夏の参与会開催

 7月 29 日(土),夏の参与会がホテルオークラ京都で開催され,参与 25 名,府医役員 24 名が出席した。
 松井府医会長の挨拶の後,「医師会組織力強化について~ KMA.com の取組み~」をテーマとして内田府医理事から説明があり,その後の質疑応答では活発な意見交換が行われた。

◇報告ならびに協議事項

医師会組織力強化について ~ KMA.com の取組み~

内田 府医理事

 日医の組織率は年々低下し,令和元年時点で51.2%となっており,令和4年には 50% を下回る可能性も指摘されている。
 京都府においては,地区医への入会率は 62.2%で,概ね全国平均(62.7%)と同程度であるが,日医への入会率は低い状況である。
 日医は,医師個人の資格で加入する我が国唯一の医療界を代表する組織であり,すべての医師に医師会活動に参画してほしいとの考えを示している。また,医療に関する制度・政策などは一旦決定すれば変更は困難であるため,医療界が求める制度や政策の実現には,その決定プロセスに深く関わり,医師会を通じて医療界の意見を反映させていくことが現実的な方法であるとして,すべての医師が自分事として医師会活動に関心を持ち,その活動に参画する中で,医師会とともに医療現場が求める制度・政策などを実現していく必要があると指摘している。
 実際に医師会活動へ参画してもらい,医師会内部からその活動を体験してもらうことが医師会活動に関心を持つ第一歩となるとの考えから「組織力強化」を掲げ,その実現のために,日医では令和5年4月1日から医学部卒後5年目まで会費の免除を決定した。それにともない,府医でもこれまで医籍登録 10 年目まで会費減額としていたところ,医籍登録後5年目までの間,会費を免除することとし,この期間に医師会活動への理解を深めていただくよう呼びかけている。
 府医では,毎年 200 名近くの研修医が医師会に一堂に会する貴重な機会として,「新研修医オリエンテーション」を実施し,府医への入会を促してきたが,初期研修修了後に勤務先病院や他府県への異動により,連絡が途絶えてしまうことが課題であった。
 この問題を解決するため,全国各地どこにいても「つながり」を継続し,研修医・若手医師の目線に立った仕組みづくりが必要と考え,府医の新たな取組みとして本年4月に研修医・若手医師に無料で登録してもらう「KMA.com」を新設した。研修医や若手医師だけでなく,医学部生も対象とし,簡単にメールや LINE を通じて登録できるようにし,医師会への入会を希望しない場合でも「KMA.com 会員」として登録することで,府医から定期的に情報提供を受けることができる仕組みである。さらに,「KMA.com」ポータルサイトを立ち上げ,医師会の入会メリットや研修医・若手医師のニーズに合った情報提供を定期的に行うことで,持続的なコミュニケーションを促進していきたいと考えており,府医ではこうした取組みを通じて,入会を希望する研修医や若手医師の数の増加を図るとともに,中長期的に組織力強化へ繋げていく考えである。
 各地区医においても,今後の組織強化に向けて,研修医・若手医師の会費減免期間の延長や府医非会員の臨床研修医への入会促進について理解と協力をお願いしたい。

〈意見交換〉

 地区医からは,入会や会費減免,会費を免除している研修医に対する議決権の付与などについて質問が挙がった。
 府医からは,他府県へ異動する際に,地区から日医まですべて退会する必要があり,「つながり」が切れてしまうことから,KMA.com 会員によってこの「つながり」を維持し,正式な入会希望があった際には地区から日医までの入会手続きを進めると説明し,KMA.com 会員のように,他府県に異動しても「つながり」が切れない仕組みの全国展開について日医が計画していることを報告した。
 また,弁護士会のような強制入会についても従前から日医で検討されており,保険医の付与を医師会が担ってはどうかとの意見もあるが,問題を起こした医師に対する懲罰権など課題も多く,困難であるとの結論が出ていることを紹介した。
 会員区分による議決権について,各地区の現状が下記のとおり報告された。

  • C会員(初期研修医および後期研修医)の間は議決権がないが,希望があればB会員(勤務医)へ異動してもらい,議決権を獲得できるようにしている。
  • 会員区分による議決権の差はない。
  • 研修医でも議決権は付与しているが,入会しているか把握していない医師が多く,実際に行使されることはない。
  • 研修医にも議決権を与えているが,総会の決議に必要な人数を確保できるよう病院担当の役員が人数を把握できるよう留意している。
  • 会長交代が起こりやすく,議決権の有無は重要であり,現在,研修医には議決権はない。

◇各地区医(参与)からのご意見・ご要望について

 各地区医から意見・要望について,府医から以下のとおり回答した。

1.マイナ保険証,オンライン資格確認システム等の医療 DX について (左京医師会)

左京 塩見参与

 様々な問題が指摘されているにもかかわらず,マイナンバー法等関連法改正案が可決され,従来の保険証を廃止する方針が決定された。オンライン資格確認やリフィル処方,さらには電子カルテ情報の標準化等の方針が,事前に当事者である医療者の意見を聴くことなく「閣議決定」という形で政策決定されている現状について,今後の対応を伺いたい。

〈回答〉
 リフィル処方箋の導入やオンライン資格確認の義務化については,中医協での十分な議論がなく,日医に相談もなく閣議決定されたことは,府医としても大きな問題だと受け止めている。
 府医では昨年,オンライン資格確認の義務化に対してアンケート調査を実施し,多くの医療機関がベンダーの対応の遅れなどを理由として,期日に間に合わない状況であることを日医に報告した。日医でも独自にオンライン資格確認の義務化に対するアンケートを実施し,全国的に医療機関が府医のアンケート結果と同様の状況であるとの結果を中医協に報告。これにより,やむを得ない事情を抱える医療機関に対する経過措置が設けられた。
 電子カルテについても,政府の医療 DX 推進本部が2030年までに概ねすべての医療機関で導入を目指す方針を示しているが,医療機関間での情報共有の推進により,過去の検査結果や投薬情報の閲覧,重複投薬のチェックなど,より安全で質の高い医療の提供に繋がることは医師と患者双方にメリットがあるものの,そのメリットを理解し,可能な医療機関から導入を進めていくことが望ましいと考えている。
 しかし,電子カルテが義務化された場合に対応できない医療機関が医療を継続できなくなることや医療 DX が医療提供体制に混乱・支障を生じさせるような事態は避けるべきである。
 そのためにも,日医が国に丁寧な制度設計と運用を求める必要があり,会員の意見を日医に伝えることが重要であると考え,府医では今年の6月にもオンライン資格確認に関するランニングコストの問題やその他の課題に関するアンケートを実施し,その結果を日医に報告したところである。
 また,国会議員に医師会の意見を伝える医政活動も重要と考えているため,地元の国会議員への働きかけを強化していくことが重要である。


 その後の意見交換では,地区医より,オンライン資格確認の義務化に対応できないことを理由に閉院を検討している開業医について報告があった他,医療 DX が進められる中で利便性の向上が感じられず,手間ばかり増えている印象があるとの指摘があった。
 府医より,以前は政策決定の前に利益調整(関係団体への事前の意見聴取)があったが,現在はこれがなく閣議決定されていると説明した。日医からの意見が政府に取り上げられるようにするためにも,組織力を高めることで発言力を強化していく必要があると強調した。

2.今までのかかりつけ医とは異なった形態の医療について (京都市西陣医師会)

西陣 田中参与

 臨時の往診医師派遣サービスが全国的な広がりを見せ,その簡便性から通院可能な患者も安易に利用している現状が見受けられるが,家にいたまま診察が受けられる,待ち時間が少ないといった利便性があり,場合によっては患者にとってメリットがある診察方法でもある。これらは日医が提唱する「かかりつけ医」とは異なる形態の医療であるが,こういった新たな形態の医療が拡がりつつあることに関して,府医・日医の今後の考え方を教えていただきたい。

〈回答〉
 新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけに,オンライン診療の需要が増加している。この動きに対し,日医は厚生労働省からの委託を受け,オンライン診療に関する研修を行う「オンライン診療研修に関する検討委員会」を設置し,検討を進めている。
 厚生労働省と日医の間では「診療は原則として対面を基本とするべき」という立場は一致しているが,同時に,財務省などからの圧力によりオンライン診療の推進が進められようとしている。
 また,不適切な利用例も指摘されており,適切な実施を促進するために,「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針について」という通知が令和5年6月30日に厚生労働省から発出された。本通知におけるオンライン診療における適正な推進とは,安全性,必要性,有効性,プライバシーの保護等の個別の医療の質を確保するという観点に加え,対面診療と一体的に地域の医療提供体制を確保する観点も含まれており,対面診療との連携を考慮すべきとされている。
 オンライン診療に使用される機器は進化しており,将来的には対面診療よりも情報を得る手段として重要な役割を果たす可能性もある。しかしながら,対面診療を基本とし,オンライン診療は補完的な手段として位置づけるべきであり,府医から行政に対し,慎重な対応を求めている。
 夜間や休日などの診療時間外においては,往診医師派遣サービスへの需要が高まっている。特に,株式会社が提供しているこの手のサービスは,大手企業となると1,500人以上の医師を派遣できる体制を整えている。ただし,株式会社が運営することから,利益追求が主要な目的となるため,医業の本来の理念とは異なる点に留意する必要がある。
 地域医療の理想は,専門医による診療を受けつつ,各医療機関が連携して患者をサポートする面としてのかかりつけ医機能であるが,これは利便性や収益性を追求するアプローチとは異なるため,地区医でもより地域医療の連携強化への協力が必要である。


 その後の意見交換で,地区医からは,急病診療所で夜間のオンライン診療を行ってはどうかとの意見も挙がり,新型コロナウイルスのような特殊な事情がある場合は手段の1つとして検討の余地はあるものの,オンライン診療に対して慎重な対応を求めている立場であるため,現状は対面診療を行っていく考えであると回答した。

3.かかりつけ医制度に関して地区医師会が担うべき役割について (宇治久世医師会)

宇治久世 堀内参与

 地域医療構想調整会議の中で,紹介受診重点医療機関とかかりつけ医による外来機能が議論されているが,開業医が中心となる地区医にとって今後の外来診療制度は大きな問題であり,医師の働き方改革により地域の開業医に大きな負担がかかることが懸念される。
 地域医療構想の中で地区医が重要な役割を求められる中で,かかりつけ医制度に関して,地区医が担うべき役割について見解をお聞きしたい。

〈回答〉
 「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法などの一部を改正する法律」の施行にともない,その中の「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」については,国民・患者が,そのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を適切に選択できるための情報提供を強化し,地域の実情に応じて,各医療機関が機能や専門性に応じて連携しつつ,自らが担うかかりつけ医機能の内容を強化することで,地域において必要なかかりつけ医機能を確保するための制度整備を行うこととされている。そのために,(1)医療機能情報提供制度の刷新,(2)かかりつけ医機能報告の創設,(3)患者に対する説明が計画されている。
 府医としては,かかりつけ医は「制度化」するのではなく,機能を強化することが重要であって,フリーアクセスの堅持を主張していく考えである。今後の地区医の役割として,かかりつけ医機能報告で報告された医療機能を有することを確認し,地域の関係者との協議の場で具体的な方策を検討・公表することが求められる中で,地域での協議の場に地区医が積極的に参加し,地域の実情を発言することが重要になると考えている。府医としては,地区医の積極的な発言をお願いしたい。
 すべての医師がかかりつけ医として必要な研鑽を積み,地域において活躍していただきたいとの考えである。

4.医療情報サイトによる産業医の斡旋について (左京医師会)

 一部の医療情報サイトが低報酬で産業医の斡旋をしているが,産業医は企業とではなく,斡旋業者と契約し,継続的に当該業者にも報酬があるような仕組みとなっており,本来,産業医に支払われるべき報酬が斡旋業者に搾取されている。こういった現状に対して,医師会として何らかの対応が必要ではないか。

〈回答〉
 府医では産業医の紹介に対応しており,現在,府医への相談は月に1〜2件程度,実際の契約数は年に5〜6件程度である。産業医の斡旋には通常,1か月ほど時間を要し,産業医と企業との契約は,府医との三者契約としている。
 なお,独占禁止法に抵触する可能性があるため,報酬の目安等は示していない。
 産業医の契約には医師に対する責任がともなうため,名義貸しのような不正な取引を避けるよう呼びかけている。また,斡旋企業による産業医斡旋は,料金がかかるため併せて留意いただきたい。
 日医の報告によると,全国的に産業医の斡旋業務を行っている医師会の中心は郡市区医で,全体の79.1%にも及ぶが,全体の66.9%が年間の相談件数は5件未満と回答しており,数が限られていることが分かる。今後,本事業を発展できるようにするには地区医の協力が必要である。


 その後の意見交換で,地区からは,業者による産業医の斡旋など,近年は医師ではない第三者が,医師の資格をビジネスに利用していることが多く見受けられることから,この課題に対して働きかけるべきではないかとの意見があった。
 府医からは,日本産業衛生学会および日医に現状を報告し,今後,対応について検討していく考えを示した。

2023年10月1日号TOP