2020年5月15日号
今回の改定では,前回と同様で本体+ 0.55%となった。うち,消費税財源を活用した救急病院における勤務医の働き方改革への特例的な対応として+ 0.08%(公費約126 億円)と決定された。医科改定率は+ 0.53%,薬価・材料価格は合わせて▲ 1.01%となった。非常に限られた財源の中で,医師等の働き方改革への対応を明確にした上での本体プラス改定は評価できる。今回の改定の基本的視点と具体的内容について要点を整理する。
改定の重点課題とされた医師の働き方改革を進めるにあたり,地域の救急医療が維持できるよう,診療報酬+ 0.08%(公費約126 億円)に加え,地域医療介護総合確保基金として公費約143 億円が措置された。救急用の自動車や救急医療用ヘリコプターによる搬送受入件数が年間2,000 件以上の医療機関は診療報酬で,2,000 件未満で地域医療に特別な役割がある医療機関などは基金の補助対象となった。
その他,医療提供の質の確保に配慮しつつ,常勤配置・専従要件に関する要件緩和,業務分担・協働の推進,ICT の利活用など,長時間労働などの厳しい勤務環境を改善する取組みやタスク・シェアリング/ タスク・シフティングのためのチーム医療等の推進が行われた。
かかりつけ医機能の評価では,複数の慢性疾患を持つ患者に継続的な医療を行うことを評価している「地域包括診療加算」の要件が緩和された。具体的には,施設基準における時間外対応の要件について「時間外対応加算1」と「2」に加えて「3」の届出でも良いこととなった。
「小児科外来診療料」,「小児かかりつけ診療料」は対象患者が3歳未満から6歳未満に,「小児運動器疾患指導管理料」は6歳未満から12 歳未満に拡大された。
平成30 年度改定で導入された「機能強化加算」は,かかりつけ医機能を有する医療機関の体制を評価する点数であり,対象疾患,対象患者に限定なく,初診料を算定するすべての患者に加算できるが, 院内掲示の内容について①必要に応じて専門医等に紹介する,②医療機能情報提供制度を利用してかかりつけ医機能を持つ医療機関を検索できる―ことが追加された。さらに院内掲示と同様の内容の書面を, 患者が持ち帰れる形で医療機関に置き,患者の求めがあれば手渡すよう見直された。
一方,かかりつけ医から紹介される側の大病院の専門外来の明確化も進められている。紹介状なしで受診する場合,初診で5,000 円以上の定額負担が求められる病院は特定機能病院と400 床以上の地域医療支援病院だったが,地域医療支援病院(一般病床200 床未満を除く)に拡大された。今回の改定に係る論点ではないが,全世代型社会保障検討会議の「中間報告」では,対象病院を病床数200 床以上の一般病院にまで拡大するよう記載されている。かかりつけ医が不足している地域では,このような病院がかかりつけ医の役割を担っているため,一律に病床数で区別するのではなく,地域の実情に応じた配慮が必要である。
また,平成30 年度改定で導入された「妊婦加算」は通常より慎重な対応や胎児への配慮が必要な妊婦へのより丁寧な診療を評価したものであった。しかし,十分な説明がないまま算定された等の意見がSNS やテレビで取り上げられ,極めて異例な形で,平成31 年1月1日から凍結されている。この妊婦加算を再編するため,妊産婦に限らずかかりつけ医と他の医療機関との連携を強化する観点で「診療情報提供料(Ⅲ)」が新設された。これは,かかりつけ医機能を有する医療機関等から紹介された患者に対して継続的に診療を行っている場合に,紹介元医療機関からの求めに応じて,患者の同意を得て,診療情報の提供を行った場合に評価するものである(患者1人につき3月に1回に限り算定,妊婦については月1回に限り算定)。
平成30 年度改定で導入されたオンライン診療は一定の緩和が行われた。「オンライン診療料」では算定の対象となる管理料等を初めて算定した6ヶ月の間は同一の医師により対面診療を行わなければならない期間を設けているが,これが3ヶ月に緩和された。また,対象疾患に「定期的に通院が必要な慢性頭痛患者および一部の在宅自己注射を行っている患者」が追加されたほか,医療資源の少ない地域等に限っては,初診からオンライン診療を行うことが可能となった。
平成30 年度改定では入院医療の評価体系の再編・統合という大きな改定が行われた。今回の見直しでも項目によりその影響が異なるが,急性期一般入院基本料では重症度,医療・看護必要度の評価項目, 判定基準の見直しとともに,基準値も前回よりも厳しくなる方向で見直された。基準値をめぐっては, 無謀な主張を繰り返す支払側が全く譲歩する姿勢を見せず,結果的に急性期一般入院料1の重症度,医療・看護必要度Ⅰは公益裁定で31%とされた。「改定のたびに入院基本料の要件が改変され,医療現場は苦慮している」との横倉日医会長の言葉どおり,入院基本料の改正について朝令暮改は止めるべきであり,中長期的な方向性で考えていくべきである。
今回の改定では医師の働き方改革が最重点項目として進められた。働き方改革は救急病院や大病院の勤務医に限ったことではなく,一般病院の勤務医も当直後の外来等業務を勤務時間インターバル(9時間以上)により休息をとることになると,外来を閉めるかまたは,他の医師を雇わなければならず,病院経営は難しくなり,地域医療の崩壊に繋がりかねない。これらを解決するには永年の課題である初・再診料の増点,入院基本料の増点で一般病院,診療所に広く充填するべきと考える。
今般の新型コロナウイルス感染症に対しては,非常事態のもとで,通常の診療報酬体系では考えられない極めて異例な診療報酬上の臨時的な取り扱いが認められている。
患者や医療従事者の感染を防止するために必要な措置であり,医療機関を維持存続させるために,入院基本料などの診療報酬を柔軟に運用することは重要な対応であると考えている。しかしながら,一部に行き過ぎた部分もあるように感じている。電話(オンライン)初診や電話(オンライン)再診による薬剤の処方は,特例中の特例の対応であり,平時には決して認められるものではないことを強調しておきたい。