置づけも変わってきているため,運用ポリシーの改訂も必要であるとの見解を示し,整理した上で改めて周知するとした。
 また,アカウント利用については,運用ポリシーにおいて,「一つのIDを複数人で共有しない」(第27条)と規定されており,禁止事項であると説明した。
 長島日医常任理事は,在宅医療情報連携加算に関して,単に「ICTを利用している」というだけで算定できるわけではなく,どのような運用をされているかが重要であるとして,算定要件を満たしているかどうかは個々の状況によるとした。

無料低額診療事業とamazonファーマシーについて

 無料低額診療事業について実施医療機関ごとの基準や運用については公表されていないことから,自己負担分をディスカウントして集患していると認識されるのではないかとして,質問が出された。
 また,amazonが調剤薬局事業を開始したことにより,中小薬局の倒産で院外処方の開業医へ影響があるかが問われた。

〈回答〉
 無料低額診療事業は「経済的な理由で必要な医療を受ける機会が制限されないように,無料または低額な料金で医療を受けることができる制度」であり,全国約700箇所の病院,診療所,京都府内では39医療機関で実施していると説明した。ただし,対象患者の所得基準や運用方法など統一的なものはなく,各医療機関が個別に定めており,費用に関して,医療機関は対象患者から窓口負担を徴収しないか,一部しか徴収しないため,その分,医療機関は減収となるが,一定の患者数を満たせば,医療機関の固定資産税や不動産取得税が非課税となる税制上の優遇措置を受けることができるとした。府医は従来から,経済的な理由で医療が制限されてはならないと主張しており,制度自体は反対しないものの,囲い込みなど強引なやり方が見られた場合,行政に対して監視するよう働きかけることが必要との考えを示した。
 また,amazonファーマシーについては,7月下旬に全国のドラッグストア約2,500店舗と連携し,amazonショッピングのアプリ上で薬局によるオンラインの服薬指導から処方薬の配送まで手がけるサービスを開始したとし,具体的には,患者は医療機関を受診して電子処方箋の交付を受けるか,オンライン診療を受けて電子処方箋のデータの交付を受けた後,amazonファーマシーと連携する薬局でオンライン服薬指導を受ける仕組みであると説明した。
 amazonファーマシーの影響は,薬局だけではなく,患者が利便性のみでオンライン診療や電子処方箋を発行できる医療機関の受診を希望するため,対応できない医療機関が淘汰されるような方向に誘導されることを懸念しており,引続き,安心・安全な医療を提供することを第一に日医とともに状況を注視するとした。
 長島日医常任理事からは,無料低額診療事業について日医として実態調査や情報集積を行っていないため,今後情報の収集に努めたいとした。

保険証のペーパーレスとマイナンバーカードへの紐付けの行方

 行政は従来の健康保険証を無くして,マイナンバーカードとの紐づけを推進しているが,利用者は少なく,超高齢者,一人暮らし,認知症の人も多く,ペーパーレスは難しく感じ,結局どういう方向性に進むかが問われた。

〈回答〉
 12月から保険証の新規発行が終了し,原則,マイナ保険証による受診に移行するものの,マイナ保険証の利用率は6月時点で全国9.9%,京都で10.73%と低迷しているのは,政府が強引かつ拙速に決定した保険証廃止への不安や,保険者が被保険者情報を誤登録していた問題に起因していることから,第一に政府が国民の不安解消に努め,保険者が利用の啓発に努める必要があると回答した。
 また,高齢者や認知症の方などマイナ保険証の利用が難しい方が医療機関を受診できなくなることがあってはならないとして,オンライン資格確認システムを導入できない医療機関も,マイナ保険証を理由に閉院されることがないよう,紙による資格確認の方法も経過措置として残すべきとの考えを示した。
 長島日医常任理事は,健康保険証の新規発行は廃止になる一方で,マイナ保険証を申請していない者には実質的に健康保険証と全く同じ資格確認書が交付されることを説明した。医療機関でマイナ保険証が利用できなかった場合でも過去の受診歴や申立書を記入することで適正な自己負担額で保険診療が受けられるが,国民が安全に利用できるよう国に要望していくとした。

行政への対応

 過去4年間にわたるコロナ禍では,コロナ検査センター,予防接種,発熱外来,入院治療まですべての医師が関わった一大事業であったが,行政はコロナ禍が収まった途端に手のひらを返すように,医者は儲けすぎたといわんばかりに保険点数改悪に踏み切ったとして,日医の努力によりこの程度で収まったものの,府医としての見解が求められた。

〈回答〉
 コロナ禍においては,発熱外来に加えて,検査センターやホテル療養への出務,ワクチン接種などに奮闘したにもかかわらず,財務省はその補助金等で診療所は儲けすぎだと恣意的な調査結果をもとに,マイナス改定ありきの主張が行われ,財源の使途や適正化が大臣折衝で決定し,中医協での議論の裁量が縮小していることなどに対して,忸怩たる思いであるとの考えを示した。この状況を打開するためには,医療に関する制度や政策が決定するプロセスに日医が深く関与する必要があるとして,日医の意見をより説得力のあるものにするためにも,医師会の組織力強化とともに,医政活動の重要性を強調し,理解を求めた。

今回の診療報酬改定の評価と次回の改定に向けての活動方針

 今回の診療報酬改定の評価と大臣折衝などで改定財源の使途が決まってしまう昨今の傾向に対して,医師会としての今後の活動方針について質問が出された。
 また,今回は,社会保障費の抑制という経済的側面からの視点のみで改定が行われた印象があり,医薬品でジェネリックへの誘導をしながら薬価を下げ続けた結果,ジェネリックメーカーの生産現場からの撤退が始まるといった医薬品不足が深刻化している現状に対して,府医の見解を求めた。

〈回答〉
 今回の診療報酬改定について,まず本体は+0.88%で決着したが,純粋に使える財源が非常に少ないとして,本来診療報酬で対応する必要のないものについては,補助金などで対応されるべきとの考えを示し,中医協で十分議論ができるような財源が確保されることが望ましいとした。
 また,医薬品不足については,国の強引なジェネリック推進による構造的な問題であるとして,医療に関する制度や政策決定プロセスに関与する必要性を改めて強調した。
 長島日医常任理事からは,ベースアップ評価料を算定している医療機関(診療所)が約3割に留まっているため,次回の診療報酬改定において,不要な点数と判断されないためにも積極的に届出・算定していただくよう理解を求めた。

2024年11月15日号TOP