第62回 十四大都市医師会連絡協議会

「超少子高齢社会におけるこれからの医師会のあり方」,「医療DX時代におけるセキュリティ対策」,「3年間のコロナパンデミックから学んだこれからの医療提供体制」について協議

 第62回十四大都市医師会連絡協議会が令和5年11月11日(土)・12日(日),堺市医師会(会長:西川正治)主管のもと,ホテルアゴーラリージェンシー大阪堺,スイスホテル南海大阪において開催された。全国十四の政令指定都市から総勢380名が参加し,政令指定都市が抱える医療を取り巻く諸問題について,活発な意見交換が行われた。

 初日は,会長会議,総務担当理事者会議,事務局長会議が行われるとともに,第1分科会「超少子高齢社会におけるこれからの医師会のあり方」,第2分科会「医療DX時代におけるセキュリティ対策について」,第3分科会「3年間のコロナパンデミックから学んだこれからの医療提供体制」の各分科会において,それぞれ直面する課題について協議が行われ,府医からも各担当理事が発言した(各分科会の状況は後述参照)。
 2日目には,特別講演Ⅰとして松本吉郎日医会長から「日本医師会の役割について」と題して,特別講演Ⅱとして堺市博物館学芸員の白神典之氏から「堺の歴史とものづくり」と題する講演がそれぞれ行われた。その後,全体会議にて各分科会のまとめが報告され,最後に,次年度の主管である横浜市医師会・戸塚武和会長から,次年度は令和6年10月19日(土)・20日(日)に開催することが報告され,盛況裡に終了した。

第1分科会「超少子高齢社会におけるこれからの医師会のあり方」

 第1分科会では,「超少子高齢社会におけるこれからの医師会のあり方」をメインテーマとして,まず,事前に実施されたアンケート結果が堺市から報告され,第1セッション「会員数を増やすための各医師会の取組みについて」,第2セッション「会員数を増やすために解決しなければならない様々な課題」,第3セッション「最近話題になっている医療提供体制の課題に対する貴医師会が医師・市民に対して発信している方向性」をテーマに各都市から報告があり,意見交換が行われた。

第1セッション:

会員数を増やすための各医師会の取組みについて
 各都市からは,研修医・勤務医向けに手に取ってもらいやすい入会パンフレットを作成していることや,役員が臨床研修指定病院に訪問し入会促進を行っていることなど様々な取組みが報告された。
 横浜市からは京都府の臨床研修屋根瓦塾を参考に令和4年度から屋根瓦塾を開始したことが報告されるとともに,研修医を対象に実施した「医師会に期待すること」のアンケート結果では,産業医活動に高い興味を示していたことが紹介された。
 京都府からは「初期研修医の入会率が高い秘訣」,「KMA.comの運営」,「子育てサポートセンター」の3点を報告。まず,内田府医理事から,初期研修医の入会率が高い秘訣について,新研修医総合オリエンテーションの開催の際にその場で入会を促し,入会申し込みをWEBで可能としたことや,屋根瓦塾や研修医ワークショップなど研修医事業の充実を図っていることが要因になっているのではないかと報告した。

内田府医理事

 次に,KMA.comの運営について,多くの初期研修医が入会しても,研修修了時には他府県など勤務先の異動にともない,連絡が途絶えることから,全国各地,どこにいても「つながり」を継続する新たな仕組みとして,KMA.comの運営を開始したことを紹介。登録された若手医師に魅力ある情報提供と定期的な情報発信を通じて医師会活動への理解を深めてもらうことにより,将来的に医師会員となるよう中長期的な組織強化を目指していると説明した。
 最後に,武田府医理事から子育てサポートセンターについて,すべての医師が継続してキャリアを形成するために,より働きやすい環境整備の一環として,専属保育士を雇用し,子どもの一時預かりを実施していると紹介。令和5年度の利用状況について8月末時点で136名の預かりを実施していると報告。また,令和4年10月にリリースした「妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル」に触れ,自身やパートナーの妊娠・出産を考えたときに一体どのような選択肢があるのか,放射線業務など医師ならではの特殊性もあり,不安や疑問を解消する一助となるように作成したと企画の趣旨を説明。また,同僚や部下,上司の立場にある医師など様々な立場の医師にとっても,令和を生きる医師の妊娠・出産について理解を深める機会になるとした。

武田府医理事

第2セッション:

会員数を増やすために解決しなければならないさまざまな課題
 各医師会から入会金や年会費が高額であることや手続きの煩雑さなどが入会の妨げになっているなどの要因が挙げられ,解決に向けた課題の共有がなされた。
 川崎市からは,地域の開業医の交流の意義として,他診療科の医師などと顔の見える関係を構築することにより,診療の相談や患者の紹介につながることなどが挙げられた。また,医師会活動の周知不足が課題であるとして,入会案内の見直しとともに,基幹病院勤務医へ医師会活動の意義を研修会などで説明したり,医学生に対して医師会に関する講義を行っているなどの取組みが報告された。
 広島市からは,近隣すべての医療機関や大学病院に定例会への参加を促し,顔の見える関係を構築する機会を設けていることや,基幹病院勤務医,研修医,医学生などに対してはそれぞれが交流の場を持つ機会を作ることによって,入会につなげるような取組みが重要であるとの提言がなされた。
 その他,日医が開発を進めている新会員情報システムにより,手続きの簡素化が図られ,組織強化につながることが期待できるなどの報告があった。

第3セッション:

最近話題になっている医療提供体制の課題に対する貴医師会が医師・市民に対して発信している方向性
 各医師会から在宅医療への取組みや,かかりつけ医機能の重要性などが報告された。
 大阪府から,在宅医療に関する取組みとして,かかりつけ医認知症対応力向上研修,認知症サポート医フォローアップ研修会などを開催していることが報告された。
 また,在宅医療に関する課題として,人材不足や医療職と介護職の連携不足,住民への在宅医療やACPの普及・啓発の不足,急変時の後方支援体制の整備,情報共有システムの整備が挙げられ,大阪府,大阪市の行政に対して,次期介護保険事業計画ではこれらの課題を踏まえつつ,改めて在宅医療の推進に取組むよう提言を行ったことを報告した。
 東京都からは,医療情報共有について,東京都の支援のもと「東京総合医療ネットワーク」を立ち上げ,東京都内の病院・診療所等の医療機関が電子カルテを利用して診療情報を参照できるよう,複数のベンダーが相互に情報交換可能な連携システムを構築していることが紹介された。

第2分科会「医療DX時代におけるセキュリティ対策について」

 第2分科会では,第1セッションとして,①各都市におけるセキュリティ対策の実施状況,②ICTを活用した連携,③オンライン資格確認等,医療DXに係る課題―について,事前に実施されたアンケート結果をもとに意見交換が行われた。
 また,第2セッションでは,黒瀬巌日医常任理事により「医療機関のサイバーセキュリティ対策に関する日本医師会の取組み」と題した講演が行われ,日本医師会サイバーセキュリティ支援制度の詳細が紹介された。

第1セッション:

①各都市におけるセキュリティ対策の実施状況
 医療DXが推進される中,オンライン資格確認システムをはじめとする外部ネットワークとの接続の機会が増えていることを受けて,各都市ともサイバーセキュリティ対策が急務であるとの認識のもと,会員医療機関のサイバーセキュリティ対策の取組み状況把握のためのアンケート調査,インシデント発生時に備えた警察との連携体制の構築,医療機関の従事者向け研修の開催等の取組みが報告された。
 仙台市からは,セキュリティ機器の導入等,システムのセキュリティ強化とともに,事務局職員への啓発・教育が不可欠であるとして,サイバーリテラシー向上を目的とした「マルウェア訓練メール」の取組みが報告された。事務職員に抜き打ちで訓練メールを送信し,不審なメールと気付かずにURLをクリックすると訓練である旨の警告文が表示されるというもので,繰り返し実施することにより,職員の意識が向上し,予防対策に繋がるとの成果が示された。
 その他,電子カルテシステムのメーカーが多様であるために,医療機関一律の対策が難しいことや,セキュリティ強化に係るコスト負担や適切に対応できる事務局スタッフの養成が各都市に共通する課題として挙がった。

②ICTを活用した連携について
 各都市より,ICTを活用した連携の事例として,地域の基幹病院を中心とした電子カルテ情報閲覧システムや,病院・診療所間の情報共有システム等が紹介された。
 京都府における取組みについて,松田府医理事より,地域の在宅医療・介護に携わる多職種間のコミュニケーションツールとして「京あんしんネット」を運用していることを報告。運用状況やセキュリティ対策について説明した上で,「京あんしんネット」の普及にあたり,当初はタブレットを配付し,専用端末とすることでセキュリティを確保してきたが,更新管理の困難さや機器の老朽化,SIMの通信期限の終了といった課題が生じたことを説明した。これらの課題解決と併せて,病院での利用拡大による入院と在宅医療とのシームレスな移行,心不全や糖尿病等の個別疾患に対応したツールの充実化を目指すとともに,「京あんしんネット」の利便性の向上によって多くの医療・介護関係者間の連携を推進することで,地域における「面としてのかかりつけ医機能」の強化を図るべく,医療用ビジネスフォン「京あんしんフォン」の導入を検討していることを紹介した。従来の MCS(Medical Care Station)に加え,通話機能とMDMサービスの付加が可能となり,端末の仕様の統一化とMDMサービスによる端末管理によってセキュリティ強化と利便性の向上の実現が期待できるとした。

松田府医理事

③オンライン資格確認等,医療DXに係る課題について
 各都市より,オンライン資格確認等,医療DX推進にあたっての課題として,サイバーセキュリティ対策の強化が求められることや,マイナ保険証の資格情報の紐づけに係る問題等,トラブル発生時の医療機関の負担が増大していること等が挙がり,オンライン資格確認未対応の医療機関へのサポートや,トラブル発生時の迅速な対応方法の確立が必要であるとの認識が共有された。
 サイバーセキュリティ対策の需要が急速に高まる中,各都市医師会で雇用されるSE等の専門職の数も限られていることから,今後は外注も含めた対応が求められるとして,引続き同協議会で情報共有していくことが確認された。

第2セッション:

医療機関のサイバーセキュリティ対策に関する日本医師会の取組み
 第2セッションでは,黒瀬巌日医常任理事による講演が行われ,「日医サイバーセキュリティ支援制度」の創設をはじめとする日医の取組みが紹介された。

黒瀬巌日医常任理事

日医サイバーセキュリティ支援制度について
 日医では,オンライン資格確認やクラウド型電子カルテの普及等,外部ネットワークとの接続の機会の増大にともない,サイバーリスクが高まっている状況を重く受け止め,2022年6月に「日本医師会サイバーセキュリティ支援制度」を創設。①サイバーセキュリティ対応相談窓口の設置,②セキュリティ対策強化に向けた無料サイト・Tokio Cyber Port の活用,③日医サイバー攻撃一時支援金・個人情報漏えい一時支援金制度―に加え,2023年6月には,④医療情報システム安全管理ガイドライン解説資料・動画の提供,⑤医療情報システム安全管理ガイドラインに関する相談窓口―を開始し,サイバートラブル発生時だけではなく,「どのようにサイバーセキュリティ対策を進めればよいか分からない」といった平時の相談に幅広く対応するなど,さらなる支援内容の拡充が図られたことを紹介した。

医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリストの活用について
 2015年1月に施行されたサイバーセキュリティ基本法において,「医療」を含む14分野の重要社会基盤事業者(重要インフラ事業者)には,そのサービスを安定的かつ適切に提供するため,サイバーセキュリティの確保に努めることが求められていることから,各医療機関が自主的に「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」に基づく取組みを進めてきたところであるが,昨今のサイバー攻撃の増加や長期に診療の停止を余儀なくされる事案の発生を受けて,医療法施行規則第14条に第2項として,医療機関の管理者は医療の提供に著しい支障を及ぼすことがないよう,サイバーセキュリティを確保するために必要な措置を講じなければならないとする項目が新設され,2023年4月に施行されたことを紹介した。
 今後,各医療機関においては,厚生労働省が提示した「医療機関におけるサイバーセキュリティ対策チェックリスト」によって自院の対策状況を確認し,必要な対策を講じる必要があると指摘。取り急ぎ令和5年度中に,「インシデント発生時における組織内と外部関係機関(事業者,厚生労働省,警察等)への連絡体制図」を作成し,インシデント発生に備えた対応の準備をしておく必要があると述べ,立入検査の際にも現物の確認がなされるため,令和5年度中の確実な作成について会員医療機関への周知に協力を求めた。
 最後に,このチェックリストを「気づき」のためのものと捉え,各医療機関におけるサイバーセキュリティ対策の現状把握にご活用いただくとともに,チェックリストに示された具体的対策が医療機関におけるサイバーセキュリティ確保の支援・助言に繋がることに期待を示し,日医としてもチェックリストに沿った対応を行うための参考資料として,「連絡体制図」や事業継続計画(BCP)のひな形の提示等を通じて各医療機関の対応を支援していく考えが示された。

第3分科会「3年間のコロナパンデミックから学んだこれからの医療提供体制」

 第3分科会では「3年間のコロナパンデミックから学んだこれからの医療提供体制」をテーマに,第1セッションでは「コロナパンデミックから学んだ医療好事例」について7都市医師会から,第2セッションでは「コロナパンデミックから学んだ関係機関との連携」について6都市医師会から,それぞれ発表された。

第1セッション:

コロナパンデミックから学んだ医療好事例
 第1セッションでは,どの都市もPCR検査センターや診療検査医療機関等の事業を当該市とうまく連携して運営した事例が報告された。北九州市では「クロンtypeC」というシステムを利用したオンライン診療を実施し,医師会は平日の9時~21時,それ以外はファストドクターを利用して24時間診療体制を敷き,これにかかる費用(1診療300円,サポート費用10万円/月)を市が負担したことが報告された。

米林府医理事

 府医は,京都市が複数の高齢者施設でクラスターが発生したことを受けて,「高齢者施設等新型コロナ医療コーディネートチーム」を募集し,これに最初に応募した右京医師会の取組みを米林府医理事が報告。チームがスムーズに立ち上がった理由として①意気に感じた右京医師会員と右京医師会立訪問看護ステーションの結束力・絆,②すでに自宅療養者へ訪問診療を行っているチームの存在,③行き詰った際には訪問診療に特化した医師によるバックアップを確保したこととし,実際に活動して早期に介入できたケースは施設全体で早期に終息できたことを紹介した。続いて自宅療養者への往診等について市田府医理事が発表。各地域でKISA2隊が出動していることを知り,KISA2隊へ同行研修を受けてKISA2隊からケースを引き受けるフォローアップのような形で活動を行ったことを紹介した。

市田府医理事

第2セッション:

コロナパンデミックから学んだ関係機関との連携
 第2セッションでは,病院(病院協会)との連携により,入退院をスムーズに行う取組みがいくつか紹介された。第1セッションと異なり,特に県が主導している地域では県と県医師会が連携し,そこに市や市医師会が組み込まれずに調整が難しい等,行政との連携に難渋している事例が散見された。大阪府医師会は,コロナ禍が過ぎて財務省が「医療機関は十分潤った」と発言していることを受けて,医療現場は相当厳しかったことを中央省庁に伝えるために,その場面の写真を議員に送って訴えることを提案した。また,東京都医師会が在宅医療強化のためにファストドクターを積極的に活用していることについて,市田府医理事が「彼らに依存して心配が無いか」と質問。東京都医師会は,「彼らの質を高めることが医師会の使命」との考えを示した。

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