令和6年度 都道府県医師会「新たな地域医療構想・医師偏在対策担当理事連絡協議会」を開催

 日医は,3月 19 日,都道府県医「新たな地域医療構想・医師偏在対策担当理事連絡協議会」を開催し,昨年 12 月 18 日に厚生労働省が公表した「新たな地域医療構想及び医師偏在対策に関する取りまとめ」の内容について解説した。

病床機能報告の推移を分析

-日医・江澤常任理事

 「第1部:新たな地域医療構想について」では,江澤日医常任理事が新たな地域医療構想に向けた対応について,日医の考えを説明。
 江澤日医常任理事は,現行の地域医療構想について,病床の機能分化・連携に主眼が置かれ,各圏域で開催される「地域医療構想調整会議」においても,「病床機能区分等に関する議論に偏っている印象があった」と述べた。また,病床機能報告において,2015 年から 2023 年にかけての全病床数が 125.1 万床から 119.3 万床(2024 年8月時点の速報値)へ減少,機能別の病床数を見ても急性期と慢性期が減少し,回復期が増加するなど,国が地域医療構想で推計した 2025 年の必要病床数の方向性に沿って,全体的に機能分化・連携が進捗していると厚労省が評価している点について,「地域医療構想調整会議における議論の結果というよりも,各医療機関が生き延びるために,厳しい診療報酬に対応して経営判断を行ってきた結果による影響が大きいと考えている」との感想を述べた。

「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」の概要を解説

 厚労省が公表した「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」については,2040年に向けて,医療・介護の複合ニーズ等を抱える85歳以上の増加が想定される中,入院医療だけでなく,外来・在宅医療,介護との連携等を含む,医療提供体制全体の課題解決を図るための地域医療構想への転換を図る重要性は認めつつも,高齢者や要介護認定者の増加に対し,病床稼働率は低下するなど,当初は想定されていなかった事象が起きている点を指摘し,需要が急増する地域や減少する地域の将来展望に応じて,それぞれで検討していく必要があるとの考えを示した。
 そのうえで,「とりまとめ」の概要について,▽これまでの「回復期機能」の内容に「高齢者等の急性期患者への医療提供機能を追加し,「包括期機能」として位置付け▽医療機関機能報告の導入▽都道府県知事の権限−などを説明。特に「都道府県知事の権限」の中に「既存病床数が基準病床数を上回る場合には,必要に応じて調整会議への出席を求める」などの記載がある点について,「地域医療に貢献している医療機関がある日突然呼び出されて,何か締め付けられるようなことがあってはならないと常日頃主張しているし,一切罰則・ペナルティもないので心配しないでいただきたい」として理解を求めた。医療機関機能報告についても,「実態に合わない報告の場合は見直しの求めが入る可能性はあるがペナルティはない。日医として,これは指導・監査ではなく,医療機関の自主的な取組による報告であるため,あまりハードルを上げすぎないよう国に要望している」と説明した。

地域の医師会が新たな「地域医療介護構想」の牽引役に

 また,江澤日医常任理事は,新たな地域医療構想について,地域における入院・外来・在宅等を含めた医療提供体制を整理することになるため,日医として「地域医療構想」から「地域医療介護構想」への名称変更を求め,実現したことを報告。地域の実情を踏まえた課題への対応を検討・協議して,必要な外来・在宅医療の提供のための取組を行うことが重要とした。特に在宅医療への参入の最大のハードルとなっている一人で24時間365日対応することについては,「地域で連携して面で支え,進めていただきたい」と依頼した。
 医療計画と地域医療構想の立ち位置については,検討会での協議の結果,医療計画の上位概念に地域医療構想を位置付けることとなったことを報告。今後,重要になるのは調整会議の活性化であると指摘するとともに,「地域によっては調整会議にシナリオがあって,シャンシャン会議となっているところもあると聞いているが,今後,実のある会議にしていかないと,立ち行かなくなるので,都道府県医,地区医の先生方にリーダーシップを発揮していただき,地域医療介護構想の牽引役を担っていただきたい」と強く求め,改めて新たな地域医療構想に向けた日医の主張を示した(下図参照)。

秋田県における二次医療圏の再編について

-秋田県医・小泉会長

 江澤日医常任理事による「新たな地域医療構想」に関する概説の後,全国で唯一,二次医療圏を見直した地域として,秋田県医師会・小泉ひろみ会長がその経緯と県医師会として取組んだ内容について報告した。
 秋田県では,第八次医療計画策定にあたり,二次医療圏を従前の8医療圏から3医療圏に再編。その経緯として小泉会長は,人口減少,少子高齢化による患者減少や手術等の減少により,これまでの医療体制では地域医療のみならず地域の存続すら危ぶまれることから,「徐々に縮小するという考え方ではなく,先手を取ってしっかりと必要な医療体制を構築することを明確にし,3医療圏への再編を選択した」と説明。二次医療圏が減少することにより,県民にも「医療圏が減る=身近な医療,必要な医療が受けられなくなる」などの不安が広がったため,パブコメや県民への丁寧な説明を重ねたことを紹介した。
 二次医療圏の再編にあたり,各方面の理解が得られた最大の要因(成功の秘訣)としては,「危機感の共有であった」と述べ,秋田県医師会が2019年3月に策定した「秋田県の医療グランドデザイン2040」において人口が減るという現実を直視し,負の環境を逆手に取って新しい医療モデルをつくることを提言したことが奏功したと評価した。また,二次医療圏の減少が「医療の縮小」ではなく,地域医療連携推進法人等による地域での連携や医療DX等を通じて地域医療の再構築を目指した点も強調し,「将来はさらに広域での医療体制構築を検討することも視野に入れていきたい」との意気込みを示した。

医師偏在対策についての国の動きと日医の対応

-日医・今村常任理事

 「第2部:医師偏在対策について」では,今村日医常任理事がこれまでの議論の経緯と医師偏在対策の概要や日医の考えを説明。
 2024年4月に武見厚労大臣(当時)が「地域ごとに医師の数を割り当てることも含めて検討すべき」との考えを示したことを契機に,医師偏在対策の議論が急速に動きだし,12月に「医師偏在の是正に向けた総合的な対策パッケージ(以下,偏在パッケージ)」が提示されるに至った経緯を報告。
 その内容は,8月に日医が公表した6項目の偏在対策案に沿ったものであり,基本的に評価しているとした上で,現在,医療法をはじめとする関連法の改正や財政支援のための予算措置が令和8年の本格実施に向けて進められている状況を解説した。
 続いて,偏在パッケージに示された具体的な取組みとして,以下の施策を取り上げて説明。

■医師確保計画の実効性の確保

 ― 「重点医師偏在対策支援区域」選定と「医師偏在是正プラン」作成

 人口減少よりも医療機関の減少スピードの方が速い地域などを「重点医師偏在対策支援区域」(以下,重点支援区域)に設定するとともに,医師確保計画において「医師偏在是正プラン」を策定し,重点支援区域で優先的かつ重点的に偏在対策を進めることについて解説。
 重点支援区域の設定にあたっては,厚労省が候補区域(109区域)を例示しているものの,医師偏在指標だけで判断するのではなく,地域の実情に応じて選定するよう強調。大都市圏では選定が難しい都道府県も出てくることが予想されるが,「全都道府県が少なくとも1地域は選定できるようにしている」と理解を求めた。
 また,重点支援区域における「診療所の承継や開業支援事業」については,令和8年度の本格実施に先行して令和6年度補正予算で財政支援することが決定しており,これらの内容は地域医療対策協議会や保険者協議会で決定することから,各都道府県医が議論に積極的に関与していくことを求めた。

■地域の医療機関の支え合いの仕組み

 ― いわゆる外来医師多数区域における新規開業規制等について

 外来医師過多区域において,新規開業希望者には提供する予定の医療機能等の事前届出(開業6か月前)を求めることとともに,地域で不足する機能を担わない医師に対しては,それらの機能の提供を要請したり,勧告・公表などを行うことについて説明。
 まず,その対象区域については,外来医師多数区域の中から,今後選定される予定であり,大都市圏の一部の地域に限られる見通しを示した。
 また,要請や勧告がなされた医療機関には,保険医療機関の指定期間の短縮(通常6年→3年)が可能とされていることについて,ここに決着するまでには,保険指定の取り消し・不指定といった議論もあったが,日医が強力に反対したことによって押し戻した経緯を報告した。
 そのほか,保険医療機関の管理者要件の見直しについては,美容医療への流れ(いわゆる「直美」)に一定の歯止めをかけることもふまえて,2年間の臨床研修および保険医療機関において3年間保険診療に従事する要件が示されているとした。

■地域偏在対策における経済的インセンティブや医師養成課程を通じた取組み

 重点支援区域をはじめとする医師不足地域での医師の勤務を促進することを目的に,経済的インセンティブを講じることが示されていることについては,詳細な議論はこれから行われるとした上で,医師への手当等は,令和9年度以降の実施が予定されており,保険者の財源拠出で賄う方向であると説明した。
 さらに,従来から行われている医師養成課程を通じた取組みに関しては,今後も日医が議論にしっかりと関与し,少しでも若手医師にとって魅力あるものにしていくと強調した。

新潟県の医師偏在対策-医師会・行政・大学の連携

-新潟県医・堂前会長

 今村日医常任理事による「医師偏在対策」の説明の後,新潟県医師会・堂前洋一郎会長が行政や大学とともに行った医師養成課程での取組みについて報告した。
 新潟県は,県内7医療圏のうち6医療圏が医師少数区域に位置付けられており,さらに25~49歳の医師は全国よりも少ない傾向にあることなどから,医師養成数を現在の2倍にするために,医学部の地域枠の拡大や,特色ある初期研修プログラムを中心に,様々な取組みを展開している。
 地域枠については,新潟大学に40名の枠を設けるにとどまらず,首都圏を中心に私立大学にも地域枠を拡大し,令和7年度には計79名の枠を設置。
 また,臨床研修プログラムについては,基本の研修プログラムに,任意で「イノベーター育成」,「海外留学」,「国際保健(WHOチャレンジ)」,「産業医資格取得」,「行政(県庁)インターン」などのコースを追加選択できるようにして様々なキャリアを支援しており,令和4年に125名だった研修医数は令和6年に161名と順調に増加している。
 その他にも,医学生が医師会員の診療所を見学したり,希望者は医師会役員宅にホームステイをしたりするなど,医師会員との交流を活発に行い,地域の魅力の発信にも注力していることを紹介。
 最後に,医師偏在対策の解決に魔法の杖はないものの,行政,大学,医師会の連携,共同が重要であると強調した。

2025年5月1日号TOP