理事解説 百考千思

京都府医師会保険担当理事 田村 耕一

令和6年6月診療報酬改定について

 今回の診療報酬改定は非常に大きな改定であったと思われます。賃上げ・物価高騰への対応,6年に1度の介護報酬,障害福祉サービス等報酬とのトリプル改定,医療DXへの対応,働き方改革,コロナ禍を受けた新しい感染対策など課題が多岐にわたりました。
 まず例年4月改定であったところ診療報酬改定DXによる対応で2か月後ろ倒しとなり,従来よりも準備期間を設けることができました。
 また政府は3年ごとに社会保障関係費の伸びへの方針を示しており,「骨太の方針2021」では実質的な増加を高齢化による増加分に相当する伸びに収めることを目指すとともに,経済・物価動向などを踏まえることとしました。その結果毎年社会保障関係費の自然増を2,000億円ほど削減し続けてきました。今回の改定に際しても,財務省はとにかく医療費削減に固執し,令和5年11月財政審における令和6年度予算の編成に関する建議では,最近の診療所の経営状況はコロナ禍の影響で良好であると極めて恣意的なデータに基づき,診療報酬マイナス5.5%,これは改定率ではマイナス1%にあたり,医療費で4,800億円削減すべきであると主張しました。
 最終的に,診療報酬本体プラス0.88%となり近年では一番大きなプラスでした。しかし大臣折衝により,その大半の用途を指定され(看護職員などの医療従事の賃上げプラス0.61%,入院時の食事基準額の引上げプラス0.06%,生活習慣病を中心とした管理料,処方箋料等の再編などの効率化・適正化マイナス0.25%)そして残りはプラス0.46%(このうちプラス0.28%を40歳未満の勤務医,事務職員等の賃上げ)となりました。
 昨年の人事院勧告では平均賃上げ3.3%の上昇が示されています。全従事者の13.5%にも上る医療・介護従事者約900万人の賃金上昇が達成されなければ,多くの医療・介護従事者が他産業へ流出し,現在の医療の継続は不可能になります。そこで松本日医会長を中心に,全国の医師会会員の先生方のご協力のもと,医政活動によりマイナス1%から本体プラス0.88%まで押し戻すことができました。決して満足のいくものではありませんが医療・介護従事者の賃金は確保しました。しかし適正化という名のもとで診療所を狙い打ったようなマイナス0.25%が決定されました。これは大臣折衝で決められたことであり,中医協では議論できませんでした。このように最近の改定では中医協で議論する前に対応すべき項目が具体化され,財源もひも付きとなり,中医協の裁量が縮小しています。これに対して今後さらに医政活動が重要であると思われます。
 各論において詳細は割愛しますが,ベースアップ評価料,医療DX推進体制整備加算(初診時8点),検査等が出来高の生活習慣病(Ⅱ)の新設(初診月は除く333点,月1回),初再診料の引上げ,地域包括診療加算の引上げ,外来感染対策向上加算,長期収載品の保険給付の見直し等様々な項目が改定されました。現在7月半ばであり,徐々に今回の改定での影響が明らかになりつつあると思います。次回改定に向けて検証が必要ですが,特に外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)については届け出を検討いただきたいと思います。届出様式が複雑ではありますが,厚労省ホームページに解説動画や支援ツールが公表されていますのでご覧ください。届け出が少なければ財務省がやはり医療機関の経営は良好で,診療報酬上の評価がなくても従事者の賃金上昇ができると判断する可能性がありますのでよろしくお願いいたします。

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