2025年1月15日号
令和6年9月15日(日),府医会館において「第1回医療安全講演会」を開催(ハイブリッド形式)し,会員や医療関係者など計169名が参加した。今回,テーマとした「転倒・転落」は幅広く医療関係者に届けたい内容であったことから,府医からのメッセージも含めて,情報発信を行った。
転倒・転落予防は,医療機関にとって永遠の課題とされている。
歩くと人は転ぶが,転ぶことを恐れて歩かなければ歩けなくなる。自宅で歩いていた方が転ぶことを恐れて歩かなければ,歩けなくなる。また自宅で歩いていた方が,入院の際の評価にて,「移動時は車いす」という対策を立てると自宅に帰れなくなる可能性がある。
「身体機能を衰えさせない」ことと「転倒・転落を予防する」ことの両立は難しく,医療者と患者・家族がリスクを共有しながら,患者にとって何が最善なのかを考え,倫理的に行動することが求められる。
本講演会は,転倒・転落予防に取組む看護師と転倒予防指導士からの報告と,医師・弁護士の両方の業務に従事している長谷部圭司先生からの判例紹介で構成。
長谷部氏は,予防のため患者の個別リスクについてアセスメントすることは重要としつつも,「転倒・転落発生をゼロにすることはできない」とし,裁判官のなかには,医療者としては理解し難い非合理的な判決が下される場合もあると説明した。そのため医療者としては,転倒・転落リスクを過剰に恐れることなく,患者がよい人生を過ごすこと,患者の身体機能を不合理な対策によって奪うことがないように心がけることが重要になると訴えた。さらに医療機関は,医療者が個別の責任を問われることのないよう,組織的な対策を講じることも大切だと強調し,講演を締めくくった。
プログラム
今回の講演会を受けて,府医医療安全対策委員会では会員の皆さまに向けて以下をメッセージとして発信いたします。
日本に限らず,世界中で,転倒による傷害を減らす取組みがなされる中で,2つの重要な取組みの方向性が示されています。
様々な介入方法を組み合わせて,その患者に合った対策を考えることが良いとされています。
<介入方法の具体例>
*患者に応じて,必要な対策を組み合わせる
高齢患者は入院中に急速に運動能力と機能状態を失います。この機能状態の低下は長期的な影響を及ぼすとされるため,高齢患者の入院治療の結果を改善するためには,運動能力と活動性を促進することが求められます。転倒を予防しようとして過度に入院中の運動を制限すると,急性疾患からの回復が制限され,さらなる合併症のリスクにさらされるという悪影響が生じる可能性があります。そのようなリスクについて医療者と患者・家族がともに理解することが大切になります。
そこで医療者の中には,転倒について患者と会話する際,過度な制限が運動能力の低下を招くリスクがあることを説明するケースが増えてきています。
実際,患者からは「歩けなくなると困るので入院はしない」という声も聴かれます。「歩けなくなること,体の機能が衰えることをできるだけ避けたい」という共通認識を持てるようお話をされてみては如何でしょうか。