「新型コロナ感染症に罹患時の自家診療」,「災害時やパンデミックの際のオンライン資格確認の脆弱性」,「ツインデミックへの対応策」について議論

 相楽医師会と府医執行部との懇談会が11月19日(土),Webで開催され,相楽医師会から22名,府医から6名が出席。「新型コロナ感染症に罹患時の自家診療」,「災害時やパンデミックの際のオンライン資格確認の脆弱性」,「ツインデミックへの対応策」をテーマに議論が行われた。

新型コロナ感染症に罹患時の自家診療について

 自家診療の禁止は,医師国保が保険者として定めたルールであって,医師国保加入者以外であれば問題なく自家診療は可能であるが,医師国保加入のスタッフや家族が罹患した場合の診療については,自費扱いとするか,他院に受診してもらうしかない。
 本件は医師国保が検討を重ねた上で機関決定したことであり,府医としては,これについて論評する立場ではないため,意見することが難しい。

◇質疑応答
 地区医からは,全国の医師国保の中には,新型コロナウイルス関連の検査・診療等のみ特例的に自家診療を認めているところもある。府医の立場上,医師国保に意見することが難しくとも,それを補完するような施策を京都府に求めることはできないかとの意見が挙がった。
 また,オンライン診療の導入が進められており,調剤薬局から薬が配送されることになっているが,これが遅れた場合,治療に影響が出る可能性があることを踏まえると,感染症対策として病院への補助金や支援は進められているが,最前線で感染症に対応している診療所への支援が不十分であり,未知の感染症に罹患した際に緊急に医師・スタッフを守るための手立てを行政に求める声があがり,当面は医師同士の関係性を深め,助け合える体制を構築していくことが現状でできる対策ではないかとの意見があった。
 府医からは現状では,議論が不十分であり対策を講じられていないため,保険診療上の課題も含めて然るべき対応を求めていきたいと述べた。

災害時やパンデミックの際のオンライン資格確認の脆弱性について

 オンライン資格確認の義務化や保険証の廃止等に関する国の強引な進め方は,現場に様々な混乱を生じさせており,災害時やパンデミックの際には特に大きな混乱が起こることが予想される。
 国からはまだ具体的な対応策について示されていないため,日医を通して明確な対応を示すよう要求していきたいと考えている。
 なお,現在の災害時対応として,保険証の提示がなくとも,医療機関窓口で,氏名,生年月日,連絡先等を申立て,保険診療を受けることが可能となっている。
 新型コロナウイルス等の感染症対策を行いながら,マイナンバーカードによるオンラインでの資格確認は,診療所の動線等を考えると極めて困難といわざるを得ない。令和5年4月からの本格稼働に向けて,今後,政府がどのような対応を示すのか,注視していきたい。

◇質疑応答
 地区医からは,災害時に停電等によりネットが使えない場合,どうしても紙カルテや従来の保険証が必要になると指摘があり,このような場合の対策を国は講じているのかと疑問を呈した。身元を確認しようにも偽名を使われれば,確認ができない等様々な問題が考えられるが,不測の事態に対する検討が不十分な印象を受けるとの意見があった。
 また,パンデミック時や災害時にオンライン資格確認ができないことを理由に診療行為を断った場合,応召義務に反するのかとの質問があり,府医からは,悪質な場合を除き,資格確認ができないことを理由として診療を断ることは難しいとの認識を示した上で,災害地区と認定されれば,マイナンバーカードを紛失した場合であっても,口頭等で患者の同意を取得することにより,資格情報・医療情報を閲覧することができるが,停電等の場合はこれも使えないため,身元を確認した上で,後の保険診療に活用していくしかないとした。
 さらに地区医から,オンライン資格確認の義務化が免除される医療機関の条件や,ネット回線の接続が不十分である地域への配慮と,マイナポータルでは個人情報が漏洩した場合に国は責任を負わないとしていることに対して問題提起を求める意見があった。
 府医からは,現在は紙レセプトで請求している医療機関がオンライン資格確認の義務化が免除されると回答した。また,医療機関側でオンライン資格確認の準備が整っていても,患者側がマイナンバーカードに保険証機能を紐付けていなかった場合,従来の保険証で確認する必要があるため,結果的に現場では負担が増えていると指摘。現在,国ではマイナンバーカードに保険証機能を紐付けする手続きができない患者もいることを考慮し,対策を講じる意向を示しているため,セキュリティ対策も含めて今後の動きに注視していきたいとした。

ツインデミックへの対応策について

 オーストラリアで,6~7月にかけて季節性インフルエンザが流行し,同時期に新型コロナウイルスも流行していた状況を見ると,例年,南半球での感染状況と類似した経過をたどることから,厚労省としても季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの同時流行が発生する可能性が高いと見られている。そのため,国は同時流行の際に重症化リスクの低い者とそれ以外(重症化リスクが高い者,高齢者や妊婦,子ども等)に分けて対応する体制を示している。国が示した体制図では,重症化リスクが低い者に対しては初診からのオンライン診療を推進するかのような印象を受けるが,日本感染症学会が示した外来診療のフローチャートでは,電話・オンライン診療はあくまで緊急的・避難的措置であり,対面診療が原則であることが明記されている。さらに,電話・オンライン診療にてインフルエンザ罹患の可能性が高いと医師が判断した場合は,検査をせずとも臨床判断により抗インフルエンザ薬を処方してもよいとする取り扱いに対し,オンライン診療でのインフルエンザを含む急性呼吸器感染症の診断の難しさを指摘し,対面診療の際の症状から「インフルエンザ様疾患」と臨床診断した症例を対象にした研究で,PCR や血清診断などで「インフルエンザ」と確認できたのは60%弱であったとの研究結果を示し,慎重な対応を求めるとともに,重症化リスクの有無にかかわらず,必要に応じて対面診療に切り替えるべきとの見解を示している。
 京都市内の一部地域でもインフルエンザの感染者が増加傾向にあり,流行し始めている状況下においては,診療・検査医療機関のさらなる増加に取組むとともに,府医の「京いんふるマップ」や「京ころなマップ」を活用してより早く流行状況を把握することが重要であり,各医療機関の協力を呼びかけている。その他,府民・市民への行動の啓発やインフルエンザの重症者の入院受入体制の確認にも同時に取組む必要がある。
 国は,新型コロナウイルスとインフルエンザの同時検査キットや現在不足している解熱剤の確保に取組んでおり,同時流行に備えて準備が進められている。

◇質疑応答
 地区医からは,診療所を通さず患者へ直接,検査キットを配布することも検討しているのであれば,行政が専門の相談ブースを設置して対応すれば,医療のひっ迫は抑えられるのではないかとの意見や,府民にも分かりやすい外来診療フローチャートや新型コロナウイルスとインフルエンザの同時接種等の情報をしっかり広報してほしいとの要望があった。
 府医からは,全国的に検査キットを手渡しする窓口の設置について検討されているが,実際に公になるのは先であると説明。また,府民への広報については,現在,様々なチラシやお知らせがあり情報が混在している状態であるため,行政には改めてしっかり広報するよう求めているとした。さらに,現在,ノロウイルス等他の感染症の流行も見受けられ,より情報の選別が求められていることから,府医でもしっかりと情報提供していきたいとした。

保険医療懇談会

 新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的取り扱いについて解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。

2023年1月15日号TOP