府医第 213 回臨時代議員会

府医では,3月 15 日(土),府医会館において,93 名の代議員の出席のもと,標記代議員会を開催した。
松井府医会長の挨拶に続き,「令和6年度庶務および事業中間報告」,「令和7年度京都府医師会事業計画」,「令和7年度京都府医師会予算」が報告され,その後地区からの代表質問ならびにその答弁が行われた。
議事に移り,第1号議案「令和7年度京都府医師会費の賦課徴収および減免に関する件」が上程され,賛成多数で可決された。
続いての協議では,フリーアクセスのもとで「面としてのかかりつけ医機能」をより発展させるために,財務省が主張する「かかりつけ医」の制度化・登録制には明確に反対の姿勢を示すととともに,人口減少の局面を迎える中で,医療機能の集約化・効率化にあたっては,疾病の特性や地域実情を考慮し,近隣の医療圏と連携した医療提供体制も検討すべきであるとの考えを示した決議が採択された(決議文は7頁)。

松井府医会長 挨拶

冒頭,昨年の 10 月 27 日に行われた衆議院選挙において自民党が連立する与党と合わせても過半数割れという結果になったことについて触れ,政権の維持には他党との連携が不可欠となり,令和7年度予算が衆議院を通過したものの,修正案には日本維新の会が主張する高校教育無償化や国民民主党が主張した所得控除 103 万円の壁の引上げ等,多数の政党の主張が盛り込まれたことから,政策の方向性が不安定になることに懸念を示した。

松井 府医会長

 高額療養費の自己負担額引上げが話題になったことに関して,引上げについては 2023 年 12 月に閣議決定された全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋にすでに盛り込まれていたものであるが,患者団体などに十分な説明が行われていなかったために現在の混乱を招いていると指摘した。日医は,高額療養費制度は医療におけるセーフティネットであり,病気になった人を社会全体で支えるという社会保障制度の本来の趣旨に鑑み,医療にアクセスできない人が出ないよう国民全員での十分な議論が必要であるとの考えを示していることを紹介した上で,高額療養費の限度額引上げを即座に否定しない理由は,我が国の高齢社会の進行において社会保障費がますます増大していく中で,それを支える財源をどうするかという大きな課題があるためであると考察し,社会保障制度の基本は保険料による支え合い=共助であるものの,我が国の医療費の構成比が保険料 50%,公費 35%,自己負担 15%という中で,少子高齢化のさらなる進行と現役世代の負担能力を考えると,保険料への上乗せは難しいとの見方を示した。自助,共助,公助のいずれも国民の負担であり,高額療養費の引上げに必要な財源の確保には負担増が必須であると同時に,高額療養費の問題は「給付」の問題でもあると指摘し,令和6年度診療報酬改定に盛り込まれた医薬品の選定療養費も給付を減らす仕組みの一つであると説明した。
 国民皆保険制度が始まった 1960 年頃の高齢化率が約6%であったのに対し,現役世代の人口は約 65%で,10 人で1人を支える社会であったものが,2025 年には高齢化率 30%,現役世代人口が約 60%となり,2人で1人を支える社会になっており,少子化にともなって生産年齢人口が減少していくことを考慮すると,財源の問題として医療・介護の制度の維持がますます困難になっていくことは容易に予想できるとして,医療制度の持続可能性を守るためには,負担と給付について,医療・介護を担当する専門家集団として,我々医師会がビジョンを示すべきであるとした。
 また,高齢社会において要介護者や認知症高齢者の増加によって,より一層医療・介護のニーズが高まる中,人口減少は人材確保にも大きな影響をもたらすため,その確保には収入の確保が不可欠であるとした。日医は,医療現場で働く人の収入の原資となる診療報酬の引上げを訴えてきたところであるが,令和6年度改定で財務省から投げられたボールは「ベースアップ評価料」であったと説明し,これを見逃さずに将来のために積極的に算定していただくよう呼びかけた。
 最後に,地域医療構想について,京都府では平成 29 年3月に,限られた医療介護資源を有効に活用し,必要とされる方それぞれの状況にふさわしい適切な医療・介護を効果的・効率的に提供する体制を構築することを目的に「京都府地域包括ケア構想」が策定されたことを振り返り,当初より,変化に対して柔軟に対応するため,あえて病床機能毎の目標病床数を数字で明らかにせず,必要な病床数に自主的に医療機関が収斂するように意図したものであったと説明。いよいよ地域医療構想の目標年となる2025 年を迎えて,さらにその速さを増していく変化に対応しなければならないと述べ,各医療圏において,隣接する医療圏との連携も含めて現実的な検討をお願いするとともに,必要な人に必要な医療をつなげることができる医療提供体制を維持すべく,府医としても全力で取組んでいくと強調した。困難な課題を克服するために医師会が力を合わせること,また志を同じくする医師が多く医師会に参加していただくことを呼びかけ,挨拶を締めくくった。

代表質問

 代表質問では,船井,与謝の2地区から代議員が質問に立ち,医療が抱える課題について質疑が行われた。質問内容および執行部の答弁(概要)は次のとおり。


◆藤岡 嗣朗 代議員(船井)

藤岡 代議員

〔学校検診について〕
 こども園・小学校・中学校の園医・校医を続けているが,近年,検診時に被検児のプライバシー保護目的の着衣検査や検査行為にまで及ぶ制限が増えている。聴診や側弯検査の際の児童に対する配慮にはある程度理解はできるが,制限が増えることによる検査の正確性がどこまで担保できるか疑問を持つ状況になってきている。
 また,小学校1年生と4年生時の心電図検査や専門医制度の拡充により,聴診のみの検査にどれほどの有効性があるのか。聴診で心雑音を疑う場合,多くは乳幼児健診時に指摘され,現在加療中または経過観察中の児童生徒である。本人に対する問診や各学校の養護教諭や担任の先生方から情報収集に努めているものの,運動強度の指導等はすでに専門医から丁寧になされている状態である。そのため,下記項目についてご教示いただきたい。
・内科検診時の児童生徒に対する具体的な対処方法
・近年の制限・制約の法的根拠や通達告知等
・聴診を主とする内科検診を継続する必要があるのかどうか

◇禹府医副会長

禹 府医副会長

 学校医の職務については,学校保健安全法施行規則第 22 条に「学校医の職務執行の準則」として掲げられており,学校保健計画・安全計画,健康相談,健康診断,感染症の予防などに従事することが記載されている。このうち定期健康診断が学校医にとって最も大きな仕事であると言える。
 学校における健診の検査項目については,同じく学校保健安全法施行規則第6条に 12 の項目が掲げられており,その中に「心臓の疾患および異常の有無」が挙げられている。学校医の職務として,健診時に聴診を行うことは,一般的に異論はないものとして,内科健診において従来は問題なく実施されてきたところである。
 健診における服装について,平成 25 年に府医学校保健委員会から「上半身脱衣の必要性」という文書を発信し,また,平成 28 年4月に始まった「運動器検診」において,側弯症などの見逃しを防ぎ,正確な判断を行うために,脱衣による検診の必要性を説明してきたところである。
 ところが近年,全国で「健診時の上半身脱衣問題」が取り上げられ,医療とは全く別次元からの問題が発生した。さらに,医師による健診時の盗撮問題が起きたことから,健診に対する風当たりが強い状況となった。マスコミ報道では,健診の重要性よりプライバシー問題を重視して,「学校健診不必要論」の論評が出されるまでに至っている。京都府内の自治体では保護者からの署名活動から議会での議論となり,別の自治体でも市議会で市の教育委員会が答弁する事態となった。学校医会,教育委員会で協議して,内科健診と脊柱検査における「検査・診察時の留意点」が作成され,学校医と学校へこれが通知されると同時に,保護者に対しては,着衣で診断が困難な「脊柱・胸郭の疾病」「皮膚疾患」「心臓の疾病診断のための聴診」について理解を求める通知文も作成されている。
 この脱衣の問題については,以前から日医も文部科学省と綿密に意見交換を行っており,日医としても「学校医は学校保健安全法に示されている項目に対し,精度の高い適切な診断を行う責務がある一方,学校側は診断可能な環境を整備する義務がある」と主張してきた。そのような経過を踏まえ,令和6年1月 22 日付で「児童生徒等のプライバシーや心情に配慮した健康診断実施の環境整備について」という文科省通知が発出された。
 この通知には,児童生徒にとっての懸念事項である健康診断時の服装・格好および実際に健康診断を行う際に,学校医がどういう観点で,どのような場所を,どのように診るのかということが具体的に記載されている。児童生徒,保護者,学校,学校医の間の共通理解を図る上で意義のある内容だとして,日医も評価している。本来,この通知はご質問にあるような「近年の制限・制約の法的根拠や通達告知」に該当しないはずであるが,この通知に関するマスコミ報道が「原則着衣で」という表現を使用したことによって,かえって混乱を生じることとなった。すなわち,「普通に服を着ていればよく,学校医に診てもらう時も服を着たままで問題ない」との誤解を招きかねない状況になったと考えている。文科省通知の本来の趣旨は,「体操服・下着等,またはタオル等といった着脱しやすい衣類を身に付けて準備してもらい,実際に学校医が身体を診る場合には,診断に必要な部位を示してもらう」ということであり,このことを学校,養護教諭が生徒児童,保護者等に丁寧に説明していくべきだと考えている。具体的なやり方をあらかじめ児童生徒が分かっていれば,不安や心配が軽減されるとともに,学校医も健康診断をやりやすくなる。それによって精度が確保されることにもなる。府医としても,このことを京都府教育委員会,京都市教育委員会に継続的に働きかけていく考えである。
 3つ目のご質問の「聴診を主とする内科健診を継続する必要があるのかどうか」については,現状では法で定められている以上,「必要がある」との回答になる。そのために,日医や京都市学校医会等において,聴診器を当てる部位の例なども含め,詳細な資料を作成していただいているため,ご理解をいただければ幸いである。
 最後に,藤岡代議員の示された疑問点については,府医としても,多くの学校医が同様の疑問を持たれていると考えており,今期(令和5~6年度)の学校保健委員会に対して,松井府医会長より「学校健診の現状と問題点について(上半身脱衣問題などを含めて)」との諮問が出されている。この会長諮問の答申が,ご質問に対する詳細な回答になるのではないかと考えている。
 この答申には,参考資料として,京都市教育委員会・京都市学校医会作成の「検査・診察時の留意点(内科・脊柱検査)」も掲載されており,大変わかりやすい内容となっているため,答申が完成し,会員各位へ配布された際には,是非,ご一読いただくことをお願い申し上げる。

◆今出 陽一朗 代議員(与謝)

今出 代議員

〔オンライン請求 ASP について〕
オンライン請求の際に, 確認試験でのASPのチェックにより,本請求の前に事務的エラーを事前にチェックすることができ,修正することで返戻のレセプトがほとんどなくなった。ただし,何らかの制度の改定があるたびに,翌月5日午前8時からの本請求開始時間までは,システムの改訂箇所がすべてエラーとなってしまい,改定内容の請求方法が本当に正しいかどうかがわからず,不安になってしまうこともある。
 この改訂された ASP のチェックを翌月5日の本請求開始までに可能となるように働きかけをお願いしたい。

◇濱島府医副会長

濱島 府医副会長

 ASP とは,アプリケーションサービスプロバイダーの略であり,一般的なインターネット上の様々なソフトウェアの提供におけるサービスのやり取りの総称である。

 レセプト請求における ASP チェックとは,支払基金のホームページからそのまま引用すると,「保険医療機関が審査機関の事務点検プログラムを利用し,患者氏名の記録漏れなど事務的な誤りがあるレセプトを事前に確認して速やかに修正するサービス」とあり,これによって,保険医療機関から送信するエラー内容を,基本的には請求月のうちに訂正することができると記載されている。
 請求のエラーの具体例としては,患者氏名の記入漏れや,レセプト番号が6桁以内の数字ではないとか,傷病名のコードが記録されていないといった基本的なものから,併算定できない医学管理料などが記録されているなど,様々なことがチェックにかけられている。
 ご質問のケースでは,特に改定された翌月の5日以降に多数のエラーが出てきた場合,確かに修正については日程的な幅がなく,事務的に切羽詰まるという状況が考えられるが,更新作業等の都合上,現在の日程は変更できないと聞いている。ただ,この ASP チェックでエラーが出たものは,10 日までではなく,12 日まで請求が可能となっているところである。
 この ASP システムに限らず,現在,様々な医療 DX が進められており,時短あるいは人手の解消になるというメリットがある一方で,オンライン資格確認の開始時には,費用や導入の手間はかからないとの国からの説明であったにもかかわらず,当初予想していた以上に維持費がかかる現状を鑑みると,果たして医療機関にとってコストに見合うメリットがあるのかどうかという点にはついては甚だ疑問である。
 日医としても,医療 DX が拙速に進められるあまり,取り残される医療機関が一か所でもあってはならないと常々訴えており,府医も同じ考えである。医療 DX とは,あくまで良好な医療を提供するための「手段」に過ぎないが,国ではそれが「目的」のようになっているのは,まさに本末転倒だと感じている。府医としても,現場の意見を伺いながら,その課題を日医に上げ,今一度,拙速な DX が進まないように訴えていく所存である。

決議

 2023 年5月に成立した全世代型社会保障法に示された「かかりつけ医機能」の制度整備は,本年4月1日より施行されることとなった。当初,財務省は医療費の削減目的に「かかりつけ医」を制度化・登録制にすべきと強く主張した。しかし,財務省が目指す英国型の家庭医制度がコロナ禍において全く機能しなかったことは,明白な事実として歴史に刻まれている。これまでも我が国の医療者は,フリーアクセスのもと,生涯を通じての修練とゆるやかな競争原理をもって互いに切磋琢磨してきた。また,診療科や病院・診療所の区別なく,自院での対応が困難な場合には相互に連携して「面としてのかかりつけ医機能」を発揮してきた。この我が国の資産とも言うべき社会基盤を根底から覆すことになれば,最も弊害を被るのは国民である。
 一方,地域の人口減少の推移を勘案すれば,医療機能の集約化・効率化を進める必要もあり,医療機関も痛みを伴う方策を甘受する覚悟を持たなければならない。一つの医療圏ですべての医療を完結できることが望ましい姿ではあるが,疾病の特性によっては地域の実情を考慮し,近隣の医療圏と連携した医療提供体制も検討すべきである。
診療科偏在の問題は,医師数のみに着目するのではなく地域で担うべき様々な社会的な役割を含め,不足する医療機能について関係機関・行政とも緊密な協力のもと対応していかなければならない。
 我が国の「面としてのかかりつけ医機能」をより発揮するために,以下を強く主張する。



一 財務省が主張する「かかりつけ医」の制度化・登録制は断じて容認できない。
一 フリーアクセスのもと,「面としてのかかりつけ医機能」をより発展させること。
一 医療機能の集約化・効率化にあたっては,疾病の特性や地域の実情に応じた医療提供体制を検討すること。


2025 年3月 15 日


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