勤務医通信

小さな病院 内田病院について

右京医師会 内田病院 院長
内田 敦子

<規模の小さい病院の働きやすさ>
 内田病院は阪急『松尾大社駅』近くにある63床「地域一般病院」,「15:1」の小さな病院です。現在,常勤医は5名,研修医は所属していません。
 病院で義務とされている各種委員会のすべてを少ない人数でこなすため「委員会だらけ」という印象は否めません。しかし,あらゆる委員会を,自動的かつ順繰りに核となり運営する経験ができる小さな病院というのは,様々な分野の勉強ができるチャンスに恵まれた環境ともいえます。私自身,専門性を高める医療にのみに携わっていたいという壁を脱しやすく,医師としての視野を広げるためによい環境だと思っています。
 また,「15:1」という,入院期間に少しゆとりをもった病院であるということが働き甲斐につながっている,という医師の意見もあります。加えて,常勤医の多くが往診にも出ており,入院時の主治医が退院後も長く関わることができる点を,多くの患者様そして医師自身がよいことと感じているようです。医療・介護の現行制度においては,相互に望んでも割り切れない思いのまま関係性を終了しなければいけない,という様々な場面がありますが,「長く最後までともに」という選択肢があることは,病院で働く医師にも望ましいことのようです。
<他職種が揃う心強さと連携のしやすさ>
 小さいなりに病院ですから,PT・OT・薬剤師・放射線技師・管理栄養士などの専門職が在籍しており,総職員数が少ない分,職種の壁を殆ど感じることなく相互に情報の共有がしやすいのも確かです。また,それぞれの専門職が管理者としての視点を有しているので,医師は仕事がしやすいと思います。しかし,1人欠けると大変なのも事実で,コロナ禍では「ご多分に漏れず」でした。さらに,災害時となれば,わずかな想定稼働職員数の中で何ができるか,BCP を整えるに際しては,大規模・個人いずれの事業所の雛型にも合致しないという課題があります。ただ,ここ数年間の風水雪害に際しては,職種間の距離の近さのおかげか即応の災害対策チームの動きは事前想定以上によく,自助で乗り切る実績もできました。
<「医師の働き方改革」への危惧>
 医師の働き方については,常勤・非常勤とも高齢医師が多く在籍していることもあり,「医師の働き方改革制度」以前の課題でした。しかし,長年「医師として生きること」を極め,勤労意欲の極めて強い高齢医師たちの中には,制度対し「自身は制度の対象であると考えたくない」,「患者目線に欠けている」,「心の無いルールを押し付けられる」というような思いもあるようです。
 「医師の働き方改革」について様々な意見はあるものの,内田病院でも,早々に医師の働き方について調整を検討し宿日直許可も取り直しました。しかし,他の中小病院同様,非常勤医が主として所属している医療機関(他施設)においての制度運用の影響を受け,後に自院の策を再考せざるを得ないのではないか,と危惧しているところです。
 「医師の働き方改革」に関しては,地区医師会からも,地域の救急医療体制に大きく揺るがす問題だと憂慮する意見も多くあるようです。これまでの医療制度改革では拡充・強化を目指してきた救急医療体制が制度の影響を大きく受けるというアンケート結果が出ているそうで,救急隊・介護施設を含めた地域医療への影響は避けられないとのこと。
 医療制度はあらゆる専門職が知識を結集し検討を重ね生み出されるものだと信じていますが,それでも,新型コロナウイルス感染症のパンデミックを経て有事の調整が不可避であったことも明白で,「医師の働き方改革」に関しても修正検討ありきなのでしょうか。積み重ねてきた業務実績にはすでに多くの医療費が投資されています。前に進むことは大切ですが,無駄にはしたくないものです。
 病棟から眺める松尾大社の鳥居が美しく,この季節の愛宕山には雪を知らせる笠がかかります。薄雪の河川敷を跳ね回る犬にも勇気付けられる今日この頃です。

病棟から眺める桂川

Information
病 院 名 医療法人社団 松仁会 内田病院
住   所 京都市右京区梅津大縄場町6-9
電話番号  075-882-6666
ホームページ https://uchida-hospital.com/

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