「災害対策マニュアルの作成」,「府医の考える医療DXの方向性」,「令和6年度診療報酬改定」,「感染症法に基づく医療措置協定」について議論

 宇治久世医師会と府医執行部との懇談会が2月14日(水),うじ安心館で開催され,宇治久世医師会から25名,府医から7名が出席。「災害対策マニュアルの作成」,「府医の考える医療DXの方向性について~各医療機関は今後5年間で何をすべきか~」,「令和6年度診療報酬改定」,「感染症法に基づく医療措置協定」をテーマに議論が行われた。

〈※この記事の内容は2月14日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。〉

災害対策マニュアルの作成について

 災害時の備えとして災害対策マニュアルは非常に重要であると認識しており,府医では救急・災害委員会を中心に,「大規模災害時行動マニュアル」の策定に取組んでいる。マニュアルの基本的な項目として,府医,地区医それぞれの対応について章立てし,考えを一つにしておくことが大事であると考えており,地区医のマニュアルの参考になるよう準備を進めている。
 また,急性期の活動以外にも,救護活動が長期化した場合のことや,メンタルヘルス,感染症等への対応に関しても細かくマニュアルに落とし込んでいこうと考えており,さらには,JMAT,関係機関との連携についても記載していく予定である。
 今回の能登半島地震の経験から,アクセスが根本的に難しかった場合や天候について想定することの他,数回にわたって大地震が発生した際の救護活動をどうするかについても検討が必要である。また,JMAT活動では,日医のJMAT調整本部と被災地の都道府県医,地区医との連携に課題があったため,一つの戦略を共有しながら,変遷するニーズに対応していくことが大事である。調整本部についても,本部要員の確保の他,ライフラインに大きな被害を受け,全く身動きが取れない状況に陥った場合にどうするのか,さらにはJMATの受援体制についても検討が必要になる。
 被災した都道府県が設置する「保健医療福祉調整本部」にはJMATを含めて様々な団体が集まるが,事務局がない地区医や行政区を跨ぐ複数の地域を管轄する地区医もあり,行政との調整が難しかったとの報告があった。今回の課題として,「医師会」の立ち位置が曖昧であったことが挙げられる。本来は日医と政府,府医と京都府,当地域の地区医と市町村がカウンターパートとなり,その連携のもと調整本部が立ち上げられるべきであるが,能登半島地震では当初,医師会とJMATが同じと認識されていた。従来から地域医療を担ってこられた医師会とJMATの役割を明確にし,JMATが担う診療所支援や施設支援に際して,どこに行っていただくのかという部分については,被災地医師会がきちんと把握していく必要があると考えている。
 上記の課題を踏まえ,地区医の先生方と同じ方向を向いてしっかりと連携・協議しながら早期にマニュアルの策定を進めていく考えである。

府医の考える医療DXの方向性について

~各医療機関は今後5年間で何をすべきか~
 マイナンバーカードと健康保険証の一体化については,令和6年12月に従来の健康保険証を廃止することが閣議決定され,強引な手法で推し進められている。すでにオンライン資格確認が義務化されていることから,多くの医療機関では新たな対応は必要ないと考えるが,義務化対象外の紙レセプト医療機関については十分な配慮が必要である。
 オンライン資格確認導入の義務化対象外施設では,保険証廃止後,主にかかりつけ患者に対して資格確認書による保険診療を行うものと思われるが,マイナ保険証しか所持しない患者が来院した場合の対応方法として,モバイル端末を利用してWebサービスから資格情報の取得要求を行う「資格確認限定型」という仕組みが準備されている。また,マイナポータルによる確認,マイナ保険証の提示と「資格情報のお知らせ」の組み合わせによる確認等の運用も今後示される予定である。
 全国医療情報プラットフォームについては,「全国の医療機関・薬局をつなぐオンライン資格確認等システムのネットワークを活用し,電子カルテ情報等を電子カルテ情報共有サービス(仮称)に登録することで,医療機関や薬局との間で電子カルテ情報等を共有・交換する仕組み」と定義されており,その構築には電子カルテの標準化が必須であることから,「2024年度中に電子カルテ情報の標準化を実現した医療機関等から順次運用を開始する」とされている。厚労省は,2024(令和6)年度に標準型電子カルテのα版を開発し,一部医療機関での試行運用を経て,「2030年までに概ねすべての医療機関で標準化された電子カルテの導入を目指す」との考えを示しているが,実現に向けた具体的な様相は見えてこない。
 今回の診療報酬改定では,「医療DX推進体制整備加算」が新設され,電子処方箋を発行できる体制,電子カルテ情報共有サービスを活用できる体制を有していることが施設基準の要件となるなど,電子カルテ,電子処方箋の導入を診療報酬で誘導する形となっている。
 今後の医療DXへの対応については,府医としても,日医が示している基本姿勢と同じ考えであり,国民,医療者を誰一人取り残さないこと,国の施策として医療DXを推進するのであれば,その費用は国が全額負担し,医療機関の負担の最小化を図るべきであると考えている。国の強引な手法に振り回されないためにも,医師会として組織力を強化し,医療DXが真に国民や医療者のためになるものとなるよう提言していきたいと考えている。

令和6年度診療報酬改定について

 令和5年12月に改定率が決定し,「診療報酬本体+0.88%」とすることが示された。この間,日医から政府等への働きかけに加えて,全国で医療・介護・福祉分野の人材確保に向けた賃上げ等に必要な財源の確保を求める国民運動が展開され,京都府おいても「府民の生命と健康を守るための総決起大会」を開催し,京都選出の国会議員や府議会議員等の出席のもと,医療機関等の厳しい状況を訴えるとともに,改定財源の確保を強く求めてきたところである。
 「+0.88%」という数字は,過去10年で最も高い数字となったが,主に診療所をターゲットに生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料などの再編による「適正化」によって−0.25%とされ,その財源が捻出されたことは厳しい内容となった。
 賃上げや入院時の食費の引上げに改定財源が配分されており,配分が決まっていない財源はわずか0.18%であるのに対して,上述の「適正化」が−0.25%であるため,ターゲットにされた診療所ではマイナスとなることも想定される。
 府医としても,近年の本体プラス幅を上回る数字であることは評価しているものの,物価高騰・賃金上昇に十分対応できるかどうかは疑問であることや,主に診療所をターゲットとして生活習慣病を中心とした管理料や処方箋料を再編して改定財源を捻出することは納得できるものではなく,さらにはリフィル処方箋の推進を図るような要件も追加されていることから,多くの診療所に影響を及ぼすことが懸念される。

 その後,同日に示された令和6年度診療報酬改定の個別改定項目および新点数の概要を報告。今後,算定要件等の通知等,具体的な内容が示され次第,京都医報や府医作成の「早見表」等で周知を図るとした。

感染症法に基づく医療措置協定について

 令和3年の医療法改正によって,医療計画に「新興感染症発生・まん延時における医療」が追加され,新型コロナ対応を踏まえて,その最大規模の体制を想定した医療提供体制の確保を図ることが示された。
 また,令和4年の感染症法の改正では,「感染症発生・まん延時における保健・医療提供体制の整備等」の中で,都道府県が定める予防計画等に沿って,都道府県等と医療機関がその機能・役割に応じて医療の確保等に関する協定を締結する仕組みを法定化することとされた。協定の締結にあたって,まずは都道府県において予防計画が策定されることとなり,京都府では「京都府感染症対策連携協議会」を立ち上げ,京都府感染症予防計画の策定に着手している。これまで府・市協調で新型コロナ対応を行ってきたことを踏まえ,感染症予防計画についても京都府・京都市の連名で策定されることとなっている。
 昨年,京都府が新型コロナ対応医療機関に対して実施したアンケート形式の事前調査が「協定に関する協議」に位置付けられており,感染症予防計画では,この事前調査の結果に新型コロナ対応の実績を加味して目標値が定められている。令和5年12月には中間案が示され,関係団体やパブリックコメントの意見を反映させた後,議会の承認を経て最終案が示される予定である。今後,この予防計画に沿った形で医療措置協定が締結されることとなる。基本的な考え方として,協定の締結は京都府と医療機関双方の合意に基づくものであり,行政から強制されるものではない。また,あくまで新型コロナ対策を前提とした協定であって,新興感染症の特性は予測できないことから,その想定と大きく異なる事態となった場合には,協定の内容を見直すなど,実際の状況に応じた機動的な対応を行うことが前提となっている。
 この協定では,医療機関が正当な理由なく医療措置協定に基づく措置を講じていないと認められる場合,履行担保措置として,都道府県が医療機関に対して指示・勧告等の措置を行うことができるとされているが,勧告・指示・公表の判断にあたっては,医療機関の事情も考慮した上で慎重に行うこととされ,医療審議会等の意見を聴取するなど手続きの透明性を確保することが明記されているため,行政から一方的に当該措置を行うことはできないものと考えている。
 今後,令和6年9月末までに協定締結の完了を目指すこととなっているが,補助金等の申し込み期限等があるため,府医から京都府に対し,締結作業を早めるよう要請しているところである。京都府は,現在発熱外来を実施している医療機関に対し,第2種協定指定医療機関として協定の締結を打診してくるものと考えられるが,可能な限り協定の締結にご協力いただき,次の感染症に備えることが地域医療を守る上で大事であると考えている。

2024年4月1日号TOP