2020年6月1日号
当医師会の活動が、理事会も開けないほど無くなっているこのタイミングで、地区だよりを書くとなると、どうしてもsars-cov-2 感染症に触れざるをえない。しかし、戸惑いがある。医師会ML を見る限りでも、京都市を中心に府南部にお住まいの先生方は、文字どおり命懸けで診療にあたっておられると推察される。当医師会では感染は確認されておらず、近隣の医師会でも事例はあったものの感染は広がらなかった。当地区の現況は多くの諸先生方の置かれたものと甚だしく異なっている上に、ウイルスの正体が未だ不明であるから、この文章を書いている今と医報に掲載される時点では、状況が全く異なっている可能性も少なくない。後々書いた内容を取り消したり訂正したりする事態も予想される。当地区の医療状況や、自分自身のsars-cov-2 感染症に対する考えや対策を書き連ねるのが躊躇される理由である。そこで、全く予想もしなかった「pandemic」という非常事態下で、日々の診療で感じたことを書き留めておこうと思う。
某新聞に載った辛酸なめ子氏のコラムのタイトルが「都会の『没落』価値が転換」であった。「おしゃれなカフェ」、「インスタ映えする写真」、「華やかに見える生活」が無くなって「地方の人に優越感を覚えていた」のが「没落」し、「価値観」が転換したそうだ。何とも浅薄な価値観だな、と驚くが、感染者ゼロの岩手県まで非常事態宣言に含めてしまう感染対策を経験すると、政府も同レベルでは?との疑念が浮かぶ。何時ものことではあるが、「東京は日本」だが「東京が日本」では無いことがわかっていないらしい。他府県への移動制限にしても、当地区でいえば、京都市との移動よりは、生活圏にある隣県豊岡市との移動の方が感染拡大の危険性は少ないだろう。学校医の立場では、児童数が激減しそもそも「密」になりえない当市の学校を、いつまで休校させねばならないのか、根拠を求めるに窮している。
他国と比べれば圧倒的に少ない感染者数でありながら、医療崩壊が危惧されている。ICU が足りない。人工呼吸器が、ECMO が、PPE が足りない。おまけに保健所の人手まで足りない。財政赤字を理由に、医療費をはじめ社会保障費を削った結果なのは間違いない。危機管理と経済合理性は両立しないことが実証された。財政赤字は本当に国の借金なのか、借金ならば国は一体誰に借りているのか、良く考えねばならない。
変わらず来院される患者さん達は、感染症対策についてアドバイスすると、真剣に耳を傾けてくださる。言われたことを鵜吞みにするのではなく、しっかりした説明を求めている、そういう変化が感じられる。
かつてない非日常、非常事態の中で、実際には何も起こっていない我が田舎でも、人々の考えは変わってきている。この厄介なウイルスが、20 年以上の長期にわたる停滞、退化に陥った日本が、低迷から抜け出すきっかけになるのではないか、と期待して、丁寧な説明を心掛け日々診療している。
北丹医師会
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