2024年5月15日号
令和6年3月31日(日),日医会館にて第155回日医臨時代議員会が開催され,令和6年度事業計画および予算について報告がなされた後,19都道府県医からの代表質問に日医執行部が回答した。
代表質問では,近畿ブロックを代表して上田府医副会長が質問に立ち,会員増強・組織強化に向けた取組みについて提案し,日医の見解を求めた。近畿ブロックからは,奈良県医・安藤会長も代表質問に立ち,調剤薬局全国チェーンによる零売問題について,日医に質問した。
臨時代議員会冒頭には,昨年11月に日本医学会会長に就任した門脇孝氏が挨拶したほか,石川県医の安田健二会長が登壇し,能登半島地震における日医・都道府県医による被災地支援に対し謝意を述べた。安田会長は,能登北部の復旧には「息の長い支援が必要」だとし,「能登北部に戻る人達に寄り添った支援を続け,5月半ばを目途に出口戦略を検討している」と話した。
-上田府医副会長
上田府医副会長は,「超高齢社会・人口減少社会を迎える中で,将来の医療を担う若手医師と正確な情報を共有し,ともに将来構想を考えることが重要だ」と述べる一方で,若手医師はスキルアップ,キャリアアップの課程で都道府県,郡市区を越えて異動することが多く,それにともなって医師会入会が中断するため,医師会との「つながり」が途絶えてしまうことが課題だとした。
その解決策として,府医では昨年4月に「KMA.com」と称する SNS を活用したサービスを開始し,新研修医総合オリエンテーション,臨床研修屋根瓦塾をはじめとした学術コンテンツを無料で公開するとともに,医師賠償責任保険や医師年金など,入会のメリットとなる情報を継続的に提供し,京都府外に異動になった場合も「つながり」を継続できる仕組みの構築に取組んでいることを紹介した。
また,医師会は「三層構造」が基本であるため,異動に際しての事務手続きが煩雑になることが,会員継続を困難とする一因になっていると指摘。日医に対し,若手医師が郡市区・都道府県を越えて異動した場合でも会員資格が継続できるように都道府県医が会員情報を管理し,その名簿を郡市区医にフィードバックすることで「郡市区医師会所属」とする制度の創設を提案。「三層構造を維持しつつ,他府県へ異動しても会員資格を継続でき,手続きも簡素化するという目的を同時に実現することで,会員増強・組織強化につながるのではないか」として,日医の見解を求めた。
-釜萢日医常任理事
これに対して,釜萢日医常任理事は,若手医師が日々の診療と自己研鑽に努める中で,医師会活動の意義や重要性の理解促進,帰属意識の醸成が難しい状況もあることから,「若手医師とのきめ細かな情報共有は,会員フォローアップの強化や会員資格の継続とも関連する重要な課題」とし,「コミュニケーションを深めながら医師会活動の意義と重要性を理解してもらうことが医師会への定着につながる」との考えを示した。その上で,各地域医師会が,大学や臨床研修指定病院の病院長,卒後臨床研修センターの責任者などと直接面会し,医師会入会への理解を得ること,若手医師と接する企画を行う場合は,その場で入会申込書を書いてもらうことが効果的だとし,「必要に応じ,日医執行部も現地に行くので,声をかけてほしい」と述べ,地域での取組の強化を求めた。
併せて,会員資格の継続については,10月末公開予定の新会員情報管理システムの構築を進めていることを紹介し,「利便性の高い運用と入会・異動の手続きの簡素化を図る」との意気込みを示した。
-日医執行部は「医政活動」の重要性を強調
日医臨時代議員会では,2024年度診療報酬改定における生活習慣病に係る医学管理料の見直しや,ベースアップ評価料の新設を巡り,医療経営への影響を懸念する声が相次いだ。
答弁に立った長島日医常任理事は,生活習慣病の医学管理料が再編されたことについて,「日医としても影響把握と対応は重要だと考えている」とし,6月の施行後に医療現場で生じた課題・問題などを,各ブロック代表等を通じて知らせてほしいと求めた。
再編に至った経緯については,財務相と厚生労働相による24年度予算折衝の合意文書において,「生活習慣病を中心とした管理料,処方箋料等の再編等の効率化・適正化」と明確に指定されてしまったと振り返り,「担当理事として,厳しい改定を経験し,医政活動がいかに重要かをひしひしと実感した」と述べるとともに,全国の会員に対し,「日本の医療のために,医師会の組織力強化,地元選出国会議員との関係強化,来年の参議院選挙への協力を是非お願いしたい」と訴えた。
新設のベースアップ評価料については,26年度改定に向けての対応を問う関連質問も出された。長島日医常任理事は,「2年後に向けては,医政活動が本当に重要だ」と重ねて強調した。
その他,改定に対する日医の評価として,「本体プラス0.88%を勝ち取ったような論調が目立つが,現場では名目の数字は全く意味がなく,実質的には大幅なマイナス改定と感じている」との声や,日医としての戦略を真剣に検討する必要性を訴える意見も出された。
-城守日医常任理事
「医師の働き方改革」に関する国民への啓発を求める代表質問に対し,城守日医常任理事(府医顧問)が答弁に立った。
城守日医常任理事は,「医師の働き方改革を進めていくためには,国民の理解を得るとともに,上手な医療のかかり方に協力していただくことが不可欠だ」とし,改革がスタートするにあたり,今,なぜ改革が必要なのかを,より分かりやすく説明していきたいとの考えを示した。
また,改革で地域医療に影響が出ることのないよう,医療機関勤務環境評価センターなどで得られた知見を基に,各医療機関を支援するとともに,地域医療提供体制への影響調査などを継続的に実施していくとした。
-城守日医常任理事
超高齢社会を乗り切るための医師会の役割・戦略を問う代表質問に対し,城守日医常任理事は,「かかりつけ医機能・地域医療構想・地域包括ケアシステムを三位一体の取組として捉え,超高齢社会の医療・介護モデル,少子化が深刻化した社会のモデルとなるよう,関係団体と連携して進めたい」と答弁。特に 2040年ごろを見据え,新たな検討がはじめられた地域医療構想については,「新たな地域医療構想が単なるバージョンアップではなく,地域で不足する入院・外来・在宅の機能を手当てしていくものとなるためには,地域医師会が中心となって作り上げるべきだ」と述べるとともに,「従来は医療資源投入量を中心とした指標のみで議論していたが,そこに地域の実情をどう明確に組み込むかを考えていきたい」とした。
-釜萢日医常任理事
深刻化が増す看護師不足と,18歳人口の減少や大学志向,資格が無くても相応の報酬が得られる状況にあることなどを要因として,医師会立に限らず多くの看護師・准看護師養成所が定員割れになっている状況について,日医の考えを問う質問に対し,釜萢日医常任理事が答弁。日医として,看護職志望者の確保に向け,1月に PR 動画を製作し,公式 YouTube に掲載しているほか,潜在看護師の掘り起こしとして,ナースセンターやハローワークの活性化も求めていく意向を示した。
養成所が閉校に至る事例が複数出ていることについては,「地域の医療提供体制の確保は自治体の責務であり,各自治体には危機感を持って対応してもらう必要がある。日医としても養成所存続に向け,国に財政面も含めた支援を求めていく」とし,理解と協力を求めた。
日医臨時代議員会では,以上のほか,「就労世代のがん対策と PHR 推進」,「セルフメディケーションと医薬品の安定供給」,「学校保健のあり方」,「医療 DX の推進と医療情報の活用」など,19の代表質問があり,活発な質疑応答が展開された。
日医は,都道府県医の協力のもと,石川県能登半島の被災地や金沢以南の 1.5次避難所,2次避難所に,日医災害医療チーム“JMAT”を派遣してきた。これまで約1,000チームが現地で活動し,延べ派遣者数は約1万2,000人となった。引続き,医療ニーズの変化を踏まえつつ,石川県医との連携のもと,中長期的視点に立って被災地の医療が復旧するまで息の長い支援を継続する。総額5億6,400万円を超える支援金が寄せられた。被災地の医療提供体制の復興に役立てていく。今回の経験を踏まえ,被災県との緊密な連携の下で,JMAT の統括機能を強化する。
現在,会費減免の対象となる医学部卒後5年目までの若手医師を中心に入会促進を行っている。その結果,昨年12月1日時点で,日医会員数は17万5,933人となり,前年比で2,172人増の成果を上げた。日医の組織率は51.25%となり,20年ぶりに上昇に転じた。会費減免期間終了後も医師会員として定着していただくことが重要であり,日医,都道府県医,郡市区等医が一体・一丸となって,好事例等を共有しながら,医師会員であることが実感できる取組を,積極的に進めていきたい。
また,医師国試合格者に入会いただくことも極めて大切であり,この機を逃さず,入会に向けて尽力いただきたい。
一方,会員数のみを重要視するのではなく,医師会活動の理念を共有する中で,各医師会および各会員の有機的連携に基づく発信力や実現力を高め,医療を取り巻く難局を乗り越えていくための力を一段と強固にしていくことが重要。一層の力添えをお願いしたい。
我が国は,国際的に見ても,コロナによる人口あたり死亡者数や陽性者の致死率の低さなど,特筆すべき医療実績を積み上げてきた。これは,全国の医療機関の先生方による懸命な対応の賜物と考えている。特に,診療所で対応したコロナ患者およびコロナ疑い患者数は約7,700万人にのぼる上,これまでの新型コロナワクチンの接種回数は約4億3,500万回に達した。今後,我々が発熱外来等で患者をしっかり診ていく姿勢を示すことが,国民のさらなる信頼獲得に繋がるものと考えているので,引続き協力いただきたい。
日医は,かかりつけ医機能が発揮される制度整備の方向性として,「一人の医師や一つの医療機関ではなく,複数の医師や複数の医療機関が地域を面として支える」,「人口や医療従事者が減少していく中で,地域の医療資源をうまく活用・開発して地域に必要な機能を実現するため,多くの医療機関が積極的に参加できる」,「医師を始めとする医療従事者や医療機関がそれぞれの役目に応じてできることを拡大していく努力をする」の3点を主張していく。
昨年より,国民に医師会活動を知ってもらうため,「地域に根ざした医師会活動プロジェクト」を開始した。今後も引続き当該プロジェクトを進め,かかりつけ医機能の推進を図るとともに,面として地域医療を支える機能をより高めていく。
医療 DX は,日医が目指す「国民・患者の皆様への安心・安全でより質の高い医療提供」と「医療現場の負担軽減」の実現に資するものでなければならない。令和6年度診療報酬改定より,施行時期が2か月後ろ倒しになった。医療現場にその効果がどうもたらされるか,今後の状況を注視しながら,必要な対応を行っていきたい。政府に対しては,サイバーセキュリティ対策も含めて,医療 DX に掛かるコストに対する公的支援の拡充,現場の負担軽減に向けた取組みと情報発信を引続き求めていく。
日医は,厚労省から指定を受けている医療機関勤務環境評価センターにて484件の評価受審申し込みを受け付けるなど,医療機関および勤務医を支援し,本年4月からの改革を無事に迎えられるよう,尽力してきた。予定どおり4月1日から新制度の施行を迎えられることになったのは,日医取組みに意義があったからだと考えている。今後も,地域医療提供体制を守るため,大学病院や病院団体などの医療関係者とともに,新制度施行後の状況を把握・検証すると同時に,課題への対応に取組んでいく。
診療報酬改定は,結果として本体改定率が+0.88%となった。これは,財務省の厳しい主張に対し,中医協でしっかり反論し,論破できたことに加え,各地域において,都道府県医・郡市区等医が,医政の重要性を踏まえて,医療が置かれている厳しい現状や医療施策へのさらなる理解を求める活動を広くしていただいたことが大きな力になった。物価・賃金の動向を踏まえれば,十分に満足できるものとは言えない部分もあるが,多くの皆様のご支援・ご協力に改めて感謝申し上げる。
今後も医療費の財源については,税金による公助,保険料による共助,患者の自己負担による自助,これら3つのバランスをとることが大切だ。その際,自助ばかり増やすことは,あってはならない。一方で,足元に迫る物価高騰への対応など,6月頃に閣議決定が見込まれる「骨太の方針」等に向けて,診療報酬のみならず,補助金や税制措置など,あらゆる選択肢を含めて対応いただくよう,政府に働き掛けていく。
医薬品やその原材料の安定供給について,海外で生産している医薬品の原材料の供給が滞った場合は,国内の医薬品供給が不安定化する状況に陥っている。入手困難や価格高騰といった状況を回避するためにも,国産回帰や,サプライチェーンの多様化等の対応も必要だと考えている。経済安全保障推進法では,抗菌性物質製剤が特定重要物資に指定され,安定供給確保に向けた支援が始まっている。しかし,せき止めなど日常診療で頻用する医薬品に対しても,安定供給に向けた支援を行うべきだと考えている。国に対して補助金や税制を活用した支援の検討を促していきたい。
医師会運営にあたって,「地方から中央へ」,「国民の信頼を得られる医師会へ」,「医師の期待に応える医師会へ」,「一致団結する強い医師会へ」を4つの柱として進めてきた。会長就任後の2年間,会務の運営方法等の再構築に尽力し,厚労省をはじめとする関係省庁との適切な連携を進めるとともに,政府・与党とのより強固な関係の構築に尽力してきた。
現場の声を直接伺うためにもほぼすべての都道府県を回らせていただくとともに,全国の都道府県医師会長と対面や電話等を通じて緊密に連絡をとらせていただいている。
次期においても引続き,日医会長として,地域医師会とともに一丸となって,国民の皆様からさらなる信頼を得られるよう,そして医師の先生方からの期待にまた一段と応えられるよう,これらの取組みを一層強力に推進していきたい。