「かかりつけ医機報告制度への心構え」,「医療DXの現在地と今後の方向性」,「地域医療の継続性の確保」について議論

 乙訓医師会と府医執行部との懇談会が11月25日(月),乙訓医師会会議室で開催され,乙訓医師会から14名,府医から8名が出席。「かかりつけ医機報告制度への心構え」,「医療DXの現在地と今後の方向性」,「地域医療の継続性の確保」をテーマに議論が行われた。

※この記事の内容は 11 月 25 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。

かかりつけ医機報告制度への心構えについて

 「かかりつけ医機能報告制度」が創設された経過については,財務省が新型コロナウイルス流行当初にかかりつけ医機能が十分に機能しなかったとして,かかりつけ医機能の要件を法制上明確化することによってかかりつけ医を登録制とする「かかりつけ医の制度化」を主張したことに対して,これらはフリーアクセスを著しく制限し,多くの医療機関に多大な影響を及ぼすとともに,その先に患者一人あたりの定額制の導入を見据えた医療費抑制を目的としたものであるとして,日医がこれを阻止すべく政府や国会議員等に積極的に働きかけた結果,令和5年5月に成立した「全世代対応型の持続可能な社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律」の下で改正された医療法において,「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」を行うこととなったものである。
 これは,「かかりつけ医の制度化」ではなく,「かかりつけ医機能が発揮される制度」であって,財務省が狙っていた法制上の明確化や認定制,事前登録は阻止した形となり,また,イギリスのGPやフランスの主治医制度のようなフリーアクセスを制限するものでもなく,具体的には,「医療機能情報提供制度の刷新」,「かかりつけ医機能報告の創設」,「患者に対する説明」の実施をその内容としている。
 この「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」は,国民・患者がそのニーズに応じてかかりつけ医機能を有する医療機関を選択して利用できるものとするため,各医療機関は地域のニーズや他の医療機関との役割分担・連携を踏まえてかかりつけ医機能の強化を図ることを目的として,報告制度に基づき地域のかかりつけ医機能を可視化するとともに,地域で不足するかかりつけ医機能の確保に向けた協議に資するものとなっている。
 その後,厚労省の「かかりつけ医機能が発揮される制度の施行に関する分科会」で制度施行に向けた議論が行われ,報告の対象は「特定機能病院と歯科医療機関を除く病院と診療所」となっている。
 報告する医療機関について,財務省などからは「一定の疾患や症状に対応できること」や,「研修を修了した医師がいること」を要件とすることが提案されたが,日医がかかりつけ医機能を地域で面として支えるために,できるだけ多くの医療機関がかかりつけ医機能を持てることを最優先とするよう主張した結果,診療科は限定されず,研修の修了も要件化には至っていない。
 報告する内容については,「1号機能」と「2号機能」があり,1号機能を有する医療機関が2号機能を報告することとなっている。そのため,1号機能については多くの医療機関が手を挙げることが重要になると考えている。
 1号機能は「継続的な医療を要する者に対する発生頻度が高い疾患に係る診療その他の日常的な診療を総合的かつ継続的に行う機能」として,①「具体的な機能」を有すること及び「報告事項」について院内掲示により公表していること,②かかりつけ医機能に関する研修の修了者の有無,総合診療専門医の有無,③17の診療領域ごとの一次診療の対応可能の有無と一次診療を行うことができる疾患―を報告事項としている。②については,あくまで有無を報告すればよく,「無」であっても要件を満たさないというものではない。
 2号機能の報告については,1号機能の①~③のいずれも可となる医療機関が行うこととなり,その内容は,(1)通常の診療時間外の診療,(2)入退院時の支援,(3)在宅医療の提供,(4)介護サービス等と連携した医療提供―等となっている。
 また,厚労省は,かかりつけ医機能報告の報告対象とする研修について,知識(座学)と経験(実地)の両面から望ましい内容等を整理し,研修内容等の明確化を図るとしており,「かかりつけ医機能の確保に向けた医師の研修」の骨子が示されている。日医は,すでに実施している日医かかりつけ医機能研修制度なども参考にしつつ,提案していくものと考えている。
 かかりつけ医機能報告制度の施行は令和7年4月となっているが,これから具体的な内容が決まり,実際に報告するのは令和8年1月~3月の予定で,その後,都道府県が取りまとめて公表することとなっている。
 府医としても,「地域包括ケアシステム」の構築に向けて取組みを進めてきたところであるが,その中心的な役割を担うのが「かかりつけ医」であり,「かかりつけ医機能」であって,1人の医師がすべて担うのではなく,地域のすべての医療資源を活用することによって必要な医療を必要な時に,また,継続的に提供することができる,まさに医療をコーディネートする機能であると考えている。1人の患者を複数の医師で担当するということとも少し異なり,地域の中で患者を通じて普段から医療機関同士の連携を深めることによって,各医療機関がそれぞれの役割を理解し,機能を高め,お互いに助け合うことで,地域における面としてのかかりつけ医機能のさらなる充実を目指していくことが重要である。

〜意見交換〜
 その後の意見交換で,地区からは,財務省が考える「かかりつけ医」は一人で24時間365日対応を行うことが想定されており,医師会が考えるかかりつけ医とは大きな違いがあるとの指摘がなされた。
 府医からは,24時間365日対応することは患者にとって重要であることは認識しているものの,一人の医師が対応することは困難との考えを示した上で,一人の医師が全部を背負い込むのではなく,地域で「面」としてかかりつけ医機能を発揮していくことが重要であるとして,必ずしも一人の患者を一人で診るのではなく,診療科や病院・診療所の別にかかわらず,責任をもって必要な医療に結び付けていくという考えが大事であると説明した。
 また,かかりつけ医機能報告制度について,財務省の考える「制度化」を阻止するという側面もあるが,超高齢社会を迎えるにあたって,従前から地域包括ケアシステムとして医療・介護提供体制やかかりつけ医のあり方について検討してきた中で,目指すべき方向は,目の前の患者に対して必要な医療を途切れさせることなく,自身の専門領域以外の場合は適切に他の医療機関へ紹介し,「面」として対応することによって地域で医療を守っていくという考え方であると訴え,医療側もかかりつけ医機能報告制度の情報を活用しながら連携を深め,面として患者を支えていくことが重要であるとの考えを示した。
 地区からは,専門が細分化しすぎて診療科の地域偏在が生じている現状において,他科の医師と連携することの重要性を若い医師に伝えていく必要があるとの意見が挙がった。

医療 DX の現在地と今後の方向性について

 医療DXには本来メリットと課題の両面があるはずであるが,医療DXの現在地としては,医療現場の肌感覚として,コストとセキュリティに係る課題に対する制度的な対応が不十分であるため,医療機関にはメリットよりも負担感が強いものになっているのが現状である。
 政府の進める医療DXは,大きな目標として「全国医療情報プラットフォームの構築」を謳い,医療機関に影響の大きい「オンライン資格確認」「電子処方箋」「電子カルテの標準化」といった各施策はその一環としてデザインされている。このプラットフォームによって,国民がよりよい医療を受けられるようになることに加えて,行政の効率化,ビッグデータの二次利用(研究)や民間のヘルスケアサービスにつなげることが構想されている。
 過渡期ゆえにゴールが不透明であると同時に,コストの負担感は大きいものの,医師会としては「よりよい医療につながる」という点で総論としては賛成の立場である。日医IT委員会の答申では,日本が世界に誇る医療制度を未来の世代に繋げることが,今を生きる私たちの世代の責務であり,医療DXはそのための手段の一つであることを基本認識として共有する必要があるとしてる。
 日医は,医師会としての医療DXのゴールの定義を「余裕を持って患者に寄り添うことができるよう医療現場を変革すること」とし,そのゴールから,過程としてのデジタル化を捉えなおす視点を提示している。また,その過程については,「スピード感は重要であるが,拙速に進めて医療提供体制に混乱・支障が生じてはならない」とし,医療DXを適切に進めるためには,「誰一人,日本の医療制度から取り残さない」ことが大前提であり,医療現場に混乱・支障が生じないよう国が医療機関と国民一人一人に対して丁寧に説明して慎重に進めることを提言している。そういった過程を経ることが,結果的に最速で医療DXを推進することにつながるとの考えが示されている。
 医療機関にとって最大のデメリットとなるインフラ(通信環境)およびセキュリティ対策のコストについても正面から言及し,いずれについても「国の責任」で負担・整備すべきと主張している。
 医療機関としては本来,「医療現場の効率化」と「患者の生活の質向上」が医療DXによって約束される段階に至ってから導入し,そのメリットを享受するという流れが自然であるが,現在,国が用意している補助金等は,導入時でも全額補助ではなく,ランニングコストやセキュリティ対策は当たり前のように医療機関負担とされている。政府はこの負担について「受益者負担」であると考えており,政府の医療DX推進が難航する根本的な原因には,このような認識が背景にあるものと考えられる。
 厚生労働省は,公費負担医療などもマイナ保険証で資格確認できるよう2026年度以降,全国展開するための体制を構築する考えを示しており,併せて,共通算定モジュールについても2026年の診療報酬改定から本格運用を目指しており,医療DXは今後もさらに進んでいくと考えられる。

地域医療の継続性の確保について

 地区より,医療DX,マイナ保険証,診療報酬改定におけるDX加算やベースアップ評価料等の新設,生活習慣病管理料等の見直しへの対応など,多くの制度改革が矢継ぎ早に実施されていることに加えて,令和7年度からのかかりつけ医機能報告制度の開始など,特に高齢医師にとっては大きな負担となって早期廃業を余儀なくされる可能性があるとの懸念が示された上で,高齢医師の豊富な経験と知識は,地域医療にとって貴重な資源であるため,その知見や専門性を最大限に活かしながら,同時に新しい医療にも適応し,持続可能な地域医療体制を構築することが喫緊の課題であると問題提起がなされ,地域医療を維持・発展させるための具体的方策等についてディスカッションが行われた。
 地区からは,世代を超えた医療従事者の協力体制,デジタル化への段階的な移行,さらには高齢医師の役割の再定義など,多角的なアプローチが必要であるとの提案がなされた。
 府医は,新型コロナや医療DXへの対応,診療報酬改定での煩雑な作業を強いられて早期に閉院される医師が増え,学校医や休日診療所の出務医等を担う経験豊富な医師が減少している現状に対して,要因の1つに「情報の伝達」の問題があるとの認識を示した。新しい制度等への対応のポイントを明確化するなど,適切な情報提供によって各医療機関における準備を促すとともに,不安の解消を図ることが重要であるとして,多くの情報をどのように伝え,理解を求めていくかが大きな課題であるとした。
 最後に地区より,診療報酬引き上げを主張することも重要であるが,今後は医療機関における煩雑さの解消等により医療をスムーズに提供できる環境の整備や医療人材の確保に向けた対応を要望していくことも必要であるとして,医療従事者を守るための施策を求めていくよう要望が挙がった。

府医からの連絡事項

・ベースアップ評価料について
 外来・在宅ベースアップ評価料(1)の届出様式が簡素化されたことについて情報提供した上で,届出の手順を具体的に解説し,広く算定することを呼びかけた。

・日医未入会会員への日医入会促進について
 日医では,「医師会の組織強化」を課題に挙げ,さらなる組織率の向上に取組んでいることを紹介した上で,10月初旬に府医から日医未入会の府医会員あてに日医への入会をご検討いただくよう案内を送付したことを報告。日医未入会者に対する日医への入会促進に地区医,府医,日医が一丸となって取組む必要があるとして,協力を依頼した。

・「京あんしんフォン」について
 府医では,「京あんしんネット」のユーザーを対象として,在宅医療・介護連携事業専用のビジネスフォン「京あんしんフォン」を導入したことを報告。「京あんしんフォン」には,MDM(モバイルデバイス管理)サービスを付加し,万一の端末の紛失時には,遠隔から端末のロックが可能であるため,「京あんしんネット」をより安全・安心な環境下で利用できると紹介した。
 端末には「京あんしんネット(MCS)」等のアプリケーションがあらかじめインストールされており,携帯電話としても利用できるため,コミュニケーションの充実によって連携の促進が期待できることに加えて,在宅訪問時のマイナ資格確認用の端末としても利用できるとして,活用を呼びかけた。

保険医療懇談会

 基金・国保審査委員会連絡会合意事項について解説するとともに,個別指導における主な指摘事項について資料提示した。また,療養費同意書の交付(マッサージ,はり・きゅう)に関する留意点を解説し,慎重な判断と適切な同意書の発行に理解と協力を求めた。

2025年2月15日号TOP