スギ花粉症の 60 年

京都第二赤十字病院 副院長・耳鼻咽喉科部長
出島 健司

 今年もスギ花粉症の本格飛散が始まろうとしています。今年の花粉飛散量は例年に比べやや多いという予想で,花粉症患者さんには要注意のシーズンになりそうです。
 今年でスギ花粉症が発見されて 60 年になります。日本人の石坂博士が IgEを発見したことが契機となり,古河電工日光電気精銅所付属病院(当時)の斎藤洋三医師(耳鼻咽喉科)が 1963 年秋,神戸市で開かれた日本アレルギー学会で,「スギ花粉症の発見」として発表したのです。戦後植林されたスギは成長し,25 年で花粉飛散を始め,どんどん増加し 1980 年代にはスギ花粉症は国民病とまで言われ,最近の疫学調査では人口の 40% が花粉症と報告されています。実は,京都は日本で初めてスギ花粉飛散予想を行ったところです。1987 年,地方紙の京都新聞に日本で初めての花粉予報が掲載されました。竹中洋先生(現:京都府立医科大学学長)が中心となり耳鼻咽喉科講師時代に,花粉飛散という植物学的事象を有用な医療情報としてとらえ,実現させました。そのため,当時は予報という名称ではなく,スギ花粉情報と言う名称を使用しました(図)。当時大きな反響呼び,同様の花粉予報は瞬く間に全国に広がりを見せました。竹中洋先生は,この疾患の抗原であるスギ花粉の飛散の予報を行うことにより,ただただ薬物治療を受けるだけの花粉症臨床において,患者自身の「セルフケア」という概念を大きく推進させました。私もこの花粉予報の立ち上げに携わることになり,竹中先生が大阪医科大学に栄転された後は,京都府花粉情報センター長として,微力ながらしばらくの間この活動を支えました。
 時代が変わり現在,花粉予報はインターネットを始め多くの情報源があり,容易に入手することができます。加えて,昨今ではスイッチ OTC 薬が多く世に出て,ネット上で抗ヒスタミン薬や鼻噴霧用ステロイド薬を医師や薬剤師を介さずに手に入れることができるようになりました。現代は「セルフケア」に加え「セルフメディケーション」も花粉症においては行い得る状況です。With/After コロナと言われる 2023 年のスギ花粉診療では,マスク着用や車内でも喚気など,周囲の環境が変化し,セルフメディケーション効果が乏しい重症患者の増加など,その変化に治療のプロである我々医師は,対応を怠るわけにいきません。最近の論文では,短期であっても経口ステロイド投与は副作用が認められると言った認識が広く受け入れられる状況ですが,OTC 薬以上の治療効果が求められるケースでは,慎重な治療戦略が要求されます。また,2017 年には舌下免疫療法という画期的な治療法が出現しました。現時点で根治できる唯一の治療法であり,3,4年以上の治療継続でかなり高い治療効果が得られることが明らかとなりました。昨年から指導管理料も付与されたことにより,今シーズンの花粉飛散期の後,多くの花粉症患者がこの治療の恩恵を受けることが期待されます。
 スギ花粉症発見後 100 年といったころには,人類は花粉症を克服しているでしょうか?新規のスギの植林はないものの,スギは 100 年たっても花粉を生産飛散させるということで,抗原の花粉飛散は 40 年後でもまだ,ゼロにはなりません。日進月歩の医学で,私の子や孫の世代が花粉症に苦しまない(実は,私は重症花粉症です)時代になることを願ってやみません。

Information
病院名  京都第二赤十字病院
住所   京都市上京区釜座通丸太町上ル春帯町 355 番地の5
電話番号  075-231-5171(代)
ホームページ  https://www.kyoto2.jrc.or.jp/

2023年2月15日号TOP