2020年6月15日号
2020年5月31日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)対策として国から発令された緊急事態宣言は4月16日に京都府を含めて全国に拡大された。国民に対して外出自粛が呼びかけられ,4月から5月にかけてのゴールデンウィークも自粛ムードが続いて例年の大移動は全国的にはみられず,政府の目標の8割の抑制が行われたが,5月4日には31日までの期間延長となった。感染者の増加に歯止めがかかり,各地で新規のPCR陽性者が減少してきた。5月14日に39府県で解除,21日には関西3府県で解除,25日には31日を待たずに全面的解除になった。
京都府医師会(府医)では,京都府の委託を受けて4月から宿泊療養施設への出務医師派遣とPCR検査を行う体制を整備して運営を開始した。緊急事態宣言が解除されても医療機関や介護関連施設での衛生資材はなお逼迫している現状への対策と,引続き第2波に備える取り組みを府医は行っている。これらのことを含めて,5月の1か月間の府医の活動状況を述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,5月31日時点でのものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
2.COVID-19の流行とその対策の経緯
新型コロナウイルス感染症対策本部(厚労省対策本部)決定で,4月7日に7都府県(埼玉・千葉・東京・神奈川・大阪・兵庫・福岡)に対して緊急事態宣言が出された。4月16日の時点では蔓延が進んでいると考えられて,緊急事態宣言の対象は6道府県(北海道・茨城・石川・岐阜・愛知・京都)を含め13特別警戒都道府県とされた。さらに,それら以外34県についても都市部からの人の移動等でクラスター発生から感染拡大が起こる可能性から,人の移動を最小限にするために,全国に拡大され,全都道府県が緊急事態宣言の対象区域となった。5月4日の時点では,全国の新規報告数が200人程度の水準であり,医療体制が逼迫している地域がみられることから,新規感染者をさらに減少させ,感染を確実に収束に向かわせるため,緊急事態宣言の期間が5月31日まで延長された。
3月28日公開の「新型コロナイウルス感染症対策の基本的対処方針」(基本的対処方針)は,その後の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(政府専門家会議)で協議した内容を加筆する形で何度か修正版が出されたが,5月14日に政府専門家会議でのCOVID-19の状況分析・提言に基づいて基本的対処方針の一部が公開された。ここで明らかにされたのは,日本国内のCOVID-19の流行は,4月10日前後にピークに達し,その後徐々に感染者数が減少しているという経過である。実効再生産数は4月以降には1未満となり,そのまま推移していることが判明してきた(図参照)。5月14日に,首都圏およびその周囲の県,関西3府県と北海道を除く39府県で緊急事態宣言の区域解除が行われた。
京都府では,緊急事態措置緩和のための判定基準を次のように設定していた。(1)新規陽性者数(7日間平均)<5名,(2)新規陽性者における感染経路不明者数(7日間平均)<2名,(3)PCR検査陽性率(7日間平均)<7%,(4)重症者病床使用率<20%,は,5月13日に(1)2.29名,(2)0.29名,(3)1.6%,(4)1.3%であったが,京都は大阪・兵庫と一心同体的に緊急事態宣言対象区域とされていた。その後,京都府では新規陽性者のゼロが続き,その他の項目を含めて7日連続で基準達成した(表1)。なお京都府では5月21日以降(1)~(3)はゼロ,(4)は2.5% を続けている。
(表1)京都府緊急事態措置緩和判定基準の達成状況(5月19 日時点)
基本的対処方針では,緊急事態宣言の解除にあたっては①感染状況 ,②医療提供体制,③PCR検査などの監視体制,の3点を踏まえて総合的に判断するとしている。そのうち①の「直近1週間の10万人当りの感染者が0.5人程度以下」であることを受けて,関西3府県は5月20日時点でこの基準を下回り(京都府0.04,京都府独自の基準も7日連続でクリア),21日には緊急事態宣言の対象区域から解除された。対象として残るのは,この基準を上回る東京都,神奈川県,北海道の5都道府県のみとなった。その後,神奈川と北海道はこの基準を満たさないまま,その他の要因としての医療提供体制等の状況を踏まえた上で,25日に5都道県を含めて緊急事態宣言は全面的解除となった。しかしながら,全国的に新たな感染者がゼロになっている訳ではなく,東京都と北海道では新規感染者が少ないながらも続いており,特に北九州市ではそれまで3週間以上ゼロであったにもかかわらず23日から連日新規感染者が判明しクラスター発生による第2波が懸念される。
5月25日に改訂された基本対処方針により,「新しい生活様式」の定着等を前提として一定の移行期間を設けて,外出自粛や施設の使用制限の要請等を緩和しつつ,段階的に社会経済の活動レベルを引上げることとされた。この移行期間は5月25日から7月31日までの約2か月間とし,概ね3週間ごとに感染状況,感染拡大リスクを評価することになっている。8月1日以降の取り扱いは今後の感染状況を踏まえて検討の上,別途通知される。
5月29日公開の政府専門家会議「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では,欧米の先進国などと比較して我が国の感染者数・死亡者数が低水準であることの主な理由として,以下の点を挙げた。
・国民皆保険制度による医療へのアクセスが良い,医療機関の充実,地方においても医療レベルが高いことから流行初期から感染者を早く探知できた
・保健所を中心とした地域の公衆衛生水準が高い
・市民の衛生意識の高さ,元々の生活習慣の違い,政府等からの行動変容の要請に対する協力の度合いが高かった
・ダイヤモンドプリンセス号への対応の経験が活かされた
・緊急事態宣言やその前からの自主的な取組みの効果によって新規感染の抑制がなされた
・クラスター対策が感染抑制には効果的であった
# クラスター連鎖による大規模感染拡大を未然に防止できた
# 初期の積極的疫学調査から,多くのクラスターを見つけ,それに共通する「3密」の場などを回避するための対応策を市民に訴えた
# クラスターを中心としたリンクを追うことで,地域ごとの流行状況をより正確に推計できた。リンクの追えない「孤発例」が増加することが地域での感染拡大を示すと判断し,地域での早期対応強化に繋がった
ただし,この評価では,人種の違い(遺伝子レベル)や治療法等については全く触れられていない。今後,各国の種々のデーター解析により検証されるものと思われる。
3.府医の5月の活動
⑴ 会議等
① 府医(表2)
1月以降,府医と京都府・京都市とでCOVID-19対策に係る協議等を繰り返してきたが,4月から京都府新型コロナウイルス感染症対策本部会議(京都本部会議)に松井府医会長が出席,さらに京都府新型コロナウイルス感染症対策専門家会議(京都専門家会議)には松井府医会長が議長として出席することとなった。府医の意見は主に松井府医会長によって行政に伝えられた。京都本部会議や京都専門家会議で協議された京都府の意向・方向性・方針等は松井府医会長から役員に伝えられ,さらに次項の日医の協議会での協議内容と厚労省からの通知内容も併せて,府医が取るべき対策等は定例理事会,京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム(府医コロナチーム)会議,府医理事メーリングリスト(ML),府医コロナチームML等において意見交換・協議を行い,役員全員で情報共有をしてきた。
府医コロナチーム会議の検討で府医の委員会や研修会等の中止あるいは延期は,引続き6月15日までと決定した。府医ではWeb会議システム(Cisco Webex)を導入し,5月から役員による府医の定例理事会,総務担当部会,地域医療担当部会などの各部会,さらに地区庶務担当理事連絡協議会はWeb会議で開催した。また,松井府医会長と北部の参与あるいは南部の参与とのPCR検査センターに係る協議もWeb会議で行われた。
② 日本医師会(日医)
日医の「都道府県医師会新型コロナウイルス感染症担当理事連絡協議会」(双方向のTV会議システム)は2月21日に第1回が開催され,以後毎週金曜日の夕方~夜に開催されてきた。5月は第14回まで5回が開催された。政府専門家会議の提言や日医の取組み・対応について説明があり,各都道府県から問題点,要望,取り組み状況,意見交換などが行われた。緊急事態宣言の解除に向けての動きがあるため,協議内容は3月4月の開催に比べると緊張感がやや低下している印象であるが,各都道府県の取組みの中で出てきた問題点を日医に対して発言することはまだ多い。これらの質問・要望に対する回答は,検討内容の説明あるいは日医から厚労省への要望等として,次の協議会で日医の担当理事から呈示されてきた。医療機関や介護関連の施設におけるCOVID-19流行にともなう経営上の困難に対する対策等が順次立てられたが,日医からの要請が大きく影響した。これらの要望等については,日医のHP上で公開されている「日医くんだより」に掲載されているので参照されたい。
なお,緊急事態宣言の全面解除を受けて,本協議会は6月の開催はいったん見合わせて,必要に応じて適宜開催されることになった。
⑵ 京都府宿泊療養施設の健康管理および自宅療養
京都府,京都市におけるCOVID-19の軽症患者は,医師が入院の必要がないと判断した場合に宿泊療養または自宅療養となっている。「新型コロナウイルス感染症軽症者における宿泊施設対応マニュアル」でも重症化のおそれが高い者(70歳以上の高齢者,基礎疾患がある者(糖尿病,心疾患または呼吸器疾患を有する者,透析加療中の者)など)に該当しない場合は宿泊療養または自宅療養の対象となっている。
4月15日より京都平安ホテルにて宿泊療養が開始された。府医役員2名が,毎日午後2時から3時の間に宿泊施設を訪問し,詰所にて入所者の状況を確認し,必要に応じてタブレット端末または電話にて入所者の健康状態を確認した。直接対面での診療はしない。入所者数は日に日に増加し,4月20日には最大30名の入所者となったため,5月11日からは内科医会の協力を得て,内科医会から1名の医師と府医役員1名が毎日入所者の健康管理を行った(註:6月2日に最後の1名が退所し,入所者はゼロとなった)。
また,5月12日には二つ目の宿泊療養施設としてホテルヴィスキオ京都が開所され,3名の入所があった。翌日には4名となり,5月18日から各地区医(下西,下東,伏見)の協力を得て,地区医から1名の医師と府医役員1名で健康管理を行った。5月26日に最後の1名が退所した。
2つのホテルの総入所者数は85名で,全員が退所した。
年代別では85名中72名が20歳代から50歳代であり,居住地では京都市内と京都府内が約半数ずつである。発症から入所までの平均日数は約17日,陽性判明から入所までの平均日数は約10日,自宅からの入所は52名,医療機関からの入所は33名,平均入所日数は約9日である。
症状のある者は73名,無症状は9名,不明が3名であり,症状の内容は,発熱,咳,咽頭痛,味覚・嗅覚障害,倦怠感である。
電話やタブレットを用いた診療は対面の診療ではないので,聴診ができないこと,皮膚の視診において湿疹や膨疹,水泡等の区別が困難であることが問題点ではあるが,医師も看護師もレッドゾーンと完全に隔離され,感染の可能性が極めて低いことで,協力いただいた医師が安全に診療できる体制が構築できたと考える。
⑶ 京都府新型コロナウイルス感染症入院医療コントロールセンター
京都府内でのCOVID-19患者発生件数増加にともない,入院病床の確保・病院間調整等を目的として京都府新型コロナウイルス感染症入院医療コントロールセンター(コントロールセンター)が設置された。構成メンバーは京都府職員のほか市内の災害医療コーディネーター・DMATロジスティック隊員からなり,朝から遅いときには午後10時くらいまで活動を行ってきた。府庁内に設置されたコントロールセンターはあまり広いとは言えず7-8人のスタッフでいわゆる3蜜の状況での活動を余儀なくされてきた。コントロールセンターは行政機関・保健所と医療機関・介護施設をつなぐハブとして機能できたと考える。府内で発生した359名のすべての詳細な情報と各機関とのすべてのやり取りをクロノロジーとして一元化し共有しながらの活動はまさに災害対応そのものといえる。そのほかクラスター対応なども府内の感染対策チームと連携して行い感染拡大を阻止することができた。
開設当初,重症患者や大きなクラスター発生も影響し感染症・結核指定医療機関だけでは病床が不足し自宅での経過観察をお願いするなど若干混乱をきたしたが,次第に受入れ医療機関・施設も増え医療崩壊には至らずに一旦の収束を見ることができた。自宅隔離をお願いしても買い物などスーパーに外出される方,家庭内に高齢者などハイリスクの方がおられる場合などは特に配慮が要求された。また,何とか入院をお願いしたいが受入れ医療機関にもそれぞれの事情があり患者を限定されるなど,精神的な負担も大きかったのが実情であった。
しばらくして,宿泊施設の開設やPCRセンターでの検査開始など府医会員のご尽力により,コントロールセンターでの業務負担もかなり改善したと感じている。改めて会員の皆様に感謝申し上げるところである。
コントロールセンター業務はまだしばらく継続する予定である。収束しているこの時期,次に備えての備蓄・計画が必須である。
⑷ 京都府医師会PCR検査相談センター(正式名称;京都府・医師会京都センター)の設置と運営
今回のCOVID-19感染拡大に際して,発熱者は直接医療機関を受診せずに,患者自らが帰国者・接触者相談センター(以下,相談センター)に連絡し,その相談センターの判断で帰国者・接触者外来(以下,接触者外来)でPCR検査を受ける,という流れになっていた。これはCOVID-19感染者が直接医療機関を受診することで院内感染拡大の懸念があったための対応であった。しかしながら当該相談センターに電話が集中して繋がりにくいため自宅待機を余儀なくされる,また繋がっても相談センターからかかりつけ医を受診するようにとの指示を受ける,かかりつけ医が相談センターに連絡しても接触者外来のPCR検査へつなげてもらえない,等々,患者のみならず医療現場に多くの混乱を生じた。接触者外来にも行けない,かかりつけ医にもかかれない,いわゆる「COVID-19難民」が増えた。そのため,かかりつけ医からのPCR検査の依頼をできるだけ受け入れるために,京都府からの委託を受けて府医にPCR検査相談センター(府医相談センター,府医検査センター)が設置された。4月29日に府医相談センターが,翌30日から府医検査センターの稼働が始まった。予め府医検査センターへの出務依頼を会員に求めたところ,非常に多くの会員から申し出があり,順番に出務していただくことにした。府医相談センターは府医理事2~3名が,府医検査センターは前述の会員の先生方あるいは府医役員が毎回出務した。ゴールデンウィーク中は医療機関の多くが休診であるため,相談申し込み数はさほど多くなったが。5月7日からは申し込みが多くなり,同時に産婦人科医療機関からの妊婦へのPCR検査依頼も増えてきた。翌日の検査数が予定の20に達するあるいはそれを超えるようになった。なお,当初,平日のみならず祝日・休日・日曜に相談センターと検査センターを開いていたが,連日の事務局の作業が極めて多く負担が大きいため,働き方改革の観点からも,日曜日は休みとした。日曜日にチェックシート等がFAXで送付された場合は,翌月曜日に相談センターで検討する。
府医検査センターは最初の検査所が屋外でのテントだけの設備のため天候に左右されやすい状況であり,雨風の強い日の開所が危ぶまれた。2か所目の検査所はコンテナ(エアコン完備)とテントを用いており天候には左右されにくい。必然的に2か所目がドライブスルー形式検査所の中心となっていった。
京都府は市内を中心にして府内5か所の検査センター開設を発表しているが,3か所目として府内南部に設置することになった。南部の地区医で予め検討された候補から,開設予定地が決定し,2か所目と同じコンテナ,テント等の設備を整えることとなった。南部の4地区医会長と松井府医会長・北川府医副会長とで協議し,5月中に稼働することで同意を得て,また出務医師の募集をお願いした。しかしながら,地元と京都府との間での同意が得られず,5月中の設置が叶わなかった。この南部の検査センターも,京都府・医師会京都検査センターの枠組みで行われるので,出務医師の身分も確定され,また予約と検査のスケジュール調整は府医相談センターで行われる。6月以降に京都府が設備の設置完了の確認後に,出務医師への検体採取とPPE着脱等のオリエンテーションを行う予定である。
また,4か所目と5か所目についても設置の準備を進めており,府医会館駐車場と国道9号線沿いなどを候補として選定中であるが,5月末現在では未定である。
⑸ 広報など
① 府医コロナ通信
5月14日から,府医ML上で「府医コロナ通信」の発信を開始した。府医PCR検査センターでの依頼状況,検査実施状況,検査結果に加えて,宿泊療養チーム,相談チーム,検査チームのそれぞれの担当役員が交代で日々の報告を執筆した。府医MLでの内容は,府医HP上で「府医コロナ通信」というブログでも公開している。5月31日で,Vol.18を出した。5月末には,宿泊療養の対象者がかなり減り,府医PCR検査相談センターでの依頼件数も減ってきたことを受けて,6月から府医コロナ通信の連日の発信は一旦終了とし,週に1-2回に減らすが,第2波が生じた際には連日発信を再開することとなった。
② 京ころなマップ
会員の先生方のご協力を得て,従来からインフルエンザ発生報告マッピングシステム(京いんふるマップ)を運用していたが,今年のCOVID-19の流行時に急性ウイルス性呼吸器感染症発生報告マッピングシステム(京かぜマップ)を立ち上げたところである。新規COVID-19感染者数が減少してきているが,今後の第2波あるいは第3波への備えとして,感染者を早期に発見することが重要となる。そのためのひとつの手段として,この京かぜマップをモディファイして臨床的にCOVID-19疑いの患者を診たかかりつけ医の会員が入力するための新型コロナウイルス感染疑い報告(京ころなマップ)の運用を開始した。
発熱,咳などの症状がある患者はまずかかりつけ医に電話等で連絡をして直接受診する前に相談をすることになっている。そのためには,かかりつけ医は発熱者を排除せずにこの相談を受けるための体制を整える必要がある。症状を聞いて,臨床的にCOVID-19疑いがありPCR検査が必要と判断されたときは,府医相談センターへ検査の申し込みをすると,担当役員で協議の上,できるだけ検査センターでのPCR検査に繋げる。検査の申し込みをされたかかりつけ医(COVID-19疑いと診断した医師)は,この京ころなマップに情報を入力していただく。PCR検査結果とこの京コロナマップを突合させることで,地域的な感染の広がりを早い段階で把握することが可能となり,その地域での早期の対応に結びつけることができる。現在,京都府・京都市ともに,COVID-19流行時に行政検査で判明した陽性者については,その居住地は明らかにされず(個人情報保護の立場から),京都府内/京都市内在住としか発表しないため,医療機関としての早い対応を行うことができなかった(この点は,少なくとも行政区だけでも府医に通知することを要望したい)ことは,大きな反省点である。京ころなマップによって,陽性者を早く発見して,早期の隔離をすることと居住地域を含めた積極的疫学調査によって感染拡大とクラスター発生の防止に繋がり,感染対策として重要な位置づけになると確信するところである。京ころなマップのデーターと行政検査での感染者のデーターによって,より確かな感染発生と拡大の把握が可能となる。なお妊婦対象のPCR検査実施の場合は,京ころなマップへの入力は不要である。多くの会員の先生方のご協力を,この場でもお願いするところである。
⑹ 衛生資材
COVID-19に対するワクチンや治療薬が確立されていない状況にあって,我々医療者は感染予防に努める他はなく,そのための衛生資材を確保することは非常に重要であると認識している。しかし,標準予防策として必須であるマスクと消毒用エタノールについては,3月の時点で国による医療機関への優先供給スキームが作られたとはいえ,その後の感染拡大により国内はもとより国外においても需要が急増したことを受け,4月,5月の供給量は圧倒的に不足していたと思われる。マスクについては再利用をやむなしとする行政通知(4月10日・14日),エタノールについては高濃度エタノールを手指消毒用に代用することや(3月23日),酒税法上の取り扱いの一部変更(4月10日),エタノール濃度基準値の見直し(4月22日)エタノール含有製品の転売禁止(5月22日)などの行政通知が発出され,供給量の増加と安定を後押しされている。懸念項目である感染者受け入れ病院や,帰国者・接触者外来を持つ医療機関,またクラスター発生時の対応などについては国から京都府を通じ医療機関へ直接の供給がなされた一方,上記医療機関を除く医師会員については府医を通じ,可能な範囲で標準予防策をとるために必要な物資の配布に努めた。
① サージカルマスク
② 手指消毒用エタノール
4月に京都府から480L(500mLボトル960本)が配布された。4月に府医で800L,5月に900L(4,000Lを購入予定であるが生産工場の稼働率低下により入手でき次第配布予定)を購入し,各地区医への配布とした。また,エタノールについては各種団体からの多くの寄贈をいただいたため,これらの配布についても並行して行った。
③ PPEセット
5月26日に救急告示病院(感染症指定医療機関除く)および京都市救急輪番病院の計86医療機関へN95(12枚),KN95(20枚),防護服(40着),医療用エプロン(40枚),フェイスガード(20枚)をセットにして配布。
府医としてはこれらの衛生資材について診療所を含む医療機関への配布を京都府に対して強く要望したが,結果としては各会員の自助努力により第一波を何とか乗り越えたと思われる。今後は第二波,第三波に備えて,供給量の増えた時点で備蓄計画を練ることとなった。ただしアルコールに関しては一時的な緩和策は取られているものの,80Lを超えて府医に大量備蓄することは消防法上不可能であり,業者における一定量備蓄の委託など,今後検討していく必要がある。
⑺ 健診などへの対応
特定健康診査(特定健診)と特定保健指導は,緊急事態宣言期間中は控える旨の通知を出していたが,解除を受けて,府医と京都市等で協議を行い,個別健診については京都市特定健診・特定保健指導(国保,後期,生保,青年期)と被用者保険被扶養者国保組合の特定健診・特定保健指導を再開することとなった。京都市における集団検診は,7月までの中止としているが,8月以降の集団健診の対応は今後の状況を慎重に見極めた上で判断し,6月末までに決定する予定である。
各がん検診は,3月と4月に京都市との協議で,緊急事態宣言期間中は中止としていた。宣言解除を受けて,京都市と府医との協議で,集団検診再開を次の方針となった(表?)。
① 個別検診のうち,ア)乳がん検診:巡回検診に合わせて7月1日から再開,イ)胃がん検診(内視鏡検査),胃がんリスク層別化検診,大腸がん検診(集団を除く),前立腺がん検診,子宮がん検診:6月1日から再開
② 集団検診のうち,ウ)胃がんX線検診(施設・巡回とも),肺がん検診(保健福祉センター),乳がん検診(巡回検診):7月1日から実施,エ)肺がん検診,大腸がん検診(集団):特定健診と合わせての実施のため7月16日までは休止,6月中旬以降に京都市と再協議の予定である。
なお,京都市以外の市町村では,地域の実情に合わせて地区医と各行政との協議で対応していただいている。
乳児健診については,京都府,京都市との協議で原則として8月末までの集団健診は実施しないことになったが,乳児健診の4か月健診や8か月健診については,さらなる延期は望ましくない。京都府,京都市と協議を重ねて,6月以降8月までの3か月間は一時的に医療機関で個別健診を行うことになった。協議の結果,京都府内在住の乳児であれば,広域予防接種と同じように,市町村を越えての健診を可能とし,また健診費用は府内で一律となった。京都市と京都府とでは,健診記録の記載形式は異なるが,健診受診票は共通のものとなった。各地区での状況もあり,集団健診で行うことは妨げられるものではない。乳児健診を集団健診の形で行っている他の府県・市町村に先駆けて京都で個別健診を行うことになったことと府内広域での健診としたことは特筆すべきことである。今後,第2波等の何らかの理由で集団での乳幼児健診が中断した場合は,この個別健診への切り替えをスムースに行うことで乳児健診が滞ることがないための方策となるであろう。
京都市が行っていたHIV検査は,COVID-19流行のため一旦中止していた。緊急事態宣言が解除され,6月から再開すべき処を,COVID-19対策に京都市の多くの人材が回されているため,HIV検査再開のための人員確保が困難という説明があった。府医としては,早急に人材確保をした上で検査を再開するよう,また市民には中止していることと再開時期について広報するよう要望した。また同じ理由で性感染症検査の6月からの再開も不可能と京都市から連絡があったが,これも早急に再開するよう要望した。結核検診については,6月から他の各種検診と同じく再開することになっている。これらのことは,京都市HIV感染症対策有識者会議,京都市結核・感染症発生動向調査委員会結核部会,京都市感染症診査協議会感染症部会の各委員に対して,COVID-19流行前の状態に戻すことができる/できない旨を通知した上で同意を得ておくべきと主張している。
⑻ 問題点と今後の課題
① 宿泊療養および自宅療養
5月29日に厚労省は,PCR陽性で措置入院となった場合の退院基準を変更した。従来は症状軽快して24時間経過してPCR検査を24時間間隔で2回実施して両方とも陰性なら退院,としていたが,発症日から14日経過して症状軽快後72時間経過すればPCR検査を行わなくても退院とした。宿泊療養・自宅療養の解除も同様となった。この変更は,発症5日頃が最も感染力が強く,その後は感染力が低下することが判明したことによる。これにより,陰性化するまでPCR検査を複数回行う必要がなくなるため,その分を有症状者の検査に振り分けることができる。また何よりも陽性者が,陰性化するかどうかの不安感からの開放とストレス緩和に繋がることになる。
② PCR検査センター
京都府は検査センターを5か所に設置すると発表しているが,現時点では2か所の設置に留まっている。緊急事態宣言の全面的解除の前後から,京都府内の新規陽性者が漸減してゼロの日が続いているため,今後どの程度のニーズがあるかは不明であるが,申し込み状況によっては検査センターを絞ることもあり得る。現時点ではセンターを増やす必要はないようにも思えるが,今後の第2波,あるいは第3波に備えて,センターを設置しておくことは大きな意味がある。一度設置した検査センターは即時に立ち上げることが可能であり,いつでも対応できる体制を作っておくことが肝要である。また,従来どおりの帰国者・接触者相談センターから接触者外来へのルートは存続しているため,第2波の際にはこのルートでの緊急対応をすることになるが,府医検査センターが直ちに稼働して接触者外来以上の機能を果たすことになろう。
妊婦対象の検査が増えたが,妊婦は基本的に無症状であるため検体採取に際して厳重なPPE装着は必要ではないと思われるが,万一陽性であった場合に採取医が濃厚接触者とならないためにはPPEは必要となる。また,有症状者と妊婦が同じ会場での検体採取は,ドライブスルーで双方の直接の接触がないとはいえ,妊婦は有症状者とは別の妊婦専用の会場および日程にすることが望ましいと思われる。府医相談センターでは,当初からこの点について配慮し,妊婦検査を検査の時間帯の枠内でできるだけ固める工夫を行って対応してきた。今後,4か所目の検査センターが設置されれば,妊婦専用の検査センターとして稼働できるかを検討したい。
なお,下記に述べる事項により,今後は検査センターの運用が変更になる可能性がある。
ア) 唾液による検査
現在,PCR検査の検体採取は鼻咽腔からであり,採取する医師等は採取時にエアロゾル発生の可能性があるため,N95マスク,フェイスガード・アイシールド,ガウン,帽子,二重手袋の着用の厳重な感染予防策が必要である。北海道大学から,PCR検査陽性者の唾液を検体とした場合にも高率にPCR陽性の結果が得られることが報告された。もし,PCR検査の検体が唾液でよいということになれば,検体は喀痰容器で採取するため二次感染リスクが少なく,厳重なPPEは不要になる。唾液を用いた検査が実現できるかは調査研究中であったが,島津製作所は日医の要請を受けて,唾液でも従来手法と同等の精度が確認できたとして,同社のPCR用検査試薬の検体対象に唾液を加えることになった。またタカラバイオも唾液を対象にしたPCR検査試薬で従来手法と同等の精度が得られることを確認済みである。厚労省が唾液検体を可能と承認すれば,今後の検体採取は唾液が中心になる。6月には唾液検体のPCR検査が保険適用される予定で,そのガイドラインは厚労省で作成中である(註:6月2日付で,発症9日以内は唾液PCR検査可能と通知あり)。
イ) 抗原検査
5月13日にCOVID-19の抗原検査が承認された。抗原検査はPCR検査に比べ(ⅰ)30分程度の短時間で簡単に判定できる,(ⅱ)特別な機器や試薬が不要で献体搬送も不要,(ⅲ)PCR検査よりもある一定以上ウイルス量が多ければ検出可能,(ⅳ)検査キットの価格が高い,という長所と短所を併せ持つ。抗原検査が陽性の場合は確定診断となるが,陰性の場合はPCR検査での追加検証が必要となる。現時点では,検査キットの供給量が多くなく,感染症指定病院や帰国者・接触者外来を有する医療機関等に供給され,一般医療機関での入手はできない。帰国者・接触者外来における有症状者の一次スクリーニング(早期発見・早期治療開始),院内感染防止(救急外来や手術・分娩時の有症状者への検査),院内・施設内感染発生時の有症状者に対する迅速診断とクラスター拡大防止などの効果が期待される。PCR検査との兼ね合い,役割分担は今後も検討課題である。また,抗原検査での唾液を用いた検体については調査中であり,適応されるか否かは未定である。
一方,京都市は6月から救急搬送された患者対象に救急医療機関での抗原検査を活用する,と5月26日に発表した。1回の検査費用のうち患者自己負担分1,800円を市が補填する。9月末までの4か月間で1万人の利用を想定し,関連経費を補正予算案に盛り込む予定とした。
② PCR相談センター
ゴールデンウィーク明けから,検査センターへの依頼数が増加した。かかりつけ医の会員からの有症状者のPCR検査依頼が多かったが,京都府内・京都市内の新規陽性者数が減少してきたことと平行して有症状者の依頼数が減り,緊急事態宣言解除後には1日に数件とかなり減少した。一方,産婦人科医療機関からの妊婦対象の依頼が増え,1日20件のうち半数以上を妊婦が占めるようになった。
(ⅰ)妊娠38週での検査を想定していたが,36週,37週での依頼が多い
(ⅱ)申し込みの翌日の検査とすると,都合が悪いとして,キャンセルになる
(ⅲ)相談センター事務からの連絡は,有症状者と同じ手続きのため事務的な負担が大きい
(ⅳ)相談センター事務が妊婦に連絡をして検査日を決めるが,翌日,翌々日あるいはそれ以降の日の予約となり,毎日の相談センター業務開始時には,翌日検査枠にはすでに複数名(多いときは10名以上)の予約が埋まっている
これらの点について改善策を相談センター担当役員で協議した。その結果,申し込み時のチェックシートを,妊産婦用に改訂した。改訂のポイントは,基本的に妊婦は有症状者と異なるため有症状者用チェックシートから症状など不要と考えられる項目を削除し,産婦人科医療機関で予め検査希望日を妊婦と相談の上で決めていただいた上で(希望日が妊娠38週以降となる日,第3候補まで)記入する欄の追加と,検査センターに行く際の自家用車の車種・ナンバーを記入(それまで相談センター事務が確認していた)する欄を設けたこと,である。なお,妊婦用改訂版は予め産婦人科医会でチェック済みである。この新たなチェックシートを産婦人科医会で注意点とともに広報していただいた。
医師が必要と認めた場合,PCR検査は保険適用となる,と厚労省からの通知があり,また政府が全妊婦に対して上限2万円の費用助成を行うことを発表している。ドライブスルー方式の検査センターで検体採取を行うのではなく,PCR検査を必要と考える産婦人科医療機関においての検体採取も可能と思われる。この際は,民間検査センターに検体回収することも可能であり,今後の課題になる。さらに,前述の唾液でのPCR検査が可能となれば,産婦人科医療機関での検体採取がさらに容易なものとなろう。
有症状者の依頼は減少したが,妊婦の依頼もやや減少傾向にある。妊婦については今後も継続して依頼があるのかは,相談センターでは現時点では読めない。この相談センターの体制は,いましばらくは継続することになる。
なお,「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」では,第2波に備えた「検査体制」のさらなる強化が求められている。4月上旬から中旬の感染者増加の時期に,検査が必要な者に対してPCR等検査が迅速に行えなかったことが課題であり,今後の方向性としては,次のことを挙げている。
・早期診断により早期の医療提供・感染拡大防止に繋げる検査体制の拡充
・これまでの対策をさらに進めて迅速かつスムースな検査体制の構築(相談から検査までの日数短縮)
・抗原検査とPCR等検査の役割分担の明確化
・PCR検査・医療機関の役割分担・空き病床の状況把握等のチェックリストの作成と体制の整備
これらの体制の構築・整備がまだ不十分である県が少なからずあるため,政府専門家会議からこのような提言が出されたわけであるが,府医の検査等の今後の方針はこれらに沿っているものである。
<資料>
#「新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド(第1版)」(日医,4月30日)
#「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養における公費負担医療の提供について」(厚労省健康局,4月30日)
#「新型コロナウイルス感染症の拡大防止に向けた妊娠中の医師,看護師等への配慮について」(厚労省,5月7日)
#「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(厚労省対策専門家会議,5月14日)
#「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養のための宿泊施設の確保状況」(厚労省,5月14日)
#「地域外来・検査センター運用マニュアル第2版」(厚労省対策推進本部,5月14日)
#「新型コロナウイルス感染症対策に関する基本的対処方針の変更及び業種ごとの感染拡大防止のためのガイドラインの策定について」(環境省,5月14日)
#「新型コロナウイルス感染症に対処するための廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行規則の特例を定める省令」(環境再生・資源循環局,5月15日)
#「小児の新型コロナウイルス感染症に関する医学的知見の現状」(日本小児科学会,5月20日)
#「感染防護具着脱等関連リンク」(日医HP,http://www.med.or.jp/doctor/kansen/novel_corona/009082.html)
#「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査の取扱いについて(一部改正)」(厚労省健康局,5月22日)
#「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル~「学校の新しい生活様式」~Ver.1」(文科省,5月22日)
#「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(対策本部,5月25日変更)
#「移行期間における都道府県の対応について」(内閣官房対策推進本部,5月25日)
#「地域ごとのまん延に関する指標の公表について」(厚労省,5月25日)
#「新型コロナウイル感染症に対応した妊産婦に係る医療提供体制・妊婦に係る新型コロナウイル感染症の検査体制の整備について」(厚労省対策推進本部,5月27日)
#「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(厚労省対策専門家会議,5月29日)
#「我が国のクラスター対策について」(「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」補論,厚労省対策専門家会議,5月29日)
#「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者の退院及び就業制限の取扱いについて(一部改正)」(厚労省健康局,5月29日)
(表2)府医COVID-19関連会議