2022年12月1日号
今年 48 回目となる京都医学会を9月 25 日(日)に開催。新型コロナウイルス感染症の状況を踏まえて,来場者を制限し,全プログラムを府医会館からライブ配信する形となった。
午前9時 30 分から一般演題,初期研修医セッションが開始され,特別講演,シンポジウムに至るまで,終日熱心な討論が展開された。また1年間の学術研鑚の総括として学術賞・学術研鑚賞の表彰も行われた。
また,10 月末までアーカイブ配信も行い,多くの医師・医療関係者が視聴した。
第 48 回京都医学会は新型コロナ第7波の中,ハイブリッド形式で行われた。昨年,一昨年のように WEB 開催のみでも一定の成果が得られていたが,今回は府医会館で討論やチャットでの質疑応答も活発に行われ,コロナ禍での学会開催に世間が慣れてきたことが窺えた。久しぶりの集会であったせいか時間が足りないという意見も頂戴したが,手際よく催行でき,ご協力いただいた関係諸氏に御礼を申し上げたい。今後も参加が容易なハイブリッド形式は学会開催の手段のひとつとして,感染状況に応じて考慮すべきと考えている。
さて,今年の特別演題は『コロナ禍をふまえた地域医療構想』というテーマで産業医科大学 公衆衛生学教授の松田晋哉先生にご講演いただき,さまざまなデータから平易に解説していただいた。また,医師会が地域医療を牽引するリーダーであれという檄も頂戴した。シンポジウムは『コロナ禍で医療提供体制はどう変わったか?』というタイトルで谷口洋子府医副会長を総括者として,京都府病院協会会長 辰巳哲也先生,たなか往診クリニック 院長 田中誠先生,武田貞子府医理事にそれぞれご発言いただいた。京都府内の病院と医師会がチーム一体となり,臨床の現場で新型コロナに対してどう対処してきたのかを振り返り,今後につながる内容であった。
今回,一般演題は昨年よりやや少ないものの広く 49 題の応募をいただいた。内容は循環器系3題,消化器系3題,内分泌・代謝系4題,呼吸器系1題,腎尿路系6題,脳神経・精神系・運動器系6題,産婦人科系2題,耳鼻咽喉科系7題,血液系1題以外に,COVID-19 関連の演題も見受けられた。一昨年から新設された初期研修医セッションは 10 題と昨年より3題増えた。いずれも日常診療に基づいた興味深い取組みや貴重な症例報告であった。
さて,昨年の後書きには第6波が来なければ良いと書かせていただいたが,2022 年も深まり今や第8波を案ずる状況にある。新興感染症の脅威はまだまだ続くであろう。医療における関心ごとは多岐にわたる中で,来年の京都医学会の内容を学術・生涯教育委員会の先生方と検討させていただいている最中である。来年も多数のご参加をいただけるよう願っている。
特別講演は,産業医科大学医学部公衆衛生学教授の松田晋哉先生に「コロナ禍をふまえた地域医療構想」をお聞かせいただいた。
まず冒頭で,新型コロナウイルス感染症の流行は我が国の医療介護サービス提供体制の課題を明らかにし,体系的情報システム整備の遅れは,感染状況の迅速な把握とその分析結果に基づく柔軟な施策対応の障害となり,関連部局ごとに,相互の連携なく構築されたシステムが,現場の入力作業負荷を膨大なものにしてしまい,本来業務の妨げとなった。また,COCOA などのシステムの度重なる不備は国民の間に,国の施策そのものへの不信感を高めたと指摘され,ネットワーク形成による組織全体の業務の効率化・可視化,そのための情報の標準化・互換性が必要と強調された。
我が国では一部の地域で医療逼迫が生じる事態となったが,その理由として医療機能の分化と連携体制の構築が遅れていること,医療資源の配分のバランスの悪さが指摘された。その意味でも医療計画と地域医療構想の実効性が求められているとして,その最終的な到達形は施設の機能分化とその連携をベースとしたネットワーク化であるとされた。
今回の新型コロナウイルス感染症流行で,アメリカやフランスでは我が国の 10 倍以上の感染爆発が生じたの に「医療崩壊」が生じなかった理由として,プライマリケアが機能することで入院のピークが抑えられたことを挙げられた。我が国でも,今後,急性期医療・専門医療とプライマリケアの融合が必要ではないかと提言された。
最後に,高齢社会では医療介護サービス提供体制は,ニーズの複合化への対応を求められているため,入院医療の裏づけと介護サービスと連携した,在宅医療の整備が必要になってくるとされた。
学術・生涯教育委員会委員長 川勝 秀一 記)
シンポジウムは,“コロナ禍で医療提供体制はどう変わったか?”というテーマで,谷口府医副会長を総括者として,3名の先生にお話を伺った。
最初に谷口府医副会長からは,京都府内での2020 年からのコロナ感染の状況とそれに対する行政や府医の対応の概要が説明された。
京都府病院協会会長(京都中部総合医療センター院長)の辰巳哲也先生からは,“コロナ禍で経験した病院における医療提供体制”というテーマで,京都中部総合医療センターでの COVID 流行初期から現在までの診療体制やクラスター対策の変遷をお話しいただいた。当初の風評被害の克服や,複数回のクラスター発生時をいかにして乗り越えたかなど,貴重なお話が伺えた。また今後の課題として新興感染症の検査・治療体制の確立や,感染症以外の救急体制の維持,病院機能低下時の医療提供体制連携システム,健康弱者への支援などを提起いただいた。
たなか往診クリニックの田中誠先生からは,“コロナ禍における在宅医療とその普遍的な価値とは”というタイトルで在宅療養の看取りのケース,感染症のケース,施設の様子などをお話しいただいた。コロナ禍で病院での面会制限が行われ,どこの病院でも患者と家族が時間空間を共有する機会が激減し切実な問題となっている。コロナ禍で人と人の接触を避けるという観点から在宅医療が敬遠されるかと思われたが,むしろ在宅医療の需要が増加したこと,在宅医療は在院日数の短縮や看取りの増加など病院機能の補完という意味合いがあったが,在宅医療の普遍的な価値は“住み慣れた家で生活を送ることができる”ということにあること,在宅医療の質を保つため地域の医療介護従事者がそれぞれの持ち場で奮闘されたことをお話しいただき,心強く感じた。
武田府医理事からは, “ホテル療養の現場からというタイトルで,京都府で 2022 年8月末までにおよそ2万名が利用した宿泊療養施設の概要を紹介いただいた。第2波までは軽症者が多かったが,第3波以降では病床逼迫のため中等症以上の入所者が増加し入所中の症状悪化が大きな問題となった。その経験をふまえて第4波以降では血液検査や画像診断が必要な患者の病状を確認するため,陽性者外来を立ち上げ,多くの病院に協力いただいた。宿泊療養施設という限られた場所でありながら,ステージごとの役割変化が求められたが,内科医会や地区医を中心とした会員の尽力で見事に対応されたことに感銘をうけた。
総合討論では,各々の演者の立場からコロナ禍を振り返り,病院・診療所・医師会そして行政の連携の重要性を再認識する場となった。シンポジウムでコロナを取り上げるのは2年連続となり,会場での参加は限られた人数であった。来年こそは,コロナが収束し会員が一堂に会することができる京都医学会となることを願いたい。
(学術・生涯教育委員会副委員長
小暮 彰典 記)
松井府医会長の挨拶に続いて,令和4年度学術賞および学術研鑚賞の表彰が行われた。
京都府医師会学術賞は過去1年間に「京都医学会雑誌」に掲載された一般応募論文の中から,学術・生涯教育委員会委員と勤務医部会正副幹事長の投票によって選定された論文に授与されるものである。1位論文1編に 30 万円,2位論文1編に 20 万円,症例報告賞2編に 10 万円,新人賞1編に5万円の賞金と賞状が授与された。学術研鑚賞は前年度中に学術講演会等に率先して出席し,日医生涯教育講座の取得単位数の多い会員を表彰するもので,京都市内および乙訓・宇治久世会員は 60 単位以上,亀岡市,南部(綴喜・相楽),北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)地区会員は 40 単位以上の取得者を対象とし,京都市内・乙訓・宇治久世より 33 名,亀岡市より2名,北部より 18 名,南部より5名の計 58 名が選ばれた。
学術賞および学術研鑚賞の受賞者は以下のとおり。(敬称略・所属は当時のもの)
原著論文賞 1位
◆「COVID-19 感染疑い発熱患者連続 723 名の 病態検討(無床診療所発熱外来からの報告)」
医療法人仏光会小西仏光寺診療所
小西 正則
原著論文賞 2位
◆「上肢の神経障害性疼痛に対する局所静脈内神経ブロック療法」
宇治徳洲会病院 村川 和重
鬼頭 秀樹,竹田 智浩,棚田 大輔,
高雄由美子,松田 愛,仲井 理
症例報告賞
◆「巨大副甲状腺腺腫による高カルシウム血症に腎性尿崩症が合併し,術前管理に難渋した1例」
京都済生会病院 糖尿病内科 和田英美子
大西 彩加,片山 智也,北江 彩,
吉田寿一郎,原 将之,上野 理沙,
浅野 麻衣,秋本 和美,中村 直登
◆「黄体ホルモン放出子宮内システム(LNG-IUS)による子宮穿孔をきたした2症例:その診断と対応における腹腔鏡下手術の有用性」
洛和会音羽病院 産婦人科 野溝 万吏
矢野阿壽加,伊藤 美幸,福谷 優貴,
下園 寛子,瀬尾 晃司,藤井 剛,
堀 隆夫,佐川 典正
新人賞
◆「運動療法を用いた治療が奏効した骨盤うっ血症候群の一例」
代表:京都済生会病院 鎌野 俊平
秋本 和美
京都市内・乙訓・宇治久世
森島 正樹(中 西),赤城 光代(山 科)
赤城 格(山 科),増永慎一郎(京 大)
竹中 健(西 陣),野見山世司(中 西)
今林 丈士(宇 久),落合 淳(伏 見)
伝 俊秋(左 京),十倉 孝臣(左 京)
西尾 雅年(伏 見),関 透(下 西)
中川 卓雄(伏 見),八田 隆志(西 陣)
辻 俊明(西 陣),垣内 孟(左 京)
渡邉 雅彦(左 京),藤田 祝子(下 西)
西川 昌之(左 京),柴垣 一夫(中 西)
上田 通章(宇 久),鎌野 孝和(西 京)
田中 進治(中 西),神山 秀三(右 京)
矢野 豊(伏 見),山下 琢(下 西)
岡江 俊二(右 京),蘆原久美子(西 陣)
片岡 正人(山 科),西村俊一郎(伏 見)
小川 直(伏 見),山本 干城(宇 久)
林 誠(西 陣)
亀岡
中川 裕隆(亀岡市),十倉 佳史(亀岡市)
北部(船井・綾部・福知山・舞鶴・与謝・北丹)
肥後 孝(舞 鶴),西村 茂(福知山)
池田 義和(北 丹),冨阪 静子(福知山)
仁丹 利行(船 井),木村 茂(船 井)
髙塚光二郎(舞 鶴),宮地 高弘(与 謝)
中江 龍仁(北 丹),飯田 泰成(北 丹)
竹下 一成(福知山),松山 徹(福知山)
味見 真弓(与 謝),上田 誠(北 丹)
大槻 匠(綾 部),堀川 義治(与 謝)
萱谷 宏(船 井),大西 勇人(福知山)
南部(綴喜・相楽)
黒田 雅昭(相 楽),山口 泰司(相 楽)
飯田 泰啓(相 楽),飯田 泰子(相 楽)
岡林 正純(綴 喜)