2025年12月1日号
10月18日(土)・19日(日),府医主管のもと,第64回十四大都市医師会連絡協議会がホテルグランヴィア京都において開催された。全国十四の政令指定都市から総勢420名が参加し,政令指定都市が抱えている医療に関する諸問題について,活発な意見交換が行われた。
初日は,会長会議,総務担当理事者会議,事務局長会議が行われるとともに,メインテーマを「有事と平時の医療体制~大都市医師会の役割~」として,第1分科会「医師の地域偏在と診療科偏在~若手医師の派遣等,大都市医師会が出来ることは何か~」,第2分科会「救急医療体制~高齢者救急,搬送困難対応などこれからの救急医療体制の在り方~」,第3分科会「災害医療支援~南海トラフ等,将来の大規模災害への備えと支援体制の在り方~」の各分科会において,それぞれ直面する課題について協議が行われた(各分科会の状況は後述参照)。
2日目には,全体会議で各分科会の報告が行われた後,特別講演として,松本吉郎日医会長から「中央情勢報告」,また,菊乃井三代目主人の村田吉弘氏から「日本料理とは何か」と題する講演がそれぞれ行われた。
最後に,次年度の主管である札幌市医師会・今会長から,次年度は2026年9月26日(土)・27日(日)に開催することが報告され,盛況裡に終了した。
第1分科会では「医師の地域偏在と診療科偏在」をテーマに,「若手医師の派遣等,大都市医師会が出来ることは何か」について意見交換を行った。
医師偏在の問題は,地方やへき地の課題として取り上げられることが多く,一般に大都市圏では医師不足の窮状に直面することは多くないものの,昨年12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ」が策定され,今後,具体的な取組みが進められていくにあたって,大都市医師会だからこそできることやその役割について考えることを目的に企画した。当日は,事前に実施したアンケート結果に基づき,4つの切り口で各都市での取組みや課題を共有した。
冒頭,議論のきっかけとして,尾池府医理事より京都の現状を示した上で,へき地を有する医師会として問題意識を共有するとともに「医師偏在対策は制度で縛るのではなく,行政や大学とともに,医師会がしっかりと関与することの重要性」を訴えた。
続いて,加藤府医理事の司会のもと,各都市からの取組みが発表された。まず「医師会の取組み」として,へき地や離島における医療提供体制を確保するために,オンライン診療を活用した事例が報告された。
「医師養成課程での取組み」では,横浜市医師会が実施する屋根瓦塾などが紹介された。府医が先駆けてスタートした屋根瓦方式による若手医師の育成が,今後,各地域に広がっていくことで好循環が期待できるものであるとともに,このような若手医師の目線に立った活動は,医師会の組織強化につながるものであるとの認識が共有された。
「医師養成課程以外の取組み」としては,診療科の偏在に関する事例がいくつか紹介された。小児科医や産科医の不足などへの支援で成功している事例がある一方で,数の問題ではなく,地域医療にどのように貢献しているかを考える必要があるとの意見があり,各都市の事情に応じた柔軟な対応が求められることが強調された。その他,ドクターバンク事業を行っている複数の医師会から,今後,日医がマッチング受託者として実施する本事業が医師偏在対策の解決の一助となることに期待が寄せられた。
また,今後の医療需要が減少することを踏まえた取組みとして,医療資源の分散と偏在を解消するため,病院の統合・再編の事例が示され,症例が集まることで,若手医師の流出を防ぐ取組みにもなることが報告された。ただし,この方法は住民の理解や首長のリーダーシップが不可欠であり,成功するためにはハードルが高いことも共有された。
最後に,コメンテーターとして出席した城守日医常任理事から,4つのテーマをさらに細分化して総括がなされた。へき地・離島での医師確保に対しては,大学や基幹病院の協力を得た循環型の医療提供体制の構築や,オンラインを活用した診療協力,若手の教育支援によって若手医師が集まる魅力ある病院などが紹介されたことを取り上げ,このような地域の好事例を参考にしてほしいと述べられた。また,医師会の組織強化については,会員数の増加に成功した発表に触れ,組織率の判断の要素として重要な意味を持つ12月1日の会員数調査に向けて,各医師会のさらなる取組み強化に期待が寄せられた。専門医のシーリングについては,医師多数県の努力に理解を示した上で,令和8年度に大きな変更があり一層厳しい状況にあるものの,医師少数県の切実な訴えも無視できないことから,厚労省としては全国的なバランスを考慮して医師少数県に配慮せざるを得ない部分もあると説明した。
座長を務めた上田府医副会長は,「大都市として担うべき役割と,多くの支援の可能性を改めて共有できた。今後もそれぞれの地域が連携し,持続可能な医療提供体制を築いていくことが期待される」と総括。その上で,「医師会の組織強化には,制度に惑わされずに一人ひとりの医師のキャリアを考える精神が最も大切である」との考えを示した。
第2分科会は,「救急医療体制~高齢者救急,搬送困難対応などこれからの救急医療体制の在り方」をテーマに開催され,コメンテーターとして茂松日医副会長も出席した。
高齢者救急や在宅・施設からの救急搬送対応は,地域包括ケアの根幹に関わる重要なテーマであり,十四大都市医師会としても行政・消防・医療機関との連携をいかに深化させていくかが問われている。第2分科会では,各都市の取組みや課題を共有するために,大きく3つの論点として,「搬送依頼の増加への対応」,「施設等入所者や在宅高齢者の救急搬送」,「医師の働き方改革による影響」について情報共有と意見交換が行われた。
議論に先立ち,府医より武田府医理事が,各都市に実施した事前アンケートの総括として,「搬送人員数に関する調査結果」を報告。救急搬送要請件数の増加と搬送困難事案の増加は相関関係にないとするデータを示すとともに,2040年にかけて搬送困難事案となる傾向にある高齢者救急の急増に対し,「大都市医師会が救急医療体制の維持に向けてできることは何かについて検討いただきたい」と問題提起した。
その後,「搬送依頼の増加への対応」については,選定療養費の導入・取り扱いに関する課題,#7119の実効性を担保するための取組みや展望,搬送困難事案を減らすための情報共有のための連携ツールを用いた取組みについて各都市が発表した。選定療養費については,茂松日医副会長が「それだけで救急医療に関する課題が解決するわけではなく,地域全体で検討すべき」と述べ,地域や都道府県全体で協議することの必要性を強調した。
「施設等入所者や在宅高齢者の救急搬送」では,ICTやクラウドを用いた情報共有の取組みについて情報共有がなされた。医療情報や生活機能情報の共有については,すべてのテーマを通じて,その重要性が指摘されるとともに,登録の手間や費用面などの課題があることも共通していることから,市田府医理事から「国や日医で全国のシステム統合をお願いできないか」と提案する場面もあった。
DNARの問題については,各地域の実情を深く検討した上で運用されているプロトコルの内容と実績について報告がなされたほか,かかりつけ医と救急医との連携についても都市独自の取組みの発表があった。
医師の働き方改革との関連では,救急医確保に向けた取組みや病院の統合,国・自治体が持つべき方策についての意見も示された。
その他,サ高住・有料老人ホーム等における囲い込みの問題についても発言があり,「良貨が悪貨を駆逐するような連携が構築されなければならない」との意見に参加者が賛同した。
茂松日医副会長は,引続き予想される高齢者救急の増加傾向を踏まえ,「かかりつけ医機能が非常に重要となる」と述べ,診療所と病院がさらなる連携を図り,各地域の救急医療を支えることが不可欠だとの認識を示した。
翌日の分科会報告において,谷口府医副会長は,「2040年を見据え,有事と平時の医療体制を維持・発展させていくために,十四大都市医師会連絡協議会ならではの有意義な意見交換ができた。大都市の医師会が果たすべき役割を改めて整理し,将来に向けた方向性をともに考えていきたい」と総括した。
第3分科会では,「災害医療支援~南海トラフ等,将来の大規模災害への備えと支援体制の在り方~」をテーマに開催され,濱島府医監事が座長,髙階府医理事が司会を務めた。
第1部では,医師会と行政・関係機関との連携構築体制をどうするか,支援・受援をする際の各都市や都道府県との役割分担について協議が行われた。その中で2019年に国が救助実施市を指定したことについては,初動体制の迅速化や関係団体との連携構築などのメリットも確立された一方で,予算確保や人材の育成などが喫緊の課題となっていることが指摘された。
各市独自の取組みでは,被災を経験した神戸市からの発災直後や超急性期における今後の対応について,市や医師会のリーダーシップが重要であることが述べられた。
支援時・受援時の大都市医師会の役割に関する体制の構築については,透析患者や在宅医療患者など,要配慮者への対応において個人情報に関する問題や通信手段の活用方法,対応困難時のアナログ対応の想定,平時からのロジ教育の必要性・重要性や情報共有の難しさ,専門医の協力が不可欠である点についても意見交換がなされた。
また,JMAT派遣調整について協議が行われ,最初に郡市区医と連携し,JMATチームを長期間編成された事例が紹介された。
質疑応答では,JMATへ参加すると医療機関の業務に支障が出るため参加をためらうケースがあることや,派遣にあたり費用の心配をしているケースもあるという意見が見られた。
第2部では,阪神淡路大震災の教訓を受けて2007年に締結した十四大都市医師会災害時における相互支援に関する協定書について意見交換を行った。
各都市より,医師会機能支援マニュアルを整備中との報告や,協定書に基づく相互支援を事務局機能支援に特化し,そのための業務標準化の必要性が指摘された他,本協定書の発動によるDMATおよびJMAT活動への影響に懸念が示され,協定書の具体的な改定案として,支援チームの派遣は努力義務に留めた方がよいとの提案がなされた。
細川日医常任理事からは,能登半島地震の経験を踏まえ,日医JMAT要綱の改訂について検討中であることが報告された。今後,JMATの基本理念を明確にし,被災者の生命,健康を守ることはもちろん,公衆衛生の回復,災害関連死ゼロを目指して地域医療や地域包括ケアシステムの再生,復興を最終的な目標としていると述べ,併せて,災害医療の質の向上に努めていくとした。
その後の質疑応答では,協定書によりDMAT,JMATが機能しない時に発動することができる方がよいのではないかとの意見があり,それらを受けて,協定書の改定については引続きメール等でさらに議論を進めていくこととし,来年の開催主務地へバトンをつなぐこととなった。