「地域医療構想における中京西部医師会の在り方」,「薬剤の出荷調整」,「国際保健規則(IHR)改正への対応」 について議論

 中京西部医師会と府医執行部との懇談会が10月7日(火),府医会館にて開催され,中京西部医師会から13名,府医から11名が出席。「地域医療構想における中京西部医師会の在り方」,「薬剤の出荷調整」,「国際保健規則(IHR)改正への対応」をテーマに議論が行われた。

地域医療構想における中京西部医師会の在り方について

 従来の地域医療構想は,団塊の世代がすべて75歳以上となる2025年を目標年として,病院完結型から地域完結型の医療への転換を目指し,将来の医療需要に合わせて病床の機能分化・連携を推進することが大きな目的の1つであったが,2026年から始まる新たな地域医療構想では,85歳以上の高齢者の増加と人口減少がさらに進む2040年とその先を見据え,「地域医療介護構想」という観点から,入院医療だけでなく外来・在宅医療,介護連携等も含む医療提供体制全体の課題解決を図るべく,「治す医療」と「治し支える医療」を担う医療機関の役割分担の明確化と,医療機関の連携・再編・集約化を推進することにより,限られたマンパワーでより効率的な医療・介護の提供を可能とする持続可能な医療提供体制モデルを確立するという方向性が示されている。
 京都市の人口はすでにピークアウトして減少に転じる中,中京区では2030年頃まで人口増加が続くと予測されており,医療・介護の需要は引続き増大することが見込まれる。この需要増に対応する上で,最大の課題は在宅医療の担い手の確保であると考えている。府医の在宅医療・地域包括ケアサポートセンターが2024年度に実施したアンケート調査の結果では,現在,中京区で在宅医療に取り組む医師は60代が中心で,40〜50代の次世代の参画が少ないことがうかがえる状況にある。医師の高齢化が進む中で,将来的な在宅医療提供体制の維持が危惧されるところである。
 この課題を克服するためには,地域全体で患者を支える体制の構築が不可欠である。今年度から「かかりつけ医機能報告制度」が開始されるが,地域の各医療機関が対応可能な時間外診療や在宅医療の範囲を明確にすることで,医療側もこの制度を有効活用して情報共有を行い,医師同士の連携と役割分担を促進していくことが重要である。これにより,体力的に厳しい医師の業務を他の医師が補うといった助け合いの仕組みが生まれ,地域全体の医療提供能力を高めることが可能になると期待している。
 府医としても,従来の「地域ケア委員会」を今期から「地域医療対策委員会」として位置づけを変更し,新たな地域医療構想・介護構想への対応の強化を図る考えである。また,在宅医療・地域包括ケアサポートセンターを中心に,総合的な診療力の向上や在宅医療におけるチーム医療の推進等を目的とした各種研修会を実施している他,各地区医の在宅医療担当理事や多職種団体,行政等とともに「京都在宅医療戦略会議」を定期的に開催するなど,地域の在宅医療・介護提供体制の構築・充実に資する取組みを展開している。
 これからの地域医療構想においては,医師それぞれがかかりつけ医機能の向上に努めながら,個々の医療機関の努力に依存するのではなく,各医師会が主導して連携のプラットフォームを構築し,チームとして地域の医療ニーズに応えていくという新たな在り方を模索していく必要がある。

〜意見交換〜
 その後の意見交換では,医師会に未加入の在宅専門クリニックの参入により,実態の把握が難しく,地域連携に分断が生じることに懸念が示された。営利目的での参入は,診療報酬の変動によって撤退するリスクもあり,最終的に地域医療を支えるのは地元の医師会であるとの認識が共有された。
 今後の医療提供体制について,個々の医師単位で診療を完結させるのではなく,かかりつけ医機能報告制度などを活用して医師や多職種間の連携を強化し,地域全体で支えるチーム医療の構築が不可欠であるとの意見が挙がり,府医からは,さらなる連携の推進により医療・介護の切れ目のない提供を目指すとして,京都地域包括ケア推進機構が運営する「在宅療養あんしん病院登録システム」や,府医が展開する「京あんしんネット」の活用を呼びかけた。

薬剤の出荷調整について

 医薬品の供給が不安定な状況は,2020年の後発医薬品メーカーの不祥事を契機に,世界的な原材料調達の遅延やサプライチェーンの問題,さらには新型コロナウイルスやインフルエンザの流行といった複合的な要因によって生じている。厚労省は対策を講じているものの,医療現場での医薬品不足は依然として深刻な課題である。
 京都府の後発医薬品安心使用に係る意見交換会では,製薬会社の業界団体から供給不安解消に向けた取組みとして「安定供給責任者会議」を設置し,一定の効果を上げていると説明があった。しかし,限定出荷が解除された際に,特定の企業に注文が殺到することを避けるため,業界全体での一斉供給再開は,公正取引委員会から「談合」と指摘される可能性があるとして,調整が極めて難しいというジレンマを抱えていることが示された。
 また,生産量自体はコロナ禍以前より増産されているにもかかわらず供給不足が発生している薬剤があり,その背景には大手チェーン薬局に偏在しているという構造的な問題があることも指摘されていた。
 今後の見通しとして,医薬品不足の解消は当初2029年度と予測されていたが,業界団体の努力により2027年度への前倒しが目指されている。しかし,後発医薬品の供給不安が解消されない中で,長期収載品の選定療養費制度など,国が後発品使用を強力に後押しする政策を推進しており,政策間の矛盾が医療現場の混乱を助長している状況である。
 こうした状況を受け,日医も本年8月に政府へ提出した2026年度予算要望の中で,新たに「医薬品の安定供給」に関する項目を追加し,安定供給に向けた製造能力の強化や後発医薬品産業の構造改革を強く求めており,医療界全体として政策レベルでの抜本的な対策を要請している。現場の声を国に届け続け,実効性のある対策を求めていくことが重要である。

〜意見交換〜
 その後の意見交換では,鎮痛剤や抗てんかん薬といった基本的な医薬品でさえ入手困難である実態が報告された。また,薬価が極端に低く設定されていることが製薬会社の生産意欲を削ぎ,供給停止につながっているとの構造的な問題も指摘された。薬価が安い現状では,メーカーに安定供給を求めること自体が難しく,国の薬価政策そのものへの見直しを求める声が上がった。

国際保健規則(IHR)改正への対応について

 国際保健規則(IHR)とは,疾病の国際的な蔓延を防止しつつ,人やモノの国際的な移動を不必要に妨げないことを目的として採択された規則である。このIHRの改正案が議論される過程で,当初,「WHOの勧告に従うことを約束する」という加盟国の主権を制限しかねない強い文言が含まれていたため,ワクチン接種の強制などへの懸念が広がった経緯がある。しかし,これは各国の反対により最終的に撤回されている。
 改正内容の核心は,新たに「パンデミック緊急事態」という定義を設けた点にあり,広範囲に及ぶ感染拡大や社会・経済的な混乱を引き起こすリスクが高い事態を指す。ただし,この緊急事態が宣言された場合でも,WHOから加盟国への勧告は,従来どおり「法的拘束力のないもの」であると明確に位置づけられており,今回の改正によって一般の医療機関に新たな義務や対応が直ちに課されることはなく,国家の主権が侵害されるといった懸念も厚労省は公式に否定している。
 改正には,医薬品などへのアクセスを促進するための国際協力強化や,国内におけるIHR対応のための委員会設置などが盛り込まれている。日本政府としては,新型コロナウイルス感染症の教訓を踏まえ,国際協調の中で感染症対策を進めていく方針であり,今回の改正もその一環と捉えている。今回の国際保健規則(IHR)改正にともない,日本国内でも今後1〜2年のうちに,緊急事態宣言の根拠となる特措法や,デジタル健康証明書の国際標準化など,関連する国内法の整備が進められる見通しである。
 今後,この改正内容を国内法にどのように反映させていくかが課題となるが,現時点で医療機関に直接的な影響が及ぶ可能性は低く,府医としても,引続き日医や厚労省からの情報を注視し,会員に速やかに情報提供を行っていく考えである。

保険医療懇談会

 初・再診料の加算や生活習慣病管理料と他の点数の併算定の可否等について整理し,算定にあたっての留意点を説明するとともに,算定漏れを防ぐなど適正な運用により健全な医業経営を呼びかけた。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。

2025年11月15日号TOP