勤務医通信

診療録の今・昔 ― 電子カルテにまつわる指導医の悩み ―

京都第一赤十字病院 副院長 リウマチ内科
福田  亙

昔のカルテは・・・

  われわれが研修医の頃(1983 年卒) には,内科ではすでにドイツ語を使うことはほぼなく,英語での記載が一般的でした。英語といっても「英語カナ混じり文」みたいな感じで,医学用語と定型句のみ英語で後は日本語という,今から考えるとおかしな言語で書かれており,書いた本人と同僚の医師以外にはほぼ理解できない,悪筆であれば同僚ですら理解できないようなものでした。今の研修医にn.p.(nothing particular)なんていっても誰にもわからないでしょう。また,私より上の年代の先生ではPOS やSOAP というカルテ記載のルールは一般的でなかったため,1日の記載が数行~数文字という先生も珍しくなかったと記憶しております。しかし,それはその時代の先生方がいい加減に医療をやっていたという意味ではありません。私が血液内科の専攻医をしていた頃,急性白血病の再発で入院となった患者さんの主治医になって,入院時に外来カルテを開いても,ほぼ毎回ドイツ語で数行しか書かれていないカルテで経過がわからずに外来を担当していた部長に聞きに行ったところ,発症からの経過をきわめて詳細に説明していただきびっくりしたことを覚えています。

電子カルテが診療を変えた

  当院では,2006 年よりオーダリング・電子カルテを稼動させました。15 年が経過して,電子カルテは院内にすっかり定着し,院内の医師も「紙カルテを知らない世代」が,むしろ多数派となっています。そんな中で,外来や病棟における「カルテ=診療録」というものの姿は大きく変わり,それはわれわれの診療のやり方,内容まで大きく変えました。その最大の功績は,「みんなが読める」ことであり,現代のチーム医療や医学教育の進歩に大きく貢献していると思います。すなわち,どこでも,いつでも端末さえあれば日本語でPOS に則ったカルテが参照でき,また記載できることにより, 主治医の考え,検査の進捗,治療方針などは,研修医をふくむすべてのチームスタッフが遅滞なく共有できます。また, オーダリングシステムにより,いつでも, どこでも指示が出せることや画像検査や病理検査がクリック数回で参照できることなども診療の利便性を格段に向上させています。一方で,数年間私が頭を悩ませているのは,「正しい電子カルテの書き方は?」ということであり,象徴的なのがカルテ記載のコピー&ペースト(C &P)に関する問題です。

C&Pは電子カルテに必要か?

  指導医として研修医のカルテをチェックする機会が多くありますが,彼らのカルテの多くには際立った特徴が見られます。それはSOAP に則ってしっかり記載されているのですが,SP に比べて,OA が大変長いということです。いうまでもなくSubjective(S)な訴えや状態とObjective(O)な所見から, 診療のPlan(P)を立案するためにAssessment(A)は,診療記録の中で最も重要な部分の1つです。そして,最近の研修医の記載するカルテのOとAは非常に長いのです。一見これはよいことのように思いますが,よくみるとそこに書かれているOは検査結果画面のC & Pや画像のC&Pで,Aでは前日のプロブレムリストのC&Pであり,そのアセスメントのC&Pがほとんどです。ところどころ,前日から変化している部分を書き変えてありますが,8~9割がたは前日と同じです。電子カルテを多職種の情報共有ツールと考えた場合,このような重複の多いカルテは読むのに時間がかかるわりに情報量が少なく「読みにくい」カルテと言わざるを得ません。せっかく前日のアセスメントを一部書き変えても,C&Pの中に埋もれると読み飛ばされてしまうかもしれません。したがって,私はしばしば研修医に「C&Pは多用せず,新規所見・陽性所見を中心に記載するように」と指導しますが,この「カルテのかさ増し」行動は,なかなか減ることがありません。見た目がきれいでボリュームのあるカルテを残すことが何らかの達成感・自己満足につながっているのかもしれません。電子カルテがもたらしたC&Pの功罪はほかにもいくつかありますが,紙面の都合で割愛します。電子カルテが定着したこの時代,そろそろC&Pの使用を含めた診療録やオーダリングの作法を整理して指導したいと頭を悩ますこの頃です。

Information

病院名 京都第一赤十字病院
住 所 京都市東山区本町15-749
電話番号 075-561-1121(代表)
ホームページ http://www.kyoto1-jrc.org/

2020年4月15日号TOP