2025年4月1日号
2月22日(土),令和6年度第40回勤務医部会総会をハイブリッド形式で開催した。
尾池府医理事の司会のもと,冒頭挨拶に立った上田府医副会長は,設立40周年の節目を迎えたことを報告するとともに,自身が16年前に執筆した「5分でわかる勤務医問題」の中で,労働環境,女性医師の就労支援,医療資源の適切な分配などを挙げていたことを振り返り,勤務医を取り巻く課題は少しずつ形を変えながらも大きくは変わっていないと述べた。
続いて若園幹事長は,人口減少と高齢化が進む中で,全国的に医師偏在問題が深刻であると述べ,京都府内だけでなく,東北地方などの特に医師不足が深刻な地域での医療水準の維持や医師の健康的な生活の確保なども視野に入れて,医師主導での解決策を模索することが求められるとした。
その後,白神副幹事長から,令和6年度勤務医部会の活動について,幹事会での協議内容や,府医への入会促進,京都医学会への演題発表,京都医報「勤務医通信」への投稿などの状況を報告。医師の働き方改革については,地域医療提供体制の影響は最小限に抑えられていると見られるものの,医師の健康や病院経営の課題は依然として残されており,引続き多角的に検討が必要とした上で,幹事会を中心に種々の問題解決に向け継続的に協議していくとした。
『京都府職員として取り組んだ医師偏在対策』
前京都府健康福祉部部長 長谷川 学 氏
基調講演では,前京都府健康福祉部部長の長谷川学氏が登壇し,日本の財政・社会保障費,日本の人的資源などを示した上で,京都府の医師確保対策の取組みについて講演があった。
まず,日本の財政・社会保障費の増加について説明し,特に医療の高度化が医療費増加の要因であると指摘。日本の創薬力の低下や医療機器の輸入超過を問題に挙げ,創薬力強化と医療機器開発の重要性を強調した。さらに保険給付の効率的な提供や世代間の公平性,病院の経営状況,高額療養費や薬価改定の議論についても触れ,財源確保の課題が深刻であると述べた。
続いて人的資源について,2040年には医療・福祉分野で1,070万人のニーズがあるものの実際には900万人しか確保できない予測を示した上で,女性や高齢者の就労,外国人労働者の確保などすでに対応がなされており,さらなる改善は難しいとの見解を述べた。一方で,看護師がアメリカ等で看護助手として働いた場合に日本の3倍近い給与を得ることができることを例に挙げて,海外への人材流出も今後課題になってくるとした上で,たとえ財政が確保されたとしても,人がいなければ何も動かすことができないと人的資源の重要性を強調した。
京都府における医師偏在対策については,自身の取組み事例を交えながら,臨床研修医・専門研修医枠の維持・拡大,臨床研修・自治医卒・専門医の割り当て調整,研修修了後の医師確保,若手の意向を把握し生活の安定や教育環境の充実などによる離脱予防,などを挙げるとともに,効率的な医療提供や働き方については,いずれ誰かがやらなければならない避けられない課題とした。
最後に,京都府は医師多数医療圏と少数医療圏が混在する特殊性があり,京都府の状況は他府県から理解されにくいとしながらも,京都府内で課題が解決すれば,その経験が日本全国での課題解決に繋がると力強く訴えた。
「 働き方改革,医師偏在問題!~お仕着せでなく医師自身が考えてみよう~」
座長
勤務医部会 幹事長 若園 𠮷裕 氏
シンポジスト
前京都府健康福祉部部長 長谷川 学 氏
京都府立医科大学北部キャンパス長/
京都府医師会理事 加藤 則人 氏
京都第二赤十字病院副院長 平田 学 氏
江戸町社労士ファーム 社労士 畑中 美和 氏
引続き行われたシンポジウムでは,「働き方改革,医師偏在問題!~お仕着せでなく医師自身が考えてみよう~」をテーマに,若園幹事長を座長として,長谷川学氏,京都府立医科大学北部キャンパス長で京都府医師会理事の加藤則人氏,京都第二赤十字病院副院長の平田学氏,江戸町社労士ファーム社労士の畑中美和氏が登壇し,それぞれの立場から意見交換が行われた。
まず,加藤氏からは若手医師の育成の視点から偏在対策が述べられた。医師多数県から少数県へ専攻医や研修医を一定期間派遣する制度については,厚労省の研究班による検証結果を示し,その効果は限定的であり,仕組みで制限・誘導することの効果は明らかでないと説明。
また,舞鶴市の例を挙げながら,病院の集約化は避けられない課題であるとした上で,地域で勤務する若手医師が働きたいと思う病院になるためにも,教育や研究のサポート体制の充実を視野に入れた病院づくりが必要であると述べた。平田氏からは,府内の二次医療圏ごとのデータや自身の専門である麻酔科の医師配置状況等を示した上で,丹後医療圏と山城南医療圏では地域特性は全く異なるとともに,医師偏在に影響する因子は地域や施設によってばらつきがあるとして,医師少数地域と一括りにせず,それぞれに合わせた府独自のきめ細やかな調査,対応を求めた。
続いて,社労士の畑中氏からは,働き方改革施行後の状況について,大きな混乱は起きていないとしつつも,1年間の結果がこれから見えてくる段階であるとした。また,保健所の「医療監視」で,面接指導の実施など医師の働き方改革関連の検査項目が追加されたことにともない,影響が比較的少ないA水準の病院で,対応に追われるケースが散見されると述べた。
フロアを交えたディスカッションでは,医療機関の集約化を中心に意見交換がなされた。集約化・効率化の必要性は明らかで,現場の医師も集約化は避けられないと強く感じている一方で,全国的に集約化が進んでいない理由について,長谷川氏は地域住民の反対や政治的な問題が障害となっていると述べた。また,地域偏在の解決にはその地域への介入だけでなく,都市部での改革が必須であり,都市部の効率化が進まないと,地域に人材と資源を回すことができないとの考えも示された。
最後に,業務効率化や病院の生産性を挙げていくのは医師を中心とした医療者の役割だが,国民への情報発信や意識付けをはじめ,集約化のイニシアチブを執るは政治や行政の役割であるとして,将来を見据えて関係各所が一丸となって取組みを進めていくことの重要性を訴える声が上がり,ディスカッションが締めくくられた。