2024年3月15日号
右京地区 理事 松木 圭子
令和6年2月3日,京都ブライトンホテルにて京都医師婦人会新年会が華やかに開催されました。森岡会長から新年のご挨拶があり,また,年明けの能登半島地震で大きな被害を受けた地域の方々にお見舞いを述べられました。
さて,本日のご講演は「京舞について」京舞井上流 井上安寿子氏です。婦人画報の1月号にタイムリーなことに大きく特集をされておりました。司会の西村様から,井上安寿子様のご紹介の後,京舞「萬歳」をご披露いただきました。舞台の中央に井上様がすっと正座をしてお辞儀をされると同時に照明が少し暗くなります。お顔をお上げになりますとパッと照明が明るくなり,三味線の唄とともに舞が始まりました。想像していた舞とは違いました。にこやかでなく,しなをつくることもない。凛々しく,しかし艶やかな舞。扇子や袂を使い,腰を落として,高くジャンプもする。さぞ,筋力のいることだろうと思いました。品格高く,精神性の深い舞。芯は力強く,修練を積まれた美しさ。少しの時間でしたが井上流の静かな匂やかさを感じ,最後のお辞儀まで見入ってしまいました。テレビのニュースでしか見たことのなかった都をどりを,実際に会場で見てみたいと思いました。
舞台袖から再度ご登壇になられた安寿子様,先ほどの舞の時とは全く別のお顔でにっこりとされ,まあ,なんてお可愛いらしい笑顔でしょう!!真剣なお顔も美しいのですが,舞台がぱっと明るくなるような人懐こい笑顔が素敵でした。
「今回の[萬歳]は,ひと昔前には新年になると,二人組の男が各家庭を回って,舞や唄で新年の福をさずけ歩いたといわれています。この唄には恵比寿の誕生であるとか,京の町などが取り入れられているので,皆様のますますのご繁栄を祈って舞わせていただきました。小さい頃に,この舞台で舞ったことがありますが,舞っている最中にすってんころりんしたのです。なので,思い出深い曲で,この場にまた立って,あ,そういえば,わたしここでこけたことあるわ,と思い出しておりました」随所に笑いを織り込みながら,お話が進んでいきます。
京舞井上流は,近衛家で舞指南役を務めた井上サト様が始めた舞の流派で,200 年以上の歴史を有します。サト様が近衛家を去る時に,直属の上司に「玉椿の八千代にかけていついつまでもそなたのことは忘れない」という言葉をいただきました。椿というのは八千年の齢を持つ長寿の象徴にされているようで,その八千年の命を持つ花にかけてあなたのことはいつまでも忘れない,というありがたいお言葉をいただいたので,井上八千代という芸名にされたそうです。よって椿を大事な花にされており,安寿子様が井上安寿子というお名前を許された時に,「名取扇」として椿の絵の入った扇を五世八千代様からさずけられたというお話でした。
三世春子様の時代の功績は,明治5年「都をどり」を始めたことです。京都博覧会が催され,余興として行われたそうです。今年初めて安寿子様がおき唄の振付をされるとのこと,これは是非拝見したいと思います。
また,春子様の時代に,井上流はネ氏園甲部のものにしか教えないこと,ネ氏園甲部のもの,芸妓舞妓さんたちは井上流しか習わないでくださいという取り決めをされました。これが井上流の強みであり特徴であると思います。
安寿子様は四世および五世井上八千代様に師事されました。
四世愛子様は,普段は大変お優しいおばあ様でしたが,お稽古では厳格で,当時はまだ幼く,怒られたとしか思えなかったけれど,大人になってその意味がわかるとおっしゃいました。芸の厳しい世界,その中での深い愛情に心打たれます。
そして当代の五世八千代様は2015年重要無形文化財保持者に認定,安寿子様のお母様でいらっしゃいます。奇しくも今年の1月20日,右京区医師会新年会では,五世井上八千代様にご講演いただいており,今回,医師婦人会で安寿子様に,親子二代に渡ってのお話を伺えたことは大変貴重な体験でした。
安寿子様のご家族を思われる言葉の端々に,お母様(五世八千代様)を深く思われているご様子,お互いを思いやり,大切にされているお気持ちを感じ取れました。
最後に,京舞の特徴をおまとめになりました。今まで,全員女性でつないできていること,それこそは,井上流としての歴史,「女性が舞う」ことへの,確立された誇りだったのではないかと思います。また,三世,四世,五世は能関係の方と結婚をされています。その中で能の振りを沢山組み入れてきた,よって,能とのつながりが強いのが京舞の特徴です。
また,舞と踊りの違いについてもご説明くださいました。
舞 :旋回運動。私的,詩的である。お座敷,近距離でお一人のために舞う。
踊り:上下運動。集団,盆踊りなど。大きな舞台で遠くの観客にも見えるようにお化粧も強調する。
「本当に沢山流儀があるので,それぞれご覧いただいてお好きな流儀を見つけていただいたらと思います。もちろん,井上流も推していただけたらと思います(ニッコリ笑顔で)」
その後,祝宴になりました。前会長の稲田様から乾杯のご発声です。皆様,和やかな笑い声の中,乾杯をいたしました。ご歓談の最中も,井上様はにこやかにそれぞれのテーブルを回られ,皆様方とお写真をお撮りになっていらっしゃいました。たいそう華やかで明るい空間で,お食事も大変美味しく,前菜からデザートまで完食でした。楽しい時間は本当に早く過ぎてしまいます。
最後に新屋副会長から閉会のご挨拶です。「京都で生まれ,京都で発展してきた京舞,京都府医師婦人会も京都で生まれ,来年70周年を迎えようとしています。どのようにつなげていくか,楽しく,実のある団体としてこれからも発展していけたらと思いますのでどうぞ皆様,これからもよろしくお願いいたします」と締めくくられました。お集りいただきました皆様,本当にありがとうございました。