投稿エッセイ 北山杉 ―― 昭和の医者から ―― 熱中症は誤りである

左京医師会  加藤 静允

 温暖化は年々進み,北極圏の永久凍土が溶けだし大穴が開いているというのに,地球人類はしっかりした対策もせず,日々の快楽に酔い痴れている。温暖化の進む夏,今年も『熱中症』という言葉をくり返し聞かされた。
 『熱中症』という用語は誤りである。言語学的には『中熱症』が正しい。『熱ニ中(アタ)ル』である。中毒症・『毒ニ中(アタ)ル』という病名は確固たる学術用語として使用されている。熱中症などという病名は何時頃,誰れがつけて一般に使われるようになったのであろうか。昭和の普通に教養のある医学者なら,こんな誤った病名を許すはずは無いのである。おかげで『何々に熱中する』との懐しい言葉が使いにくくなった。
 もう一つ,テレビを見ていて大へん気になる言葉使いがある。特に美術館や博物館の学芸員などが,あたり前のように発する『これが○○になります』との言い方である。資料を持ち出して来て『これが織田信長公の手紙にナリマス』と言うのである。聞く度に文系学者の使う言葉か!と苦笑する。ある資料や美術品を取り出し,相手に呈示する時『これが織田信長公の手紙でゴザイマス』または『これが○○デス』と言うのが正しい用語であろう。
 長い長い昭和が終り,平成になったと思ったらアッという間に令和となった。平成はともかく,令和が好きになれないので2025年と書くようになった。令は象形文字でその成り立ちがあまり好ましくない。文字の意味範囲は時代により変化するので,後代の詩文には良き季節を「令節」などとの使用例もみるけれど,やっぱり好きになれないのである。江戸時代末期,幕府からの文久の改元願いに,朝廷から『令徳』と『元治』が示されたという。さすが『徳川ニ令スル』のは困るとした幕府は令ノ字今日マデ元号ニ用ヒラレタル例ナキ文字ニテと令徳は断り,元治となったという。元治は1年2ヶ月で慶応に変ってしまったのだが。
 子曰,觚 不觚,觚哉,觚哉。(論語 雍也6-25) 子曰ク 觚(コ) 觚(コ)ナラズ,觚(コ)ナランヤ,觚(コ)ナランヤ。孔子の時代ですら,ものごとのはどんどん変化していて,孔子を嘆かせたようである。21世紀の今,平成30年のその前の昭和ははるかに遠い昔となった。昭和の医者からは考えられない手術がすべて内視鏡でなされているのを聞いて感嘆することしきりである。東京にいる患者を京都にいる医者が手術するのが普通という日も遠くなさそうである。
 民主主義が駄目だと解ってきた現在,せめて無戦争とよき財の分配が行われるAI(栄愛)政治は実現するのであろうか。

2026年1月15日号TOP