理事解説 百考千思

京都府医師会保険担当理事 田村 耕一

医療DX の展望-オンライン資格確認を中心に

 医療機関におけるオンライン資格確認の導入は,政府が掲げる医療DX の基盤の一つとなっている。医療分野のデジタル化によってもたらされる業務効率化や医療の質の向上,データの共有や標準化による医療情報の利活用の推進は,医療DX がもたらすメリットとして十分理解するが,問題はその進め方にあると考えている。
 これまで府医では,医療DX,特にオンライン資格確認の義務化のあまりにも拙速な進め方に対して,近医連を通じて反論するととともに,会員各位への導入状況に係るアンケートを通じて現場の声を日医に届けてきた。
 一方で,療養担当規則に定められたことを重く受け止め,導入補助金の拡充措置対象となる申し込み期間も考慮して,会員医療機関に対して導入に向けた取組みを求めてきた。また,府医のアンケートや日医のアンケート結果を踏まえて,昨年末の中医協において導入が困難なやむを得ない事情を抱える医療機関に対する経過措置が設けられた(詳細はオンライン資格確認の導入の原則義務付けに係る経過措置について(重要)参照)。
 以下に昨年のオンライン資格確認義務化の経過を示した上で,医療DX の今後の見通しを解説する。

  • 自民党「医療DX 令和ビジョン2030」(令和4年5月17日公表)
    (提言の概要)
     日本の医療分野の情報のあり方を根本から解決するため,(1)「全国医療情報プラットフォーム」の創設(2)電子カルテ情報の標準化(全医療機関への普及)(3)「診療報酬改定DX」の3つの取組を同時並行で進める。

    <全国医療情報プラットフォームの創設>(抜粋)
     オンライン資格確認については,「令和4年度末までにほぼ全ての施設に導入」との目標に向けて取組が進められているが,運用開始施設は2割弱に留まっている。「全国医療情報プラットフォーム」の基盤となるオンライン資格確認システムの導入目標を達成するために,システム導入について原則として義務化することや医療機関等への更なる導入支援策を含め,実現に向けた効果的な施策が必要である。
  • 「骨太の方針2022」(令和4年6月7日閣議決定)
    <社会保障分野における経済・財政一体改革の強化・推進>(抜粋)
     オンライン資格確認について,保険医療機関・薬局に,2023年4月から導入を原則として義務付けるとともに,導入が進み,患者によるマイナンバーカードの保険証利用が進むよう,関連する支援等の措置を見直す。2024年度中を目途に保険者による保険証発行の選択制の導入を目指し,さらにオンライン資格確認の導入状況等を踏まえ,保険証の原則廃止を目指す。
  • 中医協総会(令和4年8月10日開催)
     骨太の方針2022を踏まえ,以下の内容が答申・公表。
    ①オンライン資格確認の導入を原則義務化(療養担当規則等(省令)の改正。令和5年4月施行)
     ※例外:「現在紙レセプトでの請求が認められている医療機関・薬局」
    ②医療機関・薬局向け補助の拡充
    ③診療報酬上の加算の取扱いの見直し(令和4年10月から施行)
     ※電子的保健医療情報活用加算を廃止し,医療情報・システム基盤整備体制充実加算を新設。マイナ保険証利用時には,利用しない場合よりも,患者負担が小さくなる仕組みに変更。

    <オンライン資格確認原則義務化(療養担当規則の改正)>(令和5年4月1日以降)
    1. 保険医療機関及び保険薬局は,患者の受給資格を確認する際,患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合は,オンライン資格確認によって受給資格の確認を行わなければならないこととする(保険医療機関及び保険医療養担当規則第3条第1項及び第2項関係等)。
    2. 現在紙レセプトでの請求が認められている保険医療機関・保険薬局については,オンライン資格確認導入の原則義務付けの例外とする(同令第3条第3項関係等)。
    3. 保険医療機関及び保険薬局(2.の保険医療機関・保険薬局を除く)は,患者がマイナンバーカードを健康保険証として利用するオンライン資格確認による確認を求めた場合に対応できるよう,あらかじめ必要な体制を整備しなければならないこととする(同令第3条第4項関係等)。

    <中医協答申附帯意見>
     関係者それぞれが令和5年4月からのオンライン資格確認の導入の原則義務化に向けて取組を加速させること。その上で,令和4年末頃の導入の状況について点検を行い,地域医療に支障を生じる等,やむを得ない場合の必要な対応について,その期限も含め,検討を行うこと
  • 中医協総会(令和4年12月23日開催)
     8月10日の答申附帯意見を踏まえ,やむを得ない場合の必要な対応を協議し,経過措置の内容が決定。詳細は本号保険だより参照。

    <やむを得ない事情に関する経過措置>
     「やむを得ない事情」を抱える医療機関については,令和5年3月末までに地方厚生局に届け出ること(届け出の方法など詳細は未定)を条件に,それぞれの期間内は経過措置の対象となり,療養担当規則の違反を問われることはない。
     例えば,
    ①令和5年2月末までにベンダーと契約締結したが,導入に必要なシステム整備が未完了の医療機関(システム整備中)
     ⇒期限:システム整備が完了する日まで(遅くとも令和5年9月末まで)
    ②オン資に接続可能な光回線のネットワーク環境が整備されていない医療機関(ネットワーク環境事情)
     ⇒期限:オン資に接続可能な光回線のネットワークが整備されてから6か月後まで
    ③廃止・休止に関する計画を定めている医療機関
     ⇒期限:廃止・休止まで(遅くとも令和6年秋まで)

 上記のとおり,やむを得ない事情を抱える医療機関に対する経過措置が一定設けられたものの,導入対象外の医療機関を除いて義務化は施行される予定である。府医では療養担当規則に定められた以上,会員医療機関に対して導入を促すとともに,導入後の課題等を引続き日医に伝えていく。
 政府は昨年10月に開催した医療DX 推進本部会議において,「医療分野でのDX を通じたサービスの効率化・質の向上を実現することにより,国民の保健医療の向上を図るとともに,最適な医療を実現するための基盤整備を推進する」とし,「オンライン資格確認等システムのネットワークを拡充し,レセプト・特定健診等情報に加え,予防接種,電子処方箋情報,自治体検診情報,電子カルテ等の医療(介護を含む)全般にわたる情報について共有・交換できる全国的なプラットフォームの創設」を掲げている。
 日医もオンライン資格確認は,単に医療機関がオンラインで患者の保険資格確認を即時に行えるだけの仕組みではなく,安心安全に医療機関がつながる全国的な医療情報共有の基盤に発展することを期待している。しかし,医療提供に混乱・支障が生じては本末転倒であり,医療現場の状況をよく確認しながら,有効性と安全性を確保した上で,利便性,効率性の実現を目指すべきとして,サイバーセキュリティ対策や業務・費用負担軽減などを主張している。
 府医も日医と同様に医療分野のDX の推進に反対するものではないが,国民,医療機関にとってのメリットを政府が明確にすべきである。また,現在の保険証の扱いについて,昨年10月にデジタル担当大臣が,骨太の方針2022の内容から踏み込んで,2024年秋にも保険証を廃止し,マイナンバーカードに一元化すると表明した。その後,政府においてマイナンバーカードを取得しない人も保険診療を受けられる新たな仕組みを検討することを表明するなど混乱していることは明白である。国民や医療現場の意向を無視し,マイナンバーカードの普及のみを目的とした唐突な提案に対して,廃止後の簡素な仕組みの検討がされているが,これまで使い慣れた保険証を廃止する意味が理解できないのは国民の本意ではないか。マイナンバーカードの取得が義務ではない以上,持たない(持てない)患者が医療機関を受診できる体制や資格確認義務化対象外の医療機関への対応,さらには昨今大きな問題となっているセキュリティ対策など取組むべき課題は山積している。本件に関わらず政府が一定の方針を示して強引に推し進める手法が顕著になっており,医師会の政治に対する影響力・発言力を高めるための活動がより一層必要である。

2023年2月1日号TOP