2024年3月1日号
山科医師会と府医執行部との懇談会が1月20日(土),ホテルオークラ京都で開催され,山科医師会から21名,府医から9名が出席。「医療 DX 化への流れに対する府医の対応」,「今後の診療報酬改定に関する懸念」,「医師の働き方改革における懸念」をテーマに議論が行われた。
〈注:この記事の内容は1月20日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉
国が示した医療 DX 推進に関する工程表では,「全国医療情報プラットフォームの構築」の項目で,オンライン資格確認の拡充とともに「2024年度中の電子処方箋の普及に努める」との記載が見られる。また,「電子カルテ情報の標準化等」の項目には,2023年度の調査研究に基づき2024年度中に標準化電子カルテの開発に着手し,遅くとも2030年には概ねすべての医療機関での導入を目指す,とされている。
レセプトのオンライン請求義務化については,現在,紙レセプトまたは CD-R 等により提出している医療機関は,「猶予届出」の申請によりそれを継続できるとされている。
日医は,医療 DX に対する基本姿勢として,「国民・医療者を誰一人取り残してはならない」と主張するとともに,「国策として新システムを導入する以上,維持コストも含めて本来,国が全額負担すべきである」との考えを示しており,府医も同じ考えである。
これまでオンライン資格確認の導入を巡っては,医療現場に混乱や過大な負担が生じた上に,国民の間にも不安・不満が見られたが,これは国の政策の進め方が余りにも拙速であったことが要因であると考えている。今後の医療 DX の進め方については,医療の現場の意見をしっかりと政府に伝えていく必要があるため,今後も日医と緊密に連携し,日医のもとに医療者の総力を結集していく必要がある。政府が現場の声に耳を傾けるようにするためには,より一層,医政活動も重要になると考えているため,医師会の組織力強化に向けて,地区医の先生方に引続きご協力をお願いしたい。
令和5年12月20日,政府は,令和6年度の診療報酬について,改定率を診療報酬本体+0.88%とすることを決定した。うち,看護職員等の賃上げの対応に+0.61%,これはベースアップとして令和6年度に+2.5%,令和7年度に+2.0%の実現に向けた特例的な対応となっている。入院時の食費の引上げの対応に+0.06%を充てる一方で,生活習慣病を中心とした管理料,処方箋料等の再編などの効率化・適正化により▲ 0.25%とされ,これらを除く改定率は+0.46%となった。この+0.46%のうち,0.28%程度は40歳未満の勤務医や事務職員などの従事者の賃上げに用いることとされている。
また,薬価・材料価格は▲1.00%(薬価▲ 0.97%,材料価格▲ 0.02%)となり,全体(ネット)はマイナス改定(▲ 0.12%)となったものの,本体は過去10年で最も高い数字となった。
さらに,長期収載品の保険給付のあり方の見直しとして,選定療養の仕組みを導入し,後発医薬品の上市後5年以上経過したもの,または後発医薬品の置換率が50%以上となったものを対象に,後発医薬品の最高価格帯との価格差の4分の3までを保険給付の対象とすることとし,令和6年10月より施行することが定められた。この選定療養の仕組みの導入については,今後,制度の詳細が示され次第,京都医報等で改めて周知を図りたいと考えている。
今回の改定率決定に至るまで,財務省は医療費の抑制,少子化対策の財源確保を旗印に,例年以上にマイナス改定への強固な姿勢を示し,特に診療所をターゲットとして,極めて恣意的なデータを用い,診療所の収入が増えていると指摘して診療所の初・再診料の引下げ等を主張した。
これに対して松本日医会長は,コロナ禍で医療費,経常利益が最も落ち込んだ令和2年と比較して経常利益率が急増していると主張する財務省を批判し,一過性の診療報酬上の特例を除くと,コロナ流行後の平均は流行前よりも悪化していると即座に反論した。さらに,医療界を分断する動きに対して,診療所と病院は役割の違いこそあれ,患者が受ける診療は一連であり,分断した評価はあり得ないと強調し,病院団体と連携して国民運動も展開しながら政府や与党に窮状を訴えてきたところである。
また,公定価格で運営する医療機関が物価高騰・賃金上昇に対応するためには十分な原資が必要となる中,「賃上げ」が国の重要政策に位置付けられ,2023年春闘で平均賃上げ率が3.58%,2023年8月に公表された令和5年人事院勧告では年収で約3.3%の給与改善を求めていることなどを踏まえ,医療・介護分野の従事者約900万人の賃上げに対応するためには基本となる診療報酬の大幅なプラス改定が必要であると主張してきた。こうした日医の動きに合わせて,府医においても11月19日(日)に医療・介護・福祉,患者団体の32団体で構成する京都府医療推進協議会の主催で「府民の生命と健康を守るための総決起大会」を開催し,医療機関等の厳しい状況を訴えるとともに,改定財源の確保を強く求める決議を採択したところである。
改定率決定を受けて松本日医会長は,「物価,賃金,保険財政や国の財政など様々な主張,議論を踏まえた結果で,必ずしも満足する結果ではないが,率直に評価したい」とした上で,賃上げ分の0.61%は基本診療料を中心とした診療報酬の引上げで対応することが望ましいとの見解を示している。
府医としても,近年の本体プラス幅を上回る数字であることは評価しているものの,物価高騰・賃金上昇に十分対応できるかどうかは疑問であることや,改定財源の使途を限定し,中医協の議論に制限をかけたこと,さらには生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料を再編して改定財源を捻出することは納得できるものではないと考えている。診療所をターゲットとする財務省に歩調を合わせたかのように,中医協では支払側から特定疾患療養管理料の対象疾患の見直しや外来管理加算の廃止が提案されている他,リフィル処方箋の算定状況が低調であることから,さらなる推進を求める意見もあり,多くの診療所に影響を及ぼすことが懸念される。引続き中医協の議論を注視し,情報提供に努めたいと考えている。
今回の医師の働き方改革は病院の勤務医が対象であり,事業主である開業医は対象には含まれておらず,無床診療所における働き方については議論されていない。
厚労省が示した医師の働き方改革に関するFAQでは,働き方改革制度の対象者を「病院,診療所に勤務する医師」とし,産業医,検診センターの医師,裁量労働制(大学における教授研究等)が適用される医師は対象外で,一般の業種の労働者と同様の基準が適用されるとしている。大学院生については,診療業務の一環として従事する場合,雇用契約の締結が必要との取り扱いが示されている。また,複数勤務先での労働時間の把握は,副業・兼業先の労働時間(通勤時間は含まない)を通算して管理することとされている。
宿日直許可の許可基準は,「通常の勤務時間の拘束から完全に解放された後のものであること」,「宿日直中に従事する業務は,前述の一般の宿直業務以外には,特殊の措置を必要としない軽度のまたは短時間の業務に限ること」,「宿直の場合は,夜間に十分睡眠がとり得ること」,「上記以外に,一般の宿日直許可の際の条件を満たしていること」のすべてを満たす場合に許可を与えるよう取り扱うこととされ,宿日直中に通常と同態様の業務をまれに行った場合は,その時間について,本来の賃金(割増賃金が必要な場合は割増賃金も)を支払う必要があると示されている。
日医が令和5年11月に実施した「医師の働き方改革と地域医療への影響に関するアンケート調査」には,京都府内の地域医療支援病院,救急告示病院,有床診療所69施設が回答している。
同アンケートでは,今後の医師派遣の見込みについて,「専ら医師派遣する病院」が1施設,「医師派遣・医師受け入れ」20施設,「専ら医師を受け入れている病院」48施設で,48施設のうち,派遣元から伝えられた内容では,「医師派遣を継続」が28施設,「一部縮小」5施設,「連絡なし」15施設であり,3割の施設では調整ができていないという実情が示されている。
今後の自院の医療提供については,「派遣医師の引き上げ」,「宿日直体制の維持が困難」,「救急医療の縮小・撤退」,「周産期医療の縮小・撤退」,「小児救急の縮小・撤退」等が懸念事項として挙がっており,地域医療体制については多くの施設が「救急医療の縮小・撤退」に懸念を示している。
また,宿日直許可の取得状況は,「許可」47施設,「取得に向け対応中」2施設,「取得が困難」2施設,「取得は検討していない」10施設であった。
府医では,京都大学・京都府立医科大学,京都私立病院協会の参画を得て「医療政策会議」を設置し,多様な価値観や働き方の変化の中でどのように地域医療を守っていくか,その方策について協議を重ねている。医師の働き方改革が救急医療体制に及ぼす影響について整理した上で,今後の対応に繋げていきたいと考えている。
~意見交換~
地区より,宿日直許可が得られていない場合,派遣元としても医師を派遣しづらくなるため,マンパワーが課題となると指摘があった。府医からは,救急告示病院であるものの,救急を取れない病院が出てくる可能性があることに危機感を示しつつ,一部の救急救命センターに負担が集中しないよう,特に京都市内の夜間救急をカバーする仕組みを考えていく必要があるとの考えを示した。