近畿医師会連合定時委員総会 開催 – 3つの分科会で“医療界が抱える課題”について活発な議論

 9月8日(日)に近医連定時委員総会がホテル日航奈良で開催された。午前中に行われた分科会では,第1分科会「医療保険・介護保険」,第2分科会「感染症対策」,第3分科会「医療情報」に分かれて各府県医で活発な議論を交わした(京都医報10月1日号にて概要のみ報告)。

第1分科会「医療保険・介護保険」

 第1分科会では,令和6年度診療報酬と介護報酬の同時改定について,城守日医常任理事から中央情勢が説明された後に,各府県から今回の改定における評価,問題点について意見交換が行われた。府医からは,濱島府医副会長,田村府医理事・三木府医理事・内田府医理事・畑府医理事・市田府医理事・角水府医理事・細田府医理事・小柳津府医理事・廣嶋府医理事・西村府医理事が出席した。

令和6年度診療報酬・介護報酬改定に係る最近の中央情勢について

城守日医常任理事

 城守日医常任理事から,今回の改定に係る主な項目として,①医療DX推進体制整備加算・医療情報取得加算,②ベースアップ評価料,③長期収載品の選定療養化について最近の中央情勢を踏まえ説明があった。
 特に,ベースアップ評価料は,日医のホームページで,分かりやすい事例紹介や賃金改善計画書作成支援ツールの説明動画を掲載していると紹介し,職員確保のために獲得した貴重な財源であり,次期改定で再び診療所をターゲットにさせないためにも,多くの医療機関に届出を促してほしいと呼びかけた。
 また,長期収載品の選定療養化に触れ,日医としては,薬価収載された医薬品はすべて保険給付すべきと考えており,医療上の必要があれば保険給付が可能である対応を講じていると説明した。

診療報酬改定における評価,問題点を意見交換

 田村府医理事は,リフィル処方箋について,今回の改定で院内掲示などが要件に加えられたことから,患者からの要請が増えることに懸念を示すとともに,状態が安定し受診間隔をあけることが可能な場合には,長期処方を行えばよくリフィル処方はその都度薬局に行く手間と費用が余計に発生することから患者にとってメリットはないと強調した。処方権はあくまで医師にあることから,引続き,利便性や効率性のみを優先する考え方には強く反論していく必要があると主張した。

田村府医理事

 さらに,医薬品の供給が不安定な状況の解消が見込めない状況下での長期収載品の選定療養化は,医療機関や薬局だけではなく患者にも多大な影響を与えることは明らかであり,医療上の必要性の判断についても医師,薬剤師に混乱をもたらす可能性は否定できないとの考えを示した。また,本制度の導入が蟻の一穴となり,新薬や高額薬剤のほか,疾患に応じて医薬品の保険給付のあり方が見直されることが懸念されるとし,参照価格制度導入のきっかけになる可能性もあり,安易な選定療養化の拡大は反対であると述べた。
 各府県からもリフィル処方箋や長期収載品の選定療養化に関する問題点が相次いだ他,ベースアップ評価料の申請手続きの簡素化を求める意見があり,城守日医常任理事も簡素化に向けて厚労省と協議していくと応えた。

診療報酬・介護報酬同時改定における医療介護連携の評価

 田村府医理事は,今回の同時改定では,コロナ禍の課題も踏まえて,介護保険施設と医療機関との連携体制を構築するための対応がされたとの認識を示し,その一つとして,病状が急変した施設入所者を入院させた場合の加算が新設されたことは評価していると述べた。
 また,施設入所者の病状急変時に往診した場合の加算が新設され,在支診・在支病にかかわらず一般の診療所でも届出可能となっていることも評価できるとした一方で,介護保険施設と定期的なカンファレンスにより,あらかじめ往診する患者の診療情報等を共有することは,多数の入所者がいる施設の場合は困難なことから,算定要件の緩和を求めた。
 各府県からは,介護保険の算定要件に医療との連携が追加されたが,医療機関がそれに対応することへの評価はほとんどなく,医療機関側への適切な評価が望まれるとの意見があり,城守日医常任理事は,医療機関側への負担に理解を示し,あり方に関して,次回改定で要望していきたいと応えた。

第2分科会「感染症対策」

 第2分科会では,「新型コロナウイルス感染症パンデミックフェーズ毎に振り返る,各府県の問題点」と「令和6年能登半島地震の経験から える自然災害時の感染対策」をテーマに各府県から対応状況の報告・意見交換が行われた。府医からは,谷口府医副会長,髙階府医理事・武田府医理事・米林府医理事が出席した。

新型コロナウイルス感染症パンデミックフェーズ毎に振り返る,各府県の問題点

米林府医理事

 前半の「新型コロナウイルス感染症パンデミックフェーズ毎に振り返る,各府県の問題点」では,米林府医理事から京都府の対応として,新型コロナ発生当初から京都府庁内に入院医療コントロールセンターを設置し,髙階府医理事のリーダーシップのもと,陽性者外来受診や入院が必要な場合の情報を一元化・差配したことにより,開業医等,医療機関や保健所の負担軽減につながった事例を説明。宿泊療養対応に加え,自宅療養者には京都市電話診療所を設置して府医会員および役員が対応し,保健所・入院医療コントロールセンターと連携することにより,自宅療養者の健康観察,重症者の早期対応体制を構築した。さらに自宅療養中の陽性妊婦の診療については,京都府医師会・京都市・京都産婦人科医会の三者による協定を締結し専用の診療コンテナを府医会館内に設置。産科医療機関の負担軽減につながった。また,地区医有志による高齢者施設の医療支援を行うコーディネートチームにより地域の医療機関が面として対応する意識が高まったことなどを報告。
 一方で,コロナ診療を行う医療機関に患者が殺到したことや,各生命保険会社が給付金を特例で給付したため,それらの申請目的で診断を得るために外来診療が逼迫に繋がったこと,また行政間(京都府・京都市・保健所)との意思疎通ができておらず,対応に苦慮したことなどを課題として挙げた。
 改正感染症法に基づく医療措置協定の進捗状況等については,協定締結医療機関の協定締結割合が約25%(府内診療所2,496件中,623件:9月1日現在)であることを報告。京都府では,改正感染症法に基づき,「京都府感染症対策連携協議会」を設置し,本協定の事前調査内容から協定締結に至るまでの手続きや対応について,協議を行った結果,医療措置協定締結に関しては,会員の不安を払しょくし,有事に迅速かつ的確に連携が図れるよう,京都府と府医による集合協定の方式となったことを説明。会員から寄せられた意見としては,医師や医療従事者への補償が十分になされず,新興感染症の感染力等が予見されない段階での協定締結への不安の声が多かったと報告した。
 また,医師・医療従事者の感染対策にかかるスキルアップ(研修)や院内の感染対策にかかる体制整備事業(補助金)も急務とする意見も紹介した。
 京都府では,『京都府医療施設等施設・設備整備事業(新興感染症対応力強化事業)』が実施され,公立・公的病医院では,可動式パーティションの設置,病棟出入り口の扉の設置,ゾーニングを行うための改修費用,また診療所においては,個人防護具の保管庫の設置,PCR検査装置・簡易ベッド・HEPAフィルター付き空気清浄機の購入等が補助対象とされたが,予算の超過による自己負担額の増額などが影響し,当初,140件ほどあった申請が,最終的には35件ほどに留まったと報告した。
 新興感染症については府民・市民に適切な情報提供を行うことが重要であり,行政や保健所に対しては,ワクチン接種体制等も含め地域の特徴に応じた柔軟な対応が可能となるよう,医師会として提言すべきとし,通常医療との両立についても各々の医療機関の実情を鑑み,対策を検討することが重要であり,医療機関の特性に合った対応をすべきとの考えを示した。

令和6年能登半島地震の経験から考える自然災害時の感染対策

髙階府医理事

 後半の「令和6年能登半島地震の経験から考える自然災害時の感染対策」では,髙階府医理事から報告。日医が当初からDICT(災害時感染制御支援チーム)との連携に努めた結果,感染症対策は奏功した印象であるが,理想論が前面に出ていたきらいがあり,現場で実際にそのとおりにできるか疑問に感じたため,詳細の調整が今後の課題であるとし,DICTに医師会が動きやすいような形での方向性を示すことを求めた。
 他団体との連携については,四師会と協定を結び,災害医療コーディネーター研修を四師会と行政とともに毎年開催していることを報告。実際の災害現場での課題としては,①多くの国体,災害支援チームとの連携,②避難所等を設置・運営する行政等との連携,③指揮命令系統の構築・明確化―への対応が必要との考えを示した。
 資機材備蓄については,本来,自治体の役割であるが,物品や病床を確保することだけに留まっており,誰がどこでどのように運用するのかなどの準備・想定が不十分であることから,運用システムの再構築を求めていくとの考えを示した。

 最後に総括に立った笹本日医常任理事は,京都府が早々に入院コントロールセンターを設置し,入院調整の一元化を実施して保健所や医療機関の負担軽減につなげたことをはじめ,各府県それぞれの特筆すべき取組に賛辞を贈った。
 また,新興感染症に対する診療所の対応力向上の取組みが必要との考えから,日医は「診療所における新興感染症対策研修検討プロジェクト」を立ち上げて研修会を実施しているとして,各府県医や地区医に対し,理解と協力を求めた。最後に感染症を考慮した避難所の設置とその運営,地元医師会とその自治体との連携は受援にもつながること,災害対応マニュアルには感染症対策も反映すべきであること,DICTとの連携についてはJMATマニュアルに入れることなどの今後の方針を示し,日医として情報提供にしっかりと努めていくとして総括を締めくくった。

第3分科会「医療情報」

上田府医副会長

 第3分科会では,オンライン資格確認や電子処方箋の課題のほか,医療DX推進にあたっての問題点などについて,事前アンケートを基に活発な意見交換が行われた。府医からは,上田府医副会長,松田府医理事,松村府医理事,上田府医理事,大坪府医監事が出席した。日医からは茂松日医副会長,坂本日医常任理事が出席した。

オンライン資格確認,電子処方箋,電子カルテ情報共有サービスの課題
-導入や維持に係る補助金の充実を国に求める

 松田府医理事は,マイナ保険証の利用率が低迷する状況について,利用率を向上させるには患者自身の認識を改める必要があると指摘し,政府や保険者が利用の啓発に努めるべきで,医療機関に利用率低迷の責任を押しつけることがあってはならないと強調した。また,電子処方箋に関して,アクセス集中でクラウドに接続できない,HPKIカードが読み込めないなど,電子処方箋を発行できないトラブルが頻回に生じていることから,紙処方箋の発行よりも時間と労力を要している現状を紹介した。さらに,診療情報提供書や退院時サマリー等の3文書を電子上で送受信でき,患者の傷病名やアレルギー等の6情報を全国の医療機関で閲覧できる電子カルテ情報共有サービスは有意義ではあるものの,既存の地域連携ネットワークとの融合が課題だと指摘した。
 各府県からも国が国民に対してマイナ保険証の利用を丁寧に説明すべきとの意見や,院内処方の医療機関には電子処方箋のメリットが感じられないとの意見があった。

松田府医理事

 また,国がオンライン資格確認や電子処方箋,電子カルテ情報共有サービスを推進するのであれば,その導入や維持に係る費用は国が全額負担すべきとの意見が相次いだほか,費用だけでなく技術的なサポートを求める意見があり,坂本日医常任理事は導入や維持,セキュリティ対策に係る費用は国が全額負担すべきと引続き主張していくと応えた。

医療DXを推進するための支援
-拙速かつ強引な推進に反対

 松田府医理事は,高齢やITに不慣れな会員へのサポートの重要性を強調するとともに,医療DXを契機とする閉院は本末転倒だと訴えた。また,導入した医療機関に対して,サイバーセキュリティ対策だけでなく,ヒューマンエラーへのリスク管理へのサポートの必要性を求めた。
 各府県からも特に診療所は人的資源が限られることから支援を求める意見があり,坂本日医常任理事は高齢会員へのサポートや会員のITリテラシーの向上は日医としても対応していく意向を示した。また,茂松日医副会長は,国が推進する医療DXに総論は賛成だが,拙速かつ強引に進めて,日本の医療,そして地域医療を壊すことがあってはならないと強調した。

2024年10月15日号TOP