会員の声 第31回日本医学会総会2023東京に参加して<AI により医療界にも大きな転換期~戸惑った第31回日本医学会総会>

宇治久世医師会 土井 邦紘

1.ペーパーレスの参加手続き
 総会の登録,進行状態,抄録集,参加証などの手続き,お知らせがすべて医学会総会初めてペーパレスで処理されました。メールで2022年9月4日に事前参加登録を行いました。プログラムや抄録集の案内は通知があるものと思い,待っていましたが,連絡がなく,事務局へ問い合わせました。事務局から,メールで連絡済みとの返事がありました。現地登録の場合は「参加証引換券」を印刷して(スマートフォンでも可)持参することが判明しました。すべてがIT媒体で済まされていたのです。私が演者の一人として発表させていただいた1983年の「大阪で開催された総会」とは大違いでした。
 戸惑いもあり,過去3回の医学会総会はどのような内容であったかと調べてみました。

2.過去3回の日本医学会総会の流れ
 過去3回の日本医学会総会のテーマはその時代を表しています。その流れを追ってみました。

  • 第28回日本医学会総会(2011年)の会頭は矢崎義雄独立行政法人国立病院機構理事長で,東北地方太平洋沖地震があったため会場での講演会,博覧会は中止され,学術講演会,展示については電子媒体やWEBにて開催されました。
     「いのちと地球の未来を拓く医学・医療を理解・信頼・そして発展」をメインテーマとして,社会との関わりを重視している点が特徴であり,医療は社会とともに歩むというスタンスがとられています。少子高齢化が進み,医療が高度化するとともに医療介護・福祉の充実が叫ばれ,複雑な社会構造を呈していました。そのため,従来と異なり,医師以外の参加者も必然的に重視され,コメディカルなどを対象としたプログラムも盛り込まれました。しかし,一方ではバブル崩壊後,経済成長が停滞し始め,将来展望を十分検討されることなく突き進みました。この時期はある意味,医療と社会のミスマッチが派生していた時代でした。
  • 第29回(2015年)の会頭は井村裕夫先端医療振興財団理事長であり,「医学と医療の革新を目指して―健康社会をともに生きるきずなの構築―『医と人間』」をメインテーマに,健康長寿社会に寄与する技術革新として「ゲノム医療」,「ビッグデーター人工知能」,「ロボット技術」,「再生医療」の4つを挙げて,その現状と将来展望した総会でした。
     医学は人の心身の健康を守り,病気を癒すための学問として発展してきました。しかし,20世紀の後半から科学・技術が進歩し,医学も病気の診断,治療など飛躍的な発展を遂げました。高齢化社会を迎え,この時期,医学・医療は従来の感染症から糖尿病・循環器疾患など慢性の非感染性疾患が全世界で増加して全治が難しいものであり,予防が重要な課題となっていました。高齢者の増加と医療技術の進歩にともなう医療費・介護費の高騰は少子高齢化を迎えた先進国,なかでも急速に変化している日本では医療制度の維持が困難となり,近い将来,社会の基盤を揺るがす深刻な問題となることを予測しています。
  • 第30回(2019年)の会頭は斎藤英彦名古屋大学名誉教授であり,「医学と医療の深化と広がり〜健康長寿社会の実現をめざして〜『医の希望』」をメインテーマとして,日本人の平均寿命が延びている一方で,健康寿命との乖離も進んでおり,医学・医療の原点は人の「生老病死」に寄り添うことであるが,長寿社会が進んだことで「生老病死」の境界がなくなりつつあります。その上で健康長寿社会に寄与する技術革新として,「ゲノム医療」,「ビッグデータ・AI(人工知能)」,「ロボット技術」,「再生医療」の4つを挙げました。AIの技術的な応用はゲノム医療活用のみならず,画像診断支援,内視鏡ロボット,心電図,尿分析装置,顕微鏡,光学像上にAIによる分析など広範囲に実用開発が世界中で進んでいました。
  • 今回の第31回(2023年)の会頭は春日雅人公益財団法人朝日生命研究所所長,テーマは「ビッグデーターが拓く未来の医学と医療〜豊かな人生100年時代を求めて〜」であり,今回の学会は内容にも戸惑いました。「遺伝子」と「AI」,「コロナ」のオンパレードです。コンピューターの大型化とともに遺伝子が容易に測定され,大量の検査結果とともにAIに取り込み診断,治療,創薬などに使われようとしています。医療界もAIにより大きく変わろうとしています。今回は,その過程でも将来,振り返った時に歴史上に大きく変革した時点であり,飛躍的に進歩がみられたターニングポイントであったと映るでしょう。ここ2〜3年で医療,医学の見方が変わり,医療界を超えた各方面のエキスパートとの相互研究が必要となるでしょう。しかし,参加者からも質問がありましたが,「マインド」なくしては人類にとっての進歩にはならないでしょう。
     従来の総会のような実臨床を期待した私には少し期待外れでしたが,衝撃的な医学会総会でもありました。

3.急速な進歩を見せているAI開発
 昨年11月に米国でオープンAIの対話型ChatGPTが出現して以来,瞬く間に全世界に広がりました。AIの容量が拡大するとともに各分野でChatが導入されました。例えば,生成AIなどは俳優の姿,音声などを一度取り込むと,その後は,製作者がイメージした映画の作成が可能であり,米国で,映画俳優,脚本家,そのほか映画作成にかかわってきた人達の大規模なストライキが各地で行われていることはご存じのことと思います。AIにより,仕事が減り,収入が減り,死活問題となります。Chat・AIのさらなる開発はAIが勝手に動き出す危険性が危惧されています。そのため,イギリス,カナダ,イタリアなど各地区で使用制限を求めようとしています。今回の医学総会後まだ5ケ月しか経っていませんが,恐ろしいほどのスピードで世界に広まっています。「人工知能は人には変わることは永遠にできない」と言っていた時代がありましたが,どこまで通用するのでしょうか。AIが人間の知能を超えるシンギュラリティーは2045年に来ると言われていましたが,10年ほど早まっているとされています。一般人にとっては未知の世界であり,かつては人類にとって望んでいたことが実現するでしょうが,それとともに恐ろしい将来となりはしないかと心配です。

2023年12月15日号TOP