「医療機関名称」,「災害時における医療連携体制」 について議論

 山科医師会と府医執行部との懇談会が1月18日(土),ホテルオークラ京都で開催され,山科医師会から19名,府医から8名が出席。「医療機関名称」,「災害時における医療連携体制」をテーマに議論が行われた。

※この記事の内容は1月18 日現在のものであり,現在の状況とは異なる場合があります。

医療機関名称について

 京都府における医療機関の名称に関しては,医療法の趣旨や厚生労働省通知,解釈を踏まえつつ,京都府,京都市,京都府医師会,京都府歯科医師会との申し合わせ事項として「医療機関の名称についてのガイドライン」を平成23年10月から運用している。医療機関名称については,開設者を明確にすることで患者に安心して受診していただくために,「①開設者の氏名または名称+②必要に応じて医療広告ガイドライン等により広告可能な診療科名等+③診療所,医院,クリニックまたは病院」とすることを原則としている。
 一方で,他府県の医療法人が京都に分院を開設するケースや,医療機関開設後,一定期間を経て医師会に入会されるケース等,地区医への入会に際して,医療機関名称ガイドラインの順守を求めることが困難な事案が散見される。
 府医としても,京都府・京都市に対して,行政に医療機関の新規開設について相談があった際に医療機関名称ガイドラインの順守の指導を求めているが,法的拘束力がないことから,書類上瑕疵がなければ行政は受け取らざるを得ない側面もある。このガイドライン適用の厳格化のみが解決策にはならないと認識しており,「医療行為の責任の所在を明らかにし,患者が安心して受診できるようにすること」が何よりも重要であり,医療機関名称に開設者の名前を入れることが難しいケースでは別途,開設者名や法人の構成員等を明示する等,責任の所在を明らかにすることが必要最低限の対応ではないかと考える。

〜意見交換〜
 地区からは,行政ではガイドライン遵守の姿勢が担当者により異なるのではないかとの指摘や,ディベロッパーなどの意向が先行し医療モールなどの建物や看板ができ上がった後で,地区が開業を知るケースなどが散見されるとして,昨今の対応の難しさが述べられた。近隣他府県ではこのようなガイドラインがないことから,京都だけこれを堅持していくことが難しい状況になっているとして,基本的には患者が安心して受診できるように,責任の所在を明らかにしてもらうことが必要最低限の対応になるのではないかとの認識を共有した。

災害時における医療連携体制について

 花折断層,琵琶湖西岸で地震が起これば,火災や液状化現象など甚大な被害が想定され,医師会としても様々な災害対策を講じる必要がある。京都府内の道路基盤は比較的強化され,山科区内では国道1号線,稲荷山トンネル,高速道路が一次緊急輸送道路区間として定められている。ただし,道路が整備されていたとしても,土砂災害が起これば,孤立化しすることもあり,地区医での災害対策の参考となるよう府医では防災業務計画の概要を策定したところである。

~地区医の初動について~
 災害医療は,平時の医療とは異なり,医療需要に対して医療資源が大幅に不足し,需給バランスが大きく崩れることになる。そのような状況において,限られた人的・物的資源を有効に活用することで,重要と供給(資源)のアンバランスを極力小さくし,効率的な医療活動を行うための基本原則として,「CSCA」と呼ばれる戦術的アプローチが行動の基盤となる考え方である。Command and Control(指揮命令系統)を構築し,Safety(安全)を確保した上で,Communication(情報収集)を行い,集めた情報を Assessment(評価・分析)し,活動方針を立ててから効率的に活動を行う。地区医での初動については,CSCAで考えた行動指針を府医のひな形を参考に検討していただきたい。

(参考)
「C:Command & Control」
 指揮本部の設置・宣言,指揮命令系統
 診療所の組織化(担当範囲)
 ・医師,スタッフ,家族 等 ・本部の設置
  「 いつ」,「どこに」,「誰が」,「何が必要」,「どこと連携」
「S:Safety」
 安全管理
 ・self:自分・家族・スタッフ 等
 ・scene:診療所・自宅・地域 等
 ・survivor:来院患者,在宅患者 等
「C:Communication」
 情報共有,通信体制
 ・ 固定電話,データ通信,携帯電話,衛星電話,無線伝令
「A:Assessment」
 現場の評価(アセスメント)
 ・被災状況 ・周辺避難所 ・来院患者
 ・近隣医療機関 等

~地区医に取組んでいただきたい重要項目~
 平成30年に岡山県で発生した西日本豪雨では,医師の緊急連絡網が整っておらず,情報収集に苦労したため,すぐに連絡が取れるよう緊急連絡網の作成とともに,指揮命令系統の確立とコミュニケーションツールの検討が重要である。
 また,災害対策本部の設置については,設置基準や要件の明確化が重要であり,「震度5強(震度6弱)以上,警報発令時,地域(全部・一部)が被災したとき」など,いつ,どのタイミングで本部を設置するか地域性に合わせて検討が必要になる。また,事務局,会長宅,公的施設など,どこに本部を設置して,会長,副会長,担当理事,事務局職員の誰が指示を出すか,本部資機材・通信手段の確保など必要なものなど検討が必要である。

~地区医から行政・府医に発信いただきたいこと~
 地区内で地震が起こった際,被災状況についてどのような状況が起きているのか,また,物資の不足や,地区医で対応できることなどを府医や行政に発信していただくことで,府医はサポートできるため,地域性等を含めて被災情報の具体的な発信が重要になる。
 地区医として,すべてを背負い込むのではなく,こういった情報を共有していただくことで,全国から来る支援チームが適切な支援に取組むことができると考えている。

〜意見交換〜
 山科区は滋賀県大津市と接しており,災害時には大津市からも多数の患者が来ることが想定され,府県をまたいだ連携が必要であるとして,滋賀県医師会や大津市医師会との連携は進んでいるのかとの質問が出された。
 府医からは,近畿医師会連合で災害の協議は行っているが,滋賀県医師会や大津市医師会と個別に協議は行っていないため,今後の検討課題であると回答した。
 また,災害が起こった時には,迅速に応援を求めるよう依頼し,どのような指示をするかシミュレーションを行うことが望ましいが,全国から集まった応援の医師,医療従事者が主体的に医療を担えば,被災地の具体的な状況を把握していないため混乱するとして,被災地の医療は地元の医師,医師会がイニシアチブをもつことが何よりも重要であり,受援機能の重要性を訴えた。
 最後に,地区から災害時に地区でできることをするためには,山科区以外に自宅がある会員も多いことから,会員の居住先の把握が必要であり,災害時に実際に出務が可能な医師がどれだけいるかを把握することも重要であるとの認識が示された。

府医からの連絡事項

・ベースアップ評価料について
 外来・在宅ベースアップ評価料(1)の届出方法について手順を解説し,広く算定することを呼びかけた。

・日医未入会会員への日医入会促進について
 日医では,「医師会の組織強化」を課題に挙げ,さらなる組織率の向上に取組んでいることを紹介し,日医未入会者に対する日医への入会促進に地区医,府医,日医が一丸となって取組む必要があるとして,日医への入会促進に協力を依頼した。

・京あんしんフォンについて
 府医では,「京あんしんネット」のユーザーを対象として,「京あんしんネット」をより安全・安心に,より便利にご活用いただけるよう,専用の医療用ビジネスフォン「京あんしんフォン」を導入した。
 携帯端末に「京あんしんネット(MCS)」をはじめ,必要なアプリケーションをあらかじめインストールしており,すぐに利用が可能である。従来の「京あんしんネット」による連携に加えて,携帯電話としても利用できるので,通話による,より充実したコミュニケーションと連携の促進が期待できる。
 また,「京あんしんネット」には,MDM(モバイルデバイス管理)サービスを付加し,万一の端末の紛失時には,遠隔から端末のロックが可能であるため,より安全に,より安心して利用いただけるので導入を検討いただきたい。

2025年4月1日号TOP