勤務医通信

医療 DX の時代!?

京都医療センター
白神 幸太郎

 このたび勤務医部会幹事長を拝命しました京都医療センターの白神(しらが)と申します。身に余る大役ですが,働き方改革や医師偏在,医療安全や病院経営など山積する課題について幹事の先生方とともに取組みたいと存じます。どうぞよろしくお願いします。
 さて,本稿では働き方改革や病院経営,医療の質の改善に大きく期待されている医療DX(デジタルトランスフォーメーション)について考えてみたいと存じます。先ごろ開催された医療マネジメント学会京滋支部学術集会に参加し,各病院の取組みに大きな刺激を受けました。「そうはいってもまだまだ…」と思っていたらいつの間にか医療現場に浸透していることに驚きました。ごく普通にスマホで予約がとられ,スマホが外来へと案内,外来ではAIを使って問診が行われ,AIが情報収集してカルテやサマリーを作成し,医師や医療スタッフはそれら文書の承認作業を行う,すでにあまり珍しくなくなっているようです。自分をアップデートする必要を感じました。
 医療DXとは,デジタル技術を活用して,医療現場の課題を解決し,より質の高い医療と介護を提供することを目指す取組みとされています。厚生労働省もマイナ保険証やマイナポータルの運用を軸に,医療従事者の負担軽減,医療の質の向上,国民の健康増進などを目指して積極的導入を図っているようです(当職は全くICTについては専門外ですので以上は受け売りです)。
 実は当院でも電子カルテ上の患者情報を一元管理し,俯瞰的に情報を「見える化」するために思い切ってICTの導入に踏み切りました。当院では,かねてより病院経営を改善するべく在院日数調整,戦略的集患による新入院患者の獲得に注力してきましたが,なかなか大変な道のりでした。そんな中で見えてきた院内の数々のボトルネックを解消し,業務改善と効率的病床運用のため,以下の目的で新システムを導入しました。

  • 病棟ごとの病床利用状況の一元的把握。入床状況をリアルタイムで集計し,例えば救急患者が来院した場合にどの病棟へ入院してもらうかを瞬時に判断する。
  • 診療科ごとの入院患者数や在院日数等の把握。各診療科で目標KPIを設定して達成状況を確認,経営意識の醸成を図り患者確保と在院日数調整に役立てる。
  • 院内重症患者のリアルタイムでの情報共有。電子カルテから各患者のリスクスコアを計算して一覧表示,RRTによる急変対応に役立てる。
  • 病棟ごとの繁忙度やマンパワーの可視化。看護師の習熟度や人数,病棟での仕事量を計算し,応援体制を組んでタスクシフト,タスクシェアに役立てる。
  • 病棟ごとに手術や検査の進捗状況などを把握し,業務効率,マンパワーの応需を適正化する。

 導入して半年,決して使いこなせているとは言えないものの,これらの取組みによって徐々に「従来型縦割り組織」から「リアルタイム情報共有型組織」への変換を図っています。患者の状態変化にいち早く対応し,患者安全や医療の質の担保には有用と思われます。病院経営の面からは,新入院患者数や収益に良い影響が生じつつあります。看護職員の超過勤務時間も減少傾向が認められました。もちろんこれらはICTのみの効果ではなく,ICTというツールを用いた現場の取組みの成果と考えています。一方,きわめて厳しい病院経営状況の中で,働き方改革や医療の質,患者安全を両立するためのツールとしてICTはきわめて有望ではありますが,それにともなう初期投資も大きく,諸刃の刃の感は否めません。我々のスキルを上げる必要があります。“掛け声だけのDX”“高価なおもちゃ”と言われないよう,使い切りたいと考えています。

Information
病 院 名  京都医療センター
住   所  京都市伏見区深草向畑町1-1
電話番号 075-641-9161
ホームページ https://kyoto.hosp.go.jp/

2025年11月15日号TOP