2020年7月15日号
2020 年6月30 日
京都府医師会新型コロナウイルス感染症対策チーム
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)の世界的な広がりは依然と続いており,世界の感染者の累計が1,000 万人を超え,死者数も増加の一途を辿り累計死者数が50 万人を上回っている。1日あたりに確認される感染者数は,米国は6月26 日には過去最多の4万5,000 人超がみつかり,ブラジルの拡大も目立ち4万人前後の日が多く19 日には5万人を超えた。インドも徐々に増え,24 日以降は1万5,000 人を上回っている。人口10 万人あたりの感染者数は,米国783, ブラジル644,スペイン532,ロシア439 イタリア397 と多いが,韓国は25,日本15,中国6である。
我が国では,COVID-19 対策として4月16 日に国から発令された緊急事態宣言が5月25 日に全面的解除され,第1波を何とか凌いだ状況である。油断することなく第2波にむけての体制作りを怠らないことが肝要である。
京都府医師会(府医)では,京都府の委託を受けて宿泊療養施設への出務医師派遣を行っていたが6月には宿泊療養施設の収容者はゼロとなった。京都府・医師会京都検査センター(府医PCR 検査相談センター)は6月も継続して運営しているが,緊急事態宣言解除前後から府内での陽性者の減少にともなってPCR 検査の1日あたりの依頼数が漸減している。PCR 検査は唾液検体で行うことが可能となり,唾液採取でのPCR 検査を希望する会員医療機関を7月から府医がとりまとめて京都府との集合契約を行う準備をしている。
6月の1か月間の動向について述べる。
なお,本文中に記載した数値や対応策等は,6月30 日時点でのものであり,今後の動向により変化することを予めお断りしておく。
2.COVID-19 の流行とその対策の経緯
緊急事態制限が解除されて以降も,東京都をはじめ各地で新たな陽性者が報告され続けている。京都府では,緊急事態宣言解除後初めての感染者の確認が6月6日に京都市から報告された。6月25 日以降は連日の陽性者報告があり,6月30 日時点で京都府内の陽性者は通算381 例(京都市269)となり,6月だけで23 例の発生となった。
表1に示す京都府の警戒基準において,6月29 日の時点で①新規陽性者数(7日間平均)は2.0 名,②前週増加比2.8,③感染経路不明者数(7日間平均)1.0 名,④ PCR 検査陽性率(7日間平均)2.8%,となり,「注意喚起」基準に達した。これを受けて西脇京都府知事から府民に向けて,身体的距離の確保・マスク着用・手洗いの感染防止に加えて「新しい生活様式の実践」「感染拡大予防ガイドラインの徹底」「ICTの活用による感染拡大の予防」の協力が呼びかけられた。
政府は,「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」を廃止し,「新型コロナウイルス感染症対策分科会」として改めて設置することを6月24 日に発表した。第1波を乗り越えるために専門家会議では,誰がどのような意見を出し,それがどのような経緯で提言としてまとめられたのか,などを明記した記録(議事録)は残すべであったと考える。それは将来の新興感染症等に対応するための資料となり,COVID-19 を体験した世代には次世代に引き継ぐ責任があるからである。しかしながら,この視点がないままで議事録は残されることはなく,次の「分科会」が設置されることになった。今後は,この「分科会」のあり方を医師会は注視する必要がある。
表1.<京都府における警戒基準>
3.府医の6月の活動
⑴ 会議等(表2)
京都府,京都市と第1波についての評価と今後の対応について意見交換を行った。また,後述する唾液検体によるPCR検査の取り扱いについて複数回の協議を行った。
府医で導入したWeb会議システム(Cisco Webex)で,6月も引続き役員による府医の定例理事会,総務担当部会,地域医療担当部会などの各部会,さらに地区庶務担当理事連絡協議会を合議体ではなくWeb会議で開催した。7月もこれらをWeb会議で開催することが決めている。
6月から府医の各種委員会が再開されている。合議体かWeb会議かあるいはその両者のハイブリッド形式で開催するのかは,担当役員の判断に委ねられている。
(表2)6月府医COVID-19 関連会議
⑵ 府医PCR検査相談センターの運営]
4月29日のPCR検査相談センター開設以来,相談センターには府医役員が交替で2~3名が出務し,会員からのPCR検査依頼内容について協議し,検査の実施日を決めて検査センターへの割り振りを行ってきた。検査センターだけでなく相談センターにも会員の先生方に参画していただけるよう,地区医に依頼して相談センターへの出務可能な会員を募ったところ,多くの先生に手を挙げていただいた。6月22日から地区医の会員と府医役員とで相談業務を行うこととなった。相談センターの業務が月曜から土曜日の午後2時~4時であるため,出務を希望される曜日に偏りが出やすく,府医役員だけで行うこともある。
6月中に府医相談センターに依頼があったのは278件(妊婦128件)で,検査実施は231件(妊婦95件)であった。有症状者は20~50歳代の若い世代が多い傾向にある。6月には陽性者が1件あった。
5月に京都府南部で新たな検査センターを開設する予定であったが,会場確保が困難となったため,一旦中断していた。その後新たな候補地がみつかり,7月には運営開始する予定となった。会員からの検査依頼は現在の府医相談センターで一括して受け,検査実施会場の京都市内分と京都府南部の分をそこで振り分けることになる。
⑶ 乳幼児健診
CCOVID-19感染拡大の懸念から保健所あるいは保健センターで実施される乳幼児対象の集団健診が中断されていたが,6月から医療機関での個別健診が乳児前期4か月と乳児後期8か月を対象に開始された(市町によっては集団健診で再開)。8月までの3か月間に限り行われ,9月からは乳児対象の集団健診が再開される予定である。1歳半と3歳児の健診については,京都府・京都市と協議を重ねて,7月から順次再開することとなった。集団健診では歯科健診もあるため,集団健診の再開に向けて,京都府歯科医師会と意見交換を行った。
4.COVID-19の検査について
⑴ 抗体検査
イムノクロマト法での迅速検出法などCOVID-19抗体検査キットが,中国,韓国,米国,スイスなどの各国の企業で作られ,日本の販売業者・代理店を通じていくつかが研究用試薬として国内販売されている。微量の血液で実施できること,短時間で結果が得られるという利点があるが,その反面,この抗体検査キットに関しては基礎的な検証が十分ではなく,きちんとした性能評価は未だに行われていない。期待されるような精度が発揮できない検査法による検査が行われている可能性があり,注意を要する。
現在,日本国内で入手できる抗体検査キットのいずれもが「医薬品・医療機器等の品質,有効性および安全性の確保等に関する法律(薬機法)」上の体外診断用医薬品として承認を得ていない。また,WHOは,抗体検査について診断を目的として単独で用いることは推奨せず,疫学調査等で活用できる可能性を示唆している。
厚労省は,我が国の抗体保有状況の把握のために,東京都,大阪府,宮城県の3都道府県において,それぞれ一般住民7,950名(東京都1,971名,大阪府2,907名,宮城県3,009名)を性・年齢区分別に無作為抽出して,6月第1週(1日~7日)に血液検査を実施した。陽性判定は,2種の検査試薬(アボット社,ロッシュ社)の両方で陽性が確認されたものを「陽性」とした。「陽性」判定は,東京都2名(0.10%),大阪府5名(0.17%),宮城県1名(0.03%)で,抗体保有者は累積感染者数と比較すると多いが,大半の人が抗体を保有していないという結果であった。ただし本事業は過去にCOVID-19に感染した人の割合を推定するものであり,個別に現在の感染を診断するための調査ではない。また抗体の性質(体内での持続期間や,2回目の感染防御機能の有無)は確定していない。
⑵ 抗原検査
4月27日に富士レビオ社の抗原検査簡易キット「エスプラインSARS-CoV-2」の薬事申請が行われ,5月13日に我が国初のCOVID-19抗原検査キットとして承認された。
PCR検査に比べて短時間(30分程度)で結果が出ること,特別な検査機器や試薬を必要としないこと,検体搬送の必要がないなど,メリットは大きい。しかしながら,PCR検査と比較して検出には一定以上のウイルス量が必要であること(PCR検査よりも感度が低い),鼻咽腔検体採取ではPPE装着は必須であること等が課題である。
検査の特性から,重症者についてすみやかに判定して医療に繋げること,判定に急を要する救急搬送の患者に使うこと,症状のある医療従事者や入院患者の判定を速やかに行うことなど,様々な場面での活用により,効果的な検査の実施が期待される。そのため,まず帰国者・接触者外来等からキットの供給が開始されることとなった。
抗原検査は6月にはPCR検査と同じく行政検査として取り扱われることとなった。行政検査は,京都府との契約締結が必要であるが,帰国者・接触者外来の医療機関以外の救急告示病院やその他の一般病院であっても,京都府との委託契約を結べば,行政検査として抗原検査を行うことが可能である。抗原検査キットは,現時点では流通量がまだ多くないため一般開業医に回る分が確保できないこと,検体採取にPPE装着を要するという理由で,府医としては開業医が実施することはお勧めしていない。
抗原検査で陽性の場合は「感染者」としての発生届を提出し,感染症法にしたがって入院勧告・就労制限となる。陰性の場合は,PCR検査の陰性と同じ扱いとなるが,臨床的にCOVID-19の疑いが拭いきれず医師が必要と判断した場合はPCR検査での確認を行うことが可能である。
なお,6月19日に富士レビオの「ルミパルスSARS-CoV-2 Ag」がCOVID-19の体外診断用医薬品として承認されたが,これは抗原の定量検査である。今後も新たな抗原検査キットが開発・発売されることが期待される。
⑶ PCR検査
PCR検査は,検体を鼻咽腔から採取するため,PPE(サージカルマスク,眼の保護具(ゴーグル/フェイスシールド),ガウンおよび手袋)装着が必要であり,エアロゾル発生の手技(気道吸引,下気道検体採取等)ではPPEはN95マスク(またはDS2など)でなければならない。
唾液を検体とするPCR検査の検討が重ねられた結果,発症から9日間は唾液検体での検出率が比較的高いことが報告されてきた。これにより,COVID-19疑いの患者(有症状者)で発症して9日以内に限り,唾液検体を用いたPCR検査が行政検査として取り扱われるようになった。鼻咽腔採取のPCR検査に比べると,PPE等が不要で,検体採取はより容易なものとなるので,患者の時間的空間的動線を分ける(他の患者と可能な限り接触を防ぐ)ことのできる一般医療機関・開業医で行なうことが可能になる。
検体が唾液であっても行政検査として行うには,京都府との委託契約が必要である。唾液検体採取でのPCR検査の実施を希望する会員の先生方には,手挙げ制で府医が希望者をとりまとめて京都府と集合契約を結ぶための申し込みを行う。「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査(PCR検査)の委託契約締結に関する委任状」を府医に提出することで,京都府または京都市との行政検査の契約が成立する。
具体的な検体採取法や診療報酬の請求などについては,別途を参照されたい。
なお,妊婦対象のPCR検査は,唾液検体を用いることは認められていない。現時点では,無症状の場合の精度等の点に課題があることから,無症状の妊婦を対象としたPCR検査の補助は,鼻咽腔からの検体採取で行った場合のみとされた。また同じ理由で,無症状の人に実施する「陰性証明」(海外渡航先に提出など)のために検査としては不適当とされている(なお,成田,関空,羽田の国際線空港の検疫所に「陰性証明」のためのPCR検査所を設置することが発表され,また島津製作所のPCR検査室では海外渡航者のためのPCR検査を受け入れることが決めているが,いずれも有料の検査となる)。
第2波に備えて,唾液検体PCR検査の集合契約に多くの会員の参画されることを望んでいる。
<資料>
#「新型コロナウイルス感染症に係る行政検査の取扱いの一部改正等について」(6月25日,厚労省)
#「検査料の点数の取扱いについて」(同上)
#「疑義解釈資料の送付について」(同上)
#「新型コロナウイルス抗原定量検査の取扱いについて」(6月25日,厚労省対策推進本部)
#「母子保健医療対策総合支援事業における令和2年度第二次補正予算に係るQ&A等について」
(6月17日,厚労省子ども家庭局)