2023年3月1日号
京都府医師会 顧問税理士
税理士法人 今西総合会計 税理士 今西 到
令和元年10月1日から始まった消費税10%への引き上げと複数税率の導入に関連して,令和5年10月1日よりインボイス制度が導入されることになりました。
導入後は消費税を納める必要のある医療法人や開業医(個人事業主)はもちろん,免税事業者にも大きな影響があると考えられます。
⃝インボイス(適格請求書)
売手が買手に対して,正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。
具体的には,現行の「区分記載請求書」に「登録番号」,「適用税率」及び「消費税額等」の記載が追加された書類やデータをいいます。
⃝インボイス制度
<売手側>
売手である登録事業者は,買手である取引相手(課税事業者)から求められたときは,インボイスを交付しなければなりません。また,交付したインボイスの写しを保存しておく必要があります。
<買手側>
買手は仕入税額控除の適用を受けるために,原則として,取引相手(売手)である登録事業者から交付を受けたインボイスの保存が必要となります。
⃝課税売上
健康診断・予防接種・診断書発行手数料・主治医意見書発行手数料・市区町村から委託を受けた健診・その他自費診療をいいます。
⃝課税事業者
上記のような課税売上が年間1,000万円を超えた事業者。
(消費税の課税がされる時期は,1,000万円を超えた事業年度の2年後の事業年度)
⃝仕入税額控除
課税事業者が納税する消費税額は,自院の売上時の消費税額から自院が仕入・経費等に支払った消費税額を差し引き納税します。この仕組みを仕入税額控除といいます。
参考資料:「消費税のしくみ」(国税庁ホームページ)
医療機関における収入の内,社会保険診療報酬等は「健康保険法等に基づく医療,療養等として行われる資産の譲渡等」に該当するとして,消費税を課税しない非課税取引にしています。
よって医療機関が支払わなければならない消費税は上記の課税売上に該当するもののみなので,社会保険診療を中心に行う医療機関では免税事業者も多いかと思います。
免税事業者,課税事業者問わず全ての医療機関におかれまして,以下のようなインボイス検討と共に準備を進めていく必要があります。
すでに課税事業者である医療機関の場合,令和5年9月末までにインボイス発行事業者の登録申請が必要です。令和5年10月1日以降に医療機関等が発行するインボイスに対応した請求書,領収書等の準備を始めなければなりません。
一方,免税事業者であり,かつ企業などの集団健康診断・予防接種等の自費診療をされている医療機関は,課税事業者になるか否かを検討する必要があります。
免税事業者であるためインボイス発行事業者の登録をしなかった場合,今までと同様に消費税の納税は必要ありません。
しかし免税事業者は,企業への集団健康診断を行った場合,企業側にインボイスを交付できないため,企業はその集団健康診断に係る消費税について仕入税額控除の適用を受けることができません。
したがって企業側からすると,免税事業者にそのような診断を委託した場合には不利益になることが予想されるので,委託先をインボイス発行事業者に変更する可能性が出てきます。
⃝仕入税額控除の経過措置
インボイス制度の実施後は,インボイス発行事業者以外の者(免税事業者等)から行った課税仕入は税額控除をすることができなくなります。
しかし激変緩和の観点から,免税事業者等からの仕入についても,インボイス制度実施後6年間は仕入税額相当額の一定割合を控除可能な経過措置が設けられています。
参考資料:「適格請求書等保存方式(インボイス制度)の手引き」(財務省ホームページ)
⃝納税額の軽減
免税事業者からインボイス発行事業者になった場合の税負担・事務負担を軽減するため,課税売上税額の2割を納税額とすることができます。
(対象期間:令和5年10月1日~令和8年9月30日を含む課税期間)
⃝少額取引のインボイス不要
1回の取引の合計額が税込1万円未満の課税仕入(経費等)について,インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができます。
(対 象 者:2年前(基準期間)の課税売上が1億円以下または1年前の上半期(個人事業主は1月~6月)の課税売上が5千万円以下の者)
(対象期間:令和5年10月1日~令和11年9月30日)
⃝その他
IT 導入補助金(デジタル化基盤導入類型)の拡充や持続化補助金についてもインボイス発行事業者に対する補助金加算など,インボイス対応の支援措置が発表されていますので確認が必要です。
参考資料:「インボイス制度の改正案について」(財務省ホームページ)