2020年5月1日号
山科医師会と府医執行部との懇談会が1月18 日(土),京都ホテルオークラで開催され,山科医師会から25名, 府医から8名が出席。「医師の働き方改革」,「国や自治体からの各地区医への委託事業」,「医師会非会員医療機関の増加に対する対策」について,活発な議論が行われた。
日本の医療が医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており,医師の健康への影響や過労死の危険さえある現状を変えていく必要性から改革が行われる。すなわち,特定の医師個人への負担の固定化を防止するため,長時間労働の是正, 健康確保の措置,地域医療構想など医療提供体制における対応が行われる。
医師の時間外労働規制・上限水準に極めて近い働き方については,通常の医師は上限960 時間, 特例で1,860 時間,連続勤務時間制限として勤務開始から28 時間,勤務間インターバルが9時間と設定されるなど,2024 年4月から実施される予定である。
医師の働き方改革や効率性に視点を置きすぎたタスクシフトは医療の安全性を損ねかねない。国民にとって安全な医療を守るため,医師による“メディカルコントロール”(医療統括)の下で業務を行うことが原則である。
看護師特定行為のパッケージ研修やナース・プラクティショナー(以下,「NP」という)およびフィジシャン・アシスタント(以下,「PA」という)などについて,看護師がキャリアアップして, 安全性が向上するのはよいが,特定行為は質の担保が重要である。
医師の働き方改革は,医療関係者の努力のみでは実現できず,国民の理解が必要である。医療者が元気でなければ医療の質が下がることを知ってもらうには,国・自治体・マスコミ・医師会・病院広報などの役割も重要である。
◇「 2024 年からの時間外労働時間の規制が適用さ れるが,そもそも,医師の長時間労働の背景として,医療機関のマネジメントの課題に加え, 医師の偏在,地域医療体制における機能分化・連携等が不十分であることがあげられる。また, 先般厚労省が発表した医師の偏在指数や公的医療機関の統合等についても,医療の実態とかけ離れている。これらの問題を無視して進めてよいのか」と質問が出された。
医師の働き方改革は,「地域医療計画・地域医療構想」,「医師偏在対策」と密接に関連している。上記の問題はこれらの一部であり,並行して取組むべきである。
◇「 当地区の一例だが,昨年4月より時間外労働 を短縮すべく,勤務体制を一部変更した。結果, 日中の人員不足が生じ,外来診療を減らす方向だが,業務の分担が困難な状況である。また, 医師からすれば,総勤務時間が減るため収入が減る。一方,業務量が減らなければ残業代として病院の出費が増え,経営上に問題が出る」。このような事例に対して府医の見解を求めた。
地域の病院ならどの病院でも抱えている問題であり,働き方改革の影響を受けることは容易に想像できる。宿日直については厚労省から通知があったものの,具体的な記載はない。タスクシフト・タスクシェアについても議論は進行中だが,どの病院も,まだ手探り状態であると回答した。
京都市から既存の委託事業に加え,新たに在宅医療・介護連携支援センター事業が委託された。今回のような枠組みが何もない事業の委託について,地区医からは困惑の声が上がっている。委託事業の概要,府医の見解,可能なサポート内容等の説明が行われた。
在宅医療・介護連携推進事業は平成23 年度から着手。平成27 年度より介護保険法の中で制度化され,平成30 年度までに市区町村が主体となり,地区医と連携して取組むことになった。主に8つの事業から構成され,それらは地区医等に委託可能としている。これを受けて,京都市では平成29 年度から3つの地区で支援センター事業を開始。今年度には市内の全地区で事業が開始される。
今回委託された事業は,比較的制約もないため, 地域の特性を活かせる。一から作り上げるのには膨大な労力が必要だが,府医では「かかりつけ医機能の強化」を重視しており,多職種と連携しての実施は,将来的にはかかりつけ医の本来の業務を全うできる形になるのではないかとの認識を示した。
また,府医が地区に対してサポート可能な事項として以下の項目を挙げた。
① 制度: 地域支援事業と基金の使い分け,行政との交渉
② 運営: 在宅医療戦略会議を通じて,他地区の運営方法を紹介
③ 実技: 研修会実施時の講師の依頼,他地区の研修会の実例紹介
◇「 今回委託されたセンター事業は,医師不在でも可能だと思われる。なぜ市は医師会に丸投げのような形で委託してきたのか」と質問が出された。
他地区でも同様の話があり議論されたが,実際の現場では指示系統の混乱等があり,医師会がコントロールすべきという結論になった。
◇「 人件費,諸経費等の財務面の検討や事務作業の負担が大きい。今後このような形で業務委託されると,将来,在宅での看取り等の増加に対応できないのではないか」と質問が出された。
医師の本業に支障が出るなら本末転倒である。医師でなくても可能な業務は他のスタッフに任せたり,運用に関することは事務局に相談して対応してほしい。今回のような地区の困惑の原因は府医の情報共有が不十分であったためだと認識している。地区医が負担に思うことは伝えてほしい。共有して行政に要望していく。
近年の新規開業時における府医入会率は70 ~ 80%を推移。未入会の原因として,府医の活動についての広報が十分ではない点と,推測ではあるが,医療コンサルタントによる医師会入会不要の誘導の可能性が考えられる。医療コンサルについては以前から問題になっており,医師会にも信頼できる医療コンサル業務が必要ではないか,という意見もある。反面,医師会が営利目的ではない以上,慎重に検討を重ねている。
日医が公表した令和元年12 月1日時点での日医会員数は,前年同期比1,613 人増であった。これは,研修医,勤務医数の増加に起因すると分析している。一方で,病院,診療所の開設者等のA 1会員は全国で46 人減少している。日医は令和2年1月15 日の会見で,後継者不足による廃業防止対策として医業の第三者承継支援を表明,府医でも重要検討事項に入っている。
若い医師を中心に医師会非入会の医師が増えると,医師会そのものの存続の危機になりかねない。地区医からも懸念の声が上がっており,府医もこの問題に取組んでいる。
具体的には,①研修医入会促進,②継続入会を図る取組みを実施。①については,毎年4月に新初期研修医(1年目)を対象に医師会館でオリエンテーションを開催。松井府医会長による地域医療,医師会の役割についての講演と,日医入会により医賠責保険に加入できる等,医師会入会によるメリットも詳細に説明している。また,スマートフォンで入会申請が可能なシステムを導入予定であり,入会手続の簡素化を図っている。②については会員としての意識づけ,メリットを感じてもらうために定期的にメールでの情報発信を検討中。研修医,若手勤務医向けの情報誌「アルツト(Arzt)」の発刊,移籍登録10 年以内のB1会員の会費減免等,並行して取組んでいる。
◇「 新規加入促進も大事だが,一度加入した医師 を逃さない方策を立てることも重要ではないか。研修医から勤務医になった時に,全員医師会加入の病院ならよいが,そうでない病院も多くあり,加入しない医師は多いと思う。それを留める方策を考えてほしい」と意見が出された。
上記の例や,開業医が移転時に医師会を退会する理由として,会費の問題や医師会活動への参加などが考えられる。医賠責保険,融資での団体割引等のメリットを知らない勤務医も多数いると思うので,これらの情報を発信していくことで退会者数を減らしていきたいと説明。また,勤務医に話をして入会してもらえる機会はなかなかないため,各地区でも根気強く説得して入会を勧めてほしいと要望した。
◇「 山科医師会では毎年 12 月に新規入会医師によ る講演の機会を設けており,会員同士の交流を図っている。しかし,非会員の医師には接する機会がなく,在宅医療介護連携支援センター等で非会員の医療機関を紹介するのは困難である。また,非会員の医療機関での問題行動で医師会にクレームが出た時,間に入って解決ができないのではないか」と意見が出された。
普段から顔の見える関係を築いて,スムーズな病診連携,診診連携を可能にしていくことは,医師会活動の根幹である。新規入会医師の講演機会や交流等は,大変素晴らしい取組みであり,引続き継続してほしい。また,非会員医師に対しては,医師会の活動が地域住民への医療体制の提供の充実や発展のために必要であることを,機会があれば話してほしい。府医も引続き加入促進に努めるので,地区医にも協力してほしいと要望した。
支払基金と国保連合会双方における審査の平準化をはかるために開催している「基金・国保審査委員会連絡会」の状況について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項についての資料を提供した。
また,療養費同意書交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書発行に理解と協力を求めた。