2025年2月1日号
京都北医師会と府医執行部との懇談会が令和6年11月13日(水),京都ブライトンホテルにて開催され,京都北医師会から17名,府医から8名が出席。「薬剤の安定供給について~現状と今後の見込み~」,「2025年4月からのかかりつけ医機能報告制度」,「電子処方箋の今後の見通し」,「日本医師会 新会員情報管理システム(MAMIS)」,「デジタル化に伴う種々の費用の増加」をテーマに活発な議論が行われた。
※この記事の内容は令和6年11月13日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。
厚労省が2024年8月30日に発表した「近未来健康活躍社会戦略」では,中長期的に後発医薬品の安定供給体制を実現するための産業構造改革が掲げられている。後発医薬品の安定供給体制の構築のために,メーカーの数を「成分ごとの適正な供給社数は理想的には5社程度」にすることが目標とされており,政府は5年程度の集中改革期間を設けて,後発医薬品の供給安定化を図る方針である。
一方で,不安定な供給体制にもかかわらず,厚労省が令和6年9月30日に発表した後発医薬品に関するロードマップでは,「2029年度末までにすべての都道府県で後発品使用率を80%以上にする」という数値目標を定めており,政府は「安定供給と国民の信頼確保に向けた取り組み」と「数値目標の達成に向けた取り組み」を並行して進めていく考えを示している。
医療用医薬品全般の不足問題についても,厚労省は関係者会議を設置し,安定供給の確保に向けた協力体制を整備しているが,企業間での情報交換に関しては独占禁止法に基づく規制が影響を及ぼし,解決には時間を要する見込みである。
後発医薬品不足が起こった発端は後発品メーカーの法令違反にあるが,その背景には国が数値目標を半強制的に引上げた一方で,製薬業者への管理監督を怠ったことにある。また,後発品使用推進においては,安定供給と品質への信頼が前提であり,これが欠如した状態で数値目標を追求するのは誤りだと日医は以前から指摘していた。政策の矛盾や業界の問題が明らかになり,国も本腰を入れて対応を始めており,国の対策が効果を発揮することを期待する。
~意見交換~
政府が5年程度の集中改革期間を設けているのであれば,医療の現場として将来を見据えた上で,代替策等対応を考えていかなければならないといった意見や,不足している薬剤の供給についてどこが出荷調整しているのかという質問が出された。府医からは行政が調整しているわけではなく,メーカーや現場の卸業者の判断だと推察されると答えた。
かかりつけ医機能報告制度創設の経緯について,財務省は新型コロナウイルス流行初期に,かかりつけ医機能が十分に機能しなかったと主張し,「かかりつけ医の制度化」を目指したことが発端となっている。具体的には,かかりつけ医を登録制にし,定額制を導入することで医療費の抑制を図ることが狙いであったが,日医は政府や国会議員に働きかけ,結果として「かかりつけ医機能報告制度」の創設と「医療機能情報提供制度」の刷新が決定された。
かかりつけ医機能報告制度の主な目的は,医療機関が地域における医療機能を報告し,都道府県がその情報を基に地域医療の質の向上を図ることである。報告された内容は都道府県が公表し,国民が医療機関を選択する際の参考となるとともに,地域で不足している医療機能を把握し,地域医療の充実に向けた具体的な対策が講じられる。
報告対象は,特定機能病院や歯科医療機関を除くすべての病院や診療所であり,初回の報告は令和8年1月から3月を予定している。報告を求めるかかりつけ医機能の内容については,1号機能と2号機能に分かれ,1号機能を有する医療機関が2号機能を報告する形式となっており,かかりつけ医と非かかりつけ医の分断などを避けるため,多くの医療機関が手を挙げることが重要である。
1号機能は「継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療その他日常的な診療を総合的に行う機能」である。報告項目としては,①具体的な機能を有することおよび「報告事項」について院内掲示により公表していること,②かかりつけ医機能に関する研修の修了者の有無,総合診療専門医の有無(あくまでも有無を報告するものであり,いないから報告できない,要件を満たさないというものではない),③17の診療領域ごとの一次診療の対応可能の有無,いずれかの診療領域について一次診療を行うことができること,医療に関する患者からの相談に応じることができること-が求められ,①~③のいずれも可となる医療機関が2号機能の報告を行うことになる。
2号機能は,診療時間外の対応や入退院時の支援,在宅医療,介護サービス等と連携した医療などとなっている。
また,研修については,知識と経験(実地)の両面を担保することが望ましいとされており,日医が既存のかかりつけ医機能研修制度を参考にしながら提案する予定である。
地域包括ケアシステムを推進する中で,「かかりつけ医機能」は中心的な役割を担っており,医療機関間の連携強化が求められる。病院,診療所や診療科を問わず,地域を面で支えるかかりつけ医機能のさらなる充実を目指している。
~意見交換~
かかりつけ医の報告に限らず,報告事項は増えているが必要のないものまで残っており,少なからず負担があるとの意見が出された。
電子処方箋の導入状況について,全国および京都府の導入率は低く,特に病院では診療所よりも導入が進んでいない。一方,薬局では医療機関よりも導入が進んでいる。
導入に関しては補助金が提供されているが,補助を受けるためには2025年3月31日までに導入を完了する必要があり,診療所の場合,補助率は1/2にとどまる。日医は,医療DXにかかる費用は国が全額負担すべきだと以前から主張しており,今後は補助金の期限延長や補助率の引上げが必要とされる。現状では,これらの促進策がない限り,医療機関での電子処方箋導入は進みにくいと考えられる。
また,日医が発行しているHPKIカードについては現在ICチップの不足により発行が遅延しており,その代替として「HPKIセカンド」というクラウド上の証明書(セカンド鍵)が提供されている。これにより,スマホなどの生体認証を用いて本人確認が行えるため,HPKIカードやICカードリーダーがなくても電子処方箋システムを使用できる仕組みが整備されている。
現時点で電子処方箋の導入は義務ではなく,医療機関はメリットとデメリットを比較し,導入を判断する段階にある。
実際に導入されている医療機関からは,システムの不具合や「クラウドシステムへのアクセス不良」,「機器の不具合」,「HPKIカードの読み込み不良」などのトラブルが報告されており,そのため,現状では電子処方箋の発行に時間や労力が余計にかかっているとの声もある。
~意見交換~
医療機関や患者にもメリットが少なく,煩雑なシステムであるとの意見や,電子処方箋をAmazonに送って宅配で薬が届くシステムについては,薬剤師による服薬指導や副作用の確認等,医療安全のための活動がなされず,懸念材料であるとの意見が出された。
~意見交換~
会員増強のためにも,将来的にはMAMISが日本医学会と連携し,単位取得状況などが把握できればより利便性が向上し,会員のメリットになるのではないかという要望が出された。
医療DXのゴールは,デジタル技術を駆使することによって,国民皆保険と地域医療を守るとともに,より安全で質の高い医療を実現し,医療従事者の負担を軽減して,余裕を持って患者に寄り添うことができるよう医療現場を変革することである。理想的な医療を実現するためには,「社会保障費」,「医療の質」,「医療従事者の負担」を高いレベルでバランスをとる必要がある。適切な社会保障費の中で,さらに医療の質を向上させ,なおかつ医療従事者の負担を減らすためにはどうすればいいかという難問に対する答えの一つがデジタル化である。
運用面で発生するランニングコストやセキュリティ対策に関する費用が,医療機関の負担となっている点について,日医はコストの全額を国が責任を持って負担すべきだと主張している。
国の医療DXの推進に関する工程表では,「受益者負担の観点を踏まえた公的支援」という表現が使われており,「受益者」とは,医療DXの恩恵を被る医療機関を指している。例えば,「診療報酬改定DX」にともなうベンダーの作業負担の平準化を成果として挙げているが,この負荷軽減が医療機関に還元されているのであれば,医療機関が「受益者」であるとされている。
デジタル業者の間で公正な競争原理が働くという点は重要であり,医療機関が十分な情報をもとに業者を比較,選定することが必要であるが,医療機関は非常に多忙で,IT技術情報に関する非対称が存在するため,不適切な契約を生んでいる可能性がある。医師会としては,政府に対して正当な主張を続けるだけではなく,「情報の非対称を埋める」という面でも医療機関をサポートする役割が求められている。
日医HPでは「医療DX全般に係る相談窓口」を設け,適正コストの実現に向けて費用面も含めた情報提供を随時呼びかけている。