令和7年度 近畿医師会連合定時委員総会 開催 3つの分科会で様々な角度から“医療界が抱える課題”について議論

 令和7年度近畿医師会連合定時委員総会が9月7日(日),和歌山県医主管のもと,ホテルグランヴィア和歌山で開催され,近畿各府県医から 207 名が参加,府医からは役・職員 33 名が出席した。
 午前中に行われた分科会では,第1分科会「医療保険」,第2分科会「災害医療」,第3分科会「産業保健」に分かれて各府県医で議論を交わしたほか,併せて常任委員会も開催された。

 午後から開催された総会では,委員長や来賓等からの挨拶の後,令和6年度会務報告が行われるとともに,議事では令和6年度決算,令和7年度事業計画・予算がそれぞれ可決・承認された。
 その後,決議案が提出され,採択された。
 総会終了後は,日医会長より「中央情勢報告」と題して,特別講演が行われた。
 また,来年は府医が主務地となり,令和8年9月6日(日)にホテルグランヴィア京都で開催される予定である。

松井府医会長

第1分科会「医療保険」

 第1分科会では,次期診療報酬改定への対応について,城守日医常任理事から中央情勢が説明された後,各府県から次期改定で要望すべき事項などを発言し,活発な意見交換が行われた。府医からは,米林副会長・上田副会長・小柳津理事・鎌田理事・内田理事・飯田理事・細田理事・廣嶋理事・藤田理事・田村理事・松村理事が出席した。

次期診療報酬改定への対応に係る最近の中央情勢について

城守日医常任理事

 城守日医常任理事から,最近の中央情勢について説明があった。
 冒頭,財務省の春の建議に触れ,個別の診療報酬点数について,①外来管理加算を再診料に包括化,②機能強化加算は廃止,③処方箋料は院外処方と院内処方の適正な水準を検討,④リフィル処方が活用されるよう,診療報酬上の加減算を含めた措置を検討―の4点が挙げられていると説明。10月から中医協の第2ラウンドでの議論でも,支払側から同様の主張が予想されることから日医としてしっかりと反論していくとの意向を示した。
 かかりつけ医機能報告制度と診療報酬上の評価のあり方については,かかりつけ医機能報告制度は,診療報酬上の評価と結びつけて議論されるものではないと強調。かかりつけ医機能報告制度は,かかりつけ医の認定や制度化するものではなく,最適な医療提供体制を構築するために必要な制度であり,医療法上もそのように規定していると説明し,診療科にかかわらずその機能を持てるような要件設定にしたため,財務省としては,全体に網をかけることができなくなったことから,診療報酬でかかりつけ医とそれ以外の分断を狙ってくることが予想されるとして,今後の中医協での議論を注視するよう呼びかけた。
 骨太の方針2025については,「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と記載されたが,従来の目安対応が完全に外れた訳ではなく,従来と同様の適正化が行われる可能性は非常に高いと見通した。
 新たな地域医療構想に向けた病床削減,OTC類似薬,出産の保険適用もあわせて,厚労省の社会保障審議会医療保険部会で一定程度の方向性を決めて,その方向性に基づいて中医協で具体的な策を練ることになるため,医療保険部会の段階でしっかりと日医の主張を述べていきたいとした。

次期診療報酬改定で特に要望すべき事項を意見交換

小柳津府医理事

 小柳津府医理事は,基本診療料の大幅な引上げが大前提だとした上で,物価高騰,賃金上昇により医療機関の経営は非常に厳しい状況であるが,公定価格により運営する医療機関ではその上昇分を価格に転嫁することができないとし,他産業と比較するとベースアップ評価料の点数だけでは不十分であり,物価高騰への対応も含めて,使途を限定しない基本診療料の大幅な引上げを要望した。また,入院基本料は改定ごとに施設基準の厳格化が行われており,病院はその都度対応を余儀なくされていることから,施設基準の緩和を求めると主張した。
 城守日医常任理事も触れた春の建議についても,外来管理加算を再診料に包括化など到底容認できないものばかりであると指摘するとともに,診療所の診療報酬を引下げて病院に充当するといった医療界の分断を招くような方法ではなく,それぞれ適切に外来医療の評価をすることを求めた。
 各府県からも,物価高騰,賃金引上げに対応するために基本診療料の引上げを求める意見が相次いだほか,生活習慣病管理料の療養計画書の運用や併算定不可項目の見直し,特定疾患療養管理料の対象疾患の追加を求める意見もあった。

現在の医療保険制度における不合理な点を意見交換

 小柳津府医理事は,骨太の方針2025 の「給付と負担の見直し」,「OTC 類似薬の保険給付の在り方の見直し」,「保険外併用療養費制度の対象拡大や保険外診療部分を広くカバーし,公的保険を補完する民間保険の開発を促す」といった記載について,公的医療保険の給付範囲の見直しの議論が進むことが懸念されるが,財源的な理由で必要な医療を制限すると,患者の所得によって受けられる医療に差が生じることから認められないと主張した。
 また,医療DXは,安心・安全な医療の提供と同時に医療従事者の負担軽減に寄与するものとされており,推進そのものは反対するものではないが,高額な導入費用への補助金は不十分であり,ランニングコストやセキュリティ対策といった課題もあると指摘。導入するかどうかはあくまで医療機関の選択であり,義務化することは絶対に認められないと強調した。
 各府県からは,選定療養費の拡大やOTC類似薬の保険適用除外は,社会保険料の負担軽減よりも自己負担が増加することを国は説明すべきとの意見や,マイナ保険証の利用促進が医療機関側の努力に委ねられ,健康保険証の有効期限切れに起因する窓口での混乱やオンライン資格確認時の不具合対応にも多くの時間を要しているとして,制度運用の負担を医療機関が担う構造は是正されるべきであるとの意見が出された。

第2分科会「災害医療」

 第2分科会では,「災害医療」をテーマに,避難所支援の準備状況やJMAT派遣の体制整備について,各府県の進捗状況を共有するとともに意見交換が行われた。府医からは,谷口副会長,禹副会長,髙階理事,市田理事,尾池理事,武田理事,西村理事が出席した。

特別支援学校の福祉避難所への指定状況について共有

 内閣府では,障害のある子ども達が災害発生時に安全で安心して避難生活を過ごせるよう,令和3年5月に災害対策基本法施行規則を改正し,福祉避難所について,予め受入対象者を特定し,本人とその家族のみが避難する施設であることを公示する制度を創設するとともに,「福祉避難所の確保・運営ガイドライン」を改正した。その中で,特別支援学校について,障害のある子どもやその家族,特に在校生等が避難するための指定福祉避難所とすることも示され,個々の事情に留意しつつ,関係地方公共団体が人材の確保や備蓄等について必要な支援を行うことも示された。
 本分科会では,各府県の指定福祉避難所,特に特別支援学校の指定状況について現状を共有するとともに,各府県が考える課題等について意見交換を行った。

■近畿2府4県における特別支援学校の福祉避難所への指定状況

近医連アンケート調査より
髙階府医理事

 髙階府医理事は,特別支援学校の運営主体(都道府県)と避難所の指定主体(市町村)が異なることによる連携のあり方,資機材や人材の確保,医師会の役割,中山間地に所在することが多い特別支援学校までのアクセスの問題,一般避難者への説明(公示),学校再開との両立など,多くの課題が存在すると指摘。事前の協定も含めた連携の推進が重要との考えを示した。
 大阪府医からは,学校の規模や障害特性は多様であり,府教育庁が地域を巻き込んだ避難訓練(支援学校での実施率89.1%)を推進しており,内閣府や日医の方針は,特別支援学校に通う子ども達の避難や学校再開もスムーズになるため,非常に有益と捉えているとの意見が示された。
 一方で,兵庫県医からは,学校(県)と市の防災担当部署との連携不足,遠距離通学者の問題,在校生以外の発達障害者の把握ができていない点が課題として挙げられた。特に,医療的ケアに必要な非常用電源の確保が大きな問題点として指摘され,医療的ケア児の避難場所は基本的には病院かそれに準ずる施設しかないと考えているとの意見が示された。
 これらの意見に対し,細川日医常任理事は,特別支援学校の「子どものための指定福祉避難所」指定促進に向けた動きは日本小児神経学会の強い要望もあり,日医が連名で内閣府に要望を行った経緯を説明するも,「円滑な運用に向けた制度設計はまだまだこれから」との考えを示し,分科会での各府県医からの意見を内閣府に届け,より適切な運用がなされるよう働きかけたいと約束した。

JMAT 派遣の体制整備について

 JMATについては,令和6年能登半島地震において,日医から発出された「JMAT派遣の要請」に対する各府県医事務局の具体的な対応を共有するとともに,今後のJMATのあり方について意見交換が行われた。
 府医からは髙階府医理事が,医師会の事務局機能への負担が課題であるとし,事務局機能をいかに維持・継続するかの検討が必要だとした。
 兵庫県医はJMATの課題として,統括機能とロジスティクス機能が弱点であると指摘。そこを日本災害医学会の災害医療コーディネートサポートチーム(CST)に支援いただくことが重要で,CSTの役割とその存在の周知も必要だとの考えを示した。
 また,誰でもJMAT隊員になれる現状は統制が取れないリスクがあり,隊員の質を誰が保証するのかが課題とする意見や,DMATと異なり,都道府県医が隊員を十分に把握・管理できていない可能性も指摘された。
 大規模災害時,特に南海トラフ地震などでは,単一の都道府県医だけでは継続的なチーム派遣が困難であるため,複数の都道府県医による合同チームやブロック単位での連携,派遣調整を行う必要性も示され,日医内にロジスティックチームを創設し,調整機能を強化してはどうかとの意見も出された。
 また,災害現場では,地域の統括本部が情報を集約し,各チームに指示を出す機能が重要であることから,JMAT統括本部がDMATや日赤チームなど先遣隊と緊密に連携し,情報を一元化できるかどうかが活動の鍵となり,統括機能に関する研修を重点的に行うべきとの意見も示された。
 最後に,細川日医常任理事が総括として,令和6・7年度日医救急災害医療対策委員会「JMATのあり方」ワーキンググループが取りまとめた報告書(JMAT要綱の改定案)について説明した。
 改定案には,現行の基本理念を整理した上で4項目を記載。医師会の災害対応の最終的な目標を,「被災地に地域医療や地域包括ケアシステムを取り戻すことにある」と明記した。
 基本理念では,JMATの目的として「被災者の生命および健康を守り,被災地の公衆衛生を回復し,災害関連死ゼロを目指し,被災地の地域医療や地域包括ケアシステムの再生・復興を支援すること」と記載。JMATへの参加については,「日医会員の資格の有無を問わず,医師としてのプロフェッショナル・オートノミーに基づく使命感を拠り所とし,日医会長の下に行われる医師会活動である」とした。
 分科会でも意見の出たJMATへの参加にあたっては,「災害医療やJMATの活動について必要な知識を習得し,提供する医療の質向上に努めることが求められる」とし,各府県の理解と協力を求めた。

第3分科会「産業保健」

 第3分科会では,「小規模事業場における産業医活動」,「職場におけるメンタルヘルス対 策・治療と仕事の両立支援・働き方改革」について,事前アンケートの結果を基に活発な意見交換が行われた。府医からは,森口理事,上田理事,近藤理事が出席。日医からは松岡常任理事が出席した。

中央情勢について

 松岡日医常任理事から,産業保健に関する中央情勢について報告がなされた。
 小規模事業場におけるストレスチェック義務化について,50人未満のストレスチェックの集団分析・職場環境改善は今後の検討課題として引続き議論が行われる予定と報告。日医の考え方としては,地産保の活用を強調して周知していく必要があるとした。また,外部機関の参入が予想されることから,外部機関のチェックリストについて50人未満の事業場が活用できるよう内容を見直し,サービスの質を担保することを強く求めること,地産保に利用者の増加に対応できるような十分な予算をつけて登録産業医を充実させることが必要であるとの考えを示した。
 治療と仕事の両立支援の推進については,労働施策総合推進法が令和7年6月11日に公布され,附帯決議を踏まえた留意事項として,産業医と主治医の間における効果的な情報交換のあり方,病気休職中の労働者からの相談窓口を明確にする等の職場復帰に向けた支援のあり方が提示された。

小規模事業場における産業医活動について

 事前アンケートの結果に基づき,各府県医より小規模事業場における産業医活動について説明があった。
 森口府医理事は,小規模事業場におけるマンパワーについて,「京都市内はゆとりがあるが,北部と南部は厳しい。高ストレス者の面接希望が増加すると大きな問題になる可能性がある。メンタルヘルス対策については非精神科の産業医も多いので研修を充実することが必要であるとともに,医師だけでは難しいため,保健師や労働衛生技術職などの多職種と連携することが今後の課題である」との考えを示した。
 各府県医からは,「外部機関の参入が増えてくると思うが質の担保と費用の設定を考えてほしい」との意見や,「小規模事業所のストレスチェック義務化について,実施状況のチェックはどのようになされるのか」などの質問があった。これに対し,松岡日医常任理事は,50人以上の事業所は労働局に提出する義務があるが,50人未満の小規模事業所については実施状況のチェックを受ける義務はないと回答。それに対して,「普及率が上がらないのではないか」,「この問題の根本的な解決にならないのではないか」との意見が挙がった。
 松岡日医常任理事は,小規模事業所が対象となることによる産業医の供給と需要に関する課題について,非精神科の産業医に対して研修を実施することで質の向上に努めること,産業医の半数以上が産業医として働いていない状況を踏まえ,潜在産業医の掘り起こしを行うこと,多職種との連携を広げていくことで解決を図りたいとの考えを示した。また,企業側は制度自体を知らない場合もあるので,制度としてメンタルヘルス対策を見直すことも必要と述べるとともに,ストレスチェックだけではメンタルヘルス対策が十分という訳ではないので,他の対策も併せて周知する必要があるとし,「事業を拡充することについて,産業医の皆様とともに考えていきたい」と締めくくった。

職場におけるメンタルヘルス対策・治療と仕事の両立支援・働き方改革について

 協議会では,職場におけるメンタルヘルス対策・治療と仕事の両立支援・働き方改革全般についても協議がなされた。
 各府県医からは最近の話題として,健康経営の取組みはしっかりしているものの有害物質の対応が不十分な事業所があること,病院等の産業保健活動では若い産業医の発言権が低いこと,労働者の復職にあたり産業医と主治医の意見や見解がずれることが多く,それによって企業の最終判断が非常に難しくなり,企業の人事部長から労働者が復職しないよう産業医から説得してほしいと依頼される事例があるなどの発言があった。
 また,職場に提出するため「うつ病の診断書等」をオンライン診療で簡単に作成する機関が東京にあるとの意見があり,滋賀県だけでなく京都府や兵庫県の事業場でも確認されているとの報告があった。
 松岡日医理事からは,適応障害や発達障害に対応するために精神科医とのネットワークが必要ということや,メンタルヘルス関連の研修会を企画するため産業医大の講師を派遣できるシステムがあること,産業医資格をお持ちの先生が産業医として1社目の壁を乗りこえるためにサポートできる資料を作成予定であることなどが報告された。

2025年10月15日号TOP