2025年12月15日号
上京東部医師会と府医執行部との懇談会が10月29日(水),梶井町放射線診断科クリニック会議室にて開催され,上京東部医師会から9名,府医から8名が出席。「かかりつけ医機能報告制度」,「OTC類似薬の保険外し」をテーマに議論が行われた。
2026年1月より「かかりつけ医機能報告制度」の初回報告が開始されるが,これは医療機関が自身の機能を報告することで地域医療の可視化を図る新制度であり,医療費削減を目指す財務省のかかりつけ医の制度化に対抗する形で,日医が主導して設計されたものである。
制度導入の背景と経緯については,10年以上議論されてきた「かかりつけ医機能」は医療費抑制を目的とする国の方針と,国民のフリーアクセス堅持を主張する医師会の立場が交錯してきた。1980年代の「家庭医構想」から始まり,2020年のコロナ禍を契機に制度化の議論が加速したが,2022年の「骨太の方針」では「かかりつけ医機能の制度整備」に表現が変更され,制度化は回避された。
制度は既存の「医療機能情報提供制度」に追加され,G-MISを通じて報告される。報告項目は以下の2種類。
・1号機能: 院内掲示,研修修了者の有無,対応可能な診療領域などを報告。
・2号機能: 時間外対応,在宅医療,介護連携など地域との連携体制を報告。
報告は義務であり,2026年1月~3月に初回報告が行われる。多くの医療機関は既存の日常業務で要件を満たし得る内容である。
1号機能の研修修了者の有無については,あくまで有無であり無しと報告することも可能とされている。また研修修了の要件は,座学と実地の2種類あわせて,合計10単位以上の取得が必要である。かかりつけ医機能報告制度にかかる研修の修了申請は日医のMAMISを通じて行うこととなる。
かかりつけ医機能報告制度は,地域の実情に応じて,各医療機関が自らの機能や専門性を活かしながら連携し,それぞれが担うべきかかりつけ医機能を強化することによって,地域に必要な医療機能を確保することを目的としている。この制度は,特定の医療機関を優良と認定したり,患者の受療行動に制限を加えたりするものではなく,あくまで国民や患者が自らのニーズに応じて,適切な医療機関を選択できるようにするための情報提供を強化する仕組みである。
~意見交換~
その後の意見交換では,財務省は「かかりつけ医登録制度」への移行を主張しており,報告制度への参加が少ない場合,制度化の根拠として利用される懸念があるとともに,国がデータを持つことにより,それを材料にして開業規制などにつながるのではないかとの意見が出された。
府医は,制度の目的は地域医療の機能不足を可視化することであり,医師への規制や患者の受診制限を意図したものではないとして,日医はこの制度を政府からの押し付けではなく,主体的に構築したと強調していることを紹介し,制度設計を日医が主導したことを改めて説明した。
また,MAMISを活用した研修申請などは医師会への加入促進にもつながるのではないかとの意見もあがった。
財政制度等審議会の「春の建議」では,「我が国の外来医療費は諸外国より高い」として,セルフメディケーションの推進が提起され,財務省は具体策として,①スイッチOTC化の加速,②OTC類似薬の保険給付の見直し―の2点を掲げている。建議本文では具体的な除外範囲は示されていないが,添付資料には漢方薬,ビタミン剤,解熱鎮痛剤などが例示されている。また,保険外併用療養費制度の柔軟な活用・拡大が提案され,これがOTC類似薬の保険適用除外の手法として検討されている。
この建議を受け,6月の三党合意で「OTC類似薬の保険給付のあり方の見直し」が盛り込まれ,骨太方針2025にも反映された。方針では,2025年末までに検討を行い,可能なものは2026年から実施するとしている。一方で,日医は保険適用除外には断固反対であり,松本日医会長はあくまで「見直し」であって適用除外ありきではないと強調。見直しの結果,現行制度を維持する結論もあり得るとの立場を示している。
しかしながら,政権内では6月以降,自民と維新の力関係が変化し,公明党の離脱・維新の連立入りにより,社会保障費削減を重視する維新の影響が強まる可能性がある。今後は厚労省社会保障審議会・医療保険部会で方向性を定め,中医協で具体策を検討する見通しであり,日医は医学的妥当性と患者負担の観点から強く反対を主張していく方針である。
この問題は,単なる医療制度論にとどまらず,「給付と負担」のあり方,すなわち国民が社会保障費の抑制や財政健全化のために「自らの負担増」をどこまで受け入れるのかという根本的な問題を含んでおり,政治情勢が大きく動く今こそ,医療界は日医を中心に結束し,社会保障の国民的議論を正しい方向にリードしていく必要がある。
~意見交換~
その後の意見交換では,「セルフメディケーション」という言葉のもと,自己責任で市販薬を購入することが推奨されているが,副作用が発生した際の責任の所在が不明確であるとの指摘があった。医師の管理下であれば副作用に即時対応できるが,自己判断での服用は患者自身がリスクを負うことになり,国がこの流れを推奨していることに改めて懸念が示された。
また,解熱剤,鎮痛剤,鎮咳去痰薬など基本的な医薬品の供給が滞っている問題について意見が出され,その要因として製造コストが薬価を上回る「薬価割れ」が挙げられた。たとえば,処方価格が4円の薬の製造に5円や10円かかる場合,製薬会社は赤字となるため供給を控える傾向がある一方で,医療機関で4円の薬が,薬局では80円と20倍で市販されるケースもあり,製薬会社が薬局への供給を優先する構造が生まれているとの指摘があった。これにより,患者が「病院では処方されないが薬局にはある」という状況に直面し,結果的に医師を介さない医薬品購入へと誘導されているのではないかとの懸念が示され,医薬品の安定供給を確保するためには,最低薬価の引上げが必要であるとの意見が出された。