「日医の組織率」,「薬価改定」,「薬剤不足」,「医師の働き方改革」 について議論

 下京西部医師会と府医執行部との懇談会が12 月11 日(月),下京西部医師会館で開催され,下京西部医師会から8名,府医から9名が出席。「日医の組織率」,「薬価改定」,「薬剤不足」,「医師の働き方改革」をテーマに議論が行われた。

〈注:この記事の内容は令和5年12 月11 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉

日医の組織率について

~組織率の実態~
 日医の組織率は年々低下し,令和元年時点で51.2%と,今後50% を下回る可能性も指摘されており,日医も強い危機感を持ち,組織率強化に向けた取組みを進めている。
 京都府における地区への入会率は60.2%で,概ね全国平均(60.7%)と同程度であるが,日医への入会率は低い状況である。京都府においては,医師の多くを占める勤務医の入会率が低いことが組織率の低さの要因となっている。
 研修医の会費無料化とともに,新臨床研修医総合オリエンテーションや屋根瓦塾など研修医事業の充実を図り,入会促進に取組んでいるものの,研修終了にともない,多くの研修医が退会してしまう現状があり,継続加入が大きな課題となっている。

~日医加入への意義~
 日医は,医療に関する制度・政策などは一旦決定すれば変更は困難であるため,医療界が求める制度や政策の実現には,その決定プロセスに深く関わり,医師会を通じて医療界の意見を反映させていくことが現実的な方法であり,すべての医師が自分事として医師会活動に関心を持ち,その活動に参画する中で,医師会とともに医療現場が求める制度・政策などを実現していく必要があると主張している。
 実際に医師会活動に参画し,医師会内部からその活動を体験してもらうことが医師会活動に関心を持つ第一歩になるとの考えから,日医では令和5年4月1日から医学部卒後5年目まで会費の免除を開始。それにともない,府医でもこれまで医籍登録10 年目まで会費減額としていたところ,医籍登録後5年目までの間,会費を免除することとし,この期間に医師会活動への理解を深めていただくよう呼びかけている。

~府医の取組み~
 府医では,全国各地どこにいても「つながり」を継続し,研修医・若手医師の目線に立った仕組みづくりが必要と考え,新たな取組みとして本年4月に研修医・若手医師に無料で登録してもらう「KMA.com」を新設した。研修医や若手医師だけでなく,医学部生も対象とし,簡単にメールやLINE を通じて登録できるため,医師会への入会を希望しない場合でも「KMA.com 会員」として登録することで,府医から定期的に情報提供を受けることができる仕組みである。さらに,「KMA.com」ポータルサイトを立ち上げ,医師会の入会メリットや研修医・若手医師のニーズに合った情報提供を定期的に行うことで,持続的なコミュニケーションを促進していきたいと考え,このような取組みを通じて,入会を希望する研修医や若手医師の数の増加を図るとともに,中長期的に組織力強化へ繋げていく考えである。
 地区医においても,研修会や勉強会などを通じて,勤務医との接点を増やし,医師会と地区の基幹病院とのさらなる連携を図るとともに,若手医師の参加する会合などで入会のメリットなどについて説明していただきたい。かかりつけ医機能の発揮に向けて,今後ますます顔の見える関係性の構築が必要であり,新規開業の医師,勤務医など,診療科を問わず,すべての医師が地域医療を面で支えていくために,引続き,入会促進にご協力をお願いしたい。

~質疑応答~
 研修医の入会状況について質問が出され,府医では年間約100 名の加入があると回答した。
 また,府医の取組みが当事者である研修医に十分に伝わっていないとの指摘があり,府医A会員は府医入会にともない日医の加入も義務付けているが,勤務医や研修医の日医加入は任意のため,日医の組織率が伸びにくいことから,指導医や病院長から入会を促していただくことで組織率強化につながるとし,大学病院や医療機関で加入を周知していただくよう協力を依頼した。

薬価の改定について

~経過~
 2014 年6月に閣議決定した骨太の方針には,「薬価調査,更には薬価改定が2年に1度となっている現状の下では,医薬品の取引価格が下落しているにもかかわらず,保険からの償還価格が一定期間据え置かれているため,患者負担,保険料負担,公費負担に影響を与えている。(中略)市場実勢価格を適正に反映できるよう,薬価調査・薬価改定の在り方について,診療報酬本体への影響にも留意しつつ,その頻度を含めて検討する」と明記された。
 2016 年12 月の厚労大臣と財務大臣などの4大臣合意に基づき,2年に1回だった薬価改定が毎年行われることが決定した。その後,検討が行われ,2021 年は本来薬価改定が行われない年であるが,初めて中間年改定として実施され,2023年にも実施されることとなった。
 中間年改定は2016 年の4大臣合意で「価格乖離の大きな品目について薬価改定を行う」とされているが,2021 年改定は新薬を含めた約7割が対象となり,2023 年改定も同様に約7割が対象となった。製薬業界からは毎年の薬価引下げは影響が大きすぎるとし,昨今の安定供給の問題や原材料価格の高騰なども踏まえ,毎年改定の見直しを求めているが,財務省は毎年改定の対象を全品目とするよう主張し,真っ向から対立している。

~日医,府医の見解~
 日医も毎年改定の結果,安定供給に支障を来していることも踏まえて,診療報酬改定と薬価改定は同時期に行うのが基本であり,診療報酬改定がない年の薬価改定は,医薬品の安定供給,ドラッグラグやドラッグロスに与える影響も検証し,検討を重ねるべきと指摘している。また,薬剤は診療と不可分一体との考えから,薬価引下げ財源は診療報酬本体の財源に充当すべきと府医も日医もこれまでから主張しているが,財務省の強い意向により,薬価改定財源が診療報酬本体ではなく,社会保障関係費の伸びを抑制する財源に充当されることが常態化しており,非常に問題視している。
 府医も2023 年改定では財源の一部が診療報酬に充当されたことは評価できるものの,診療報酬改定の財源の確保が厳しい状況において,薬価改定財源が適切に診療報酬本体に充当されるよう引続き近医連等で主張していきたい。また,薬価改定に代わる財源を捻出する方法も検討していく必要があると考えている。

薬剤不足について

右京医師会との懇談会「薬剤の供給不足について」参照

医師の働き方改革が地区医に及ぼす影響について

 今回の医師の働き方改革は病院の勤務医が対象であり,事業主である開業医は対象には含まれておらず,無床診療所における働き方改革については議論されていない。

~日医のアンケート調査から読み解く~
 日医は,11 月に「医師の働き方改革と地域医療への影響に関するアンケート調査」を実施した。京都府内の地域医療支援病院,救急告示病院,有床診療所69 施設が回答している。そのうち,A水準は62 施設,A水準以外7施設(B水準5,連携B水準1,C-1水準1,C-2水準1)。今後の医師派遣の見込みとしては,専ら医師派遣する病院1施設,医師派遣・医師受け入れ20 施設,専ら医師を受け入れている病院48 施設である。48 施設の内,派遣元から伝えられた内容では,医師派遣を継続28 施設,一部縮小5施設,連絡なし15 施設であり,3割の施設では調整ができていないという実情が分かる。
 自院の医療提供について今後の懸念事項はあるかという質問には,「派遣医師の引上げ」,「宿日直体制の維持が困難」,「救急医療の縮小・撤退」,「周産期医療の縮小・撤退」,「小児救急の縮小・撤退」などの懸念を多くの施設が回答している。
 地域医療体制について今後の懸念事項はあるかという質問には,「専門的な医療提供体制の縮小・撤退」,「僻地医療の縮小・撤退」のほか,多くの施設が「救急医療の縮小・撤退」の懸念を回答している。
 宿日直許可の取得状況は,許可47 施設,取得に向け対応中2施設,取得が困難2施設,取得は検討していない10 施設である。救急告示病院で宿日直許可を取得した施設は多いが,夜11 時から朝8時までの9時間で宿日直許可を得ている。

~国の見解~
 厚労省の働き方改革に関するFAQ では,働き方改革制度の対象者を,病院,診療所に勤務する医師とし,産業医,検診センターの医師,裁量労働制(大学における教授研究等)が適用される医師は対象外で,一般の業種の労働者と同様の基準が適用されるとしている。
 大学院生の扱いは,診療業務の一環として従事する場合には雇用契約の締結が必要とされている(文部科学省:平成20 年6月30 日,20 文科高第226)。
 複数勤務先での労働時間の把握は,副業・兼業先の労働時間(通勤時間は含まない)を通算して管理することとされている。
 宿日直許可の許可基準は,「通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること」,「宿日直中に従事する業務は,前述の一般の宿直業務以外には,特殊の措置を必要としない軽度の又は短時間の業務に限ること」,「宿直の場合は,夜間に十分睡眠がとり得ること」,「上記以外に,一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること」のすべてを満たす場合に許可を与えるよう取り扱うこととされている。また,宿日直中に,通常と同態様の業務をまれに行った場合は,その時間について,本来の賃金(割増賃金が必要な場合は割増賃金も)を支払う必要があるとされている。

~府医の取組み~
 府医では,医療政策会議を設置し,京都大学・京都府立医科大学の副院長(労務担当),京都私立病院協会の副会長に参画いただき,多様な価値観や働き方の変化の中で,どのように地域医療を守っていくかという方策を議論している。
 現在,救急搬送困難事案は60 件/1週間,8件/1日であり,京都市・乙訓圏域では3%~5%という状態が常態化している。コロナ前は1%であったが,4月から働き方改革が始まり,行き場のない救急車が出ないように大学,各医療機関との調整・準備を進めていかなければならないと考えている。

~意見交換~
 「宿日直許可を取っているが,宿日直であるので,本来の業務はないものとされている。当直医の考え方によって,救急車を取る,取らないにならないか不安である。不測の事態には対応すべしとの考えが醸成されれば良い」と意見が出された。
 府医からは,救急医療を維持することが最も重要なことであると述べ,大学病院ではチーム制の導入などにより,体制作りが進められているが,医療の受け手である市民の理解も必要不可欠であるため,医療政策会議でまとめていきたいとした。

2024年2月1日号TOP