第61回 十四大都市医師会連絡協議会

「新興感染症パンデミック対応」,「医療職へのハラスメントと暴言暴力対策」,「DNAR ならびに医療における情報セキュリティ・サイバーセキュリティ対策」について協議

 第61回十四大都市医師会連絡協議会が11月13日(日),千葉市医師会主管(会長:斎藤博明)のもと,新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点からWEB 会議システムを利用して開催された。全国14の政令指定都市から総勢406名が参画し,政令指定都市が抱えている医療を取り巻く諸問題について,活発な意見交換が行われた。

 開会式に引続き,第1分科会「新興感染症パンデミック対応」,第2分科会「医療職へのハラスメントと暴言暴力対策」,第3分科会「DNAR ならびに医療における情報セキュリティ・サイバーセキュリティ対策」の各分科会において,それぞれ直面する課題について協議が行われ,府医からも各担当理事が発言した(各分科会の状況は後述参照)。
 最後に,次年度の主管である堺市医師会・西川正治会長から,次年度は2023年11月11日(土)・12日(日)にスイスホテル南海大阪,ホテルアゴーラリージェンシー大阪堺にて開催すると報告され,盛況裡に終了した。

第1分科会「新興感染症パンデミック対応について」

 第1分科会では,これまでの新型コロナウイルス感染症への対応について問題点や課題を共有することで,今後の新興感染症パンデミック対策への指針とすべく,①ワクチン接種事業,②検査・診療体制について,事前アンケートをもとに協議・情報共有が行われた。

ワクチン接種事業について
 各都市より,集団接種・個別接種それぞれのメリット・デメリットが報告された。
 集団接種のメリット・デメリットとして,短期間にロスが少なく効率的かつ予診等にも複数の医師が対応できたことや,ワクチン配送についても効率良く行えたこと,不測の事態への対応にも多くの医師で関われた反面,医師・看護師・事務職の確保や調整に苦慮し,費用対効果の面では疑問が残ったとの報告があった。
 個別接種においては,かかりつけ医によるきめ細やかな対応ができたことに加え,基礎疾患を有する患者やアレルギーに対する不安のある方も安心して接種ができたことがメリットとして挙げられた一方で,デメリットとしては,スタッフの業務増大やキャンセルによるワクチンのロスなどが挙がった。
 各都市の取組みでは,移動が困難な方や施設入所者への対応として,個別接種と同様に行政と協議を重ねた上で,高齢者施設においてワクチン接種を開始し,対応できる医師がいない施設では外部の医療機関の協力により,施設に訪問して接種を行ったことや,居宅介護支援事業所が自宅療養中の外出困難者で接種ができていない者の調査を行い,接種希望者には,医療機関の協力を得て訪問によるワクチン接種を実施したことが報告された。
 ワクチン接種事業の円滑な実施にあたっては,各都市とも共通して,行政との密な連携と意思疎通,医師会・医療機関・薬剤師会・看護協会等,関係機関との連携・協働が重要であると締めくくられた。

検査・診療体制について
 各都市における対応状況として,診療体制が手薄な日曜日にドライブスルー方式での PCR 検査を実施したことや,感染拡大期には,自宅療養者の症状悪化に対応できるよう,各地区医の実情に応じて電話診療や往診ができる体制が構築されたこと,また,保健所からの依頼に応じて訪問診療チームを派遣したこと等が報告された。

禹府医理事

 京都府からは,禹府医理事が発言。感染が拡大し,医療が逼迫した状況にある時などは,自宅療養中の新型コロナ陽性患者の急性増悪を早期に把握するためには,かかりつけ医等によるオンライン・電話診療等を活用した健康管理が重要であるとして,府医から会員医療機関に対して積極的な関与を依頼するとともに,算定できる診療報酬等についても併せて周知したことを説明した。また,京都市と連携して「京都市電話診療所」を府医会館内に設置し,電話を用いて自宅療養者の健康観察を行ったほか,宿泊療養施設に入所している患者に対する出務医の診療にはタブレット端末を活用したことを紹介した。
 一方で,コロナ禍の臨時的かつ特例的な取り扱いとして初診からの遠隔診療や処方が認められたものの,医療はあくまで対面診療が原則であり,遠隔診療はそれを補完するものとして適切に組み合わせて行われるべきであると強調した。情報通信機器の進歩により得られる情報はますます精度を増し,診療の質を向上させる上で大きな役割を果たすとの認識を示しつつ,対面診療で得られる情報に劣ることは間違いなく,コロナ禍の混乱に乗じて,なし崩し的に初診からのオンライン診療が認められる結果となったことについて,あくまで感染症等により在宅療養中で通院が困難な患者や,離島,医療過疎地に住んでいる患者など,医療を継続的に受けることが困難な患者に限定すべきであり,利便性のみを優先して推進することは危険であると指摘した。医師は利便性のみに左右されることなく,患者にとって最も適切な治療方法を選択しなければならないと主張した。
 その後の意見交換では,検査体制は発熱外来だけではなく,休日等の対応を含めて行政との協力の下に構築する必要があることや,本来,検査や療養時の感染対策備品は行政の責任の下で備蓄されるべきであるが,医師会としても緊急時に備え,ある程度の備蓄が必要であるとの認識が共有された。

第2分科会「医療職へのハラスメントと暴言暴力対策について」

 コロナ禍での環境変化やストレスの増大が指摘される中,医療現場においても患者や家族等からのハラスメントや暴言・暴力,インターネット・SNS での誹謗中傷も増加傾向にあり,最近では医師や職員の生命が脅かされるような痛ましい事件も発生していることを背景として,医師や職員が安心して業務に取組めるよう,各都市において実践しているハラスメント対策の内容とその取組み状況について意見交換が行われた。

医療職に対するハラスメントの現状について
 冒頭,千葉市医師会より,本年4月に会員医療機関を対象に実施した医療職へのハラスメントに関するアンケートの結果が報告され,患者・家族等から何らかのハラスメントを受けた経験がある医療機関は約6割にのぼることが示された。医療職だけでなく受付等の事務職もハラスメントの対象となっていることや,暴言や恫喝,執拗なクレーム,人格否定など発言によるものの他,身体的攻撃,金銭や過大な医療サービスの要求など,その内容が多岐にわたり,多くの医療機関が対応に苦慮している現状が報告された。
 インターネットや SNS 等によるハラスメントについても被害を経験している医療機関が多く,各医療機関でもハラスメントへの対策としてマニュアルの共有,責任者の設置,録画・録音,警備会社への協力依頼,顧問弁護士への相談等,多様な対策が講じられている一方で,インターネット対策には専門的な知識を要することから,対策を講じることが難しい現状が明らかになったと報告された。

各医師会における対策・取組みについて
 各都市からは,これらの問題への対策として,警察と連携した啓発ポスターの作成・掲示,対応マニュアルの整備,警察関係者や弁護士によるトラブル・クレーム対策に係る講習会の開催,医療メディエーター養成研修の実施等の取組みが報告された。
 多くの都市において,自院で解決できない場合に相談できる仕組みの構築が課題となっている中,東京都医師会からは,病院でのトラブル対応の経験がある警察 OB を組織化した企業を起用した電話相談・訪問相談のスキームを構築していることが紹介された。また,北九州市医師会からは福岡県医師会団体制度「医療機関用クレーム対応費用保険」が紹介され,クレーム行為により診療が阻害された場合に,クレーム対応に関する無料相談サービスの提供や弁護士に委任した場合の費用補償により,解決をサポートしていることが報告された。

飯田府医理事

 飯田府医理事は,医療機関におけるトラブル対策の現状として,医療機関に課せられた応召義務が対応を難しくしていると指摘。また,医師はマスコミのネタになりやすく,患者優先に報道される傾向があるため,患者の権利意識も非常に高くなっており,クレームに対しては患者側に相当なアドバンテージがあるとした。今般のような明らかな刑事事件においては,迅速な警察権力の介入が不可欠である一方で,患者側と医療者のコミュニケーションエラーに起因するものも見られるため,日頃から患者との信頼関係を構築するよう努力することが大事であるとの考えを示した。
 また,警察との連携に関しては,日医が令和4年6月に警察庁に対して医療機関との緊密な連携を要請したものの,現実問題として,多くの案件の中から,医療機関におけるハラスメントに対してしっかりと対応していただけるのか,と疑問を呈した。応召義務に関しては,厚労省から令和元年12月25日に新たな解釈が示され,「患者との信頼関係が喪失した場合においては診療を拒否できる」という内容が加わったことと併せて,医療現場においてハラスメントがあることを十分に周知し,こういったことをしない・させない風土を醸成してくことが大事であると指摘した。
 最後に,万一に備えて,医事紛争の保険が発動しない場合における保険を多くの保険会社の商品として広めていくことを要望した。

医療従事者の安全を将来的に確保するために
 その後の協議では,医療従事者へのハラスメントは,医療機関の健全な経営を阻害し,ひいては国民の医療にも悪影響を及ぼすことが理解されておらず,結果として安易なハラスメント発生の一因となっていると指摘。スマートフォンの普及にともない,誰もが簡単に発信できるようになったことで,ネット上に医療機関に対する根拠のない誹謗中傷が増え,医師の診療業務の妨げや心理的負荷の原因になっているだけでなく,患者の医療機関の選定に影響を与え,経営を脅かすだけでなく,医療機関のスタッフ採用にも影響を与えていることが報告された。ネット上の風評被害や誹謗中傷の対応には,IT 技術等の専門性が求められるため,対応可能な人材が限られている上,加害者の特定に多額の費用を要することや,サイト管理者側から表現の自由や医療機関側に非がある可能性があることを理由に削除依頼に応じてもらえないことも多く,医療機関が対応を諦めざるを得ない状況があるとして,個々の医療機関で対応するには限界があることを踏まえ,医療従事者へのハラスメント,暴言・暴力に対し,医療従事者の安全を将来的に確保すべく,日医に以下の提言が行われた。

○行政と連携して,医療従事者に対するハラスメントの現状を国民に理解してもらえるよう周知・啓発を行うこと。
○警察と連携して,医療従事者に対する暴言・暴力に対して,警察が速やかに対応できる体制を構築すること。
○インターネットによる医療機関への誹謗中傷を速やかに解決するため,専用相談窓口を開設するとともに,ネット被害による損失や諸経費等に対する保険制度を新設すること。

第3分科会「DNAR ならびに医療における情報セキュリティ・サイバーセキュリティ対策」

 第3分科会は,第1部で「救急医療と DNAR」,第2部で「医療における情報セキュリティ・サイバーセキュリティ対策」をテーマに意見交換が行われた。

第1部:「何故,DNAR なのか?」
 第1部では,救急医療と DNAR をテーマとして,傷病者の救急搬送時に DNAR が提示された場合の対応や,DNAR,ACP の情報を患者,家族,医療機関,消防などでリアルタイムに共有する取組み,また,コロナ禍におけるDNARの作成・運用について意見交換が行われた。
 各都市からは,ACP を重視した DNAR やPOLST の普及推進に向けての取組み,医療従事者と多職種間の共通認識の醸成や,一般市民と医療従事者間の考え方のギャップ,ACP の普及に向けた取組み等について報告が行われた。

DNAR と救急医療
 各都市より,①傷病者の救急搬送時に DNARが提示された場合の対応,② DNAR や ACP の情報を患者・家族,医療機関,消防等でリアルタイムに共有する取組み,③コロナ禍におけるDNAR の作成・運用について,それぞれ取組み状況が報告された。

ACP を重視した DNAR や POLST の普及・推進に向けての取組み
 横浜市医師会からは,ACP を重視した DNARや POLST の普及・推進に向けた課題として,① 医療従事者と他職種間の共通認識の醸成,②一般市民と医療従事者間の考え方のギャップ―が挙げられたほか,各都市より,ACP 普及に向けた取組みや,DNAR 対応に関するプロトコールの策定について発表がなされた。

髙階府医理事

 髙階府医理事は,ACP を重視した DNAR やPOLST への対応は,救急だけではなく地域包括ケア全体に関わる問題であり,医師会全体での取組みが必要であると指摘。一方で,救急救命センターの立場から考えると,現状の法制下では,搬送患者の DNAR への対応は難しく,かかりつけ医の関与や MC における指示医師の対応など,整理すべき課題が多いとし,「個々の人生観や死生観が無いと ACP を重視した POLST に繋げることは難しい」との考えを述べた。
 また,各郡市医において,市民,医療関係者,行政等を対象に様々な研修会が開催されていることに感銘を受けたとして,「府医としても積極的に取組みを進める必要がある」との意気込みを示した上で,市民対象の教育・啓発活動には,人生観や死生観を養っていく必要があり,若い世代の教育に取り入れていくことが大事であると指摘した。
 最後に,現行の法制下において,救急隊は,119番で呼ばれた場合,消防法の規定等から患者を搬送しないという選択肢はないことから,ACP を重視した DNAR や POLST の普及を目指すのであれば,医療側として119番に繋げない,繋がらなくても良いような体制を構築していく必要があるとの考えを示した。

第2部:医療における情報セキュリティ・サイバーセキュリティ対策
 第2部では,情報化・オンライン化が急速に進むにつれて,サイバー犯罪もより高度化されており,医療機関へのランサムウェアによるサイバー攻撃により,深刻な被害がもたらされた事案が発生したこと等を背景として,医師会における情報セキュリティ対策や会員向けのサイバーセキュリティ対策について,各都市における取組み状況の発表とともに,問題点や課題の共有が行われた。

医師会内での情報セキュリティ対策について
 各都市より医師会内で実践されている情報セキュリティ対策の内容が紹介され,情報共有を行った。
 まず,会館内の通信の出入り口対策として,ファイアウォール,スパムフィルターと不正侵入防止システム(IPS)の導入や,各端末へのウイルス対策ソフトのインストール,ウイルスが侵入した際に OS を守るためのソフトの導入等が紹介された他,データ管理の面では,機密情報を保存するサーバーの隔離,重要なファイルを暗号化し,万が一の漏洩に備えていることが報告された。
 また,情報セキュリティに関する規定の見直し,サイバー保険への加入の他,情報搾取を目的としたマルウェア等のコンピュータウイルス対策として,USB メモリやメールによるデータ受け渡しを極力なくすよう,受け渡し方法の見直しを行ったことなどが紹介された。文書の電子化・ペーパーレス化に際しても,PC やサーバーのセキュリティ担保が課題であり,物理的対策とリテラシー強化が重要になるとの意見が挙がった。

会員医療機関に向けたサイバーセキュリティ対策について
 会員医療機関へのアンケート結果から,サイバーセキュリティへの対策は多くの医療機関において行われておらず,特に無床診療所において対応が困難である現状が顕著であったことが報告された。今後,オンライン資格確認の義務化により,各医療機関においてインターネット接続が行われることから,サイバーセキュリティ対策がますます重要になるものの,セキュリティ対策業者の選定が困難であること等が問題点として指摘された。
 各都市では,行政によるサイバーセキュリティ対策関連会議への参画,県警サイバー犯罪対策課や情報セキュリティ会社と連携した講習会の開催等を通じて,会員への啓発活動が展開されており,千葉市医師会からは,ソーシャルメディア使用に係る指針を策定し,会員に適正な使用を呼びかけていることが紹介された。
 情報化・オンライン化が急速に進むにつれ,サイバー犯罪もより高度化されているため,医療現場におけるセキュリティ対策を逐次アップデートすることが必要であるとの認識が共有された。

今後の対策強化に向けた課題について
 各都市共通の課題として,専門的知識を有する職員の確保・育成が必要不可欠であるものの,こうした職員の人材確保に苦慮していることや,日常業務の傍ら情報システムを取り扱うことによる事務局負担の増大が挙げられ,より安全性を確保する観点から,専任の SE の採用や,医師会事務局での対応には限界があるため,情報セキュリティ会社との連携が検討されるべきとの意見が挙がった。専属の SE を複数名採用している医師会もいくつかあり,今後のニーズを踏まえて,業者連携に加えて専門職の配置を早期に検討する必要性が指摘された。

2023年1月15日号TOP