理事雑感 – 地域医療構想調整会議とあんしん病院

担当理事  角水 正道

 地域医療構想は,今後の人口減少・高齢化にともなう医療ニーズの質・量の変化や労働力人口の減少を見据え,各地域における2025年の医療需要と病床の必要量について策定したものです。その上で,「調整会議」において病床の機能分化・連携に向けた協議を実施するとされています。現在進行中の地域医療構想調整会議について,一般開業医目線でご報告します。個人的な感想も含まれますので,〜雑感〜という副題をつけました。縁遠いようで身近なことが話し合われています。少しでもご興味を持っていただければ幸甚です。

①外来機能報告

 これまで話題の中心であった「病床機能報告」に対する用語と思われます。「病床機能報告」は各病棟単位での病床機能を「高度急性期」,「急性期」,「回復期」,「慢性期」に分けて報告するもので,コロナ流行前はこの病床機能の調整が地域医療構想調整会議の中心でした。一方,「外来機能報告」は,病院・有床診療所の外来機能の分化・連携を推進することと「紹介受診重点医療機関」の明確化が目的とされています。そして,(ア)医療資源を重点的に活用する入院の前後の外来,(イ)高額医療機器・設備を必要とする外来,(ウ)特定の領域に特化した機能を有する外来,の占める割合が初診の40%以上かつ再診の25%以上の医療機関を「紹介受診重点医療機関」の条件とすることが規定されています。一般定期通院を縮小し入院・高度医療に外来を特化した病院を指すのかと思われます。その線引きの基準は明確ですが,じゃあ,地域の中でどのような医療機関がそれに該当するのか,そして,一般開業医からみて,重点医療機関とそれ以外で連携方法等に違いができるのかはこれからの議論かと思われます。

②働き方改革

 労働基準法の規定により,医師に対する時間外・休日労働の上限規制が令和6年4月から適用されます。そして,地域の医療提供体制の確保のために暫定的に認められる水準(連携B・B水準)に向けて各病院が準備を始めています。両大学からは医師派遣の前提として「宿日直許可」を受けていることが求められています。この「宿日直許可」は「常態としてほとんど労働する必要のない」宿日直の場合に,「労働基準法上の労働時間規制が適用除外」とみなされることを指します。この基準が厳格であれば,夜間時間外の受け入れをしっかり担っておられる医療機関ほど大学からの医師派遣が難しくなり医療体制に支障をきたしかねません。また,現状では厳しく見えるこの基準も,激変緩和の措置であり,将来的にはより抜本的な対応が求められます。医師の健康確保のためにもいつかは超えるべき課題であり,そのときには病院そのものの運営方法や地域医療の中での役割分担が大きく変わることもあり得ます。

③病診連携・病病連携

 京都府から上記①②につき説明された後,今後の地域医療構想推進に向けて意見交換が行われました。この3年間のCOVID-19に対する重い経験からの発言が多かったです。まず,両大学をはじめ,コロナ重症者の治療を担っておられた医療機関は京都府全体の患者を受け入れるため,その地区の高度急性期とカウントするのはいかがかとの意見がありました。また,脳血管疾患・循環器病など時間的な緊急性が重要になる疾患と,がんのようにそうでない疾患とは,高度急性期や急性期医療機関のあるべき分布などが異なるのではとの意見もありました。さらに喫緊ではコロナ患者さんの病状変化に応じて病病間の下り搬送・上り搬送がもっと円滑に運営されるべきとの指摘もありました。一般開業医としては病院内部の運用や病病連携については目に止まらないため,どうしても患者紹介と退院受け入れなど病診連携に関心が集中しがちですが,実際は病院同士の連携状況が病診連携にも影響を及ぼすため,全くの無関心ではいられません。

④あんしん病院

 ここでやや唐突ですが,京都地域包括ケア推進機構が運営する「在宅療養あんしん病院登録システム」について触れたいと思います。
 これは在宅療養中の段階で「あんしん病院」に必要な患者情報を予め登録しておくことで,いざ体調を崩し在宅での対応が困難になった時(あるいはなりそうな時),スムーズにその病院を受診し,必要に応じて入院できる京都独自のシステムです。あらかじめ連携することで早めに対応し,病状の悪化や身体の働きの低下をできるだけ防ぎ,在宅生活を続けることを支援するのが目的です。個人的な経験では,「何か変だ」,「発熱の原因が不明」,「もしかしたら急に悪化する前触れかも」とびびりながらも,病態が絞りきれず説明が難しくて医療機関への紹介にハードルを感じたことがしばしばあります。特にCOVID-19感染蔓延中は,発熱者の連携には骨が折れました。もし事前にあんしん病院登録をしておけば,「登録している○○さんのことで…」と受診依頼をするハードルが少しでも下がります。また,特に重症例でない場合は身近なあんしん病院を受診する方が理にかなっています。

⑤むすびに

 前述した外来機能報告・働き方改革・病病連携・病診連携に加えて,医師の偏在問題やかかりつけ医機能のあり方について盛んに議論されており,議論の方向によっては医療を巡る状況が変化を余儀なくされるかもしれません。その中で一般開業医としてかかりつけ患者さんの思いに答えしっかり守るためには,多職種で連携することが大きな力になります。多職種連携の中には病診連携・診診連携など同職種連携も含まれます。地域医療構想,とても遠いお話と思われるかもしれませんが,かかりつけ患者さんを大事にするためにも,関心を持っていただければ幸いです。そして,よい地域医療構想かを判断する一つの目安として,「あんしん病院」のコンセプトが生きているか,すなわちその構想で在宅療養者が必要なときにスムーズに病院と連携できるかを確認することも一つの方法と考えています。

2023年5月1日号TOP