2024年3月1日号
京都市西陣医師会と府医執行部との懇談会が1月17日(水),府医会館にて開催され,京都市西陣医師会から6名,府医から9名が出席。「薬剤の出荷調整,上気道炎などの対症療法薬の品不足への対応」,「新型コロナウイルスワクチン」,「京都版フレイルチェックの活用法」,「医療扶助(生活保護)のオンライン資格確認」,「かかりつけ医機能報告制度」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は1月17日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉
令和5年末にもジェネリック大手の沢井製薬に対し,医薬品医療機器等法に基づく業務改善命令が出されるなど,いまだ製薬メーカーの不祥事が続いている。また,インフルエンザ等の流行によってメジコンが不足している中で,未成年者によるメジコンのオーバードーズで死者が出るなど,様々な問題が起こっている。
府医では,医薬品の供給不足に関して,令和5年8月に京都府薬務課に働きかけ,医療現場の厳しい実情を伝えるとともに,卸販売業者から欠品の詳細な理由などを医療機関に対して丁寧に説明するよう求めたところであるが,都道府県レベルでは如何ともしがたく,国レベルの対応が必要である。
令和5年6月に「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」が示した報告書の中で,医薬品の供給不安については,①後発品産業構造(小規模事業者,少量多品目精算,低収益構造),②薬価基準制度(薬価の下落),③サプライチェーン(原薬等の海外への依存)の3点を課題に挙げ,その対策の方向性が示されたところである。
同報告書では,我が国においては長年の間,最新技術を駆使して開発された医薬品や使い慣れている医薬品が医療現場に確実に供給されることは当然のことと考えられてきたが,令和2年末に発覚した後発医薬品メーカーの不祥事を発端とする一連の供給不安や,いわゆるドラッグ・ラグ,ドラッグ・ロスと呼ばれる事象が顕在化した結果,国民に必要な医薬品が届かない状況に陥っているとして,保健衛生上極めて重大な問題が生じているとの認識が示されている。
医薬品の供給不足と世界情勢の関わりについては,上述の③サプライチェーンのグローバル化を重要なポイントに挙げ,医薬品の製造開発過程においては世界的にも水平分業が進展しており,これは経済合理には合致する一方で,不安定な国際情勢の下では,医薬品供給の観点からは,地政学上のリスクにもつながっていると指摘している。この「地政学上のリスク」がまさにコロナ禍やウクライナ等での戦争であって,国内で対応できる問題ではないが,グローバル化された医薬品市場において,せめてもの改善策として,「サプライチェーン情報の共有化」が提案されている。他にも,「低収益構造」や「薬価基準制度による薬価の下落」,「原薬を購入する購買力の低下」等,様々な要因が世界の医薬品市場における日本の地位に影響を与えていると指摘されている。
日医としても,令和5年8月に「医薬品供給不足緊急アンケート」を実施の上,医薬品不足が医療機関に及ぼす影響が極めて深刻であることを示すとともに(京都医報令和5年11月1日号「保険医療部通信」参照),その結果をもとに国の検討会や対象業界団体に対する改善要望等の働きかけを行っている。
国は,医薬品の安定供給に向けて産業構造の変化を促す方向性で動いており,厚労省が令和5年10月に示した「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」の中間とりまとめにおいて,「安定供給等の企業情報の可視化(企業指標)」と「少量多品目構造の解消」を構造的課題の解決に向けて取り得る一連の施策と位置付けている。産業構造の変革を促すものであるため即効性は期待できないが,今後の安定供給に向けて必要なことであると考えている。
また,インフルエンザや新型コロナ等の感染症の拡大にともない,鎮咳薬や去痰薬の需要が逼迫している状況を受けて,厚労省は令和5年12月下旬,「医薬品安定供給体制緊急整備事業」として,医療上の必要性が高い鎮咳薬,去痰薬等の増産に必要な設備整備や人件費に対して,補助金による支援を発表するなど,安定供給に向けた取組みが進められている。
府医としても,医薬品の供給不足に関しては,引続き医報等での情報提供に努める。
~意見交換~
地区からは,後発医薬品に限らず,先発品であっても手に入りにくい状況にあるとの指摘や,不足している薬剤が OTC で販売されていることに関して,政府はこれを機に OTC に切り替えていく方向性を示すのではないかと懸念する声が上がった。また,長期収載品の保険給付のあり方の見直しにより,後発医薬品の上市後5年以上経過したもの,または後発医薬品の置換率が50%以上となったものを対象に,患者が先発品を希望した場合,後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象とし,残りを選定療養費とすることが令和6年10月から施行されることに対して,薬剤の供給不安定の状況が改善されないまま,こうした議論がなされることに疑問を呈すとともに,複雑な構造によって医療現場に混乱が生じることに懸念が示された。
令和3年1月に府医と京都府・京都市との間で新型コロナワクチンの接種体制に係る協議を開始し,同年3月28日には府医会館において集団接種の模擬訓練を実施した。同4月19日から医療従事者,高齢者施設等従事者の優先接種が開始され,その後,集団接種と個別接種の併用で住民接種が開始された。
接種開始当初のファイザー社ワクチンは,温度管理や振動など非常に慎重な取り扱いを要し,ワクチンの数自体も非常に少なかったことから,1バイアルあたり5名の接種を順守する必要があった。その後,ローデッドタイプのシリンジの登場により,1バイアルで6~7名分の接種が可能となるなどワクチンの取り扱いも変遷したが,引続き1バイアルあたりの接種人数の順守が求められた。
追加接種が始まり,4回目の接種あたりから接種者数が減少してきたことと併せて,ファイザー以外のワクチンが流通したことにともない,京都府・京都市とも協議し,1バイアルあたりの接種人数について厳しく求められないようになった。ご指摘のワクチンの「廃棄」については,一度も使わなかったワクチンのことを指し,1名分でも使用すれば「廃棄」ではなく,あくまで「残余ワクチン」となるため,「廃棄」の扱いにはならないことになっている。
令和5年秋開始接種は現在進行中であるが,接種者数はさらに減少しており,今後はワクチンが余り,「廃棄」が出ることも予想される。残余ワクチンの対策として,ファイザー社が令和5年9月に新型コロナワクチンの新規剤型について厚労省に承認申請をしており,12歳以上用はプレフィルドのシリンジタイプで希釈不要の1本1人分,5歳~11歳用は希釈不要の1人用バイアル,6ヵ月から4歳の乳幼児用は3人用のバイアルが今後承認される見込みである。また,令和5年12月には第一三共から販売が開始されたオミクロン株XBB.1.5 対応1価ワクチンは,1バイアルで2人分となっている。今後はこれらのワクチンが廃棄や残余の減少に寄与するものと考えられ,令和6年秋冬の接種に採用される可能性もある。今後,他社からもワクチンの登場が期待されるが,季節性インフルエンザと同じようなバイアル,シリンジになることが予想される。
新型コロナワクチンは「B類疾病」の予防接種として,季節性インフルエンザと同様に65歳以上の高齢者および60歳以上で基礎疾患のある者については定期接種扱い(65歳未満については,季節性インフルエンザと同じく任意接種扱い)となることが決定しており,今春の厚生科学審議会ワクチン分科会において詳細が決定された後,必要な法改正等が行われる見通しである。
令和2年度より後期高齢者健康診査(フレイル検診)の問診票が新たに作成されたが,問診項目は厚生労働省が示したもので,全国共通となっている。
問診票の回答については,府医で入力の上,電子データとして京都市等の保険者へ提出している。このデータの主な活用方法として,令和2年4月から全国的な事業として開始された「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」がある。これは京都府後期高齢者広域連合が市町村に委託し,各市町村において高齢者保健事業を国民健康保険の保健事業や介護予防の取組みと一体的に実施する制度であるが,同事業の実施にあたり,健診の問診結果を全国平均と比較して年次変化等を検証し,当該市町村の特性などを把握した上で対策の検討に活用されている。
京都市では,その検討の結果として,①高齢者に対する個別的支援のハイリスクアプローチ,②ポピュレーションアプローチ―の2つの具体的な取組みが実施されている。前者は,糖尿病性腎症やその他の生活習慣病の重症化予防,健康状態不明者の状態把握および支援を行うもので,後者は,通い場などへの積極的な関与を行い,医療専門職による運動,栄養,口腔等の取組みに対する教育や相談によってフレイル予防の支援を図るというものである。今後,さらにデータが蓄積され,政策に活用されていくことが期待される。
また,受診者向けには府医が作成した「健康読本」を結果通知に添付して配布している。問診項目に対応して,心掛けるべき内容が提示されているので,受診者が生活習慣を見直すきっかけになることを期待している。かかりつけ医の先生方には,引続き問診等を通して,受診者に「気付き」を与えていただくようご指導をお願いしたいと考えている。
医療扶助のオンライン資格確認については,導入の義務はなく,従来の医療券に加えてマイナンバーカードによるオンライン資格確認もできるようになる,というものであって,導入するかどうかは各医療機関でメリット,デメリットを判断していただく必要がある。
医療扶助のオンライン資格確認においても医療券と同様に,患者が区役所・福祉事務所に医療扶助を申請した上でなければ利用できず,また,行政において医療券を発行する代わりに「資格情報・委託医療機関情報等を登録」をすることになっており,この資格情報等の登録作業に時間を要することも懸念されている。従来の医療券も継続されるため,現時点では患者,医療機関の双方にとって導入のメリットは乏しいように思われる。
導入する場合は補助金が支給されるものの,全額補助ではない上に,補助金を受けるためには令和6年3月1日までにシステム改修等を完了させることが条件となっている。政府は,マイナ保険証によるオンライン資格確認システムを医療 DXの要と位置付け,今後,電子処方箋,電子カルテの標準化,診察券・公費負担医療の受給者証とマイナンバーカードの一体化,救急医療における患者の健康・医療データの活用等へと展開し,その先に「全国医療情報プラットフォーム」の創設を構想しており,順次予算を付けて補助金を逐次投入している状況である。
マイナ保険証を普及させるという政府の意思は強固かつ明確であるが,日医は,「医療 DX はよりよい医療につながる」という総論のもと,各論的には政府に対して適切な進め方を求めるという立場で対応しており,医療 DX に対しては「国民・医療者を誰一人取り残してはならない」という基本姿勢を示すとともに,国策として新システムを導入する以上,維持コストも含めて本来,国が全額負担すべきであると強く主張している。
府医としても,より適切な政策の実現に向けて日医を通して働きかけていきたいと考えている。
令和5年5月19日に「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」が公布され,令和6年4月から順次,「医療機能情報提供制度の刷新」,「かかりつけ医機能報告の創設」,「患者に対する説明」が施行される。
本年4月施行予定の「医療機能情報提供制度の刷新」は,国民・患者がかかりつけ医機能や医療提供施設の機能を十分に理解した上で,自ら適切に医療機関を選択できるよう,医療機能情報提供制度による国民・患者への情報提供の充実・強化を図るものである。現在のかかりつけ医機能に関する情報提供項目には,診療報酬に係る施設基準の届出状況等が含まれており,国民・患者にとってわかりにくい内容となっているため,情報提供項目を患者目線でわかりやすいものに見直すという趣旨である。
令和7年4月施行予定の「かかりつけ医機能報告の創設」に関しては,日常的な診療の総合的・継続的実施,在宅医療の提供,介護サービス等との連携,休日夜間の対応,入退院支援など,必要なかかりつけ医機能について各医療機関から都道府県知事に報告を行い,報告を受けた都道府県知事はその体制を有していることを確認した上で,地域の関係者との協議の場に報告するとともに公表することとしている。
今後,厚労省では「国民・患者に対するかかりつけ医機能をはじめとする医療情報の提供等に関する検討会」の中に「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」と「医療機能情報提供制度・医療広告等に関する分科会」という2つの分科会を新設・改編し,協議が進められる予定である。なお,同検討会および前者の分科会には,城守日医常任理事が参画している。
日医は,第8次医療計画において「感染症対策」が新たな事業として位置付けられ,コロナ禍で生じた問題点も踏まえた体制整備が図られることを考えると,今回の外来の医療提供体制に係る議論では,感染症の体制整備とは別に,それ以外の医療提供体制を見直していくことになるとの考えを示している。
また,多くの医療機関が積極的に参画できる報告制度にする必要があると指摘した上で,今後多くの医療機関がかかりつけ医機能報告をすることによって,現在の外来医療の提供体制が「見える化」され,不足する医療を改善していくツールにもなりうるとして,地域におけるかかりつけ医機能がより発揮される制度整備に繋がるとの見方を示している。今回,国が示した「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」は,日医が提言していた内容に沿うものであり,財務省が主張するかかりつけ医の法制上の明確化,認定制,登録制といった内容にはなっていない。
府医としても,かかりつけ医は「制度化」するのではなく,その機能をより強化することこそが国民の信頼に応えることであり,診療科や開業・勤務医の別にかかわらず,個々の医療機関がそれぞれの機能に応じた役割を果たし,医療機関同士が連携することによって,地域医療を面で支えることが重要と考えている。今後も検討会等での議論の状況を注視しつつ,国民皆保険制度の根幹をなすフリーアクセスの堅持を主張していく考えである。
~意見交換~
府医は,かかりつけ医機能報告制度について,患者にとって地域の医療機関の医療機能がわかりやすくなるだけでなく,医療機関同士が連携する際にもお互いの得意分野を共有することができると説明し,相互に協力し合ってかかりつけ医機能を高めていくための手段として活用することが望ましいとの考えを示した。患者から専門外の相談があった場合にも,信頼関係があるからこそ相談されるのであって,適切な医療機関を紹介し,必要な医療につなげていくことが「かかりつけ医機能」であるとして,診療科にかかわらず,それぞれの医療機関に存在意義があると強調した。