2024年12月15日号
第63回十四大都市医師会連絡協議会が10月19日(土)・20日(日),横浜市医師会主管(会長:戸塚武和)のもと,横浜ロイヤルパークホテルにおいて開催された。全国十四の政令指定都市から総勢383名が参加し,政令指定都市が抱えている医療を取り巻く諸問題について,活発な意見交換が行われた。
初日は,会長会議,総務担当理事者会議,事務局長会議が行われるとともに,第1分科会「医師会事業におけるDX」,第2分科会「学校保健領域のメンタルヘルス問題」,第3分科会「災害対策~発災72時間以降における医師会の役割」の各分科会において,それぞれ直面する課題について協議が行われ,府医からも各担当役員が発言した(各分科会の状況は後述参照)。
2日目には,全体会議で各分科会の報告が行われた後,特別講演として,松本吉郎日医会長から「医師偏在,診療科偏在も含めた医師会を取り巻く未来の予測と今後の方針」と題し,また,株式会社コーエーテクモホールディングス代表取締役社長の襟川陽一氏から「シブサワ・コウのゲーム開発」と題する講演がそれぞれ行われた。
最後に,次年度の主管である松井府医会長から,次年度は2025年10月18日(土)・19日(日)に開催することが報告され,盛況裡に終了した。
第1分科会では,「医師会事業におけるDX」をメインテーマに,各都市医師会のDXの取組みについて好事例を共有することをコンセプトとして,「医師会事業におけるDX」,「医師会と会員の連携におけるDX」,「各種委託事業におけるDX化」,「各都市のデジタル化の取組みや課題共有」,「各会員(会員医療機関,休日診療所)におけるデジタル化」について各都市から取組み事例の紹介と意見交換が行われた。
医師会事業におけるDX導入事例として,グループウェア等を用いた電子決裁システムを導入している都市から導入の効果等が報告された。時間的,物理的な制約なく文書決裁が可能になることや,紙書類の保管スペースが縮小できるといったメリットの一方で,紙文書を電子決裁の運用へ落とし込むためにスキャン等の手間が増大することや,セキュリティ対策の強化が課題として挙げられた。
京都府からは,医師会と会員との連携におけるDXの取組み事例として,上田府医副会長より「KMA.com」の取組みを紹介した。府医では従来から「新研修医総合オリエンテーション」,「屋根瓦塾」,「研修医ワークショップ」の開催等,顔の見える取組みを通じて若手医師の入会促進に努めてきたが,研修修了にともなう勤務先の変更等にともない,連絡が途絶えることが課題となっていたことから,他府県に異動しても「つながり」を継続できる新たな仕組みとして,「KMA.com」の運営を開始したことを報告。医師会の入口のハードルを下げて,入会の前にまずは若手医師との「つながり」をつくり,登録された若手医師にSNSを通じて魅力ある情報の継続的な発信を行うことで医師会活動への理解を深めてもらうとともに,入会手続きについても「KMA.com」からオンラインでの手続きを可能とし,簡略化に努めていると説明した。
また,「KMA.com」の運営にあたっては,「Quality」,「Delivery」,「Cost」を意識し,医療安全に関する情報や動画ライブラリーでの研修動画の提供の他,新たに実施したオリジナルスクラブの作成・配付なども好評であり,若手医師にとって魅力あるコンテンツになるよう「Quality」の維持に努めていることを紹介した。今後の課題として,「Quality」,「Cost」についてはクリアできたとしても,それらを若手医師へどのように届けていくか,「Delivery」の部分に関して有効な方法を引続き検討していく必要があると述べ,様々なチャンネルを通して医師会の魅力を伝え,将来的な入会に繋げることで中長期的な組織強化を図っていく考えを示した。
災害発生時におけるDXを活用した情報共有の取組みとして,仙台市から「避難所情報収集システム」と,横浜市からはデジタルツールを活用した被災地支援の実例が紹介された。
京都府からは,市田府医理事より,災害発生時の会員安否確認システムの実例として,山科医師会で運用されている「KMIS(京都府災害時等簡易安否確認マップシステム)」(山科医師会では「YMIS」として運用)について紹介した。
KMISは山科医師会において構築され,災害時に限らず平時から医療機関の運営状況などをマップ上に表示するシステムで,非常時には管理者から安否確認メールを一斉送信し,各会員はメールに記載されたID・パスワード入力不要のワンタイムURLにアクセスして「診療可」または「診療不可」をクリックするだけで,医療機関がプロットされたマップ上に回答が反映される仕組みであると説明。マップ上では,回答の結果が「診療可」=青色,「診療不可」=赤色,「不明」(回答なし)=グレーで表示され,会員医療機関の安否が容易に把握できるだけでなく,時間経過とともに回答結果を示す「青色」や「赤色」が徐々に薄くなるように設定されており,情報の鮮度(新しさ)も可視化されていることが特徴であるとした。いざという時にログインIDやパスワードがわからず,アクセスできないということがないよう,ワンタイムURLを利用することで,各会員は自院のID・パスワードを記憶しておく必要がないことや,回答内容を「診療可/不可」,「備考」として連絡事項だけのごくシンプルな内容としていることをポイントに挙げた。また,あらかじめ会長,災害担当理事,事務局など,複数人を「管理者」として設定でき,一人に何かあっても誰かがシステムから一斉メールを送信できるようにしていること,さらには,各医療機関からの回答についても,院長や事務職員など複数人からのアクセスが可能となるよう受信用メールアドレスを3つまで登録することができることも重要な点であるとした。
最後に,山科医師会では,年数回,KMISのメール訓練を実施する中で,送信したメールが迷惑メール扱いされて届かなかったという事象が判明したことから,各種迷惑メールフィルタ対策を実施して課題解決に努め,回答率の向上が図られていることを紹介した上で,繰り返しの訓練の実施によって,不具合があればブラッシュアップし,いざという時に使えるシステムにしていくことと併せて,同システムの周知が何より重要であると締めくくった。
各種委託事業(健診事業等)におけるDXの導入事例として,京都府からは,角水府医理事より,胃がん内視鏡検診で使用しているクラウド読影検診システムについて紹介した。
京都式胃がん内視鏡検診では,より多くの府民が胃がん内視鏡検診を受診できるようキャパシティの広さと,精度管理の両方を実現するため,クラウド型の二次読影システム「ASSISTA」を導入・活用していることを報告した。クラウド上で読影することによるメリットとして,参集のための移動がなくなったことによる読影医の時間的な負担軽減に加えて,市町村を超えて広域での実施が可能となることから,検診医療機関や二次読影医の少ない地域でも実施できること,さらにはシステムに付随する統計ソフトで統計が自動処理されること等を挙げた。その反面,検査医と二次読影医が交流する機会がないため,様々な研修の機会を提供していく必要があることや,読影医も専門医から一般内視鏡医まで様々であることから,読影精度の標準化が課題であるとして,フォロー対策を構築中であると説明した。今後も同システムの課題に対応し,精度管理の充実を図っていく考えを示した。
その他,札幌市医師会からは乳がん検診,子宮がん検診の啓発にGoogleバナー広告,YouTube動画広告を活用していることや,横浜市医師会からは,がん検診事業における二次読影クラウドシステムの導入について紹介があり,検診データと地域がん登録のデータを組み合わせて,地域がん登録データから検診の見落とし事例を拾い上げ,精度向上を図っていることが報告された。
意見交換では,各都市において導入されているグループウェアやシステムの導入・運用コスト等について情報共有が行われた他,各セッションの後にはQRコードを用いたWebアンケートが実施され,最後にその結果が示されるなど,DXを意識した開催内容となった。
第2分科会では,「学校保健領域のメンタルヘルスの諸問題」をテーマに,全国的な児童精神科医の不足や,学校産業医の体制整備の遅れ,学校医の負担増など,学校保健領域における医療支援体制に関する課題について意見交換した。
分科会では,各医師会が①学校と学校の情報共有,②不登校など児童・生徒のメンタルヘルスに関する医師会活動,③学校における定期健康診断,④京都府における学校と連携した妊娠・出産に関する啓発事業,⑤堺市における学校産業医の特色,⑥学校保健に関する産業医事業―についての取組みや課題を報告した。
この中で,学校医による健診やメンタルヘルスに関する取組みに有用な手引きやツールが紹介されたことから,主務地である横浜市医師会が本協議会専用ポータルサイトに掲載し,参照可能としたことを報告。「各医師会の有用な情報を共有できたことが,今回の財産だと思っている」として,積極的な共有・活用を促した。
学校における定期健診については,健診の意味・質,脱衣と着衣の問題,見落としによる訴訟の問題などについて,主に令和6年1月22日付文部科学省通知「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施のための環境整備について(通知)」の発出を受けた学校現場での対応を中心に情報共有がなされた。
京都府の取組みとしては,細田府医理事より「学校と連携した妊娠・出産に関する啓発事業」について報告。2016年度から,京都府の委託事業として府医が受託し京都産婦人科医会の協力により,高校生を対象とした産婦人科医による妊娠・出産に関する出前事業が年間6~7校で実施されてきたと説明した。また,2024年度から,京都府によるプレコンセプションケアプロジェクトとして,教員が授業で活用するための妊娠・出産に関する学習プログラム・教材が開発中であることを報告した。
学校における産業医事業については,武田府医理事より京都市立学校における取り扱いを説明。京都市立学校の学校医は,京都市学校医会の尽力で,地区医師会支部長と京都市学校医会会長の推薦に基づき,京都市教育委員会が嘱託している。教職員50人以上の学校については,京都市学校医会との連携の下,産業医資格を有している学校医(健康管理医)を産業医として選任。当該校の学校医が産業医資格を有していないなど,産業医として選任できない場合は,産業医資格を有する他校の学校医を産業医として選任(京都市では,「総括産業医」という)するなどして,各校に産業医を配置していると報告した。教職員50人未満の学校については,産業医選任や衛生委員会設置の義務はないものの,京都市立学校では,京都市学校医会の協力の下,学校医を教職員の「健康管理医」として任命し,教職員の健康診断の事後措置,健康相談,医師面接指導,長時間勤務の教職員への面談などを必要に応じて実施していると説明した。
堺市からは,市内すべての園・学校に産業医を配置しているという報告がなされ,各医師会からは,「とても簡単には真似できない」と堺市医の尽力を称賛する声が上がる一方で,学校保健に携わる医師会員の負担が増大しているということも看過できない状況であるとの意見も交わされた。
最後に横浜市医は,児童・生徒・教職員の健康を支えていくために,「今回示された重要な情報,課題を各医師会に持ち帰り,行政との折衝に活用いただきたい」と総括した。
第3分科会では,各医師会への事前アンケート結果をもとに,「行政との災害時の協定・医療活動,非常用通信設備や訓練等」,「発災後72時間以降の対応,要援護者の対応,衛生環境の問題」,「令和6年能登半島地震におけるJMAT派遣」について,各都市からの指定発言に続いて意見交換が行われた。
髙階府医理事は,災害対策に関する委員会と災害研修会について,京都府の状況を紹介。
まず,府医で開催している研修会について,「災害医療コーディネート研修」としてACT研究所に企画運営を依頼し,府内地区医の代表者を対象として,保健所・保健福祉センター・京都府災害医療コーディネーターとの実習訓練を行っており,2次医療圏を念頭において,災害調整本部のシミュレーションを体験し,実際に被災した場合に,すぐに動ける体制づくりを目的としているとした。続いて,府医の常任委員会の一つである「救急・災害委員会」に設置された「災害対策小委員会」において,関係団体を交えて,災害対策に特化した協議を行っていることを紹介。四師会等の災害活動報告による情報共有や,各種災害対策研修会の企画等の他,災害対応マニュアルの作成を行っていることを説明した。また,地区医との情報共有のために,「地区災害担当理事連絡協議会」を開催していることを紹介した。
東京都から「①参加対象者である区市町村の行政のメンバーが,人事異動で二年ごとに新しくなり,またゼロからのやり直しを繰り返している,②能登半島地震において,統括JMATの重要性が明確になったため,災害医療コーディネーター研修だけでなく,統括JMATの研修・人材育成も必要と考えるが,京都府ではどのような状況か」との質問に対し,髙階府医理事は,京都市職員には人事異動で担当が代わっても必ず研修を受講してもらっていることを報告するとともに災害医療コーディネーターと統括JMATは目的が異なり,前者は地域の医師会が地域の行政と連携して地域の医療をどのように守るか,一方で統括JMATはJMATの派遣を担うため,日医に担っていただくことが適しているとの考えを示した。
また,横浜市からは被災地での通信手段について,EMISに必要な情報がたくさん集められており有用であるものの,ネットがつながらないと使えないとした上で,「スターリンク」を用いた訓練が必要との意見が上がったことに対し,髙階府医理事は,「スターリンク」は有用であるが,法人購入の場合は非常に高価となっていると指摘し,日医に価格交渉することを求めた。またEMISについて,来年4月から大幅に改定される見込みであるとして,その仕様変更に医師会が未だ関われていないため,医療に必要な情報を載せていただくよう今後の交渉が必要との考えを示した。
3都市からJMATの活動状況が報告された後,豪雨水害被災時にも参加した都市からも活動報告が行われた。
髙階府医理事は,DMATと赤十字救護班として参加していた立場から「我々から医師会が見えていなかった」と述べた上で,JMAT本部の運営強化が必要であると指摘。医師会が医師会を支える作業を強化しなければならないとして,本部のリーダーがしっかり申し送りをしなければ現場が混乱すると訴えた。さらに,「JMATの活動方針を明確にすべきである」と述べ,一部,自分たちのスペシャリティを前面に出して活動した例もあったと振り返った。南海トラフ地震が起こった場合,相当な数のマンパワーが投入されると予測されるが,整理してシンプルな形を作らなければ成り立たないと強調した。
これを受けて,他の都市からは,現場に行く前にそれぞれのチームの役割を明確にしておくことが必要であるという意見や,他の被災地では日医JMAT研修のとおりに活動できていたのに対し,石川県では地理的な問題もあり,うまく統括できていなかったとして,うまく運ばなかった点を省みて,今後につなげなければならないとの意見が上がった。髙階府医理事は,本部の混乱をいかに支援するかが重要であると指摘した上で,DMAT研修も本部運営を強化する内容に変わってきていることから,JMATにもそれが求められるとした。内科や外科以外のスペシャリティを活かしたJMAT活動も求められるのではないかとの意見に対しては,内科や外科以外の先生方も本部の指示を受けて活動されていたことを紹介し,多くの診療科の先生方にJMATとして活動していただければ被災者のためになるとの考えを示した。