2025年12月1日号
下京東部医師会と府医執行部との懇談会が 10 月 15 日(水),ホテル日航プリンセス京都で開催され,下京東部医師会から 14 名,府医から8名が出席。「来年度の診療報酬改定」をテーマに議論が行われた。
~経営難の実態と制度の限界~
医療機関の経営を圧迫する最大の要因として人件費の高騰が挙げられ,健全な目安とされる50%を大きく超え,自治体病院では65.7%に達するなど,現場では限界を超えた負担が続いている。医師や看護師以外の専門職の増加,人材派遣会社への依存による手数料負担などが,経営をさらに圧迫している。
また,施設の老朽化や建築費の高騰により,病院の建て替えも困難な状況にある。1980年代に建設された病院の多くが築40年以上となり,耐震基準や施設の老朽化が問題視されている。建築費は過去30年で約3倍に膨れ上がり,100床規模の病院建設には約40億円が必要とされるが,現行の診療報酬体系では返済の見込みが立たないことから制度の限界が見受けられる。
次期診療報酬改定においては,骨太の方針2025に記載された「高齢化による伸びに物価・賃金対応分を加算する」,「目安対応から足し算の論理への転換」,「公定価格の引き上げ」が確実に実施されることが必要であり,医療費抑制の視点ではなく,診療報酬の設定を医療の持続可能性の視点から検討しなおす必要がある。物価上昇・人件費確保のための診療報酬アップに加えて,物価高騰・人件費高騰に迅速に対応できるシステム(期中改定や物価スライド方式)の導入,施設・整備更新のための原資が確保できる診療報酬の改定が必要である。
~地域包括ケアシステムの推進と診療報酬~
少子高齢化の進行にともない,社会構造が大きく変化している。年齢構成の変化にともなって疾病構造も変化し,求められる医療の形も変わりつつある。生産年齢人口の減少により人材不足が一層深刻化する中で,医師の働き方改革や地域偏在・診療科偏在といった課題も顕在化している。こうした状況のもと,地域包括ケアシステムの推進とともに,かかりつけ医機能の充実がこれまで以上に重要となる。
2040年に向けて,85歳以上人口の増加や人口減少のさらなる進行が見込まれる中,新たな地域医療構想では,かかりつけ医機能を充実させることで,地域住民の健康管理を継続的に支える体制の整備を目指している。病院・診療所・診療科を問わず,すべての医師が地域全体の医療機関と連携し,患者がいつでも安心して医療を受けられるようにする――このような継続的かつ包括的な体制の構築こそが,かかりつけ医機能の充実,すなわち「面としてのかかりつけ医機能」の実現である。
病院はこれまで,急性期医療を中心に病院個々での経営を重視してきたが,地域医療構想調整会議などを通じて,地域全体の中で果たすべき役割を再定義する必要がある。特に高齢者の増加を見据え,地域包括ケア病棟,地域医療包括病棟,療養型病床の病床機能が重要視されており,急性期偏重から脱却し,地域ニーズに応じた機能転換が求められる。
新たな地域医療構想では,病床数の削減や機能見直しに加え,外来・在宅医療,介護との連携も対象に含まれ,地域完結型の医療・介護提供体制の構築という方向性がより明確になる。
一方で,過剰が予想される高度急性期・急性期病床からの転換には,持続可能な診療報酬制度の整備や,機能転換のための補助制度の充実が不可欠である。
~意見交換~
その後の意見交換では,診療報酬改定が政治の動向に大きく左右されることから,政権の不安定化や財務省による医療費抑制への圧力に対する懸念が強く示されたほか,医療政策は国民の命に直結するものであり,現場の声が十分に反映されないまま診療報酬改定が進むことへの危惧が表明されたことから,医師会としては,他団体との連携を強化し,国民を巻き込んだ積極的な情報発信の必要性があるとの意見が上がった。
また,診療報酬の引上げに加えて,補助金制度の拡充,医療DXへの支援,消費税のゼロ税率化など,多角的な支援策の必要性も提案された。特に,診療所の経営難が医療費全体の増加につながる可能性があるとして,「小さな医療機関を守ることが,国全体の医療費抑制につながる」との考えが示された。
さらに,診療報酬改定に向けた戦略として,「検査料の引下げを受け入れる代わりに,初診料・再診料の引上げを求める」といった,国民の共感を得るための工夫も提案された。財務省が「診療所は黒字で病院は赤字」とするデータを根拠に診療所の報酬引下げを画策していることに対しては,「実態を反映していない」との批判も出された。
「かかりつけ医機能報告制度」についても,制度の趣旨や現場での実装方法,専門医との役割分担などに関して,将来的に研修義務化などかかりつけ医の制度化につながる懸念が示された。また,「機能」や「制度」などの用語が混在しており,現場に混乱を招く可能性があるとの指摘もあった。
初・再診料の加算や医学管理料等について整理し,算定にあたっての留意点を説明するとともに,算定漏れを防ぐなど適正な運用により健全な医業経営を呼びかけた。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。